ユグドラシル聖戦記

「私は、まだ・・・死ぬわけにはいかない・・・」
「黙れ、お前の命はこの俺がもらう」
シオンはテンルウの顔を見ずそうつぶやいた。
しかし、テンルウはシオンの言葉に耳を貸そうとはしない。
「私には・・・まだやらなければならないことがあります!!」




第5章 ナーガの神託




シオンは清閑な顔つきになり、テンルウを睨みつける。
その瞳はしっかりとテンルウを捕らえていた。
「私は、ここの公女である、ユーリという娘を助けに行かなければなりません。それまでは、死ぬわけにはいかないのです!!それが、それが済んだなら・・・私は貴方の剣で殺されましょう。貴方の気がそれで済むのなら」
「それまで待て・・・そういうことか?」
テンルウの言葉にこくりとシオンはうなずく。
「・・・・・・」
テンルウはそのまま考え込んでしまった。
「待ってあげたら?彼女、本当に真剣な目をして頼んでるんだよ?」
そこに、マルスがやってきてテンルウを納得させようとする。
「わかった。そこまで言うならそれまで待ってやる。ただし、俺も同行させてもらう。」
「さすがテンちゃん、優しいね」
マルスの一言にがっくりと来るテンルウ。
「マルス・・・その呼び方、大分前からやめろと言ってるだろ!?」
「いいじゃない、減るわけじゃないんだから☆」
「あのなぁ・・・」
シオンはそんな二人の会話を黙って聞いている。
「お前も黙ってないで、これからどうするのか言えよ!!」
テンルウがマジギレモードに入りつつ、シオンを怒鳴りつける。
「あの、彼は本当にアリストの王子なんですか?」
「残念だけど、彼は紛れもなくアリストの王子だよ」
「その割には、口調が悪くありません?」
「自分の父親の前とかではそんなことないんだけどねぇ・・・」
「お前らなぁぁぁ?!」
シオンとマルスの会話が聞こえてたらしく、テンルウは身体を震わせて怒りをこらえている。
シオンとマルスはテンルウの一声にびくつき、黙り込んでしまった。
そしてその時に・・・
「姉上・・姉上ぇぇ!!!」
オスカーのシオンを呼ぶ声が聞こえた。
オスカー!!」
「姉上、ご無事でしたか。よかった・・・私は、姉上が心配で心配で・・・」
そういってオスカーは一筋の涙をこぼした。
「オスカー・・・いい年をして泣かないの。私は大丈夫ですから」
シオンは涙するオスカーを抱きしめて頭を撫でる。
そこに、キラやルサールカ達もやってきた。
「姫様!!お怪我はございませんか?!」
「シオン様、とても心配していたんですよ・・・」
「キラ、わざわざ来てくれたのね。有難う、感謝します」
シオンはオスカーを離し、頭を撫でて肩をポンポンと叩いた。
「似てないな・・・」
テンルウの一言にキラ達はテンルウとマルスの存在を知った。
「ところでシオン様、その方達は・・・」
「え?ああ、旅の御方よ、危ないところを、協力してくださったのよ」
<助けてくれた>とはあえて言わず<協力してくれた>という配慮に。何となく気に入らなさそうな顔つきをするテンルウとそれを見て苦笑いするマルス。
「それにしても、似てないな・・・」
「何が?」
「あの姉弟・・・」
「何処らへんが?」
「髪の色とかが断然似てない!!」
「そりゃ、父親と母親の髪の色が違ってたら、彼女達の髪の色もどっちかに似るでしょ?たまたま別々に似ちゃっただけじゃない?」
「顔とかも似てない」
「そう言っちゃ失礼だよ、テンちゃん・・・」
「だからその言い方やめろって・・・」
そんな二人がひそひそと話しこんでるときにキラが茶々を入れた。
「あのぉ・・・」
そう言うキラをすごい目つきで睨みつけるテンルウ。
「なんだ?」
「今夜はもう遅いですし、どこかの村で宿でも取るつもりなんですが・・・あなた方もご一緒しませんか?宿代は私達が持ちますので」
テンルウの目つきが相当怖かったらしく、ちょっと半泣きのキラが二人を宿へと誘った。
「今、何時だ?」
「もう、牛密の刻はとっくにすぎてます」
「じゃ・・・お言葉に甘えさせてもらうか?」
「うん」
テンルウはあることに気がついた。辺りを見まわしても、シオンがいないのである。
「おい、あの女はどうした?」
「シオン様なら、この城の礼拝堂に行かれましたけど?」
「礼拝堂って何処にあるんだ?」
「ここをまっすぐに行って突き当たりを左に行くと大きな扉がありますから、そこに姉上はいます」
オスカーに礼拝堂への道順を聞いた後すぐに、テンルウは礼拝堂へと足を運んだ。テンルウが礼拝堂へ入ると、そこはとても大きな空間が彼を待っていた。
ステンドグラスが夜でも美しく輝き、大きな女神像も立派なものであった。
しかし、その女神像の瞳からは紅い涙が流れ出していた。
「ブラギの女神像が紅き涙流す時、再びロプトの遺志を継ぎしもの、君臨し、世界を闇へと落とし入れるだろう」
シオンがそう言うと、ゆっくりと立ちあがり女神像を見つめる。
テンルウがいることに気付いていたのか、シオンは後ろを振り返る。
テンルウが見たシオンはさっきとはまったく違う目の色をしていた。
「お前、一体・・・」
テンルウが今のシオンは別人だと察知しバルムンクの柄に手を置く。



「聖戦の時きたり・・・お前達はさらなる人の暗黒面を見つめ、この世界の混乱に足を踏み入れることになろう。お前達の子供の時代に、ロプト帝国復興の兆しを見せ、再びこの世界を闇へと誘うだろう。青年よ、この娘を殺してはならん。この娘は我の化身。我はこの娘を寄代に更なる光を与えよう」



そのとき、オスカーが礼拝堂へと入ってきた。オスカーはシオンに何が起こってるのか、すぐにわかった。
「神卸ですよ」
「神卸?」
オスカーはテンルウにシオンの状態を説明した。
「姉上はこの国最高の巫女です。その魔力は父上を完全に上回っています。姉上の髪の色は本来はもっと綺麗な真珠色をしているんです。魔力の使いすぎで今は灰色になっていますけど、姉上の髪の色は私達、ヘイムの一族の誰にも似てはいないんです。一族の間では「ヘイムの生まれ変わりじゃないか」とささやかれているほどです。その姉上の能力に神卸があります。神託も降りては来るんですけど、神託はこの城の城主の娘のユーリのほうがはっきりとしたものが降りてくるんです。だから姉上はユーリを救い出したいと思っているんです」
オスカーは女神像を見つめて、テンルウに説明した。



「オードの血に連なるものよ、再び起こる聖戦に光を与えよ」



そう言うシオンの瞳は光を称えるような金色に輝いていた。
そして、次の瞬間に彼女は力を失ったように地に両手をつくようにしゃがみこんでしまう。
「姉上」
オスカーはシオンの体を支えて、シオンの意識が戻るのを待った。
「・・・ナーガ」
「え?」
「ナーガが・・・私を必要としている」
シオンの言葉にオスカーは自分の耳を疑った。
「姉上、それは・・・」
「ナーガが降りてくることなんて、今まで一度もありませんでした」
シオンの顔色は次第に悪くなっていく。
テンルウがそのシオンに手を差し出した。
「立てるか?」
テンルウの心遣いにシオンは自分の手を差し伸べた。
「有難う。大丈夫です」
テンルウはシオンの手を握り、ぐいっとその手を引っ張った。その調子に合わせシオンも自分の身体を起こす。
「そろそろ、宿でも取りましょう。明日は早いわ。ユーリはおそらくローバーのディアマンテにつれていかれたのだと思います。バルキリーの杖もここに置きっぱなしというわけにはいきませんから、持っていきましょう、オスカー、近くにブランがいるはずだから、呼んできてちょうだい」
「はい、姉上」
オスカーは走って礼拝堂から出てしまった。
テンルウはシオンをただ見ている。
「私の顔に何か付いていますか?」
そのことに気付いていたのか、シオンは笑顔でテンルウを見る。
「別に・・・」
「変な人」
シオンはそう言い残し、バルキリーの杖を持って礼拝堂から立ち去った。
テンルウはその後も紅い涙を流している女神像を見つめている。
「聖戦の始まり・・・か」



カラカラと回り出す運命の歯車は止まることを知らない―――――――




作者:さぁ、物語も段々佳境に入ってきましたねぇ~・・・凄いですねぇ~・・・
テンルウ:まだ初めの方じゃん・・・何言ってんだか・・・
シオン:まったく、この作者はいつも大げさですわ
作者:こうでもしないと盛りあがらないじゃないか!!
シオン:貴方がそんなコトしなくても好きな方は盛りあがってくれますわ
テンルウ:・・・多分な
作者:・・・・・・