ユグドラシル聖戦記

シオンは、夜遅くに愛馬ブランの背に乗り、ナディア城へと向かっていた。
アレから3時間以上たった今、シオンはナディア城の国境で立ち尽くしてしまった。




第4章 シオンの死闘




その状態を見たシオンは、信じられない気持ちでナディアを見つめていた。
見たところ、ローバーの蛮族である。
今のユグドラシルはアリスト王国との戦争のため、軍の大半はこのユグドラシルにいない上に、ナディアは司祭の公国、おまけに王であるルノーはいまグランビアにいるのだ。
要するに、今城の留守をしていたのはユーリただ一人になる。
シオンはユーリの身がすごく心配だった。


何て言う事・・・こんなときにローバーが責めてくるなんて・・・!!


王女としてこの自体は見過ごすわけにはいかない。
シオンは無謀にも、たった一人でナディアの奪還に向かったのだった。
オスカーはいくら捜しても見つからない姉の身の心配をしていた。
シオンのお付きであるルサールカもシオンを捜していたが見つからなかった。
そこで、オスカーとルサールカは城門のところでナディア兵にナディア城の陥落の話を聞いた。
「おじい様、姉上が見当たらないのですが・・・」
「なんじゃと?・・・まさかシオン、バサラの言い付けを守らずナディアに向かったんじゃ・・・?」
その台詞を聞いたとたん、オスカーの表情が変わった。
「おじい様、それは本当ですか?!もし本当だとすれば・・・姉上!!」
そう言ってオスカーは慌てて王室を走り去っていった。
「オスカー様、まってください!!私も行きます!!」
オスカーのお付きのクリシュナもオスカーとルサールカの後についていった。
厩舎小屋を見に言ったオスカーはシオンの馬のブランがいないことに気付いた。



姉上、やっぱり一人で・・・こうしていられない!!



オスカーの心に不安がよぎり、彼は厩舎小屋を出ようとしたとき
「オスカー様、私達も参ります」ルサールカとクリシュナが厩舎小屋の扉前に控えていた。
オスカーは自分の愛馬のスコローンの縄を解いてグランビアを出た。
オスカー達の行き先は―――――――



1時間後、オスカー達のついたところはアベニール城。そこにはオリジンの娘のキラが今、城を守っている。
「キラに逢わせてくれ!!急いでるんだ!!」
オスカーは血相を変えて門を守っていた兵士にそう言い、城の中に入っていった。
キラは今、のほほん茶の時間だったらしく自室で紅茶を楽しんでいた。
バタンと乱暴にキラの部屋のドアが開いた。
「キラ、大変だ!!姉上が」
キラはあまりの驚きに紅茶を器官に入れてしまい、むせていた。
「けほっ・・・オスカー様、こんな夜遅くにどうされたのですか?」
まだ息苦しいらしく、キラはまだせきこんでいる。
「キラ、今は雑談をしている暇はないんだ。ナディアがローバーの手に落ちた。姉上はそれを知らずにナディアに行ったみたいなんだ」
「それ、本当ですか?!」
キラはのんきにえぇ?!っていう顔をしている。
「キラ、のんきにのほほん茶してる場合じゃないよ!!姉上とユーリの命が危ういんだよ?!はやく姉上の元に行ってあげなきゃ」
「わかりました、すぐに行きましょう!!私もイチイバルを装備して行きます。あと、何人か兵を連れていきましょう!いくら相手が蛮族とはいえ油断は禁物ですわ!!」そう言ってから数分後、オスカー達はキラと軍師、兵士四人を連れてナディアへと向かった
その頃、テンルウはレンスター・トラキア王国の国境を抜け、ユグドラシル王国に足を踏み入れていた。




「テンルウ。ユグドラシルについたよ?」
「ああ・・・」
「けど、何か様子がおかしくない・・・?」
マルスが言った『様子がおかしい』とは、ちょうどその頃、シオンが一人でナディアの解放の為に戦っていたのだった。
「・・・どうやら、襲われているみたいだね。蛮族が相手みたい」
「俺には関係ない。俺の目的はグランビアの王族を殺すことだけだ」
「テンルウ、本当に復讐するつもり・・・?」
「・・・」
テンルウはマルスの質問にも答えず、ナディアの方角にへと向かった
一人の竜騎士が、落ちたナディア城を上空でただ見つめていた
「ユーリ・・・」
その竜騎士はユーリのフィアンセのコウヘイだった。コウヘイはたまたまグランビアの近くにいて、遭遇した瀕死のナディア兵からユーリの事を聞かされていた。
「ユーリ、待ってろ・・・俺が絶対にお前を助けに行ってやるからな!!」
そう言い残し、竜騎士・コウヘイはナディアの上空から去っていった――――――
「おいお前ら、たった一人の女も殺せないのか?!」
「しかし指揮官、あの女・・・面妖な魔法を使いまして・・・」
「ディアマンテ様からこの城をお預かりしてるんだぞ?!しっかりしねえか?!女一人にやられたんじゃ、蛮族の名がすたるぜ!!」
ディアマンテの部下のディンゴは玉座から立ち上がり、斧を構えて歩き出した。



光よ、我等が前に立ちふさがりしものの力を我に与えよ!!



呪文の詠唱からしてシオンが使っている魔法は光魔法の一つ、『リザイア』であった。
リザイアは敵の体力を奪い使用者の体力に変換してしまう魔法だ。
この魔法でやられた蛮族の数はゆうに30人を超えていた。それでも尚、攻撃の手は止まないのである。
シオンも次第に疲労を見せ出していた。
やっぱり・・・一人じゃ無謀だったかしら・・・?
そんな弱音がシオンの頭の中をよぎる。
駄目よ、ここであきらめたらユーリの命が・・・!!
自分のことよりユーリを気遣うシオン。けど、その魔力もだんだん弱くなっていく。
すると、ディンゴがシオンの前に現れたのだった。
「テンルウ、ナディア城についたよ」
「ああ」
テンルウはナディア城をじっと見つめている。そこでテンルウは不思議なことに気付いたのだった。
「・・・おかしい」
テンルウはただ一言そういった。
「おかしいとは・・・?」
マルスがテンルウに問う。
「ここにあるすべての死体、ローバーの蛮族だ。しかも傷が一つもない」
「傷が・・・?本当だ。多分これは光魔法のリザイアの仕業だね。でもリザイアとなると、使えるのは聖者ヘイムの血を引くものにしか使えないよ?ライトニングならセイジクラスの人間でも使えるけど・・・」
マルスがそう言うと、テンルウの表情が険しくなった。
「ならここに、グランビアの王族が?」
「おそらくいるね」
「・・・行くぞ」
テンルウはバルムンクを握り締め、ナディア城に入っていった。
「テンルウ?!ちょっと待ってよ!!」
マルスもすぐにテンルウの後を追い、城へと入っていった。




「よぉ姉ちゃん、随分とまぁ・・・派手に俺の部下どもを殺してくれたなぁ」
ディンゴは斧を肩に乗せ、シオンを睨みつける
「ユーリは・・・ここにいるプリーストは何処にいるのですか?!」
「あぁ?プリースト?そんなやつ、いたっけなぁ?」
ディンゴはしらばっくれる。
「とぼけないで下さい!!もう一度聞きます。この城の女司祭は何処にいますの?!」
「知らないねぇ…それより姉ちゃん、俺の部下を殺してくれた礼、受けとってくれよなぁ!!」
ディンゴは持っていた斧をシオンに振り下ろした。
シオンはその攻撃を避ける。
シオンが魔道書をかざし、呪文の詠唱に入る。
だが、ディンゴは呪文の詠唱と印をきりおえるまでの時間を与えてはくれない。
シオンは攻撃を避けるので精一杯だった。
しかし、シオンが殺したローバーの蛮族の死体がシオンの足場を奪い、シオンは死体のせいで足を取られ、転んでしまった。
そのせいでリザイアの魔道書も手から離れてしまった。
「あ・・・!!」
魔道書に気を取られている間、すでにディンゴはシオンの目の前に立ち、シオンを見下ろしていた。
「随分とまぁ、あっけないじゃねえか。ここでサヨナラだ、姉ちゃん」
シオンはこの時、オスカーと父のことを思っていた。
「死ねぇ!!」




お父様・・・ごめんなさい・・・




シオンは目を閉じて、死を覚悟した―――


だが、いくら待っても何も起こらないことを不思議に思い、ゆっくりと瞳を開けた。
シオンの瞳にうつったのは斧を振り上げたまま立ちすくむディンゴの姿だった。
「ぐあぁぁぁぁ!!!」
ディンゴは叫びと共に倒れこんだ。
その背中に一筋の斬りつけたあとがくっきりと残っていた。
ディンゴの後ろには一人の青年の姿があった。
「その女は俺の獲物だ。勝手に殺すんじゃねえよ」
その青年はそう言って剣を鞘に収めた。
シオンは何が起こったのかわからずにボーっとしている。
そして数分後、何が起こったのかシオンの頭の中で整理がついた。
シオンは青年に助けられたのだ。
彼女はすぐに立ちあがって服装を整えると、青年に頭を下げた。
「あの、何処の方かは存じませんけど・・・有難うございました」
すると青年はシオンを見ずにあたりの死体の山を見渡した。
「ここにいるローバーの蛮族、全員お前が殺したのか?」
「ええ。本当はそんなつもりはなかったんですけれど、仕方なく・・・」
「そんなつもりは・・・なかった?」
青年の表情が険しくなる。
「それと同じ理由で俺の祖父も殺したのか?」
「え?」
シオンは青年の言っている意味がわからなかった。
首を傾げるシオンに青年は怒りを覚え、剣を鞘から出し、シオンを壁に押しつけ剣をシオンの耳元に突き刺した。
「仕方がなかった?ふざけるな!!大体、俺はお前を助けたわけじゃない!お前はどうしても、この剣「バルムンク」で血祭りにあげなきゃ、気がすまなかっただけだ!!」
「バルムンク?貴方、まさか・・・」
「俺はアリスト王国セフィーロの王子、テンルウだ!!」
それを聞いてシオンはとてつもないショックを受けた。
「待って下さい。貴方のおじい様って・・・トレノ王ですか・・・?」
「そうだ」
シオンはテンルウの言葉を疑った。
トレノ王が死んだことなど、父クオリスは知らないのだ。
ましてや、一国の王を理由もなく殺したりするわけがない。
「祖父の仇・・・お前の命で晴らしてくれる!!」




作者:自分で書いててなんだけど、テンルウカッコ良すぎ・・・
テンルウ:当然のことだな。クールかつ優雅に振舞うのが俺だからな
シオン:それにしても、随分もったいぶった終わりかたですのね・・・
作者:そこがミソなんだよ。小説の醍醐味!!
テンルウ:ミソか・・・?
シオン:私、作者の意図が理解できませんわ・・・
テンルウ:・・・俺も・・・
作者:わからなくて結構!!!わかってたまるもんかぁぁ~!!




キャラクター紹介


コウヘイ
年齢:16歳
職業:ドラゴンナイト
トラキアの王子であり、神槍グングニルの継承者。
ユーリとは親同士が決めた許婚同士だが、個人的にもユーリの事を好いている。
頭の回転は早いのだが記憶力はクラゲ並。
洞察力に優れている。



キラ
年齢:15歳
職業:ボウファイター
アベニールの呑気者公女。
オスカーとはとても仲が良い。弓使いウルの直系で、聖弓イチイバルを使用する。