ユグドラシル聖戦記

シオンは真っ暗な暗闇の中にいた。そこにはあらゆる感覚が封印されているようだった。
ヘイム、お前だけは許さない・・・!!
そんな言葉が延々とシオンの耳に響く。
私からあの人を奪ったこと、絶対に許さない・・・!!
何?一体何のことなの?
今更とぼけるなんて・・・1度ならず2度までも・・・!!かくなる上は・・・・・・
その時に暗闇の中から腕が出てきてシオンの首を締め付ける。
喉笛がつぶれるくらいに強い力で締め付けてきた。
!!!




シオンは身を起こした。
「はぁ・・・はぁ・・・」
シオンの呼吸が荒くなっている。
<ゆ、夢・・・・・・?>
シオンの身体は冷や汗をかいていた。
こんな夢を見て目を醒ますのはもう何度目になるだろか。
そんなことが頭の中をよぎり、苦しくなっている。
すると、横で寝ていたテンルウが目を醒ました。
「シオン・・・どうした?」
「あ、起こしてしまいました?ごめんなさい。何でもないんです」
そう言うと、シオンはテンルウに笑顔を見せた。
「大丈夫か?顔色が悪いぞ?何処か具合でも」
「大丈夫です。ただちょっと・・・怖い夢を見ただけですから。私、ちょっと涼んできます」
そう言ってシオンは部屋を出た。
<私の予感が当たっているのなら、おそらくもう少しで・・・テンルウ様と離れ離れになるかもしれない。私の望みはたった一つなのに・・・それすらも叶わないというの?父上、私はどうしたらいいのですか?教えて下さい>




第12章 メルセデスの獅子王と天馬騎士




メルセデス王国の王、カンピナスの前にソアラの城主、バサラが尋ねていた。
「で?私に頼みがあるといっていたが・・・何なのだ、その頼みというのは」
「はい、我が王国の王女、シオン様を止めていただきたいと思いまして」
「一国の公爵が王女を止めろだと?」
「我が王女がローバーを制圧したのはご存知でしょうか?」
「ああ、でもあれはローバーが仕掛けた事だろう?」
「ええ、ですがシオン王女は実はとんでもない野心家でございまして。密偵を放ったところ、どうやらこのメルセデスを占領しようとたくらんでおいでのようで」
「なんだと?」
カンピナスの表情が険しくなる。
「そこで、王女を止めていただいた上に、生きたままグランビア城まで送り返していただきたいと思いまして・・・」
「・・・要するに、先手必勝と言いたいのか?」
「さすが噂に聞きし獅子王。私のおっしゃりたいことがわかるとは・・・」
「王女を捕らえてお前の元に差し出せばいいのだな?」
「はい、お願いできますか?」
「・・・お前の言葉にはあまり信憑性がないが、我が国を狙っているとあれば話は別だ。いいだろう」
バサラは一瞬冷ややかな笑みを浮かべた。
「よろしくお願いします、カンピナス王・・・」
そう口では言いつつ、彼の心境は複雑だった。




現在、ナディアでは、ちょっとした来客者に、ごたごたしていた。
「コウヘイ・・・」
「ユーリ、どうしたんだ?」
コウヘイとユーリは半年前に結婚していた。
そして今、コウヘイとユーリは庭に来ている。
「そのね、ミホが来てるんだけど・・・?」
「え・・・?」
コウヘイがユーリの言葉を聞いて一気に顔色を青くする。
コウヘイは兄妹とはいえ、ミホが嫌いだった。
ミホのわがままはコウヘイの勘当された(正確にはそうでもないが)原因の一つである。正確は一言で言えば自己中心的。世界は自分中心に回っていると思いこんでいる、コウヘイの嫌いなタイプなのである。
「俺、しばらく留守にするわ」
「もう、遅いかもよ・・・」
ユーリの一言ももはやすでに遅かった。
「お兄ちゃん!!何よ!!一度帰ってきても私に顔も見せないで!!」
「ミ、ミホ!!」
「お兄ちゃん、今日からここにお世話になるから、ヨロシクね♪」
「ここにいないくてもいいから帰れ!!!うっとうしい!!」
その時である―――――




「びえ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」




ミホが大声をあげて泣き出したのである。
コウヘイはここのところ、不幸が続いていたがこれ以上の不幸はない。
「だあぁぁぁぁ!!うっせえから泣くなぁ!!」
大声あげて、コウヘイがミホを叱った。
すると―――――




「コウヘイ様、何の騒ぎ?イナルナが泣いちゃったじゃないですか」
イナルナを抱きかかえたシオンがやってきて、困った表情でコウヘイを叱る。
「ああ・・・ダブルで泣き声・・・!!」
「ところで、あの子見慣れない子ですけど、誰なんですの?」
「俺の妹・・・」
コウヘイは嫌々しくシオンの質問に答えた。
「へぇ、可愛い子ですわね」
「俺はそうは思わない」
シオンの言葉をキッパリ否定するコウヘイ。
「兄弟とは仲良くするものですわ」
「王女とオスカーが仲よすぎなんだよ」
「そうですか?」
「そう」
コウヘイとシオンがそんな話をしている間にミホは泣き止んだみたいでコウヘイの服を引っ張る。
「・・・お兄ちゃん、この人誰?」
「ユグドラシルのグランビアのシオン王女だ」
「え?この人が・・・」
コウヘイにシオンのことを説明されたミホはしかめ面をした。
「なんだぁ。ユグドラシル王国1の美人ですばらしい巫女だって言われてるから、ものすごく綺麗な人だと思ったのに、噂とは反対のあばずれじゃない」




ピシッ




シオンはその一言を聞いて固まった。「おい、ミホ!!」
「もっと知的で端正な人だと思ってたのに、期待しちゃって損しちゃった」
「・・・・・・」
ユーリもシオンも黙り込んでしまっている。
「でも、こんなあばずれでも一緒に子供作るような男の人いたんだね~」
「・・・・・・」
「ミホ!!王女に失礼だろ!!」
「だって、ほんとのことじゃん。お兄ちゃんこの人に魅力感じたことあるの?」
「う、それは・・・」
コウヘイはミホにそう言われて言葉を失った。
「コウヘイ・・・貴方シオン様に対してそんな風に思ってたの?!」
「ち、違う!!そういうわけじゃないんだ!!」
「じゃあ、どうして絶句するのよ?」
「・・・・・・」
シオンはあまりのショックにまだ固まっている。
「とにかく!!お前がいるとややこしくなるから帰れ!!」
「いや、私はここにいる」
「・・・・・・」
<何なの、この子・・・>
シオンは内心、深くそう思った。
「ほんと、シオン王女よりもユーリのほうが綺麗だよ」
「ミホ、いくら私でも怒るわよ?シオン様は私の大事な主君なのよ?!そんな不躾な台詞・・・言語道断だわ!!」
「どうして?怒られる理由ないじゃん。まさかユーリもこの女のこと綺麗だとでも思ってるの?」
<こ、この女・・・>
シオンにはミホの言葉がとげになってグサグサと刺さっていく。
もうすでに5本くらい刺さっている。
「シオン様は綺麗な御方です!!ミホ、一国の王女をそういう風に言うなんて失礼よ!!謝りなさい」
「ヤダ」
「ミホ、いいかがんにしろよ!!」
コウヘイは内心<このことがバレたら、またテンルウに流星剣食らわされる!!>と思っていた。
そこに悪いタイミングでテンルウがやってきたのだった。
「シオン、そろそろ子供達にご飯やらないと・・・」
と言いかけたときだった。
「きゃ―――――!アリストのテンルウ様だぁ――――――☆」
ミホが騒ぎ出したのである。
「・・・なんだよこのガキ」
「うそ―――――。こんなところで会えるなんて、私すごく幸せかも~☆」
「ごめん、そいつ・・・俺の妹なんだ」
「あっそ、おいシオンって・・・どうした?」
「それが・・・」
「まさか・・・あの人のお相手って」
ミホがまたシオンにいや~な目線を送った。
「テンルウだよ」
コウヘイのシラっとした一言にミホはショックを受けた。
「うそぉ!!似合わな――――い!!」




グサッ




本日6本目の矢である。
「なんで?なんでこんなあばずれ女と超カッコよくて凛々しいテンルウ様が結婚すんの?信じられな~い!!」
シオンは完全に真っ白になっていた。
「コウヘイ・・・お前の親、一体どう言う教育してんだよ?」
「こいつ、親父達に甘やかされて育ったから・・・」
「しかもこの子供、テンルウ様にぜんぜん似てないわ!!どうせあばずれだもの、テンルウ様の子供じゃないんじゃないの?」




ドスッ




「・・・私、父上にも母上にもに似てないですわ・・・」
「シオン様、そんなことないですわ。シオン様はセレン様にとてもよく似てらっしゃいますわ」
シオンは自身喪失していじけてしまっている。
「シオン・・・大丈夫か?」
「私・・・もう駄目です・・・」
「テンルウ様ぁ、こんな女捨てて私と結婚しましょうよ☆」
その一言にテンルウもシオンも開いた口がふさがらない。
「なっ・・・!!」
「馬鹿かお前は。テンルウがおまえみたいなジコチュー相手にするわけないだろ?」
「あら、私のほうがそこにいる女よりも美人だし、気品だってあるし。嫁にするなら私のほうがいいですわ、ね?そうしましょうよ☆」




ブチッ




何かが切れる鈍い音がシオンの中で響いた。
そして、シオンがヒールの音を響かせて、1歩を踏み出した。
彼女の周りには殺気が漂っていた。
その雰囲気をユーリはとても良く知っている。
「あ・・・」
「シ、シオン様?」
「ほう・・・どうやらトラキアの王女は私に対し、含むところがあるようだな」
ヤバイ!!王女の目が据わってる!!
あぁ・・・シオン様、完全にキレちゃった・・・
・・・シオンの言葉遣いが代わってる・・・
これが3人の思った心の声である。
「きゃ―――――!!テンルウ様、あの人こわぁい・・・」
そう言ってミホはテンルウにしがみつく。
「だぁぁぁ!!!くっつくなよ!!」
「貴様のその言動、ユグドラシルの王家に対し、敵意を持っているとみなすが良いか!?」
「ま、待て王女。トラキアの王子としてそれだけは凄く避けたい!!ていうか、コイツだけの意志だから国を持ち出すのだけはやめてくれ!!」
「シオン様、どうか落ちついてください!」
「ならば、お前達がこの女をここから追い出すとでもいうの?!」
「・・・追い返せてたらとっくに追い返してる・・・」
確かにそうである。
追い返せるものならコウヘイはとっくの昔にミホを追い返している。
「じゃあ、私が直々に追い出してやるわ!!」
「なによ、あんたみたいなおばさんに、遅れは取らないわよ!!!!」
「・・なんですって・・・?!」
「私はまだ15よ。15!!あんたみたいなおばさんと、比べるまでもないわね~。お肌はツルツル。胸だって張りがあってあんたみたいに垂れてないし、チビじゃないわ。スタイルの良さは一目瞭然よね」
とはいうものの、ミホはどちらかと言えばスレンダーボディ。胸はないに等しい。
「・・・そういうお前は、「胸」の「む」の字もない、まな板じゃねぇか・・・」
「あら、テンルウ様。私はこれから、大きくなるんです。あんな化け物みたいな巨乳より、小ぶりの方が断然良いに決まってますわ」
ミホはテンルウの腕に抱きつきながら、顔を赤く染めて彼の耳元でそう呟いた。
「俺は、別に胸が大きいとか小さいとかで女を見たりしない」
「もう、テンルウ様って・・・恥ずかしがりやさんなんだから☆」
「・・・だから、俺はお前には興味がないって言ってるだろ?!!」
シオンはこの二人の会話を聞いてると、なんだか胸がズキズキするのだった
「・・・・・・もういい」
「・・・シオン?」
「もう沢山よ、いつまでもその子とイチャついていればいいわ」
「な・・・!だから、興味ないって言ってんだろ!!だいたい、いつイチャイチャしてるっていうんだよ?!」
「なら、その状況はどう説明する?」
「それはコイツが勝手に・・・」
「どうだか・・・男なんて所詮女にくっつかれたらイヤとは言えない愚かな生き物だからね」
「あぁ、そうかよ・・・お前がそういう言い方するのならこれから先、お前とは接触しない」




ズキッ・・・




シオンの心の中でにヒビが入ったような音がなる。
「えぇ、その方がスッキリするわ。そんな年下にくっつかれて喜んでるような男となんて・・・こっちから願い下げ、良い迷惑よ!!」
「それはそれは、随分と迷惑をかけたみたいで、悪かったな」
「ホント、『悪い』以前の問題ね」
もう1つの人格のシオンの言い草に、段々腹が立って来るテンルウ。
一方、シオンも癇癪筋を立てて、表情が徐々に夜叉へと変わっていく。
「俺も、どこをどう間違えてお前みたいな女、好きになったんだか疑問だな」
その一言に、シオンはカチンとくる。
「なら、今ここでお前の間違いを私が正してやろうか?!」
そして、こともあろうに彼女は左手に魔力を溜めこんだ。
ユーリがそれを見て、顔を青くする。
「シ、シオン様?!!」
「・・・いい機会だ。魔法と剣術、どちらが勝ってるかここで証明してみようか?!」
魔法の詠唱準備に入ったシオンに対し、テンルウも頭に血を上らせ、腰に差していたバルムンクを鞘から抜いた。
「テンルウ、正気か?!!」
「シオン、手加減はなしだ」
「望むところ・・・!!」
「テンルウ様、シオン様もおやめください!!こんなところで・・・!!」
ユーリの必死の説得にも彼らは耳を貸そううとはしない。
シオンが左手を天に掲げ、ナーガのロッドを魔力で呼びこみ、短かった柄を長くする。
ドレスの裾を少し持ち上げ、大きく翻し、動きやすいように裾を短く破り落とす。
普段のテンルウなら、彼女が白くて細い足を露わにすれば血相を変えて怒り出すのだが、今はそんなこともおかまいなしである。
彼女が軽く足を上げ下げし、ヒールをカンカンと高らかに鳴らす。
その仕種を見て、コウヘイの脳裏に、昔彼女がディアマンテに攫われた時に訪れた部屋でみた砕けた折れた石柱の残骸を思い出す。
「おい、ユーリ・・・もしかして王女・・・格闘技ができたりとかしないか・・・?」
「えぇ・・・巫女は皆、修行する時に魔力高める他に、護身術に格闘術を習うわ。手を痛めると魔法が使えなくなるから、蹴りが主体みたいなんだけど・・・それがどうかしたの?」
「・・・王女の脚力・・・もしかしたら、想像を絶するものだと思う・・・」
「え・・・・・・?」
コウヘイの言葉にユーリが不思議そうな顔をする。
むしろ、そういう無駄話をする暇があるなら止めろという話もあるが。
そして、シオンがナーガのロッドに祈りを込めて、魔法の詠唱をし、魔力を放つ。




聖なる光よ、我が意に従い敵を討ち滅ぼせ!!




ライトニング!!




シオンがテンルウに魔法を放つ。
だが、テンルウは軽々とそれを避ける。
が―――
「んきゃぁあ!!!」
テンルウの後ろに運悪くいたミホに、シオンの怒りがこもったライトニングが命中してしまう。
そして彼女はそのまま床に伏して気絶してしまった。
それを目にしたコウヘイは、密かにグッとガッツポーズをする。
しかし、テンルウは魔法を放ったシオンに対し、さらに怒りを募らせ、彼もシオンに剣を向けた。
シオンが高位魔法を唱えてなかったところを見ると、彼女があまり本気を出していないようである。
仮にも相手は最愛の妻である。
テンルウが本気になって斬りかかれる相手じゃない。
彼も必殺剣は出さずに、ただひたすら斬りつけるだけにした。
だが、彼女も負けずにテンルウの攻撃をかわし続ける。
素早さが主体のテンルウの剣技にそう長くかわし続けられるほどの素早さを、シオンは持ち合わせてはいない。
バランスを崩し、彼の振るった剣が左の二の腕辺りを少々深く斬りつけた。
「きゃあっ!」
急に走った痛みに思わず彼女は声を上げる。
「あ・・・・・・」
その声を聞いて、彼が一瞬正気を取り戻す。
剣の先に血がこびりつく。
シオンは痛みに怯むことなく、そのまま回し蹴りを入れようとする。
彼はすぐに体制を戻し、彼女の蹴りをかわす。
2回来たうちの1回は、庭に置いてある石像に入る。
普通なら、彼女の足は石像の硬さによって足を怪我するところだが、そうはいかなかった。




ガァアァン!!




大きな音を立てて、石像は粉々に砕け散る。
「なっ・・・・・・!!」
その場にいたもの全てがその様子を見て、驚きの表情をかもし出した。
コウヘイ、ただ一人を除いて。
テンルウの顔色がすっと青ざめる。
あのか細い足で、何故石像が砕け散るのか。
そして、あのディアマンテの部屋に何故石の塊が散乱していたのかが、目の前で解決する。
しかも、石像を壊した彼女の左足は少し赤くなっている程度で、他の外傷は何一つなかった。
「シ、シオン。お前・・・」
「まだ勝負はついてないわよ?!!」
テンルウの言葉も聞かず、彼女は彼目掛けて走そうとした、その瞬間・・・
「シオン様、やめてください!!」
ショウが彼女の身体を後ろから羽交い締めする。
「ショウ、離しなさい!!」
「いやです!!シオン様、テンルウ様と戦うなんてやめてください!!」
少し涙声になりながら、ショウはシオンを必死に抑えつける。
「ショウ、離して!!!」
「シオン様が止めてくれると誓ってくださるまで、絶対に離しません!!」
シオンがショウにかまけている間に、コウヘイは彼女の間合いに入る。
彼女がそのことに気づいた時は、すでに彼は行動に出ていた。
コウヘイに腹を殴られ、彼女はそのまま意識を失う。
ショウはシオンが倒れこまないように、彼女の身体を支える。
「はぁ・・・まったく・・・」
軽く息をついたコウヘイに、テンルウが怒りの視線を向けた。
「コウヘイ・・・てめぇ・・・シオンを殴りつけたなぁ・・・?!」
「えっ・・・!?」
その言葉にコウヘイが少したじろぐ。
彼はてっきり、テンルウがシオンとのケンカの邪魔をしたことを怒るのかと思っていた。
だが、当のテンルウはその事ではなく、彼女の腹に一発入れたことに対して怒り出したのである。
「そういうお前は、王女の腕にケガさせてるだろうが!!」
コウヘイの言葉に、我に返ったユーリが気絶したシオンに駆け寄り、回復魔法をかける。
だが、見た目より傷が深くなかなか血が止まらない。
「・・・ここじゃあまり集中して回復させる事ができない・・・ショウ、シオン様を抱える事出来る?」
「大丈夫。シオン様、凄く軽いから僕でも抱きかかえられる」
「それなら俺が・・・!!」
テンルウがショウの腕からシオンを取り返そうとするが、ユーリがその手を強く叩いた。
「ユ、ユーリ・・・」
「テンルウ様、シオン様に触らないで下さい!!見損ないましたわ・・・シオン様を斬り付けるなんて・・・!!」
ユーリは眼に涙を浮かべて、テンルウにそう言う。
「ショウ、行きましょう」
「う、うん・・・」
ショウはユーリに言われ、そのままシオンを抱きかかえて部屋へと向かった。
その様子を、テンルウは黙って見ていることしか出来なかった。
そして、その姿が見えなくなった頃、彼はバルムンクの剣先を見た。
シオンの血が少し凝固し、こびりついていた。
「俺・・・何やってんだろ・・・アイツのこと、傷つけるつもりなんてなかったのに・・・!!」
そう言い残し、彼も魂が抜けたような表情で、別の方向へと去っていった。
その場に残されていたのは、コウヘイと、気絶していたミホだけだった。
「・・・・・・」
彼は、何事もなかったようにその場から立ち去ろうとした瞬間だった。
「・・・お兄様、何処へ行くのよ?」
気絶していたはずの妹に声をかけられ、立ち去ろうにもそれもできなくなってしまう。
「ちっ・・・起きたのか」
「何よ、その『ちっ』っていうのは?!仮にも妹に対して言う台詞じゃないでしょうに」
「俺はお前を妹とは認めてない」
冷たく言い放つ彼の言葉に、ミホは大きなため息をつく。
「ちょっと・・・やりすぎたかなぁ・・・」
「・・・は?」
「・・・噂通りの綺麗人よね、シオン王女って」
「お前、頭でも打ったのか?さっきのライトニングで・・・」
「やだなぁ、そんなんじゃないよ!」
「お前が他人を褒めるなんて珍しいじゃないか」
「そうかな?私だってたまには人を褒めるわよ」
ミホが少し暗い表情でそう呟いた。
「で、なんであんないい方したんだ?」
「悔しいじゃない。あの人、私の持ってないもの・・・全部持ってるんだもん。お兄様もそう思うでしょ?」
「王女と比べるまでもないな」
あっさりとコウヘイにそう言われてしまい、ミホも困った顔をする。
「でも、だからってそう簡単に引き下がるわけにはいかないわ!!!」
「・・・何・・・?!」
「私、絶対にテンルウ様をシオン王女から奪ってみせるから。それじゃあね☆」
「おい!待て、ミホ!!!」
だが、コウヘイが止めようとしたときには、もうミホの姿は殆ど見えなくなっていた。
「・・・逃げ足の速いヤツ・・・」




「で、僕のところに来たの?」
「・・・あぁ・・・」
その頃、テンルウはマルスの部屋に来ていた。
しかし、その表情は暗いままである。
彼はバルムンクにこびりついた血を何度も拭き取ろうとしている。
だが、血は固まった状態になってしまっているため、なかなか落ちない。
テンルウは早く、この血を洗い落としたかった。
力を入れて、何度も何度も拭き取る。
あげくには聖水まで持ち出して、剣にふりかけた。
「テンちゃん・・・」
「畜生・・・よりにもよって・・・シオンの血で神剣を汚してしまうなんて・・・!!」
「テンちゃん・・・」
「結構痛かっただろうな・・・シオン・・・」
「テンちゃん・・・ならどうして、売り言葉に買い言葉で戦ったりなんかしたのさ・・・」
「それは・・・頭に・・・血が上って・・・それで・・・」
真っ白になってしまった頭の中を探るようにぽつぽつと言葉にするテンルウ。
「大丈夫だよ・・・きっとすぐに、仲直り出来るから・・・」
マルスはポンっとテンルウの肩を軽く叩いた。




シオンはすでに目を醒ましており、ユーリが懸命にシオンの腕の傷を治療していた。
そんなシオンの横にはショウが心配そうな顔でシオンの傷の様子を見ていた。
「よかった・・・あまり深い傷ではなくて・・・」
「シオン様、ごめんなさい・・・きっと傷が残りますわ・・・」
「いいのよ、ユーリのせいじゃないから・・・」
シオンは哀しげな表情でその腕の傷を見た。
消える気配は一向になかった。
ましてや、それがテンルウにつけられた傷である。シオンは複雑な心境でその傷を見つめていた。
そして、ケガの治療中にヨウスケが慌てて部屋に入ってきたのである。
「ヨウスケ、もうちょっと静かにドアを開け閉めしてちょうだい」
「あ、ごめんなさい、ユーリ。でも、それどころじゃないんです。メルセデス軍が我々にあることを要求してきたんです!!」
「メルセデスが・・・どんな要求をしてきたの?」
「シオン様を差し出せって・・・」
「!!!」
シオンとユーリは驚いた。
メルセデスとは友好関係にある国である。
それが何故シオンを狙うのかがまったくの謎なのである。
「また、戦争・・・」
「・・・全員、戦闘の準備に入りなさい。ショウ、貴方はここでお留守番よ」
「!!そんな、嫌です!!僕も戦います!!」
「駄目よ、貴方はまだ若いわ。それに戦闘経験も浅いし技術もまだまだ足りないわ。ここで私の子供達の面倒を見てちょうだい」
「なら、軍師としておそばにおいてください!!戦略は父に習い自信があります!!それに・・・僕はシオン様の助けになりたくて今まで頑張ってきました。お願いです、どうかお傍においてください」
「・・・ショウ・・・」
「シオン様。軍師としてなら一緒に連れていっても良いじゃありませんか」
ユーリはシオンを説得する。
しかし、シオンは悩んでいた。
確かに、軍師としてショウは優れている。けどシオンはショウを守りきる自信がないのである。
けど、戦略の立て方はごく普通の軍師よりもかけ離れて優れている。
「わかったわ、でも決して私の傍を離れては駄目よ」
「はい、シオン様!!!」
カンピナスはナディアが戦闘態勢に入ったのを知って、シオンが本当にメルセデスの侵略を企んでいたことを確信した。
「グランビアのシオン・・・お前は俺がしとめてやる。この剣で・・・」
ケンカしたままのシオンとテンルウ。
バサラの陰謀によって駒となってしまったカンピナス。
運命の歯車は、異様な速さで回りつづける。




作者:今回はちょっと手短く行きました
シオン:なんで私がテンルウ様とケンカしなくちゃいけないの?
テンルウ:ちゃんと仲直りできるんだろうな?
作者:エスカレートする予定
シオン:なんですってぇ!!
テンルウ:その話は却下
シオン:こんなにLOVELOVEなのに・・・
テンルウ:なぁ?
カンピナス:だぁ!!俺の前でいちゃつくなぁ!!
シオン:あ、新キャラ
テンルウ:敵め・・・
カンピナス:おい作者!!この「駒」ってなんだよ?!「駒」って!!
作者:だまされるからでしょうが
カンピナス:俺って騙されてるのか?
作者・シオン・テンルウ:当たり前
テンルウ:シオンが国を侵略するような女に見えるか?
シオン:私、そんなに野蛮な女じゃありませんわ
作者:黒幕に騙されてちゃ、聖戦士とは言えないよね?
カンピナス:・・・・・・




キャラクター紹介



カンピナス
年齢:16歳
職業:フォレストナイト
魔剣ミストルティンの使い手で、若いながら、メルセデスの国王をしている。
キレものなんだけどあっさりバサラに騙されちゃうくらい信心深い人。


ミホ
年齢:15歳
職業:ペガサスナイト
トラキアの王女で、コウヘイの妹。
性格は我侭で自己中心的。おまけにホレっぽい。
トラキアでは珍しい天馬使いである。