SURVIVAL GAME

DANGER TRIAL
3
研究所の中は嫌な匂いが充満している。

その匂いは詩音達の鼻腔をくすぐる。

「ホント………嫌なにおいよね…………」

「あの時と………似たような匂いだな」

「思いだしたくないよ………」

そう………その匂いは「ミクロマネーシア」から城聖学園に帰ってきたときに学園全体を覆っていた、あの匂い…………

詩音達にとっては嫌な思い出の一つである。

「あの記憶は思い出として最悪だ………」

だが今はそんなことを言っていられる時ではない。

詩音達は作戦通りに別れて行動をすることにした。

今ここに残っているのはあゆむと詩音だけ。

「詩音、どうする?」

「まず………各部屋の探索ね…………怖い?」

「怖くなんかないさ」

「私は………………怖いわ」

あゆむは初めて詩音の弱音を聞いた。

「詩音………」

「怖いわ………すごく………この先にある秘密を知るのが怖い………」

詩音は自らの身体をぎゅっと抱きしめる。

身体から震えが出始める。

そんな詩音を後ろから抱きしめるあゆむ。

「これで………少しでも落ちつくといいんだけど…………」

詩音はそんな彼の心遣いが嬉しかった。

「ありがとう…………」


一方、翼と嵩哉の方はというと………

険悪なムードが流れていた。

<メチャクチャ一緒に居辛いんですけど…………>

翼は嵩哉がさっきからかもし出している怒りのオーラに耐えかねていた。

「嵩哉……………?」

「何だよ?!」

<あゆむといい嵩哉といい…………怖いよぉ……………>

「あのさ…………ひょっとしてね………嵩哉って詩音に………ホの字?」

「………………………そうかもな」

意外な答えに翼は少し戸惑った。

「いつの間にか、こんなに大きな存在になっちゃったよ………あいつ……」

「詩音にはそのこと言わないの?」

「俺は自分から告白しないって昔から決めてるの!!」

「それって…………」

「男の価値は惚れさせた女の数で決まるんだよ」

嵩哉の言葉に翼は何も言えなかった。

<そんなもんなのかな…………?>

翼は思わず真剣に悩んでしまった。


航平と季伊奈は各部屋を見て回っていた。

おびただしいほどの実験材料の数…………

その姿は元は人間であったという証すらなかった。

でも、よ〜く見ると確かに人間なのである。

「気持ち悪〜い…………」

季伊奈は思わずそれを見て呟いた。

「季伊奈。この部屋も破壊するぞ。見てていい気持ちがしない」

「そうだよね。じゃ、時限爆弾仕掛けるよ?」

「ああ」

季伊奈はサンプルの入っているカプセルに時限爆弾を仕掛けた。

「よし、行くぞ季伊奈」

「うん!!」


一方、双雅と葵は別の方向から部屋の探索に当たっていた。

「葵、気を付けろよ?何が出てくるかわからないからな?」

「うん、わかってるよ双雅」

双雅の後について、葵は後方を気にしながら歩いていく。

そして葵は何かに躓いた。

「きゃあ!!」

思いきり転んでしまう葵。

そして、右手に何やらひんやりするものが当たっている。

葵は恐る恐るその手の方を見た……………


「きゃあああああああああああああああああああああああ!!!!」


葵の悲鳴が木霊する。

「葵!!どうした?!!」

「双雅………右手…………右手に…………」

葵は顔を青ざめて首で双雅に合図を送った。

双雅が見たのはスライムだったのである。

スライムといっても人がホウ酸と液体のりをつかって作るものではない。

そのスライムは意思を持っており、強い酸を放っていた。

「葵!右手を引っ込めろ!!溶かされるぞ!!!」

葵は右手を胸のところにまで引っ込めてその場から立った。

双雅は葵が立ちあがるのを見計らって、グレネードを構え、冷凍弾をセットし、スライムに撃ちつけた。

スライムは一気に凍ってしまう。

「大丈夫か?葵」

「うん、ありがとう双雅」


きららと翔は航平と季伊奈よりも先に奥の奥へと進んでいた。

そこで、エレベーターを見つけたのである。

「ねえ…………どうしよう?先に行ったら詩音たちに怒られるかな……?」

「大丈夫だ、いざとなったら俺がきららを守ってやる」

「本当に?」

「ああ、本当だ。俺はきららが好きだから、絶対この手で守ってやる…………」

「私も…………大好きだよ。翔………」

そう言ってきららと翔は抱き合う。

「きらら………」

「翔………」

完全に二人の世界に入っていたところに、嵩哉と翼が来たのであった。

「………………お前ら何してんだよ…………」

嵩哉の言葉に二人は顔を赤くしてバッと離れる。

「え………いや…………その………」

「あ………あはははははははは………」

乾いた笑いが四人を包みこむ。

「いいよな………お前らはさ………」

嵩哉の呟きをきららは逃さなかった。

「何か言った?嵩哉」

「別に……………それより、この先はエレベーターみたいだな」

「僕たちが上に行って翔達が下に行くって言うのは?」

「お、それいいな。そうするか?」

「嵩哉、詩音達置いてって良いの?!」

「あいつらなら大丈夫だって」

嵩哉はそう言ってエレベーターを起動した。

「行くぞ翼!!」

「え?あ……うん」

翼もエレベーターに乗り込んで上の階へと行ってしまった。

「じゃあ……私達も行こう」

「ああ、そうだな」

翔ときららも反対のエレベーターを起動させ、下の階へと降りていった。


詩音とあゆむは他のメンバーとは別の方へと足を進めていた。

そこには夥しいほどのゾンビの群れが「はぁい、こんにちは〜★」と言わんばかりの数で現れていた。

「うわ…………グロ………」

「グロ過ぎて身体中の血液が氷りそうよ………」

それでも気を緩めるわけには行かない。

緩めたら負けである。

「行くよ、詩音!!」

「OK、任せて!!」

詩音とあゆむはそれぞれ武器を構えた。

「まったく………ゾンビなんて一生見たくないと思ってたけどまた見ることになるとはね!!!!」

「もう二度と見たくない代物だよね」

「本当よね!!」

マグナムが一撃でゾンビの頭を吹き飛ばし、グレネードランチャーがゾンビを燃やしていく。

「皮膚が焼ける匂いも好きになれないわ!!!」

「同感!!」

「早く行かないと皆に怒られちゃうわね」

「嵩哉は特に怖いからね………」

そう会話を交わしながらどんどん奥へ進んでいく二人。

すると………

詩音が何かに足を取られ、転んでしまった。

「な………!!!」

そこには腹ばいのゾンビがうじゃうじゃいたのである。

一匹のゾンビは詩音の足をぐっと掴んでいる。

「詩音!!」

詩音は腕を振り払おうとして思いきり足を引っ込めた。

するとゾンビの腕がちぎれ、詩音の手を掴んだままの状態でぶら下がっている。

「きゃああああああああああああ!!気持ち悪〜〜〜〜〜〜い!!!」

触ってその腕を取ろうとするが、その腕に触ることすら気が引ける。

「いやああ…………触りたくないよ………」

半分泣きの入った声で詩音は足を間だ掴んでいる腕を何とかしようとする。

「こうなったら………」

詩音は太股のところにつけてあるコンバットナイフを取り出してその腕に突き刺した。

そして、それをぐっとてこの原理を使って取ったのである。

詩音の足にべっとりと壊死した皮膚の塊が張りついている。

「いつ見ても気持ち悪いね………」

「………………」

あまりの気持ちの悪さに詩音は黙りこんでしまう。

だが、そのゾンビは反対の手で詩音の足に絡みついてきた。

詩音は痺れを切らし、そのゾンビの頭を思いっきり踏みつけた。

ゾンビの頭は血飛沫を上げながらつぶれたのである。

「…………グロテスク…………」


嵩哉達はエレベーターで最上階から探索を始めた。

そこはどうやら実験サンプルを保存しておいたりする場所らしく、牢屋のような場所がずらっと並んでいた。

「…………生きてる人間を実験に使うなんて、最低だな」

「動物でもそれは許されないよね…………」

「当たり前だ、こんな実験許されてたまるか!!」

「 嵩哉君?」

嵩哉は聞き覚えのある声に動揺する。

「まさか…………この声………」

「やっぱり、 嵩哉くんなのね!!」

「絵菜瑠?!何処に居るんだ!!」

「ここよ!!」

絵菜瑠は自分の目の前にあるドアをドンドンと叩いた。

「嵩哉、あそこ!!」

翼はドアの叩く音を聞いてその音のした方を指差した。

「絵菜瑠、離れてろ。今そのドア壊してやるから」

「うん」

そして、 嵩哉と翼はそのドアに向かって攻撃をした。

ドアは銃撃に耐えられず、壊れてしまった。

「嵩哉君!!」

絵菜瑠は嵩哉の姿を見ると、走ってきて抱きついたのである。

翼はそれを見て顔を赤くしている。

「絵菜瑠。お前、どうしてこんなところに……?」

「昨夜、ここの会社の社長が家に来て…………お父さんが………お父さんが………」

絵菜瑠は嵩哉に泣いてすがる。

「そうだったのか」

「嵩哉君、お願い………お父さんを捜して………私にはもうお父さんしか家族は居ないの………!!!」

泣きべそをかきながら絵菜瑠は嵩哉にお願いする。

嵩哉は絵菜瑠の頭をそっと撫でた。

「わかった。だけどここは危険だ。俺達の傍から離れるなよ?」

「嵩哉、彼女を連れていく気?」

「外まで送るだけだ」

「あ、そういうこと…………」

<ひょっとして…………彼女………嵩哉に惚れてない?>

という予感が翼の中に生まれる。


航平と季伊奈は今、ある人物を目の前にして戸惑っていた。

「フフフフ………お前達に彼が殺せて?」

研究員の一人が不適な笑みを浮かべながら航平と季伊奈を挑発する。

「そんな…………私達にそんなこと出来ないよ………」

半泣きの季伊奈に対し、航平は頭に血が上っている。

「てめぇ……………随分と卑怯な真似してくれんじゃねえか」

「流を元に戻してよ!!!」

そう…………

流が研究員の手によって洗脳されていたのだ。

「キイナ…………コロス…………」

洗脳された流の手に握られているナイフ。

そのナイフが季伊奈を襲う。

「やめろ、蒼次郎!!!」

航平は季伊奈の前に立ちはだかり、流のナイフをコンバットナイフで受けとめる。

ナイフ同士が交わり、カチャカチャと金属音を鳴らしている。

「流!!目を覚ませ!!!俺がわからないのか?!!」

「…………コロス…………」

正気のない眼をした流は航平から離れる。

「季伊奈!!落ちつけ季伊奈!!」

「あ…………ああ………」

完全に取り乱している季伊奈を見て航平が季伊奈の身体を揺さぶる。

「季伊奈!!お前がそんなことでどうするんだ!!」

「流…………流……………」

季伊奈の頭の中には今、昨夜の記憶が鮮明に思い出される。

「どうして……?どうして流がこんな目に合わなくちゃいけないの?!私のせいなの?私が居たからなの?!!」

完全に自分を攻めてしまっている季伊奈。

航平はそんな季伊奈を見て、ある行動に出た。


パァン


航平は季伊奈の頬を軽く叩いた。

「季伊奈、お前のせいじゃない。お前のせいじゃないんだ!だから落ちつけよ!!俺は………そんな……自分を攻める季伊奈なんか見たくない!!」

航平は季伊奈の頬を触って、落ち着かせようとする。

「航平…………だって………」

「今はそんなことより、あいつを元に戻すのが先だ!!」

「うん…………」

季伊奈は気を引き締めて、流の後に居る研究員の方を見た。

「無駄よ!!彼は完全に私達の下僕なのだから!!

その時、季伊奈は研究員がリモコンらしきものを捜査しているのを見逃さなかった。

季伊奈は流の横をすりぬけ、研究員を蹴り飛ばした。

その時の衝撃で、研究員の手からリモコンが落ちる。

「しまった!!!」

季伊奈はそのリモコンを踏み潰して壊した。

「これでおしまいよ!!流は返してもらうわ!!!」

その時の季伊奈の眼には涙が浮かんでいる。


「ぐああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


流は頭を抱えて、苦しみ出したのである。

「貴様!!なんと言う事を………!!!アレを壊したせいであいつの自我が崩壊するぞ!!!それでもいいのか?!!」

「何?!!」

航平はその言葉を聞いて、流の方を見た。

「流!!しっかりしろ!!!」

「季伊奈…………航平……………コ………コロス………ミンナ………コロ……」

季伊奈はその流の様子を見て、流を抱きしめたのだった。

「流………ごめん………私のせいでこんな…………お願い……元の流に戻って……」

「……………希……伊奈……………」

流はそのまま季伊奈の胸の中で、気絶してしまった。

「流!!」

「大丈夫………気を失ってるだけだ………それにしてもあいつら………人の友人捕まえて実験するなんて……………!!!!」

「航平、どうしよう?流をこのままにして置けないよ?」

「そうだな………季伊奈、お前先に車に行ってろよ。俺一人で先に行く」

「わかった………」

季伊奈は気を失っている流を抱えて一人、外においてある車のところへ向かった。

「………………今告白しても振られるだろうな…………きっと………」

航平は自分の胸の中に季伊奈への気持ちを封印するのだった。


三時間後—————————————


季伊奈以外のメンバーがある一室のドアの前で立ち止まっていた。

「ここが最後の部屋………」

この場に居た全員が、何とも言えない感覚に襲われる。

「行くぞ…………」

「うん」

そして、その部屋のドアが開かれた………

そこにあったものとは————————


「待っていたぞ、皇の小娘」

「織田…………」

そう、ヘリオスの本社の社長の織田がそこに居た。

そしてその隣に居たのは、詩音も見覚えのある懐かしい人物だった。

「と………外村?!!」

絵菜瑠の父親であり、かつて詩音の父親の部下だった外村秘書がいた。

「お嬢様!!逃げてください、この男は………!!!」

外村の言葉を聞いて驚いたのは翼・あゆむ・葵・きらら・翔・双雅であった。

「お………お嬢様?!!」

「詩音って………お金持ちの家のお嬢様だったの?!!」

「あのね!!今はそんなことを言ってる場合じゃないでしょうが!!!」

詩音はメンバーの驚きにツッコミをいれる。

「そうさ………お前の父である皇恒に毒を盛ったのは私だ」

「ど………毒?!」

「そう………全ては私が日本一になるため………そのためにはお前の家の存在が邪魔だったのでね………」

「たかがそれだけの為に…………」

詩音は何も言わずにうつむいている。

しかし、彼女は震えていた。

嵩哉がその様子を見て、詩音の顔を覗きこんだ。

泣いていたのである。

声を殺して、唇が切れるまで強く噛みしめて………

詩音の唇からは一筋の血が流れている。

「詩音………」

「そのためだけに父を殺し…………私の家をメチャクチャにした…………何が日本一の会社よ………こんな人体実験しているような悪徳会社、日本一になんてなれるものですか!!!織田、殺してあげるわ……この私の手で!!!」

詩音は織田に向けてマグナムを構える。

「悪いがお前の相手をするのは私じゃない。こいつがする」

パチンと指を鳴らすと、一つのドアが開き、そこから強靭な肉体を持つ男が現れた。

だが、その右腕の爪は異様なまでに大きく、鋭そうである。

肌の色も普通の人間の肌の色ではなかった。

「私の傑作「サドナーウイルス」を改良して出来た「アドルーウイルス」を体内に含んだ「アドリス」だ。アドリス、そこに居るものを殺せ!!」

織田がそう言うと、アドリスは詩音たちに襲いかかった。

「翔!!ロケットランチャーは?」

「今準備中!!」

全員が翔を覆うように立ち、武器を構えた。

そして先に詩音が動いたのである。

マグナムを撃ちつける詩音。

が、アドリスには傷一つつかない。

そして、アドリスがターゲットを詩音にセットしたのだ。

アドリスは詩音に向かって走り出す。

詩音はその走り方を見て、顔が青ざめる。

ものすごく足が速いのである。

一瞬にして銃の射程範囲外の懐に飛びこまれ、詩音は動くことが出来ない。

「詩音!!!」

翔以外の全員がアドリスの背中を銃で撃ちつけるが、反応しない。

そのとき、詩音はアドリスに腹を殴られ、壁にたたきつけられた。

「げほっ……げほっ………」

あまりの痛さに腹を抱えこむ詩音。

だが、アドリスの攻撃の手はまだ詩音に向けられている。

それに気付いた詩音はとっさに身を起こして、防御体制に入る。

「どうしよう、詩音さんがメチャクチャ狙われてるよ!!!」

「翔!!まだ準備が終わらないのか?!!」

「だー!!焦らせるなよ!!」

翔は戸惑いつつ、てきぱきと手を進めている。

その時詩音はアドリスに首を掴まれ、もがいている。

「ぐっ……………」

徐々に首を強くしめつけられ、息が出来なくなる。

だんだん気が遠くなっていく詩音。

だが、それを黙って見過ごす者はここにはいない。

対戦車ライフルを撃ちつける航平とヘビーマシンガンを撃ちつけている双雅が居た。

嵩哉とあゆむはグレネードで攻撃している。

だが、アドリスにはあまり通用していない。

「やれ!!アドリス」

織田の言葉と共にアドリスが右手を動かした。


赤い液体がポタポタとアドリスの爪から流れ落ちている。

「あ…………」

詩音の身体からアドリスの爪が生えている。

腹を思いきり貫かれている。

アドリスはその右手を力強く振り下ろした。

詩音の身体はその時、爪から解放され、壁に叩きつけられる。

その光景を見ていたメンバーの表情が凍りついた。


夥しいほどの大量の血が床を赤く染めている。

「詩音!!!」

あゆむが駆けつけ、彼女の身体を抱き起こす。

詩音の身体から流れる血が彼の服を汚す。

「あ…………あゆむ……………?」

「詩音!!大丈夫か?!!」

「あ…………あんまり………大丈夫じゃ…………ないかな…………?」

「詩音!!!」

「目がさ………だんだん霞んできてるんだよね……………」

今にも途切れそうな声で詩音は言う。

あゆむの目からは涙が溢れてくる。

「こら………男が泣くんじゃないの………大丈夫……私が死ぬわけないじゃない……」

詩音はあゆむの涙を指で拭い、両手をあゆむの頬に当て、自分の顔を近づけてあゆむにキスをした。

そのキスはとても長かった。

「ね?」

詩音とあゆむの唇が離れた後、詩音は微笑んだのである。

「ホント………大丈夫…………だか………ら………」

詩音がゆっくりとを瞳を閉じた。

「詩音………?詩音!!!」

詩音は軽い寝息を立てて、深い眠りについた。

その様子を全員が見ていた。

そして、嵩哉がこんなことを言い出したのである。

「あゆむ。詩音を連れてここから逃げろ」

「え?!」

「その傷じゃ、いつ死ぬかもわからない。早く病院に行って手当てしてやってくれ!!」

「…………わかった」

あゆむは詩音を抱きかかえ、部屋から出ようとする。

が、アドリスはそれを善しとしない。

「お前の相手は俺達だぜ!!」

嵩哉達がアドリスの気を引いたその隙にあゆむは詩音を連れて研究所を出た。

「しまった!!」

「てめえら…………俺の大事な女を傷つけた代償は大きいぜ!!!」

嵩哉が翔からロケットランチャーを奪い取る。

「あ、嵩哉!!!」

「こいつは俺がやる」

「でも………」

翔が困ったような顔をして嵩哉に言おうとしたが、それを航平が止めたのである。

「翔、今の嵩哉には何を言っても無駄だ。アイツ……詩音を傷つけられて完全にキレちまった。好きな女が目の前で死に掛けてるのを見たら、お前だってこうするだろ?」

「う……………うん………」

翔はきららに例えてその光景を想像し、嵩哉の気持ちを少し理解したのである。

「俺達は嵩哉の援護だ、行くぞ!!」

「おう!!!」


研究所 入口前


入り口前に止まっている車の中に、季伊奈と流は居た。

「う…………」

その時、流が意識を取り戻したのである。

「流」

季伊奈の声に、流は我に返る。

「季伊奈、どうしてここに……?」

「流、身体の方は大丈夫?」

「ああ、体のほうは何ともない。ただ頭が少し痛むかな?」

「流…………ごめんね………私…………」

季伊奈が涙を流しながら流の方を見る。

流はそんな季伊奈を見て戸惑ってしまう。

「季伊奈」

「流…………私…………やっとわかった……自分の気持ち………」

季伊奈はそう言って流に向かって微笑む。

「季伊奈?」

「流…………貴方のことが好き…………」

予想もしていなかった一言に、流は戸惑った。

「え………あ…………」

「私じゃ駄目かな…………?」

「そんなわけない!!嬉しいよ季伊奈」

流は季伊奈の身体を抱きしめた。

その時、ドアが乱暴に開けられたのである。

流と季伊奈はとっさに離れる。

そこに居たのは血だらけの詩音を抱きかかえ、その血で赤く染まった服を着ているあゆむの姿だった。

「あゆむ?!」

「季伊奈、俺はこの山を降りて病院に行く、救急車呼んでおいてくれよ」

「わかった!!」

「じゃ、俺急ぐから!!!」

あゆむは季伊奈にそのことを伝え、走って山を降りた。

「季伊奈」

「うん!!」

季伊奈は携帯電話を取りだし、救急車を要請した。


研究所最深部


一方嵩哉達は、アドリスとまだ戦っていた。

ロケットランチャーの準備を翔より手際良くしている嵩哉の守備を全員で全力でしている。

そして…………

「出来た!!!皆、どけ!!!」

嵩哉はかなり重いロケットランチャーをアドリスに向かって構え、そしてトリガーを引いたのである。

ロケットランチャーの弾はアドリスに命中し、アドリスは粉々に砕け散った。

それを見た瞬間、織田の顔色が青ざめる。

嵩哉は詩音が落としたマグナムを拾い、それを持って織田に近寄った。

「お前は………二つの罪を犯した。一つは罪もない人を自分の欲望の為に殺したり実験台にしたこと。そしてもうひとつは……………」

織田は思わず息を呑む。

「俺の大事な詩音を傷つけたことだ!!あの世で後悔するんだな………この俺を怒らせたことを………!!!!」


詩音は無事に一命を取りと止めたものの、自分で呼吸することが出来ず人工呼吸機をつけられ、まだ昏睡状態である。

そして、ヘリオスは織田は研究所と共にこの世から去り、小橋は警察の手によって逮捕され、事実上倒産した。

それから3週間後に意識を取り戻し、自発呼吸をするようになった詩音は病院を抜け出し、皆の前から姿を消した。

皆は詩音を捜したものの、結局見つからなかった。


四ヶ月後————————————————


嵩哉は航平と季伊奈と共にいつものように学校に登校した。

そして、教室について早々、絵菜瑠に呼び止められたのだ。

「嵩哉君!!話したいことがあるの」

「何だよ?朝からうるさい女だな」

「そんな言い方ないでしょ?!せっかく詩音さんの居場所教えてあげようと思ってたのに!!!」

その言葉を聞いて嵩哉は過敏に反応した。

「何?!!詩音が!!何処に居るんだ?!!」

「あのね…………ずっと黙ってたんだけど…………四ヶ月前にお父さんが家に連れてきて、それからずっと私の家に居たの………」

「な…………何で?!!」

「ごめんね。口止めされてたから言えなくて……………怪我の方も2ヶ月くらいでふさがって、今はもう普通に生活するには支障がないからって…………」

「で?詩音は今何処に居るんだ?!!お前の家か?!!!」

絵菜瑠は嵩哉の質問に横に首を振った。

「今………新千歳空港に居る」

「新千歳空港?!!」

「うん……外国へ行くんだって…………」

「……………絵菜瑠、行くぞ」

「え?!何処に?」

「空港に決まってるだろ?フライト時間は?」

「11時47分発関西国際空港行きよ」

「よし、今から汽車に乗っても間に合う!!行くぞ絵菜瑠!!」

「え?!!私も?!!」

「当たり前だろ」

嵩哉は絵菜瑠の手を引っ張り、急いで学校を出た。


新千歳空港


「お嬢様、よろしいのですか?」

外村は詩音に切なげな表情で聞いた。

「うん。これ以上皆に迷惑はかけられないから」

「ですが…………」

「今更帰れないよ…………あの子達の元には…………」

詩音はそう言って時計を見る。

時間は9時半を差していた。

「じゃ、私………そろそろ行くね」

「お嬢様、お気をつけて」

「皆の世話、よろしく頼むね」

詩音は外村に嵩哉達のことを頼み、その場を去ろうとした。


「 詩音!!!」


聞き覚えのある声に、詩音は思わず振りかえった。

そこには息を切らして走ってきた嵩哉と、すでにフラフラになってる絵菜瑠が居た。

「嵩哉?!」

詩音は思わず彼の名を呼んだ。

「詩音。お前、何処行くんだよ?」

「え?…………いや………あの…………」

顔を合わせづらい詩音はあさっての方を見て言い訳を考える。

「皆がお前が居なくなってからどれだけ心配したか…………どれだけ捜したかわかってるのか?!!」

「あ…………あの…………嵩哉?」

めちゃくちゃ怒っている嵩哉に気迫負けしている詩音。

ものすごく嫌な雰囲気が二人の間に流れこむ。

詩音は、あまりの居づらさに走って逃げようとした。

嵩哉はそんな詩音の手を掴み、その手をぐっと自分のほうへ引いた。

「わ!!」

バランスを崩し、倒れそうになる詩音をちゃんと支える嵩哉。

「逃げるな!!!」

嵩哉はそのまま後から詩音を抱きしめる。

「だって………そろそろ時間だから」

詩音はじたじたと暴れるが、それが傷に触ったらしく、痛みが走った。

「あぐっ…………」

思わず声が出る詩音。

病院を抜け出した後、ちゃんと別の病院に入院し安静にしていたが、まだ傷は完全に癒えたわけではなく、力が加わると痛みが出るのである。

詩音は力なく首がうなだれる。

「詩音?!」

「嵩哉………痛い………」

詩音の言葉に嵩哉は抱きしめるのをやめ、詩音の腕をしっかりと握る。

詩音はしぶしぶ嵩哉の顔を見る。

「嵩哉。離してよ」

「嫌だ」

「どうして離してくれないのよ?!」

「お前を行かせたくないからに決まってるだろ」

その言葉を聞いて詩音は自分の耳を疑った。

一方嵩哉は顔を赤くしている。

「行くなよ…………」

「嵩哉………」

「勝手に何処かに行くなよ………俺にはお前が必要なのに…………」

詩音は嵩哉の表情を見て、嵩哉の気持ちを察知したのだった。

詩音は掴まれていない方の手で嵩哉の頭を撫でた。

「詩音…………」

嵩哉はそのまま詩音を優しく抱き寄せる。

詩音は黙って嵩哉の胸に顔を埋める。

「嵩哉、悪いけど今は帰れない。だけど………絶対に……皆の元に……嵩哉のところに帰ってくるから………約束するから………」

詩音は嵩哉の顔をじっと見て、瞳を閉じた。

嵩哉は詩音に顔を近づけ、口づけを交わす。

やがてライトキスがディープキスに変わる。


互いの唇が離れたあと、詩音は嵩哉の頬にキスをした。

「約束のキス…………絶対に帰ってくるから………待っててね………」

「わかった……………」

嵩哉は詩音を離した。

そして詩音は笑顔で嵩哉の元から去っていった。


「約束、ちゃんと守れよ………詩音」


その後、嵩哉は絵菜瑠と共に学校に戻ったのであった。


FIN


作者:2作目、完成しました!!

嵩哉:長ぇ…………

あゆむ:90ページだって…………

翔:それはまた恐ろしく長いな

航平:読むやつの気持ちになってこういうの書けよな

きらら:それ以前に前編・後編に分けたほうが良かったんじゃ………?

作者:それは作者の信念でやりたくないの。前編・後編に分けるのは……

詩音:良い迷惑よね?

双雅:全くだ

あゆむ:ところで………詩音って誰が好きなの?!

嵩哉:それは俺も疑問!!

詩音:あははははははは…………(滝汗)

作者:さぁ………誰でしょうね?(←意地が悪い)

航平:結局俺って季伊奈に振られたんだよな……?

季伊奈:航平…………ごめん………私、航平の気持ちに全然気付かなかった………

作者:航平はこの後絵菜瑠と付き合うことになるよ。

航平:…………どう言う接点があるんだ?

嵩哉:振られたもの同士の傷の舐めあい

航平:………………

葵:それじゃ、次回作でお会いしましょう!!

翼:次回作なんてあるの……?

詩音:それは作者の気持ちしだいじゃない?


登場人物


流蒼次郎

私立聖ヶ丘学園2−B

身長:176cm

体重:60kg

趣味:ボウリング・UFOキャッチャー

特技:サッカー

所属部活:サッカー部

性格:曲がったことが嫌いで、噂を間に受けない。

好きな歌手:花*花

得意科目:体育・数学

苦手科目:理科・国語


外村絵菜瑠

私立聖ヶ丘学園3−D

身長:159cm

体重:43kg

趣味:ショッピング・アクセサリー集め

特技:合気道

所属部活:なし

性格:ちょっとお節介なところがある 怒るとヒステリーになる

好きな歌手:B‘z・GLAY

得意科目:音楽・政経

苦手科目:数学・英語


空木要介

日本政府治安維持部

身長:176cm

体重:61kg

趣味:ドライブ

特技:色々な情報を探し出すこと

性格:ものすごく真面目で誠実な心の持ち主

好きな歌手:エンヤ


本名紹介


皇詩音     (すめらぎ しおん)

未鷲見嵩哉   (みすみ たかや)

暝嵜航平    (くらさき こうへい)

綾峯季伊奈   (あやみね きいな)

白金あゆむ   (しろがね あゆむ)

季流翼     (きりゅう つばさ)

黒闇翔     (くろやみ しょう)

永戸双雅    (ながと そうが)

柊葵      (ひいらぎ あおい)

夢瑞きらら    (ゆめみず きらら)