ユグドラシル聖戦記

ティフェレトを無事に制圧し、シオン達は、ティフェレトの城下町に宿を取り、そこで一晩を過ごすことになった。

その夜に、シオンはテンルウと共に月光浴に出かけていた。

第18章 メルセデスの終わり

「綺麗ですわ………」

「ああ………そうだな………」

もともと夜空を眺めるのが好きなシオンは、夜の散歩が一種の楽しみでもあった。

だが、オグマとイナルナが産まれてからというもの、夜の散歩に出かけることが極端にすくなっている上に、テンルウとこうして二人で月光浴に出かけるのも久しぶりである。

「久しぶりですわね……こうして貴方と二人で月光浴に出かけたのは…」

「そうだな……子供達が生まれてから二人でいる時間も少なかったもんな」

「でも………あの日は幸せだった………」

「まるで昔話のように語るなよ………」

テンルウがそうシオンに言った時……

シオンは泣いていた。

「お……おい………?」

「変ですわ………涙が勝手に…………」

「シオン………」

そう言ってテンルウはシオンを強く抱きしめる。

「テンルウ様………」

シオンの気持ちに不安がよぎる……。

<このまま………時間が止まってくれればいいのに………>

そう思っていても時間は無情に去っていくだけである。

「テンルウ様、部屋に戻りましょう」

「ああ………」



次の日……

メンバーは以前にも増してピリピリきていた。

それも当然である。

今日はメルセデス王国の大黒柱・リデア城への進軍である。

一部の人間は浮かない顔をしている。

ショウとシオンである。

この戦いに賛成しかねるものの、王の命令は絶対……

逆らうことなどできるはずもない自分達に戸惑いと怒りを隠しきれずにいた。

「ショウ………」

「シオン様………」

「ごめんなさい、私の力が及ばないばかりに………」

「いいえ………シオン様のせいじゃありませんから……」

「ショウ、私ね……国王陛下に内緒で……この戦いが終わって国が安定した時にカンピナス王にメルセデスを返還しようと思っているの」

ショウはシオンのその言葉に驚いた。

「シオン様……」

「おじい様はきっとわかってくれる……こんなこと……間違っているもの……」

その会話をテンルウとマルスは密かに聞いていた。

「王女って本当に優しい人だね」

「ああ…………惚れなおしたよ」

「流石、テンちゃんの奥さんってところかい?」

「まぁな」

自慢気にテンルウは胸をはる。

マルスは羨ましそうにテンルウを見る。

「どうした?」

「いや………羨ましいな~っておもってさ……」

「お前がそんなこというなんて珍しいじゃないか」

マルスは少し顔を赤くした。

「そりゃあ、僕だって恋の一つくらいするさ」

「へぇ………誰だよ?」

「ミホ王女」

その言葉を聞いた瞬間、テンルウはひいた。

「そんな露骨にひくことないじゃない」

「いや………お前の趣味も変わってんな………」

「うるさいよ?」

「はいはい………」



そして……

リデアとの全面戦争が幕を開けた……



カンピナスの胸中は複雑なものでいっぱいだった。

リデア城の将軍、サルサドナはカンピナスの命令で兵達に戦闘準備をするように言った。

<しかし……なぜこんなことに……今までメルセデスとユグドラシルは友好関係にありこの国ができてから長きに渡って保たれてきたというのに……>

そんなことを思い浮かべつつも、サルサドナは槍の手入れをする。

そこへ、カンピナスが入ってきたのだ。

「サルサドナ、準備は整ってるか?」

「はい、陛下。いつでも出陣できます」

「そうか……」

その言葉を聞いたカンピナスはその場を去っていった。



<やはり………あの言葉を信じるべきではなかったのか………>

そのことがカンピナスの頭の中をよぎる。

しかし、後悔後先立たず。

もう遅いのである。

そんな気持ちを胸に抱きつつ、カンピナスはミストルティンを手に戦場に行った。



シオン軍は北の谷を超え、リデア城が見えるくらいの位置で待機していた。

今、シオンとショウが戦況について語っている。

「でも、敵の戦力がまだはっきりしていない以上、うかつに動くのは危険じゃないかしら………?」

「そうですね………相手の出方を見るまで待ちましょうか?」

「その方が良いかもしれないわ」

「ならシオン様、チェスでもしませんか?」

「あら、良いわね」

ショウはそう言ってチェス台と駒を持ってきた。

チェスは戦略を立てるときの参考にとても良いので戦争ではもってこいのアイテムである。

こうしてシオンとショウのチェスでの対決が始まった。



あれから2時間、敵の動きは音沙汰なし。

チェスも四勝二敗といった結果も出ている。

もちろん、シオンの四勝である。

「やっぱりシオン様には敵わないや……」

「もうちょっと腕を磨くのね、ショウ☆」

そう言ってシオンはにっこり笑った。

そこへキイナが入ってきたのである。

「王女、敵のお目見えよ!!」

「シオン様、敵の軍制がすぐそこまで来てます!!!」

ヨウスケもキイナと共にテントの中に入ってそう言った。

「じゃ、そろそろいきましょうか」

「はい!!!」



敵軍の総勢は全部で20万。

シオン達の軍は兵士を含めても1万いくかいかないかの人数。

数だけではメルセデスに勝てるはずもないのだが………

何せ伝説の武器がかなりそろっているので苦労してはいなかった……。

グングニル・バルムンク・トールハンマー・バルキリー・そしてナーガ。

今はバルキリーこそ使えないがナーガがあるというだけでも戦力は10倍も膨れ上がるのである。

「さぁ……フィナーレの時間だ!!」

そう言ってテンルウはバルムンクを鞘から出す。

シオンもナーガのロッドを構えている。

コウヘイはマグアナックに乗って上空から応戦する。

ヨウスケ・オスカー・キラ・キイナは後方支援をし、味方を助ける。

まるでごちゃ混ぜ戦争である。

そこへ、テンルウとシオンの前にカンピナスが現れたのである。

テンルウはシオンをかばうように前に立つ。

「王女、俺と一緒に来てもらおうか」

「シオンは渡さないって前にも言ったはずだぜ?」

「なら……お前を倒してから王女を貰う」

「上等じゃねえか」

テンルウはそう言ってバルムンクを構える。

カンピナスは馬から降りて、ミストルティンを構えた。

「シオン、少し離れてろ」

テンルウの一言に頷いてシオンはその場を少し離れ、近くにあった森の前に立った。

二人の間には闘気が充満していく。

「動と静…………」

シオンはそれを見ているだけで身体中に圧迫感を感じた。

そこへ、ショウがシオンのところにやってきた。

「シオン様、何故二人とも黙ってるんでしょう?」

「ショウ……貴方にはわからないの?二人はもう戦っているのよ」

「え?」

「すごい気圧………押しつぶされそうだわ…………」

「………………」

ショウにはすぐにはわからなかったものの、あとあとでその気の重さがわかった。

「わかった?」

シオンの質問に立てに首をふるショウ。

「不用意に動けば………負けよ……」

そして………二人は動いた。

「流星剣!!!」

テンルウの流星剣げ炸裂する。

が、カンピナスはそれをこらえ、流星剣が終わった後につく一息という隙を逃さなかった。

「太陽剣!!!」

その一撃は重く、かろうじて避けようとしたテンルウの左腕に深く斬りつけられた。

「くっ………」

何故か身体から力が抜けていく。

そのことにテンルウはすぐに気がついた。

「アリストでは流星剣が主流だが、このメルセデスでは相手の体力を自分の体力に変換する太陽剣が主流だ。そうだな……光魔法のリザイアを受けたことと同じことになるかな?」

先程の一撃でカンピナスの傷はすっかり癒えている。

「ふっ…………俺が流星剣しか使えないと思ったら……大間違いだぜ……オードの剣は闇を切り裂く【剛】の剣………この世に斬れないものはないんだ……」

でもそれは半分テンルウの強がりであった。

「テンルウ様………」

シオンは心配で見ていられなくなってくる。

ショウはそんなシオンをなだめている。

「俺の最大の力で相手になってやる……獅子王………」

「この太陽剣に勝てる必殺剣など存在しないことを証明してやろう」

とは言ったものの、テンルウの左腕の傷はそうとう深く、そこからかなりの血が流れ出している。

シオンは回復したくてうずうずしている。

しかし、この勝負に茶々を入れたらあとで怒られるかもしれないという考えがシオンの行動に歯止めを利かせる。

しかし、テンルウにはすでに余裕は残されてはいない。

<こうなったら……いちかばちか………あの手でいくか……腕がもつといいんだけどな………>

頭の中でそう考えるテンルウ。

その時一瞬、シオンのほうに目をやる。

彼女の表情は心配でたまらない……そんな風に感じ取れる。

<シオンのためにも……やられるわけにはいかない………>

そんな気持ちがテンルウの精神力をより強くする。

「バルムンクの真の力、今見せてやる!!」

そして、テンルウは動いた!

カンピナスは再び太陽剣を出す準備をする。

だが、テンルウの技の方が早かった。

「流星剣!!!」

だがテンルウの流星剣はいつもの威力とは比べ物にならないくらい、力強いものだった。

カンピナスは一瞬見えた月に驚き、その流星剣をまともに受けてしまった。

カンピナスは思わず倒れこむ。

「俺には月光剣と流星剣を同時に出すことができるんだ………これがオードから受け継いだ【剛】の剣……良く覚えておくんだな……」

シオンの表情に笑顔が戻る。

ずっと一緒にいて、こんなにも彼が輝いて見えたのは初めてなのである。

でもそんな風に喜んでいる場合ではなく、シオンはすぐさまテンルウに駆け寄って回復魔法を唱える。

「リライブ!!」

シオンは回復に専念し、一言も話さない。

そこへ、メルセデスの将軍サルサドナがカンピナスのところへ来たのだった。

「陛下!!」

傷だらけの主君を抱き上げ、自分の馬に乗せるサルサドナ。

「カンピナス………」

ショウは親友の傷を心配した。

サルサドナは主君を連れて城のある方へと向かおうとする。

「待ってくれ!!!」

それをショウが止める。

「僕はカルディナの公子、ショウだ。目を覚ましたら彼にこう伝えてくれないか?『1年間だけ猶予をくれないか』って………」

そう言ってショウはサルサドナに傷薬を渡した。

「そうでしたか………貴方が陛下の………」

「僕達もわけありで君達と戦争をしなくちゃならなかったんだ。そこにいるシオン様の頼みでもある。お願いだ……彼にそう伝えてくれ………」

「では我等はリデア城から北に行ったところにあるアルファロメオの砦に身を置きます。何かあれば従者をそちらに差し向けますので……それと駐屯地にリデアをお使い下さい。では我等はこれで失礼する」

サルサドナは、カンピナスを担ぎ、北のほうへと走り去っていった。

「ショウ………」

「シオン様……僕はやっぱり陛下の申すことには反対です」

「……………」

テンルウの回復を終えたシオンはリデアのほうを見つめた。

「これ以上無駄な血を流すこともないでしょう……相手の兵士に主君の居場所を伝えてきてくれる?」

「はい……シオン様………」



こうしてリデア軍との戦いが終わり、シオン達は勝利を収めた。

だが、誰一人としてそのことを喜ぶものは存在しなかった。

戦争と言う悲しい出来事は幾人もの他国の住民を殺していった。

そして、シオン達は11ヶ月、このリデアを駐屯地に身を置き、メルセデスが復興できるよう下準備をすることになる。



そして……運命の歯車はあらぬ方向へとシオンを導き出すのだった。




作者:18章の完成です。

シオン:なんだか……あまりしっくりこないですわ………

テンルウ:アイツの太陽剣………なかなかに痛かったぞ……

コウヘイ:痛くない必殺剣なんて存在するかよ……

テンルウ:俺の月光剣は一撃であの世行きだから痛くないぞ?

シオン:………危険ですわ………

作者:その実験台はコウヘイっと…………

コウヘイ:それはいやだ!!

シオン:でも獅子王は死んでませんわ……

テンルウ:あれは左腕怪我してたし………手加減もしたからな……痛いぞ~?

コウヘイ:だから、何で俺の方を見るんだよ?!

作者:実験台はやっぱりコウヘイ………

コウヘイ:だから、嫌だってば!!!