異法人の夜-Foreigners night-

-第二部-
外伝「Blame」
「単刀直入に言いましょう。緋河 天夜、貴方に倉凪 梢の抹殺を依頼したい」

 眼の前の男が真顔でそんな事を言い放ってきた。
 男が何を言っているのか、天夜は一瞬理解できなかった。


 2005年、11月半ば。札幌市———
 その依頼が天夜の元へ飛び込んだのは既に町中が雪に覆われ、ますます冷え込んできたある日の事だった。
 この日も、天夜はこの地に戻ってきてから出会ったバンドの仲間達と練習を行い、いつものように部屋を借りているアパートを目指して雪路を歩いていた。
「…もう随分冷え込んできたな。今年も寒くなりそうだ」
 北海道は良くも悪くも日本の中でも寒気が流れ込む土地だ。
 梅雨がなかったり、夏でも他の都道府県に比べて涼しいのはいいが、冬はやはり寒くなる。
 …もっとも、それは天夜が日本中を旅したから感じるようになった事で、かつて、実家で生活していた頃は殆ど感じなかったのだが。
「そういえば、包帯がなくなりかけてたな…これ以上寒くならない内に爺さんのとこに顔出しとくか」
 そんな事を呟いているうちに、アパートへと辿り着く。
 …アパートの前には黒塗りのセダンが停まっていた。
 いつもは見かけないその車に、天夜は一瞬、眼を細めて横を通ろうとして——

「緋河 天夜君ですね?」

 車から出てきた青いコートを着た男に呼び止められた。
「……そうだけど、あんたは?」
 胡散臭そうな眼で男を見ながら、天夜は素性を訪ねる。
「ああ、失礼しました。私、魔術同盟の者です」
 魔術同盟。世界規模で魔術師達の研究促進と制御を行っている管理組織だ。天夜も詳しくはないが、名前くらいは実家にいた頃に聞いた事があった。
 しかし、その魔術同盟の人間が自分の下へやってくる理由は全く分からなかった。
「…今日は貴方に仕事の依頼をしたくてお訪ねしました」
 仕事。その言葉に、天夜は再び眼を細める。
 天夜の実家である緋河家は代々、人に災いを為す異能の者達を狩る事で時の権力者達の庇護を受けてきた異能の一族である。
 現在は勘当中とは言え、次期当主と目されている天夜に魔術師が仕事を依頼するなど、穏便な内容とは思えなかった。
「……聞くだけは聞こう。部屋の中でいいかい?」
 ぶっきらぼうなその言葉に、男は小さく頷いた。


 そして、部屋の中に男を入れて向き合い、冒頭に戻る。
「……なんだって?」
 口に出された言葉が信じられず、天夜は男にそう問い返す。
「倉凪 梢を抹殺して頂きたい。そう言ったのです」
 倉凪 梢。かつて実家を飛び出して放浪していた時に一時期滞在した、秋風市で出会った異法人と呼ばれる能力者。
 彼の人柄を良く知る天夜は、魔術同盟が彼を消そうとする理由が理解出来なかった。
 …ふと、かつて、梢は異法隊と呼ばれる能力者達の集団と戦った事があるのを思い出す。
 その頃、天夜はまだ秋風市に訪れていなかったのでその手の情報が来なかったが、なんでも最終的には「蛇のザッハーク」と死闘を繰り広げたらしい。
「…その依頼は、俺と梢さんが知り合いだって言うのを分かった上での事だよな」
「ええ、勿論」
 当然だと言わんばかりに頷く。その仕草が、天夜は癪に障った。
「何故あの人を狙う?魔術同盟が梢さんを殺す理由があるとは思えないが?」
 あんた達に後ろめたい事があるなら、話は別だが。
 そんな皮肉を口にはせず、問いただす。
「土門荒野」
「…何?」
 天夜の問いに、男は一見、何の関係もなさそうな単語で答える。
「我々の目的は、かの存在が復活する事を阻止する事。土門荒野については緋河家の次期当主である貴方なら、ある程度は知っているでしょう?」
「破壊と殺戮を振りまく、最悪の能力者…20年くらい前に“ダブル・ワン”っていう能力者に倒されたって聞いたが…」
 背筋が凍る感覚を覚えながら、自分が知っている最低限の知識を答える。
 天夜が知る、一番端的な土門荒野の記録については、なんでも訪れた町を一瞬にして瓦礫にしたというものだ。
 多少の脚色は加えられているだろうが、一瞬で町を瓦礫にするとは、どれだけ出鱈目な能力だろうか。
 姿を見た者がほとんどいないため、能力者の間でも都市伝説的な存在ではあるが、少なくとも天夜は実在のモノとして教えられた。
「少し、語弊がありますね。土門荒野は異法に寄生する、意思を持つ異法の事です」
「異法に寄生する…異法?それは、その異法人を乗っ取る…と考えていいのか?」
「ええ、そして、かの存在は宿主を倒しても、次の宿主に寄生して復活する…」
 そこまで聞いて、天夜の中でこれまでの話が一本の線に繋がった。
 尤も、それは嫌な意味で、だったが。
「まさか…梢さんが次の宿主、なのか?」
「半分は正しいですが、正確には土門荒野の内の半分が彼の中に封じられています。“ダブル・ワン”は次の宿主に宿った土門荒野を、自分の能力で分割し、息子の中にいれたのです。“ダブル・ワン”の真名も、貴方なら知っているのでは?」
「確か、倉凪 司郎……そういう事か。考えた事もなかったぜ」
 梢の両親の詳しい事を天夜は知らないし、聞こうと思った事もなかった。わざわざ聞くような事でもないし、他人のプライベートな問題に無闇に自分から足を突っ込まないというのが天夜のスタンスでもある。倉凪という姓だけで、両者を結びつける事は天夜には出来なかった。
「…これで、我々が倉凪 梢を抹殺しようとする理由はわかっていただけたかと思います」
「……」
「仮に、秋風市で土門荒野が覚醒してしまえば、秋風市一帯は瓦礫の山と化するでしょう。緋河 天夜、貴方の御友人も秋風市にいたはずです」
「嫌な言い方をするんだな」
 天夜の皮肉に、男は笑みで応える。
 それが、天夜をさらに苛立たせた。
「わかっているはずです、緋河 天夜。貴方が取るべき道は一つしかない。この依頼に拒否は出来な—」
「断る。帰ってくれ」
「緋河 天夜!」
「そんな面倒な事は御免だ。クソ親父にでも言ってくれ」
 そう言って天夜は追い払うように手を振る。
「何故この事態を理解しようとしないのです!貴方ならば速やかに倉凪 梢を—」
 そこまで言いかけたところで、天夜は男の口元を右手で掴む。
「黙っていろ。俺は機嫌が悪い…これ以上うだうだ言うようなら、燃やすぞ?」
 右手は既に熱を持っている。燃やそうと思えば一瞬後には首を吹き飛ばせる。
 男は、それ以上天夜に口を出す事はできなかった。


「土門荒野か。確かにそういう情報はこちらでも掴んでいる。既に専門の連中が対処にまわっているだろう」
「…やっぱ、その半分は倉凪 梢で間違いないのか」
「そう聞いているな」
 書類を見ながらそう語られる言葉に、天夜は溜息を吐く。
 魔術同盟の人間が訪れた数日後、天夜は土門荒野の件で日本政府の諜報機関に所属している幼馴染の下へ訪れていた。
「しかし、また面倒な事に巻き込まれたな、お前も?相手方もお前を味方にしようと必死だろう」
「あいつら、一日ごとに交渉に来る人間の数を増やしてきやがる…。部屋に帰るのも煩わしいぜ、全く」
 実際、今日はバンドのセッションから部屋に帰ろうとしたら、アパートの側に大量の黒セダンが停まっていた。
 目的が明白なので、比較的迷惑がかからないと思われる幼馴染の部屋に避難したわけだが。
「で、どうするつもりだ。いくらお前でも、そう簡単に答えが出せる問題じゃないとは思うが」
「…あんたの方はどうなんだ?日本政府だって見解は奴らと同じだろうが。俺と交渉するなら、あんたに真っ先に話が来そうなもんだが」
「断ったよ。俺がどうこう言って動くお前じゃないだろう?」
「物分りがいいと助かるよ」
「だが、お前が受けなかったからと言って、倉凪 梢の命が狙われるのは変わらない。既に、霞哉 京(かすみや みやこ)はこの話を受けたと聞いた」
「京姉が?」
 しばらく会っていない従姉の名を出されて天夜は驚く。
「ってか、あんた京姉を知ってるのか?」
「以前、仕事で鉢合わせた事がある」
 そう言って、彼は懐から煙草を取り出して、天夜に差し出した。
 吸えという事らしい。
「ふぅん…」
 煙草を受け取りながら、気のないような返事をする。実際、従姉がこの依頼を受けた事に関してはどうでもよかった。
 ……天夜も、彼女と同じ立場ならば普通に依頼を受けただろう。
 秋風市に訪れず、梢や遥たちと出会う事がなければ。
 だが、天夜は彼らと出会い、その人柄を知ってしまった。
 梢を狩るということは、二度と遥たちに顔向けが出来ないという事だ。
「……」
 受け取った煙草に右手から出した蒼炎で火を付け、口元に咥え、煙を吸う。
 生まれて初めて吸った煙草の味は、とても不味かった。


 それからも、天夜の元へは毎日多くの人間が交渉に訪れた。
 それも、魔術同盟だけではなく、魔術連盟、退魔九済、聖欧教会、仙道連合、御法家、そして異邦隊。
 この世界の、文字通り裏側で活躍する多くの組織の人間が、天夜を味方に付けようとした。
(つまり、連中はそれだけこの世界を守ろうとしているわけだ…自分の命が惜しいだけかもしれんが)
 バイクを運転しながら、天夜はそんな事を考える。
 世界を守る…その志はわからなくもない。
 だが、天夜は世界を守るとか、そんな事には興味がなかった。
 彼が自ら異端を以て戦う事を選ぶのは、目の前で起こる理不尽が許せない時だけ。
 誰のためでもなく、自分が後悔しないためだけに戦う。
 結果的にそれが誰かを守る事であっても、天夜にとっての判断基準はその一点だけだった。
 かつて、大切な少女を失った時から、そうやって生きていくと決めたし、これからもそうやって生きていくのだろう。
 しかし、今回の件に関しては彼も決めかねていた。
 梢を狩る…それは遥たちに二度と顔向け出来ないという事。
 だが、それを放置した結果、土門荒野が覚醒してしまえば…。
(ちっ、全く、“ダブル・ワン”を恨みたくなるぜ)
 それしか手がなかったであろうことは理解出来ている。
 が、そのために自分にこんな皺寄せがきたと思うと、梢の父親へ恨み言の一つでも言いたくなった。
 ふと、自分の父・緋河 統時はどんな選択を下すのかが気になった。
(…考えても仕方ないか。それこそ、俺には関係のない事だ)
 そう考える天夜の前に、目的地が見えてきた。


 天夜が右腕に巻いている包帯は、能力者の力を封じる一種の呪術にも似た封印が施された魔術道具である。
 天夜の能力「蒼い誓い」は蒼い炎を操る事が出来るが、その高い出力に比例するかのように制御がとても難しいものとなっている。
 今でこそ、包帯がなくてもある程度の制御が出来るが、幼い頃、初めて能力を発現させた際には、天夜は自身の右腕すらも燃やしてしまい、その時の火傷は今でも右腕に残っている。
 故に、いつもは右腕に包帯を巻く事で能力の大部分を封じ、低出力で力を操る事となる。
 しかし、この包帯は使い捨てで1日で効力が消えるため、1日置きの交換が必要である。
 旅に出ていた頃は、包帯がなくなりそうになると旅先から緋河家と交流のある魔術師に送りつけてもらっていたが、札幌に戻ってきた現在は天夜自ら、魔術師の庵に赴いて包帯を受け取っている。
 この日、天夜が魔術師の庵に赴いたのも、そのためであった。


「…全く連絡もせずにやってくるのは、相変わらずじゃな」
 庵の扉を開けて、開口一番そんな事を言われた。
「爺さんの事だから、そろそろ来るのはわかってたんだろ?」
「ふん……そんなところも父親にそっくりじゃな」
 憮然とした様子で魔術師の老人は天夜を睨み付けた。
「誰があんなクソ親父に似てるってんだよ。冗談にもならないぜ」
「…などとこわっぱが言っておるが、どう思う、統時?」
「は?」
 老人の言葉に、問い返す間もなく、天夜は庵の奥から出てきた人物に眼を見開いた。
「俺も天夜と考えは同じだな。誰が放蕩息子などに似たものか」
 右腕が震える。
 久しく忘れていた感覚である。
 そう、数年前に緋河家を飛び出して以来。
「…親父」
「久しぶりだな、天夜」
 天夜の父、緋河 統時は息子に対して、不敵な笑みを浮かべた。


「………」
「………」
 無言のまま、睨み合う。
 既にこの状態から、10分ほどが経過していた。
 ちなみに、庵の主たる魔術師は、天夜の包帯を作るために席を外している。
 天夜は父親の険しく自分を睨む眼をまっすぐ見返しながら、相手が口を開くのを待っていた。
 …が、どうも父親の眼は「お前から喋れ」と言っているように見える。
 仕方なく、天夜は話を切り出した。
「…何の用だ、親父。大体の予想はつくが」
「土門荒野…お前にも話がきているだろう?」
「毎日毎日どこぞの組織が交渉にきやがる。鬱陶しいったらありゃしない」
「それだけお前の力が評価されている、ということだ」
「嬉しくねーな…俺は別に緋河家のために戦っているわけじゃないぜ?」
「だが、そう思う輩は大勢いる。それが、緋河の名を背負った者の宿命だ」
「うざったいけどわかっているさ、そんな事。で、あんたの言いたい事は?」
「……緋河家当主として命じる。秋風市へ行って、倉凪 梢……土門荒野を狩れ」
 父親の言葉に天夜は眼を細める。なんとなく、そう言うのではないかとは思っていた。
「嫌だ…と言ったら?」
「力ずくでも行かせる」
 父親のその言葉に、思わず天夜は、身構える。
 もし、統時が本気ならば、それこそ天夜も本気で戦わないと太刀打ちできない。
 緋河家にいた頃から、天夜も実力は伸ばしたつもりだが、果たしてあの頃勝てなかった父親に勝てるかどうか。
「…と言いたいところだがな、手荒い真似はするなと水葉に念を押されている」
 母親の名を持ち出されて、天夜は溜息を吐きながら構えをといた。
「心臓に悪い冗談を言うなクソ親父」
「放蕩息子に言われる筋合いはない。それと、拒否権もない」
「あんたが行けばいいだろう。っつーか、当主なのに動かないとか有り得ないだろ」
「フン、俺が行きたいところだがな。俺はもし土門荒野が覚醒した時のために待機しなければならん。この件で無関係を通そうとする輩の説得も行う必要もある。全く、煩わしい事この上ない」
「ちっ、やっぱ知らぬ存ぜぬを通そうとするヤツがいるのか」
「理由は違えど、お前もその1人だろう?」
「……」
 統時の言葉に図星を指され、黙り込む。
「…秋風市は、いい町だったか」
「ああ…あの町の人々はみんな、良い人ばかりだった。梢さんも含めて」
「土門荒野が覚醒すれば、どうなるか…わかっているな」
 最初に天夜の元へ交渉に来た魔術師の言葉が蘇る。
『貴方の御友人も秋風市にいたはずです』
 土門荒野がもし覚醒してしまえば…秋風市はこの世界から消滅してしまうだろう。それは、遥たちの死も意味する。そんな事は最初からわかっている。
 そう、答えなんて最初から出ていた。
 あの町には、大切な人々が沢山いる。
 誰かを守るのは性に合わないし、そもそも何もかもを守れるほど、器用な人間とも思っていない。
 何があっても守りたいと思った存在も、もうこの世にはない。
 けど、それでも、彼らを見殺しにすれば、自分がそれを悔やみ続けながら生きる事もわかりきっていた。
 ならば、やれる事は一つだけだった。それしか方法がないのなら、自分が罪を背負って生きるしかない。
 その覚悟が出来るか出来ないか、ただそれだけ。それが出来るか、迷っただけだ。
「…二度と顔を合わせられない人たちのために命を賭ける…物好きにもほどがあるぜ」
「……」
「けど、俺は後悔するのは嫌だ」
 それが、彼の答え…彼の生き方だった。
「そうか」
 統時は眼を閉じ、深く頷く。
「…強くなったな。この数年の旅は、お前にとって無駄にはならなかったようだ」
「……俺はあんたや組織に言われたから梢さんを狩るんじゃない。俺は、俺の意思であの人を狩る」
「それでいい。6分家の人間を何人か付ける。じきに京も合流するだろう。現地での判断は、お前に全て一任する」
「わかった。だが、俺は緋河家に戻る気はない。片がついたら、俺は俺の好きにさせてもらう」
「そんな事は最初から望んでいない。勝手にするがいい」
「言質は取ったからな。後から翻すなよ」
「フッ…そうだ、それともう一つ」
「まだあるのか?」
「ああ、水葉も眞昼もお前の事を心配していた。会えとまでは言わないが、電話くらいかけてやれ」
「……あの2人に電話する方が俺は命の危険を感じるね」
 母親と妹の顔を思い浮かべて、天夜は苦笑した。


 2005年、12月———
 秋風市有河町の一角のとあるビル。
 天夜は6分家の一部の人間と共に、そこへ赴いていた。
「ここで…あっているな、夕騎?」
「ええ、間違いありません。時間も丁度です、天夜様」
「そいつは結構。暮歌、あまり余計な事言うなよ」
「…善処する」
「京姉も、よろしく頼む」
「まぁ、お手並み拝見するわよ」
「それじゃ、入ろうか」
 天夜たちはビルに入り、待ち合わせ場所である会議室の扉を開ける。
 そこには、藍色の着物を着た女性と、この場にいるには似つかわしい年頃の…と言っても、天夜達と共にいる朱討 暮歌も弱冠12歳なのだが…少女がいた。
「良く来てくれました、緋河 天夜、霞哉 京、それに緋河家の分家のお二方も」
「あんたが、飛鳥井 冷夏…だな?よろしく頼む」
「ええ、こちらこそ。それと、この子は郁奈。訳あって連れてきました」
「ふぅん…よろしく、お姫様」
「天夜、お姫様と言ったら子供が喜ぶと思ってる考え、甘い」
「余計な事言うなっつっただろうが!」
「…善処した」
「してないしてない」
 京が苦笑しながら突っ込む。
「ったく…すまないな、うちのが余計な事言って」
「——あなたも背負っている」
「ん?」
 郁奈の言葉に、天夜は眼を細める。
「他の人から見たら、些細な後悔を、ずっと背負って生きている」
「……」
「いずれ、会えるよ。あなたのただ一人の人に」
「何?それはどういう…」
 困惑した天夜の言葉を遮って郁奈は会議室から出て行った。
「……ただ一人の人、だって…?」
「ごめんなさい、いつもの事ですから、あまり気になさらないでくださいね」
「…ああ。それで、手筈の方は…」
 気持ちを切り替えて、天夜は冷夏と今後の方針を相談し始めた。


 倉凪 梢の元へ、天夜から電話がかかるのは、これから数日後の事である。