SURVIVAL GAME

SCHOOL WAR
1
あの「ヘリオス倒産事件」から3年の時が流れた。

人々は会社ヘリオスの裏事業を知り、辺りは騒然となった。

そんな中、詩音を除いた九人は再び訪れる夏の到来を待っていた。

だが……………


Sion’s prezents

SCHOOL WAR


私立刻麗高校では今、ちょっと遅い学校文化祭で盛りあがっていた。

その中には一般できららと翔も刻麗高校に来ていた。

「へぇ………刻麗高校ってこんなに綺麗な学校なんだな」

「そうだねぇ………」

きららも翔も結構珍しそうに学校を見学している。

「きらら。俺、美術室見たいんだけど…………」

「あ、私も行く」

翔はこの上ないほど美術に関しては興味深々である。

きららも何度か翔の描いた絵を見たことがあるが、翔は本当に綺麗な絵を描く。

きららは翔の描く風景画が大好きだった。

ちなみにきららは文学部の大学に、翔は美術科の専門学校に通っている。


3年3組教室  


「ねぇ?双雅、きらら達来るの遅いと思わない?」

「そこらへんうろうろしてるんじゃないか?」

双雅は関心のなさそうに葵の言葉を受け流す。

葵はそれを聞いてむすっとする。

「何よ。人が真面目に聞いてるのに、そんな言い方ないでしょ?!」

「ああ、悪かったな」

またそっけなさそうに言う双雅。

葵は完全にムッと来ている。

「もういいよ!!!双雅とはもう何も話さないから!!!」

「好きにしろよ」

葵は怒って教室を後にした。

双雅のその時の目は少し淋しそうだった。


3年5組教室


あゆむと翼は文化祭のステージ発表の準備をクラスのメンバーと共に取りかかっていた。

そのとき、葵が半泣きであゆむ達のところに来たのである。

「………………葵、どうした?」

「ふえぇぇぇぇぇ…………」

「……………その様子は……………双雅と喧嘩したな?」

「だってぇ………だってぇ…………」

葵は翼に泣きついてしまった。

翼はかなり困った顔をしている。

あゆむは完全に呆れた顔つきになってしまっている。

「………お前らさ、もう少し仲良く出来ないのか?」

「だってぇ………双雅がそっけないんだもぉん…………あたし、悪い事してないもぉぉぉぉん!!!」

葵はそう言った後、大声で泣き出してしまった。

「…………やれやれ………呆れたカップルだな………」

その時であった。

「おい、あゆむ。あまり女の子を泣かせるなよ?」

「誰が泣かした!!誰が!!何時、何処で、地球が何回回った日に俺が女を泣かしたって言うんだよ?!!!言ってみろよ、彌保妬」

天城彌保妬、翼とあゆむのこの学校での同級生である。

「……………その『地球が何回回った日』ってなんだよ………?」

「そのままの意味だ!!」

「じゃああゆむ、何回回ったかわかるの?」

翼はあゆむに質問した。

「約一兆六千七百九十億万回は少なくても回っているぞ?」

「お前、今頭の中で単純計算したろ?」

「推理と言ってくれ」

「何処が推理だ何処が!!!」

葵はその3人のやり取りを見て自分の存在を忘れられているのに気付いた。

「あゆむや翼までひどいよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

葵はそう叫んで再び泣き出してしまった。

「わかった!!わかった!!だから泣くな!!他の人にも聞こえるだろ?!」

あゆむはおろおろして葵を慰めようとする。

そこへ、美術室の見学を終えたきららと翔が来たのである。

「あゆむ。葵を泣かしちゃだめじゃない」

「俺が泣かしたんじゃない!!!」

「じゃあ…………双雅か…………」

翔は少し考えこんで、葵を泣かせた相手を当てる。

それから少し経った時だった。


きゃあああああああああああああああああああああああ!!!


学校中に女の子の悲鳴が響き渡った。

あゆむ達は頷いてその悲鳴の聞こえてきた方へと足を進めた。

そこには、黒頭巾の男達が数十人、銃火器を持って女の子に銃口を向けていたのである。

「おとなしくしろ!!でなければ殺す!!!」

そう言って男達は、あゆむ達に銃口を向ける。

「くっ……………」

「あんたたち!!一体何者なの?!!」

きららは少し怒った表情を見せ、男達に質問した。

「俺達はニューヨークマフィア「MOON」の一員さ。今日からこの学校は俺達の支配下に入る、覚悟しておくんだな」


季伊奈の携帯が鳴った。

メール受信音であった。

季伊奈は携帯をすぐさま見た。

差出人は翼、内容はこうだった。


ガッコウガノットラレタ


ただそれだけが書かれてあった。

「どうした?季伊奈………なんかあったのか?」

恋人の流が季伊奈の表情を読んでそう聞いてきた。

「あのさ………このメールの意味………蒼ちゃんわかる?」

季伊奈はそう言って自分の携帯を流に手渡し、メールの内容を見てもらった。

「…………刻麗で何かあったんじゃないのか?航平に知らせたほうがよくないか?」

「……………あゆむ達………大丈夫かな?今日は学祭できららと翔も刻麗に行ったんだよね………」

「心配なら、早く連絡取った方がいいぞ」

「うん、そうする」

季伊奈はそう言って、航平の携帯に電話をした。

航平はすぐに出た。

「もしもし。航平?」

「季伊奈か、どうした?」

「今、翼から変なメールが来たんだけど………」

「お前のところにもか?俺はあゆむから来たぞ?」

「何て来たの?」

「ニューヨークマフィアに…………そう書いてあった…………」

「ニューヨークマフィアに…………それだけ?」

「ああ、それだけだ」

「私のはガッコウガノットラレタってメールが来たの…………」

「おい………それって…………」

航平は季伊奈の言葉にあゆむ達の身に何が合ったのかすぐに察知した。

「季伊奈、とりあえず嵩哉に連絡しろ」

「え?どうして?」

「いいから。早くしないとあゆむ達の命が危ないぞ!!」

「わかった」

季伊奈は航平に言われるとすぐに電話を切り、嵩哉の携帯に電話した。

「もしもし?」

「嵩哉、大変だよぉ!!」

「何だよ………うっせーな………大きな声で騒ぐなよ、頭に響く………」

「そんなこと言ってる場合じゃないよ!!あゆむ達が………」

「あいつらが………どうかしたのか?」

「学校が………乗っ取られちゃったみたいなの!!」

「あ?!」

嵩哉はそう言ってテレビの電源を入れる。

すると、緊急ニュースが流れていた。

「緊急ニュースです、午前11時46分頃、私立刻麗高等学校に何者かが押し入り、学校にいる全生徒および教師、そして一般人を含め約600人が人質に取られるという事件が起きました。犯人は特に要求は出しておらず、立てこもっていると言う状況が続いています」

「……………………………………」

嵩哉はこのニュースを見て、開いた口がふさがらなかった。

「………俺達ってどうしてこう事件に巻き込まれやすいかな……?」

彼はすぐさま携帯を持って季伊奈と話をしだす。

「季伊奈、とりあえず家に戻ってこい。どうせ流もいるんだろ?そいつも連れてこい。あと航平にも伝えとけ。どうせ絵菜瑠の家だろ?」

「うん、わかった」

季伊奈はそう言って電話を切った。


「詩音……………お前なら……………どうする?」


今はこの国にいない母親代わりだった詩音。

彼は彼女を思い、胸を痛めるのだった……………。


「くしょん!!」

『ちょっと……風邪?』

『う〜ん………そんなはずないんだけど…………誰か噂でもしてるんじゃないかな?』

『とりあえず、もうすぐ着くわよ』

『全く………訓練終わって初の仕事がまさか日本だなんて………気が重いわ』

『しばらく帰らないって念押してきたんでしょ?そりゃ帰りたくもないわね……』

『でも、仕事なら仕方ないでしょ?でも…………少しは嬉しいかもしれないわ…………大事な人に………逢えるチャンスだもん…………』


あゆむ達は教室に軟禁された状態にあった。

ほとんどのものが携帯・PHSを取り上げられてしまっていたが、あゆむと翼だけは取り上げられずに済んでいたのである。

危険な任務で馴らしていたせいもあって上手く隠しているのである。

すべてメールで外の季伊奈と航平と連絡を取り合っていたのである。

「翼………季伊奈達が気付いたぞ」

「ああ、わかってる………一旦家に集まるそうだ」

「おい、お前ら何話してるんだ?」

そう聞いてきたのは彌保妬である。

「うるさいぞ、彌保妬………お前には関係ない」

「むしろ……………ばれるから話しかけるな………外と連絡が取れなくなる」

「何?お前ら外と連絡取れるのか?」

彌保妬は少し大きな声でそう言った。

「こら、馬鹿!!気付かれるだろ?!!」

「あ………ごめん…………」

「とりあえず……………葵…………大丈夫かな………?」

あゆむの言葉に翼の中の不安がだんだん大きくなる…………


葵は別のところに軟禁されていた。

「ちょっと!何で私だけここにいなきゃならないの?!!」

葵のいる場所………それは校長室だった。

「黙れ、お前は一番よさそうな人質だからな………」

「それ、どう言う意味よ!??」

葵は頭に血を上らせて目の前にいる男に怒鳴りつけた。

「黙れといったはずだ、今度喋ったらその頭、撃ち抜くぞ?!!」

葵はそう言われて、黙りこんだ………

<双雅…………大丈夫かな…………?>


「とりあえず……潜り込んだはいいとして、こんなことになっちゃうとはなぁ………大丈夫かな?あゆむのヤツ………」

どこかで見たことのある少年は、紛れもなくあゆむの親友東雲朱紅であった。

彼はあの後刻麗高校の隣(といっても300M離れているが)にある私立桜塚高校に通っていた。で、彼はあゆむの身の危険を感じ、授業をサボって学祭に来ていたのである。

「はぁ………ったく………どうせ翼とかも一緒なんだろうけど………」

辺りを見まわしながら、警戒を怠らず奥へ奥へと潜入する朱紅。

だが、相手に見つかってしまったのである。

「貴様!!何者だ!!!」

「うわっ、やべぇ!!!」

朱紅は必死になって逃げまわったのであった。


『着いたわね、私立刻麗高校よ』

『まったく………こんなところにまで手を出すんじゃないってのよ…』

「こら!!君達、ここは一般人は立ち入り禁止だぞ?!!」

と日本の警察官の一人が彼女達にそう言って来た。

すると、一人の女性が懐からあるバッジを彼に提示した。

『私達はニューヨーク市警の特別捜査員です。ここは私達に任せてください』

「それは………失礼しました。本部から連絡が入っていますから…………」

『では、私達は中に入ります』

「え?!!それは危険なんじゃ………?」

『危険なことは承知………危険なことを顧みず任務を遂行するのが私達です』

そう言って彼女達は学校の中に堂々と入っていったのであった。

ちょうどその時、嵩哉達は刻麗高校の前に来ていたのであった。

その二人の女が入っていくところを、嵩哉達は見ていた。

「あれは…………」

「あの人……………詩音に似ている…………」

そう………一方の女性はどことなく詩音に似ていたのであった。

詩音に似ている女性は髪が短く、プラチナブロンドの髪の色をしており、サングラスをかけていたのであった。

「……………まぁいい………とりあえず、武器は持ったよな?」

「うん!!」

「行くぞ!!」

「了解!!!」


「葵…………」

双雅は非情に後悔していた。

こんなことになるなら葵にもう少し優しくしてやればよかった………

そう思っていた。

だが、今葵は敵の核の手の内に落ちてしまっている。

今の双雅にはどうすることも出来なかった。

その時である…………


『動くな!!!』

『ニューヨーク市警よ、貴様らを逮捕する!!』

双雅の眼に入った一人の女性はものすごく見覚えのある女性であった。

「し………詩音………?」

双雅はその人物の名をこぼす。

「ちっ………わざわざニューヨーク市警の特別捜査員を派遣してくるなんざ、ずいぶんと向こうは暇なんだなぁ?えぇ?!!」

『そんなこと、お前達の知ったことじゃないわ』

『おとなしく捕まりなさい!!!お前達のボスはすでにニューヨークで逮捕されているわ!!』

「へっ………こっちにはなぁ……人質がいるんだ。殺されたくなかったらお前達も人質になることだな………」

『そんな脅し……聞くと思っているの?!!』

「脅しじゃねえさ………なんだったら校長室を見てみるんだな」

『校長室………?』

詩音に似た女性が教室の辺りを見まわす。

そして、サングラス越しに双雅と眼が合ったのである。

『…………マニ………ここはちょっとよろしく頼むわ』

『オッケー……』

小声で相方に現場を任せると、彼女はその教室を走って出ていった。

「待てっ!!!」

『お前達の相手は………私よ!!!』

金髪の美少女が男数人を相手に格闘を始めたのであった。

そして双雅は隠し持っていたナイフで自分の腕に括り付けられている縄を切った。

「てめぇら………いい加減にしろよ!!!」

双雅がマフィアの一人に思いきり飛び蹴りをかます。

それを見た金髪の美少女は口笛を吹く。

『へぇ〜……結構危険なコトするのね、日本の高校生は………』

「さっきのお前の連れは詩音だな?」

『…………知り合い?』

「アイツは家族………かな?血は繋がってはいないが………」

片言の英語で金髪美少女に一生懸命話しかける双雅。

そして、すぐさま戦闘態勢を取る。

『私の名前はマニよ。貴方は?』

「俺は双雅………」

『覚えておくわ……』

そして、再び格闘が始るのであった…………。


一方、詩音に似た女性は校長室に向かって走っていた。

その際に、何人かの男と格闘を繰り広げた。

「まったく………こんなところ乗っ取ってどうしようって言うのよ」

そして……彼女は一人の少年にばったりと会った。

朱紅である。

「あ…………詩音さん???」

「………………」

彼の問いに答えない彼女。

「詩音さんでしょ?何してるんですか?」

そして彼女は大きなため息をついた。

「はぁ………あんまり詩音詩音って呼ばないでくれる?」

「何してるんですか?」

「何してるって………仕事しに来てるのよ」

「あゆむ達を助けにきたんじゃないんですか?」

「物のついでね」

「…………なんか……冷たくないですか?」

朱紅の答えに詩音は答えない。

「仕事に私情を持ちこむほど、私に余裕なんてないのよ」

「仕事って………こいつら……?」

「こいつらはニューヨークマフィアの一団の一つよ。って言っても半分以上が日本人だけどね。呆れたものだわ。こんな学校一つ乗っ取ったって意味なんて何一つないのにね」

詩音が呆れた表情で学校の中を見渡す。

「それが、そうでもないみたいですよ?」

「どう言う意味?」

「この私立刻麗高校の理事長はヘリオスの社長だったんですよ」

「アイツがこの学校の……?」

「でも、ヘリオスの社長はもういない。今、この学校の理事を務めているのはヘリオスの本社の人間ですよ」

「本社はたしか………ニューヨークの………まさか!!!」

詩音は一つの心当たりを見つけた。

「………校長室に行くわ」

「詩音さん、一人で大丈夫ですか?」

「もうすぐ嵩哉達がこっちに来る。彼らが周りを何とかしてくれるでしょう。私の任務はここにいるマフィアの殲滅だから……都合が良いわ」

「利用するんですか?」

「そう言うつもりじゃないわ。ただね………私はもう、あの子達と一緒にいるつもりはないわ。一緒に暮らす気も………」

詩音の表情に暗さが出たとき、朱紅は何かを悟ったような気がした。


きららと翔は運良くマフィアに捕まることなく、学校の中で銃撃戦を行っていた。

この二人だけではなく、あゆむ・翼・双雅・葵達も護身具に何か一つ武器を持って出歩くという習慣がついていた。だが、今回は周りにクラスメイトがいたため、あゆむ達はなす術がなかったのである。

きららはハンドガンを持ってマフィアを撃ち殺していく。

「葵………大丈夫かな??」

「早く校長室に助けにいかないと………!!!!」

そうこうしているうちに、二人は囲まれてしまったのである。

「ここまでだな」

「くっ…………」

「散々てこずらせやがって…………悪いがお前達には死んでもらう!!!」

きららが翔の手を握り、焦った表情で呟いた。

「翔………」

「きらら………」

翔もきららの手をギュッと握り締めた。

二人に幾つもの銃口が向けられる。

もうダメだと二人は心で確信した………そのときだった。


辺りに蔓延っていた男達が、次々と倒れていったのだ。

「きらら!翔!!大丈夫???」

「季伊奈!!!」

きららは自分達を助け、話し掛けてくれた人物の名を呼んだ。

少し表情に安心感が広がる。

「大丈夫か?二人とも……」

「うん、私達は大丈夫。でも葵が………」

きららの言葉に航平が少し疑問を持った表情をした。

「葵が……どうかしたのか??」

「葵が攫われちゃったの………校長室に軟禁されてる」

「アイツは………いつも思ってたが本当に鈍いやつだな」

嵩哉は少し呆れた顔をしてそう言う。

嵩哉の横で季伊奈は少し困った顔をしている。

「きらら、俺が校長室に行く。お前達はあゆむ達を………」

「でも嵩哉……今、ニューヨークから来た警察が二人がこの学校に………」

「俺さ、あの中の一人は絶対に詩音だと思うんだよな」

「詩音に??」

「髪はきっとカラーリングしたんだろうけど……何となくそんな感じがした」

嵩哉の言葉に航平と季伊奈が頷く。

「私も、あれは詩音さんだと思う」

「アイツは詩音だ。一度、2年半前にあったからな」

航平の言葉を聞いて、きららは安心した表情になる。

「航平さんがそう言うんなら……きっとそうだと思う。じゃあ私達はあゆむ達の救出に向かいます。嵩哉さん、気をつけてくださいね?」

きららは心配そうな表情をして嵩哉の手を握った。

「わかってる。葵は必ず俺が助け出すから………あゆむ達のこと、頼んだぞ」

「はい!!」

そう言って嵩哉は校長室に向かった。

「じゃあ私たちはあゆむ達を!!」

きららはそう言ってあゆむと翼のクラス教室へと走って向かっていった。

「それにしても、どうしてこの学校が………」

「ニューヨークマフィアとか言ってたけど………」

「そのニューヨークマフィアが日本に来る事自体おかしくないか…?」

それもそうである。

その名の通りのアメリカ・ニューヨークの犯罪組織が日本の、しかも高等学校に絡んでくる事などまず有り得ない。

きららたちの中に一つの疑問が生まれた。


一方、校長室に辿りついていた詩音。

だが、葵の頭に拳銃をつきつけられて、下手に動けない状態だった。

「いいか…動けばこいつの頭撃ち抜くぜ。ニューヨーク市警のエリートさんよぉ…」

『そんな脅し、この私に通用すると思っているの?ニューヨークマフィアのゴキブリちゃん』

「フッ……ボスはなぁ…お前と、このガキとの関係をきち〜んと調査しているんだよ。見殺しにはできねぇよなぁ……1年間一緒に暮らしてきてなおかつ生死を共にしてきた大事な大事な妹変わりを……」

『………そんな気持ちなど、もう3年も前に捨てているわ。その子を殺したければ殺しなさい。ただし……お前にも同等の…いや……それ以上の苦しみを与えてあげるわ……』

その不適な笑みはとてもハッタリをかましているようには見えなかった。

そう、詩音には核心があった。

この男は葵を殺すことはできない。

その考えにはかなりの自身があった。

実際、葵を捕らえ、こめかみにつきつけている銃を持つ男の手はわずかながらに震えていたのである。

それを、詩音は見逃さなかったのである。

「ず…随分なハッタリかましてくれんじゃねえか……俺はやると言ったらやるぞ!!」

『えぇ、やるといいわ。私は止めないわよ』

詩音が話す英語を単語で解釈し、理解していた葵が少し泣きそうな顔をしていた。

「詩音………怖いよ………」

だが、詩音の心に葵の悲痛の嘆きは届いていない。

いや…届いていたかもしれないが、聞き入れなかった。

『さぁ、その子を殺したいのなら殺しなさい!!』

そう詩音が叫んだ時だった。


バタンッ!!!


「今のセリフ、聞き捨てならないな。詩音」

『っ………』

そう言って校長室に現れたのは嵩哉だった。

彼の表情は怒りに満ちている。

「とりあえず、そこのお前!!!葵を離しなっ!!!」

「誰が離すか!!!こいつは大事な人質だ!!」

と、そのときだった。


ガァ…ン


詩音がキチンと狙いを定めて銃を撃った。

銃弾は葵の左太股部分をかすめた。

「きゃあっ!!!」

「詩音!!お前っ!!!」

詩音にもそれなりの考えがあったのである。

かすりキズとはいえ、足にケガを負った葵は立っていられなくなり、足に力が抜けてしまった。

「ちっ……てめぇ……ちゃんと立ちやがれ!!!」

と、その男が葵にかまけているときだった。


詩音は何のためらいもなく、その男に向けて銃を放った。

その男はそのまま倒れこみ、その生涯を閉じたのである。

もちろん、葵には一発も当たってなどいない。

「葵、大丈夫か?!!」

「うん、あたしはなんともないです……」

嵩哉は葵に掛けより、葵の身体を支えつつ葵の身体を気遣った。

そして、すぐに詩音に対して睨みつけたのである。

「詩音、どういうつもりかは知らないがな、なんで葵を傷つけた」

「………」

だが、嵩哉の問いに詩音は答えない。

黙ったまま、詩音は校長室を去ろうとする。

「お前らしくないじゃねぇか………お前、葵のこと…あんなに可愛がってたじゃんか………」

「………Good……luck………」

そう言い残し、詩音はその場を去った。


『あの子、性格が変わったと思うでしょ?そうじゃないのよ』

マニの言葉を聞いて、双雅は不思議そうな顔をする。

『あの子はそういう訓練を受けてきた。だけど胸中は心配で心配で仕方ないのよ。詩音は心優しい子だからね。それと、あの子がサングラスを掛けているのも理由があるのよ』

「理由?」

『あのね、詩音は私と知り合ったときからずっとサングラスを着けたままで、夜にならないと絶対外さなかったの。何処にいても』

「それってどういうことですか?」

『詩音に聞いたことがあるの。なんでずっとサングラスを着けたままなんだって……そしたら………』

「そしたら……?」

『詩音は視覚に障害を持っているの』

「障……害………?」

『そう。日中は何も付けてないとまぶしいだけで何も見えないみたいよ。曇りや雨の日以外は。少しでも晴れ間がさしていると急に見えなくなるんだって』

マニの言ってることが信じられない双雅。

「でも詩音は日本にいた頃はそんなことなかったぞ?」

『詩音はニューヨークに渡ってからすぐに大きな病気にかかった。それが原因で視覚がやられちゃったのね……サングラスの下は乱視を防ぐコンタクトが入ってるのよ。詩音はカラーにしてるけど……』

「そんな………」

『目が見えないってことは私達の仕事では大きな致命傷になりかねないわ。それでも詩音は承知でこの仕事を選び、警察官になった。私や詩音の周りは常に死ととなり合わせ……油断したりしたらすぐに訪れるのは死だけよ………だからあんなに冷酷にもなれる。誰も傷つけたくないし、誰も犠牲にしたくないから……』


だが、マニのその話をこともあろうに盗み聞きされていたのである。

マフィアの一員に………

「そういう事か……なら………あの女だけでも始末できるってことか……」


無事、あゆむと翼を開放した季伊奈ときららと翔と航平。

そこであゆむは懐かしい人物を発見した。

「朱紅!!!朱紅じゃないか!どうした??」

「あゆむじゃないか、久しぶりだな。俺は学校抜け出してお前に会いに学祭覗きに来たんだよ」

「ほえぇ〜……それは嬉しい限りだな」

「ところでさ、詩音さんに会ったけど?」

朱紅のその言葉にあゆむが過剰反応する。

「詩音が?!!ここにか?」

「うん、葵ちゃん助けに校長室に行ったみたいだけど……」

と、良いタイミングに嵩哉が葵を抱きかかえてあゆむ達と合流したのである。

「葵?!!大丈夫か??」

「うん、全然平気だよ〜」

「でも嵩哉が葵を抱きかかえてるなんておかし………」

翼がそう言いかけたとき、葵の左足にハンカチが巻かれ、そこから血がにじみ出ていた。

「ど……どうしたの?!!そのキズ!!あいつらにやられたの?!!」

きららがそれを見て血相を変えて葵を気遣う。

「えっ……?これ……は……」

葵が言葉を濁す。

「これは詩音がやったんだ」

嵩哉は言葉を濁す葵の変わりにキッパリとそう言った。

あゆむはそれを聞いて、嵩哉がウソをついてるんじゃないかと思い、怒り出した。

「嵩哉!!デタラメなこと言うなよ!!詩音が葵にそんなことするわけないだろ?!!」

「ウソなんてつくもんか。俺の目の前で詩音は葵を撃った…間違いないことなんだ………」

「でもね………あたし思うんだ……詩音はあたしの事助けるつもりであたしに銃を向けたんだと思うよ………」

「葵………」

「だって………足怪我したから………敵は隙作ったんだもん………」

葵の言葉を聞いてそこのメンバー全員が黙りこんでしまった。