ユグドラシル聖戦記外伝

マンスター王国を解放したイナルナ、オグマ、ユウキを始めとする解放軍。

だが、そこで遭遇したマイラにはイナルナの力は歯が立たず、イナルナは3日間ほど神官の修行をする事になった・・・





ユウキ外伝11章「MIDNIGHT TRAINING」





神官の修行というのは魔力を上げる為の修行の他に剣を使えるようにしなくてはならない。

聖女になるつもりだったイナルナはこれまで、オグマやグレイス、ハトホルが剣の修行をしているのを見た事があるが、剣を握った事は一度もない。テンルウやオグマが指導するとしても、それを3日間でなんとかしなければならないのは大きすぎる課題であった。

なので、魔力を上げる修行はできるだけ早く切り上げなければならない。幸い、オードの血が混じってるお陰で魔力の成長が悪くなっているとはいえ、ヘイムの直系であるイナルナは並の人間よりはずっとマシだし、指導役もセティの直系のキイナとライナと申し分ない。

なので、午後はほとんど剣の修行に割り当てることになった。





他の解放軍のメンバーはとりあえず、3日間自由行動という事になっていた。

が、その中には気が気でない者もいる。

今回はユウキもその1人であった。

アルスターの側には彼の故郷であるトラキアがあるが、そろそろ不治の病に冒された彼の母ユーリの容態が悪化する見込みが高い。また、トラキア国内でのユウキと敵対関係にあるアルカディアの動きも気になる。もっとも、彼女をそう簡単に動けなくするためにユウキは自分の片腕であり、大陸最強とも言われるドラゴンナイツの騎士団長であるファングをトラキアに残したのだが。

「・・・・・ふぅ」

と、トラキアがある方向の空を見上げながら溜息をつくユウキ。

「トラキアが気になりますか?ユウキ様」

と、アミナルの挙兵の際、レンスターへ帰還していたアリシアがユウキに尋ねる。

「・・・ああ。気にならないと言えば嘘になるな」

とは言うが、イナルナに神官になるよう薦めたのはユウキ本人である。

「大丈夫ですよ。ファングがいますし」

「悪いな。三日もファングに会うのを先延ばしにして」

「いえ・・・・ユウキ様の判断は正しいと思います。ファングに会えるのが遅くなるのは寂しいですけど・・・」

「・・・・ところで、もしこの戦いが終わったらどうするんだ?レンスターに残るのか?」

「・・・この戦いが終わったら、私はランスリッターを辞めようと思ってます」

「そうか・・・アミナルは反対すると思うが・・・」

「そうでしょうね・・・でも、私の帰る場所はもうレンスターではなく、トラキアなんです」

「・・・・・ファングもお前みたいなヤツが婚約者で幸せだね・・・」

と、肩をすくめながら言うユウキ。

「そういうユウキ様も早く言ってしまえば・・・・ってそれができないんでしたね・・・」

「・・・・・・いや、まぁ、少なくともこの戦いが終わるまでは言わないつもりだったが・・・」

と、さらに溜息をつくユウキ。テンルウは前回の戦いの時「巫女の力が残っているうちにマイラを倒さなければならない」と言った。それがどういう意味なのか、ユウキは母ユーリから嫌というほど聞かされているのでよく分かっている。最も、今にして思えば、マイラの正体などについて間違いなく知っていたのに全く教えてもらえなかった。

「・・・・昔から重要過ぎる事は何も言わないんだよな、母上は・・・・」

「ユウキ様?」

「こっちの話だ・・・・」

と、ユウキとアリシアが会話していると、

「ユウキ、ここにいたのか」

と、カーディフがやって来る。

「カーディフ?何か用なのか?」

「いや、それが暇でさぁ・・・」

「・・・・・ルウランはどうした?」

「え?遊びに誘おうと思ったけどノルンとアクセサリ買うって言って出かけてしまってさぁ・・・って何言わすんだよ!!」

「・・・・分かりやすいヤツだな、お前・・・・」

「くっ・・・・ユウキにだけは言われたくない・・・」

「悪かったな・・・・そうだ、暇なら久々に鍛えてやろう」

「おっ!それはいいねぇ!今日こそユウキを打ち負かせてみせるぜ!」

「それは面白そうだ・・・」





イナルナはテンルウとオグマに剣の訓練をさせられていた。

「ほう・・・なかなか筋がいいぞ、イナルナ」

「ありがとうございます、父上!」

と、テンルウに褒められて喜ぶイナルナ。

「多分、世辞だと思うんだけどな・・・・」

オグマはそれを見てイナルナに聞こえないように呟く。

そもそも、オグマはイナルナが剣を持つ事については反対である。幼い頃から魔法の修行ばかりしていたイナルナに剣を持たせて戦わせるなんて無茶が有り過ぎる。実は、ユウキが止めてくれる事を期待していたのだが、そのユウキがあっさり承認してしまったのでは最早どうしようもない。

「全く・・・こんなことならショウも聖女の修行やらせとけよな・・・」

と、愚痴を言うオグマ。

「オグマ!!全然やる気がなさそうだな?」

「うっ、いや、それは・・・・」

テンルウに怒鳴られてしどろもどろになるオグマであった。





「よう、ウイング。イナルナ達の様子はどうだ?」

と、ユウキとカーディフはイナルナ達が訓練している広場へやってきて、それを見ていたウイングに尋ねる。

「見ての通りだ。とりあえず、オグマ王子は全くやる気を見せてないな」

「・・・・・・まぁ、あいつ、ああ見えてイナルナを大事にしているから嫌なんだろうな・・・・」

「そう言うユウキはえらくあっさりイナルナ王女が剣を使う事になるのを認めたみたいだけど、心配じゃないのか?」

カーディフはそうユウキに尋ねる。

「別にイナルナが剣を持つ事に賛成しているわけじゃない。だが、今のままじゃマイラは確実に倒せない。それは以前戦ったこの俺が断言できる」

「・・・・そうか、ユウキ王子はマイラと戦ったことがあったんだっけな」

と、ウイングがユウキに言う。

「ああ。死にかけたが・・・」

「・・・・ところでお前等何しに来たんだ?」

と、ウイングがユウキに尋ねる。

「ああ、久々にコイツをしごいてやろうと思ってな」

と、ユウキは答える。

「そういえば、師弟関係だったっけ、お前等は・・・・」

と、6年前にユウキと戦った時の事を思い出すウイング。

「向こうの邪魔にならないようにやるからいいだろう?」

「ああ、構わないと思うぜ」





「さて、と。じゃあ、始めるぞ、カーディフ!!」

「ああ!!」

と、ユウキの剣をカーディフも自分の剣で受け止める。

「この!!」

と、今度はカーディフが剣を振るうがユウキの剣で受け止められる。

「・・・・・これは・・・凄いな」

と、ウイングもイナルナ達の訓練を見ているよりこっちの方が面白いと思ったらしく、ユウキとカーディフの訓練に見入っている。

「喰らえッ!!」

「はぁぁぁぁぁ!!」

そんな攻防がしばらく続けられた。





数時間後・・・

「よし、今日はこれぐらいにしておこうか」

と、テンルウはイナルナに言う。

「いえ、父上、まだやれます!!」

「そう言うなって。今日始めて剣を握ったんだから、無理はしない方がいいぞ」

「そーいう事そーいう事」

相変わらず全然やる気を見せてないオグマはそうテンルウに同意する。

「・・・オグマ、言っておくがお前にはこれから月光剣を使えるようにするために夕飯まで俺直々のスペシャルメニューで特訓してもらうぞ」

「げっ・・・・・・!?」

と、テンルウのその言葉にうめくオグマ。

「そういうわけだ。お前は今日はもう休んでいろ」

「はい、父上」

剣を鞘に入れてそう言うと、イナルナは2人に背を向けてその場を去ろうとした。

が、そんな彼女にある光景が飛び込んできた。

「ユウキ・・・・?」

と、カーディフと剣の鍔迫り合いをしているユウキに驚くイナルナ。

「ん?イナルナ王女、訓練の方は終わったのか?」

イナルナに気付いたウイングが彼女に尋ねる。

「今日のところは・・・ところで、あの2人一体何してるの?」

「あぁ、なんか、久々にカーディフをしごくそうだ」

「・・・ユウキが?」

「・・・・・もしかして、知らなかったのか?ユウキ王子はああ見えて、カーディフに剣術を仕込んだんだぞ?つまり、師弟関係ってわけだ」

「えぇ!?そうなの!?」

そんな話は初耳だったイナルナは大袈裟すぎるほどのリアクションで驚く。

「私、ユウキが剣を持っているところ初めて見た・・・・」

そう言ってイナルナはユウキとカーディフの戦いを見る。剣は今日初めて持った素人のイナルナから見ても、ユウキの剣の腕が超一流であるのがわかる。

「ま、俺様も教えたって話を聞いただけで使ってるところは初めて見たしな」

と、ウイングが言う。彼らがそんな事を話している間にもユウキとカーディフは訓練を続ける。2人の腕は互角・・・・いや、カーディフの方がわずかに勝っていた。

そして・・・・

「てやぁぁぁぁぁぁ!!」



ガキィィン!



と、カーディフの剣がユウキの剣を打ち飛ばす。

「ちっ・・・・本気でやったんだが・・・・強くなったな、カーディフ」

「へへっ、これぐらいヘズルの直系としてはやってみせないとな」

「馬鹿弟子のくせに少しは言うようになったじゃないか・・・と、イナルナ、訓練の方は終わったのか?」

と、イナルナが見ている事に気付くユウキ。

「あ、うん・・・ユウキって剣も使えたんだね・・・」

「まぁ、槍の修行のちょっとした片手間に覚えたんだけどな」

「・・・・そんなんだから「無闇に強い」だの、「その強さは反則だ」だの言われてるんだな」

と、ウイングが言っちゃいけないことを言う(笑)。

「ほっとけ」

「でも、ユウキが剣も一流じゃなかったら、俺は本当に教えてもらえるツテがなかったからなぁ・・・」

「まぁ、運が良かったんだろ・・・ところで、イナルナ、初めて剣を持った感想は?」

と、イナルナに尋ねるユウキ。

「うん・・・・ちょっと重いかな・・・って」

「重い・・・・ねぇ・・・」

と、イナルナの言葉に考え込むユウキ。

「俺も初めて剣持った時は結構重いって感じたなぁ・・・まぁ、王女は女だから、それもあるんだろうけど」

と、カーディフが言う。

「カーディフっていつから剣を持っていたの?」

イナルナの質問に、

「確か、6年前のレンスターと帝国の戦争の時に初めて持ったんだよな?」

と、ユウキが思い出すように言う。

「ああ、で、終わった後にセンティアに行ったんだけど、姉さんに薦められてトラキアでユウキに訓練させられて・・・確か、最初は闘技場に放り込まれたけど」

「俺様達と戦った時はどれくらい経ってたんだ?」

「お前と初めて会った日に俺を訪ねてきたから・・・大体一週間ぐらいだな」

「・・・・それでナルといい勝負してたのか?・・・・師匠共々とんでもないヤツだな」

「ま、俺はヘズルの直系だからね。才能かな」

と、胸を張るカーディフ。

それを聞いたイナルナは一瞬顔が曇る.

「調子に乗るな、阿呆。前の戦いだってミストルティンの力に頼った戦い方をしてただろうが。いくら神器が強いからって万能じゃないからな。あんまり頼り過ぎると手痛い失敗をやらかすぞ」

カーディフの言葉に、ユウキはそう説教を始める・・・イナルナの顔が一瞬曇ったのを見逃さずに。

「うっ・・・・わかってるよ、ユウキ」

「・・・・ならいいんだが・・・と、ちょっと野暮用を思い出した。出かけてくる」

「野暮用?」

「ああ、たいした事じゃない。夜までには戻ってくる」

そう言うと、ユウキはその場を立ち去って行った。





数十分後・・・

ユウキはマンスターのとある鍛冶屋に来ていた。

「久しぶりだな。親父さん」

「ええ、ライナ様やユウキ様のお陰で何とかやってますよ」

と、鍛冶屋の親父がユウキにそう言う。

ここの鍛冶屋は結構有名で、良い武器を造ると評判である。

実はアリシアが持っている勇者の槍もここで造られたものだったりする。

「で、用件はなんですか?」

「3日以内に剣を造って欲しい。できれば、剣を使い始めた素人が持っても軽くて使いやすいようなレイピアだといい。材料はこれを使ってくれ」

そう言うとユウキは懐から砂利ほどの鉱石が大量に入った袋を出す。

「・・・・これはオリハルコンですね。わかりました。3日以内でなんとかしましょう」

「頼む・・・あぁ、領収書は解放軍のオグマにしておいてくれ」

「・・・・本気ですか?」

「一応、冗談だ」





その夜・・・・

イナルナは皆が寝静まった後、外で1人で剣の素振りをしていた。

「はぁ・・・・はぁ・・・・」

と、素振りをし続けて息を切らしてしまうイナルナ。

そして、ついに剣を落としてしまう。

「・・・・駄目・・・・もう・・・・持てない・・・」

と、膝を付くイナルナ。

そして、前回の戦いの事を回想する。

マイラの身体は母シオンのものである事、自分の全力を使って放ったナーガが全く通用しなかった事・・・

その事を考えると涙が出てくる。

「・・・・・ユウキ・・・・私、どうしたらいいの・・・・?」

「・・・・泣きたいならとりあえず泣けばいいんじゃないか?」

返って来た答えに、

「・・・・うん、そうかも・・・・って、えぇぇぇ!?」

と、驚くイナルナ。

何時の間にか、ユウキはイナルナの後ろに現れていた。

「ユ、ユユユユ、ユウキ、ど、どどどどっ、どうしてここに!?」

「・・・・とりあえず、落ち着け。お前の考えてる事ぐらい簡単にわかるさ」

「はぁ・・・・・」

「努力家のお前は慣れない剣術を少しでも上達させるために寝る時間を惜しんで素振りでもしようとするのは間違いないからな」

と、言い切るユウキ。伊達に惚れた女の事を何も考えてないわけではないのだ。

「・・・・よくそこまでわかったね・・・・」

「ま、生まれたときからの付き合いだからな」

そう言って、ユウキは肩をすくめる。

「ねぇ、一つ聞いていい?」

「何だ?」

「ユウキって、なんで剣までそんなに使えるようになったの?」

イナルナの質問にユウキは、

「・・・・・・何となく・・・・かな。槍は時々使えない場所が出てくるからな」

と、答える。

が、真相は違って、幼い頃にオグマに剣の事で馬鹿にされて以来、槍の修行の合間を縫っては剣術をオグマのを見様見真似で後は独学で磨いていただけだったりする。

そんな事をしていたら一流の使い手になってしまったのだから全くとんでもない男である。

「・・・・・私って剣の才能・・・あると思う?カーディフ王子の話を聞いてると、なんだか自信がなくなってしまうんだけど・・・」

「・・・・・・・オグマやカーディフの場合は特別中の特別だが、別に血筋云々関係なしに強いヤツもいる。大体、お前だってオードの傍系なんだぞ?少なくとも俺より血筋の点では恵まれてるだろ」

そう言ってユウキはまた肩をすくめてみせる。





彼らの様子を屋根の上から見ている人物がいた。

テンルウとショウである。

「うんうん、美しい恋愛模様だな~」

「・・・・テンルウ様、これって出歯亀って言うんですが、知ってますか?」

「うるさい、2人とも適度に上手くやれよ~」

と、テンルウが立ち上がりながら言ったところ、



ズルッ!



「うわっ!?」

・・・・・と、屋根から滑って落ちてしまう。

「大丈夫ですか、テンルウ様!?なんだか首が愉快な方向に曲がってますよ!?」





「・・・・・今、変な音がしたような・・・まぁ、いいか・・・」

と、テンルウが墜落した音に気付いたが、無視する事に決めたユウキ。

「ユウキ・・・・・・」

「うん?」

「これから3日間、夜中に私に剣を教えてくれない・・・?」

「・・・・・俺の特訓は完璧に実戦方式だ。厳しいと思うけど、いいのか?」

「うん、少しでも上達したいから・・・・」

「・・・・わかった。今日は無理だろうから、明日からやってやるよ」

「ありがとう!ユウキ!」

と、イナルナはユウキの腕に抱き付く。

「・・・・イナルナのためなら・・・・なんだってするさ、俺は・・・」

そう、ユウキは小さく呟いたのだが、イナルナには全く聞こえなかった。





それから二日間、ユウキは夜中にイナルナを鍛えることになる・・・・









後書き

作者:完成~・・・・

ユウキ:結構時間かかったな・・・・

作者:言うな・・・・今回は本編の外伝だ

イナルナ:本編の作者の依頼ですよね

作者:おう・・・・

イナルナ:そう言えば、今回、ユウキがレイピア買う場面で、解放軍の軍資金から出させようとしたって話・・・・本当?

作者:・・・・・・いや、ユウキ、金持ちじゃなさそうだし、それくらいやってみせるかな・・・って

ユウキ:するか、そんなこと・・・・

作者:うっ・・・・・つーか、眠いからここで締め・・・(爆)