SURVIVAL GAME

DANGER TRIAL
1
若葉城聖学園が日本から姿を消してから一年…………

詩音は一流企業に秘書として就職、嵩哉・航平・季伊奈は私立聖ヶ丘学園に転入、きらら・翔は詩音に家庭教師をしてもらい私立桜塚高校に入学、 あゆむ・翼・葵・双雅は家から400m先の市立刻麗中学に転入した。

そして再び、この10人を巻き込んだ事件が起こった………


Sion’s presents

DANGER TRIAL


航平はこの学校に入ってから、部活動のことなど何も考えていなかった。

季伊奈は中学の頃に弓道の全国大会で二番目という成績を持っていたので、弓道部のほうから入部の勧誘に来ていたので弓道部に入学していた。

嵩哉は「俺はもう部活はやらない」とか言ってのんきに帰宅部なんぞをやっている。

航平は本気で悩んでいた。

そこで、詩音に相談したのである。


「え?部活をやるかやらないかで迷ってるの?」

「ああ……」

航平は詩音が入れてくれたカフェを飲みながら言った。

「部費の事なら心配しなくても良いよ。私の給料から出してあげるからさ」

そう、今の生活費……

実は詩音が全て賄っていたのである。

「いや………部費の事は別に良いんだけど………やりたいことがさ………見つからなくて………」

「ふぅ………ん……」

詩音はコーヒーを飲みながら航平の話を聞いている。

「航平、やりたいことって……ただ何となく「あ、これがやりたい」って言うもんじゃなくてやってみて初めて「自分はこれが好きだからこれがやりたい」って言うもんなんじゃないかな?」

「……………」

「航平は運動神経がいいでしょ?だから、色んな部に体験入部してみたらどうかな?その中に航平が「これが面白いから続けたいな」と思う部に入れば良いんじゃない?」

「…………そっか………」

航平は詩音の言ったことに納得したのかカフェを飲み干す。

「深く考え込むことないんじゃない?自分の好きなようにすれば良いよ。嵩哉なんかさ、水泳で全国大会行ってるにも関わらず部活入ってないでしょ?」

「あいつは部活に出るのが面倒くさいって………」

「今のうちじゃない?ほら、あいつもう三年生だし、受験だってあるでしょ?それもあって部活やらなかったんでしょ?あいつなりに考えてやってるんだよ。自分の大学受験の為にバイトしてるしさ」

「それは言ってた………詩音に大学の入学金出してもらうのは気が引けるって言ってたから………」

嵩哉は今、近くのローソンでバイトをしている。

「馬鹿よね………そんなこと気にしなくて良いのにさ。私達もう家族みたいなもんだし。あんた達の学費は全部私が出してるしね〜♪」

「本当、詩音には感謝してるよ」

「そりゃあね……今の私はあんた達の保護者変わりだから仕方ないでしょ?それに政府から固定資産税免除してもらってるから生活費だけ稼げば良いわけだし、随分楽なもんよ。給料も高いから少しずつ貯金できてるし★」

詩音の今の給料は年収500万。それに国民年金を支払っていても月に40万程度貰っている計算になる。

おまけにあの時貰った報酬金にはほとんど手をつけていない。

生活には全く困らないのである。

「でも、あと二年だったのに大学行かなくて良かったのか?」

「いいのよ。検定には自分から受けに行っててほとんど取ってたから就職には元々困らなかったし。あ、仕事家に持ってきてたんだ。ごめん、私部屋に戻るわ」

「ああ、話聞いてくれてありがとうな」

航平の言葉に詩音はウインクをして見せた。

丁度その時……

「ただいまですぅ〜」

葵達中学生軍団が帰ってきたのである。

「ただいま〜、あ、航平今日早かったんだ。嵩哉はバイト?」

あゆむが航平にそう聞いた。

「ああ」

「お腹空いた〜」

翼が冷蔵庫を開けて食べれるものを捜す。

「詩音がカレー作ってくれたよ」

「カレー?!食べる食べる〜!!俺もうお腹空いて……」

「詩音は?」

「詩音は家に仕事を持って来たって言ってたから自分の部屋のパソコンの前だろ?」

「詩音は良いよな〜。パソコン持ってて………」

「あいつは仕事に使ってるんだから仕方ないだろ?」

詩音は会社に就職するなり、パソコンの部品を買いこんで自分で作っていた。

「俺、報酬金で買おうかな〜……パソコン………」

双雅はボソッとそう言った。

その時………


ピンポーン


インターホンが鳴ったのである。

葵が玄関へ行って玄関の戸を開けた。

そこには………

「詩音さんはご在宅ですか?」

という黒いスーツを着た男が立っていた。

「ええ……姉ならいますけど………」

人前では詩音を姉と皆は呼んでいる。

「詩音さんに用事があるのですが……」

「少々お待ちいただけますか?」

葵は詩音を呼びに一階にある詩音の部屋に行こうとした。

「誰だ?」

「知らない人」

あゆむに聞かれあっさりとそう答える葵。

そして詩音の部屋のドアをノックして入った。

「おかえり葵。どうしたの?」

「詩音さん、お客さんです」

「私に?」

「はい」

「わかった。今行くわ」

詩音はすぐにパソコンの電源を落とし、玄関へ向かった。

「どなたですか?」

「若葉城聖学園の詩音さんですね?」

その言葉を聞いて詩音の顔付きが変わる。

世間では若葉城聖学園の生き残り生徒はゼロと公表されている。

実際詩音が就職する時にも履歴書には若葉城聖を高校卒業した後からは通っていないと言う事になっている。

「……………誰?」

「日本政府治安維持部の空木要介と申します」

「……………どうぞ上がってください」

「恐れ入ります」

空木要介と名乗った男は詩音に案内され、リビングへ入った。

そこには航平達がいる。

「ごめん。ちょっとの間部屋に戻っててくれる?」

「いいですよ。彼らにも関係のあることですから……」

その言葉を聞いて航平達は顔を見合わせる。


「お話とは他でもありません。貴方達に仕事を依頼したいのです」

要介の言葉に全員の顔色が変わる。

「俺達に仕事だぁ?」

「そうです。もちろんそれ相応の報酬は差し上げるつもりです」

「一体どう言うつもり?政府には私達のことはそっとしておいて欲しいと言ってあったはずよ?!」

詩音は少し怒った表情で美住に言う。

「そのつもりだったのですが、緊急事態なものですから…あなた方にご協力を願いたいと………」

「仕事の内容は?場合によっては引き受けるかどうかは考えさせてもらう」

「仕事の内容はある組織を壊滅して欲しいのです」

「壊滅?!」

その言葉に全員が怪訝な顔をする。

一年前にあった若葉城聖学園爆破事件で彼らはある組織を壊滅させている。

その組織は反日本政府のレジスタンスだった。

「ええ。お引き受け願えませんか?」

「…………………今、この家にいない者がいます。その子達に聞いてみないとお答えは出来ません。連絡先などを教えていただけませんか?」

「わかりました。私の携帯ナンバーをお教えしておきます。何かありましたら連絡してください。それと依頼内容の資料も置いておきます。目を通しておいてください」

要介はそう言い残し、家を立ち去った。


「詩音さん………」

「皆、先に夕飯食べちゃいなさい。私はこの資料に目を通しておくわ」

詩音はそう言って要介が置いていった資料を持って部屋に戻ってしまった。


「未鷲見〜……今日はもう上がっていいぞ〜」

「わかりました。お疲れ様です」

嵩哉はバイトを終え、自転車を走らせ帰宅した。

その時、何やら視線を感じたのである。

「……………」

嵩哉は自転車を止め辺りを見まわすが誰もいない。

<気のせいか…………?>

そう思い、お腹を空かせながら嵩哉は家へ帰った。


「あれが………未鷲見嵩哉…………」


詩音は資料を見た。

それにはこう書いてあった。


組織「ヘリオス」

一般では精密機械製造会社となっているが、裏舞台では生物兵器を製造。

生物兵器はレジスタンス「ミクロマネーシア」にも提供していた可能性が高い。

その生物兵器を使い、世界に混乱を起こす可能性が高いと判断。

そして、ある研究所で<バイオ・ハザード>が発生したと言う情報あり。


こんなことが延々と綴られていた。

「ミクロマネーシア……………」

詩音はその組織をよく知っていた。

「まさか…………………あの時のアレはこいつらの………?」

資料に全て目を通した詩音はすぐさまパソコンの電源を入れ、城聖学園の機密資料を立ち上げた。

詩音はこのデータをすべてフロッピーに収めていたのである。

そして「ヘリオス」に関する資料を探し出した。

城聖学園の機密資料にも危険組織の名前に「ヘリオス」があった。

詩音は「ヘリオス」に関する情報を徹底的に探し出した。

そして見つけたのである。

生物兵器の内容が…………


組織「ヘリオス」の生物兵器について


<BIOLOGICAL WEAPON>は「ヘリオス」の目的の一つである。

その例として生きた人間にウイルスを注入し、生物兵器に仕立て上げると言った実験内容がある。

その中に世間一般に伝えられる「生きた屍」であるゾンビ製作が上げられている。

そのウイルスの名前は<サドナ—ウイルス>

これに感染した人間・動物・死体などは変貌を遂げ、生きた肉を求め彷徨うようになる。

このウイルスに感染したものに噛まれたりすると感染し、噛まれたものもその変貌を遂げることになる。

異様な回復力も持ち合わせているので、並大抵の武器では対処できない。


「何これ……………こんなもの作ってる会社に異変でも起きたら大変なことになるじゃない?!!しかも…………あの時の…………」

詩音はある決心を固めた。


「嵩哉、帰ってきてたの?」

詩音が部屋から出てきて言った言葉はそれだった。

「帰ってきちゃ悪いかよ?」

「おかえり、嵩哉」

「あ………ただいま詩音」

一応、帰ってきた者にその言葉は大切である。

「きららと翔は?」

「部屋にいると思うけど……?」

「呼んできてくれない?話があるのよ」

「話…………?」


「この依頼書の内容に目を通したんだけど………どうやらやらざるを得ない様よ………どうやらその組織……ミクロマネーシアと関係がある」

詩音の言葉に全員が驚く。

「ミクロマネーシアだって……?」

「おまけに………死んだ私達の先生や友達をあんな風にしたのはその組織の作り出した生物兵器の仕業だってわかったわ」

「………………………」

全員が黙り込んでしまった。

そう………

あの悪夢のような一日…………

そのたった一日でこの10人は全てを失った。

友もその学園で育ってきた想い出も全て…………

だがその一日でこの10人は出逢い、絆を結んだ。

しかし、まだあの日に対する思いは消え去りはしない。

「……………ふぅん…………」

「嵩哉………?」

「俺は別にやってもいいぜ。詩音が決めろよ」

「俺も詩音に任せる」

「私も詩音さんの意見に従います」

「…………………皆…………」

詩音は考えた。

元を正せばレジスタンスが今までロボット研究に没頭できたのは「ヘリオス」の後ろ盾があったからではないかと思われる。

あそこのリーダーであったザックスは表向きは「ヘリオス」の社員だったらしいことも先ほど調べてわかっていた。

ひょっとしたら…………

そう思うと怒りが込み上げてくる。

「やりましょう………空木さんには私が明日連絡を入れておくわ。皆は動きがあるまで学校の方に専念しててちょうだい」

「了解!」


次の日


詩音は会社へ車で出勤した。

詩音の仕事は社長秘書。

秘書検定一級を獲得しているからこそ出来る芸当である。

「詩音ちゃん、今日も早いのう……」

「社長、おはようございます。お茶かコーヒーでもお入れ致しましょうか?」

「じゃあ、お茶を頼む」

「かしこまりました」

詩音は社長にお茶を入れ、彼に差し出した。

「そうだ、詩音ちゃん。今日はある会社の社長と会見があるんじゃ。一緒に来てくれんかのう」

「何処の会社でございますか?」

「株式会社ヘリオスじゃよ」

その言葉に詩音は微かに反応した。

「是非、ご一緒させてください」

「会見は昼の三時じゃからな」

「はい。スケジュールに入れておきます」

詩音は社長に一礼をし、社長室を去った。

そして、詩音はすぐさま秘書室のパソコンをいじり出した。

「あら、皇さん。またパソコンいじり?」

「ホント好きねぇ。貴方も……」

仕事仲間の秘書が口々にそう言う。

しかし、その詩音がいじっている内容は全くわかっていないらしい。

そこへ……


コンコン


秘書室のドアをノックする音が聞こえた。

「吉田さん、実は今日契約の話があるので花を添えていただけませんか?」

この会社のエリート、海外事業部の西川だった。

「西川さんの為でしたら花でもなんでも添えさせていただきますわ♪」

吉田は急に上機嫌になった。

「皇さんにもお願いできませんか?」

「その契約、何時頃に始まる予定ですか?」

「三時です」

「ごめんなさい、その時間は社長のお付きで出掛けなくてはいけないんです」

「そうですか……貴方のような人がいてくれれば心強いのですが………社長とお出かけになるのでは仕方ありませんね」

西川はそう言って秘書室を立ち去った。

吉田は何故か詩音を睨んでいる。

「皇さん。貴方、西川さんのことどう思ってらっしゃるの?」

急にそんなことを聞き出してきた。

「別に何も……」

「そう、ならいいんですけど」

どうやら彼女はさっきの男に恋心を抱いているらしい。

それもそのはず。

彼はこの会社で一番モテている男なのである。

でもこの男、詩音にやたら固執しているのである。

しかし詩音は全く相手にしていない。

興味がないらしい。

「吉田さん、少し席を外します」

「何かあったの?皇さん」

「ちょっと………用事があるものですから……一時には戻りますので」

そう言って詩音は会社を離れた。

そして携帯電話を取り出す。

「もしもし、空木さんですか?詩音です。少しお話したいのでお時間をいただけないでしょうか?………時間ですか?今から空いてますが………1時以降は仕事があるので…………わかりました。では30分後にファクトリーのカフェで……」

詩音は携帯電話を切って、車で外出していった。


私立聖ヶ丘学園 2−B教室


「航平、今日はどうしたんだ?昨日といい今日といい……何か変だぞ?」

「流………」

航平の今の友達、流蒼次郎は最近航平が元気ないので心配していた。

「なんでもないんだ。気にしないでくれ」

「そうは言ってもなぁ………」

そこへ、季伊奈がやってきたのである。

「航平〜!!あ、流くんも一緒だったんだ」

「どうした?季伊奈」

「お姉ちゃんから電話があって………お昼にこっちに来るって」

「…………………ふぅん…………」

航平はやる気のなさそうな返事をした。

「姉貴が…………えぇっ?!!」

「お前の姉ちゃんって………詩音って言う姉ちゃんだろ?」

「ああ、そうだけど……?」

「一度逢ってみたいな〜………どっちに似てるんだ?」

流の質問に季伊奈は即答で

「どっちにも似てないよ」

とあっさり言った。

「嵩…………いや………兄貴には伝えたのか?」

「まだ。だってぇ三年生ってなんか怖いんだもん………だからさ、航平付き合ってよ……」

季伊奈の言葉に頭を抱える航平。

「わかったわかった………じゃ、行くぞ」

「はぁ〜い★」

航平は季伊奈と一緒に嵩哉のいる教室へ向かった。


私立聖ヶ丘学園 3−D教室


嵩哉は教室の自分の机で熟睡していた。

「ぐ〜…………ぐ〜………」

本当にやる気のない男である。

そこへ、航平達が来た。

「すみません、家のお兄ちゃん呼んでいただけませんか?」

「嵩哉くんね?彼また寝てるのよ。今起こしてきてあげるね」

クラスメイトの女の子がそう言って嵩哉を起こしに行った。

「嵩哉くん。嵩哉くん。起きて」

女の子は嵩哉の身体を揺さぶる。

「嵩哉くんってば!弟さんたちきてるよ?!」

「ぐ〜………」

「嵩哉くん!!」

女の子が耳元で叫んでも嵩哉は起きない。

女の子は痺れを切らしたのか、自分のカバンからハリセンを取り出した。

「起きろぉぉ!!!」


スパァアン


その女の子のハリセンが嵩哉の頭に炸裂した。

「いってぇ…………絵菜瑠……またお前か!!!」

彼女の名前は外村絵菜瑠。嵩哉がこの学校に転校してきて以来のクラスメイトで、いつも彼女が嵩哉を起こしている。

「さっきから呼んでるのに起きない嵩哉くんが悪いのよ?!」

「何なんだよ一体!!」

「弟さん達来てるわよ?」

「あ?」

嵩哉はそう言われ、教室のドアのほうを見た。

そこでは季伊奈が嵩哉に手を振っている。

「なら初めからそう言って起こせよ」

「起こしたわよ?でも起きなかったから一発殴ってあげたんじゃない」

「ああ、そうかよ」

嵩哉はそう言って自分の席から立ち、航平達の所へ向かった。

「どうした?」

「あのな、季伊奈に詩音から電話があってお昼時間くらいにこっちに来るそうだ」

「それが?」

「だから、今日のお昼、外でお弁当一緒に食べようよ♪」

季伊奈が笑顔で言う。

「ああ、わかった。で、何処で食うつもりだ?」

「玄関先にある草原のところで食べようよ。そうしたら詩音も私達のこと捜しやすいでしょ?」

「了解」

「じゃ、お昼にね、お兄ちゃん」

季伊奈と航平はそう言って自分達の教室に帰っていった。

嵩哉は再び自分の席につき、寝ようとしたが……

「嵩哉くん!!少しは授業聞いたらどうなの?!私達受験生なんだよ?そんなんでどうするの?!」

絵菜瑠は嵩哉のところに来てお説教を始めた。

「絵菜瑠、ノート貸してくれ。写すから」

「あのねぇ………いい加減に自分の手で黒板写しなさいよ。大学受かるどころかセンター試験で落ちるよ?」

「大丈夫、俺には勉強を教えてくれる家庭教師がいるから」

その家庭教師とは詩音のことである。

「その家庭教師の先生は大変でしょうね?貴方みたいな人に勉強を教えるんだから……」

確かに勉強を教えている時の詩音は大変そうである。

家にいる者全員に「勉強教えて〜」と言われるからである。

ちなみに勉強を教える時は嵩哉はマンツーマン、航平と季伊奈・きららと翔でペアを組んで教え、あゆむ・翼・葵・双雅には四人同時に教えている。

流石の詩音でもいっぺんには教えられない。

「はい、ノート。早く仕上げちゃってね」

「わかってるって」

嵩哉は絵菜瑠のノートを借りてノートの写しにかかった。


ファクトリー


「詩音さん、こっちです」

要介が来たばかりの詩音を呼んだ。

「すみません。時間を取らせてしまって………」

「いいえ、いいんですよ。それより、依頼をお受けしてくださるそうですね」

「ええ。皆と話し合った結果です。この資料はお返しします」

詩音は鞄から先日預かった資料を空木に差し出した。

「これは詩音さんが持っていてください、何かと………」

「この資料は私には必要ありません。私には城聖の機密のファイルがありますから」

「城聖の機密ファイル……ですか?」

詩音は要介の言葉に頷いた。

「実は私が高校二年の頃に担当の先生からお預かりしたものがあるんです。それがまだ私のもとで保管されているものですから………」

「そうですか、では貰っていきます」

要介は詩音から資料を受け取り、鞄の中にしまい込んだ。

「私なりにその会社を調べてみました。そして、今日彼らに接触することになりまして………」

「それは………!!!」

「あ、会社の社長のお付きで行くんです。別にそう言ったことをするわけでは……」

詩音は要介に弁解した。

「そうでしたか。流石は城聖学園きってのエリート生ですね。貴方の噂は貴方の担任であった葛城教授から伺っていますよ」


葛城教授———————————

詩音の一年からの担任で詩音にあるだけのコンピューター技術を叩きこんだ人間である。

詩音は大学部一年の時に半年間、アメリカ留学へ行っていた経歴がある。

それも全て葛城教授推薦での留学だった。

その先で詩音はコンピューター技術をさらに身につけていたのである。

詩音にしてみれば葛城教授は詩音の大切な親代わりみたいなものだった。

だが、一年前に彼は亡くなってしまった。

あの事件の時に………


「今思えば惜しい人をなくしたと思います」

「葛城教授は私の父みたいなものでした。私は5歳くらいの時に父を病気でなくしていたものですから………。母も三年前に亡くなりました。親のいなかった私のことを娘みたいに可愛がってくれていましたから………」

詩音はもうすでに家族を失っていた。

祖父母、親戚もいない。

詩音は親の財産を全て受け継いで、その財産の一部で城聖に通っていた。

財産総額は五千億。

詩音は全てそれを現金に変えていた。

そのお金の一部で全員の学費や入学金を払っていたのである。

このご時世では信じられない話である。

「そういえば貴方はあの皇財閥のご息女でしたね。私なりに貴方達のことを調べさせてもらいました」

「やめてください。皇財閥は私が高校ニ年の時に途絶えました。財産は受け継いでも父や母の仕事を受け継ぐ気はありませんから」

「そうですか………。詩音さん、近いうちに政府から武器が搬入されますから都合のよろしい日をお教えいただけませんか?」

「そうですね……土日ならいつでも………」

「わかりました。では17日にそちらへ搬入されるようにします。大型トラックが行くと思いますので……」

「わかりました」

詩音はスケジュール帳を取りだし、それを記入しておいた。

「そろそろお昼ですね?一緒にいかがですか?」

「ごめんなさい。今日はこれから仕事が入ってますから……」

「そうですか。では健闘をお祈りしてます……」

詩音は要介に一礼をして、勘定を払ってファクトリーを去っていった。


私立聖ヶ丘学園 校舎前


「おい、見ろよ。すっげえ美人が校門の所にいるぜ?!」

「まじかよ?!見に行こうぜ」

と、生徒たちが廊下で大騒ぎしていた。

その言葉を聞いた航平は何も気にせずに歩いていた。

「航平、あれお前の姉ちゃんじゃねえか?」

一緒に歩いていた流が窓から校門を見ていた。

「あ?そんなはずは………」

しかし、確かに校門前にいたのは紛れもなく詩音だった。

「まじかよ………予定より時間が早いじゃねえか………」

航平はすぐさま季伊奈のクラスへと走っていった。

「あ、待ってくれよ航平!!」

流も航平の後に付いて走っていった。


「季伊奈。しお………姉貴が来てる」

クラスへ駆け付けての第一声がそれだった

「嘘ぉ?!予定よりちょっと早いよ?!」

「一応昼休みだけどさ………とにかく兄貴を呼びに行くぞ!!」

「うん!!」

季伊奈と航平はすぐ三階へと向かった。


校門前に男子生徒がたかっている。

詩音はその状態を見て「女の何処が珍しいのかしら?」と疑問を抱いている。

そこへ、嵩哉が来たのである。

「姉さん。話って何?」

いつもとは違う口調で嵩哉は詩音に話しかけた。

「嵩哉、航平と季伊奈は?」

「ああ、あいつ等?………知らない」

「知らないじゃないでしょ?捜してきてよ」

「わかった。ここで待ってて」

嵩哉は詩音にそう言って校舎へ入っていった。

(おい、あれ三年の未鷲見嵩哉だぞ?)

(姉弟なのかな?それにしても綺麗だよな〜)

そこへ、嵩哉のクラスメイトで一番のナンパ男である浅倉と言う男が詩音の前に現れた。

「綺麗なお嬢さん。誰をお待ちですか?」

と詩音に赤い薔薇を一輪差し出してきた。

詩音の嫌いなタイプである。

『私は自分の妹と弟を待っているのよ』

と英語で話した。

詩音は半年間アメリカ留学をしているので英語はばっちりである。

しかし、浅倉は片言の英単語だけで詩音の言っている意味を訳してしまった。

「そうですか……妹さんと弟さんを………で?誰なんですか?」

『嵩哉と航平。それに季伊奈よ』

「嵩哉………?未鷲見嵩哉ですか?」

『そうよ』

浅倉は密かに不適な笑みを浮かべた。

「彼は僕のクラスメイトなんです。よろしければ僕とお話しませんか?」

「おい、人の姉を勝手にナンパすんなよ!!」

嵩哉が航平と季伊奈を連れて詩音のところへ戻ってきた。

「み……未鷲見………」

「嵩哉、お疲れ様。悪かったわね」

「いや、別に良いさ」

「お姉ちゃん、お待たせ〜」

季伊奈は航平の後から顔を出し詩音に手を振る。

詩音もそんな季伊奈を見て笑う。

「何処か話の出来る場所ないかしら?」

「其処で良いかい?」

航平は左の草原を指差した。

「ええ、其処で良いわ」

詩音達は左の草原へと向かった。

「それにしても美人だよな〜………」

「あの妹弟……羨ましい………」

などと詩音を遠めで見てそう言った。


「で?話って言うのは?」

嵩哉と航平と季伊奈はお弁当を広げて詩音に聞いた。

「それがさ、今日ね……ヘリオスに行くことになったのよ」

「えぇ?!!」

詩音の言葉に三人は口をそろえて驚いた。

「うちの社長が今日そのヘリオスの社長と会見するんですって。そのお供で行くの」

「大丈夫なのか?」

「さぁ………どうだろうね。けど相手は私達を知らないわけだから………大丈夫だとは思うわ」

「俺も一緒に………」

嵩哉は詩音が心配でたまらない。

季伊奈はそんな嵩哉を見てどことなく面白くなさそうな顔をしている。

「だめよ。私は仕事で行くんだから。大丈夫。私を信じて」

詩音は嵩哉に笑顔を向ける。

嵩哉はそんな詩音をじっと見ている。

航平は季伊奈が横で嵩哉を見ているのに気がついた。

「わかった。ただ無理すんなよ?俺は………」

嵩哉はその後、自分が何を言おうとしたのかに気付いた。

そしてすぐにその口をつぐんだ。

季伊奈はすっかり不機嫌そうな顔をしている。

「何よ?改まっちゃって……………季伊奈、どうしたの?顔色悪いわよ?」

詩音に言われすぐに表情を元に戻そうとする季伊奈。

「何でもないよ。それより詩音、気をつけてね………」

「わかってるわよ。あ、そろそろ会社に戻るわ」

詩音は胸から懐中時計を出して時間を見た。

時計は12時38分を刺している。

「詩音、お昼ご飯食べたのか?」

「え?いや、まだだけど………」

「このパン持ってけよ」

航平が立ち去ろうとした詩音にパンの入った紙袋を投げてよこした。

その中には詩音の好きなカレーパン・メロンパン・あんドーナツにポカリスエットが入っていた。

「航平、いいの?」

「どうせそうだろうと思って購買で買っといた。車の中で食べてけよ。おごりだからお金返さなくて良いからな」

「ありがとう航平。助かるわ」

「気をつけていけよ。何かあったら電話するんだぞ?」

「わかってるって。じゃ、行って来るね」

詩音は航平から貰った紙袋を持って会社に戻っていった。


「航平、随分優しいじゃない?」

「あいつの性格考えてみろって。大体想像つくから」

「そうだよね〜………毎朝私達のお弁当作ってくれるんだもんね……」

季伊奈はそう言って詩音が作ったお弁当を食べる。

(やっぱり………詩音が相手じゃ敵わないな………きっと………)

季伊奈は心の中でそう思っていた。

「詩音…………」

嵩哉は自分の心にある詩音に対する感情が何なのか、まだ認めたくなかった……