ユグドラシル聖戦記

コウヘイはユーリの手を引いて、リベロ城を走っていた。
ユーリもその足についていくのに必死である。
二人は、外で待っているマグの元に急いでいた。
コウヘイは銀の剣を持ち、追ってを次々に斬り殺していく。
そして、脱出劇の幕は開けたのだった。




第7章 脱出したユーリと攫われたシオン




リベロ城の城内は今、慌ただしい。
コウヘイはユーリを無事に連れ出そうと敵を倒すのに必死である。
「ユーリ!全速力で走れ!!」
「はい!!」
ユーリはわき目も振らずに一心不乱に走る。コウヘイはユーリの後ろから敵を倒しながらついていく。
「くそっ、キリがないぜ・・・!」
そうぼやきつつ、コウヘイは兵士を斬り倒していく。
ユーリも疲れの色が見えてきた。
「はぁ・・・はぁ・・・」
息切れもはげしくなってきたユーリの走りはだんだん遅くなる。
「ユーリ!!今は休んでいる暇なんかない!!いいから走れ!!」
「はい・・・!!」
ユーリは無我夢中で走る。
「ちっ・・・まだ着かねぇか・・・?!」
コウヘイの顔に焦りが見え始める。
ユーリは女なうえにさっきまで拘束されていた身。前から体力は落ちていたのである。一瞬コウヘイの頭に「ユーリを最後まで守りきれないんじゃないか」そういう思いがよぎり出していた。
ユーリの体力も限界に近づいてきたころ、外の光が差し込んでいる城門が見えてきた。
「コウヘイ!!もうすぐよ!!」
ユーリのその言葉にコウヘイはユーリにこう言った。
「ユーリ、マグに乗ったらすぐにマグを飛ばせろ」
「わかったわ」
服の裾を持ちながらユーリは懸命に走りつづけ、やっとの思いでマグのいる場外まで辿りついた。
「マグ、久しぶりね」
その言葉に返事をするようにマグアナックは嘶いた。
そしてユーリはマグの背に乗ると手綱を持ち、マグを飛ばせようとした。
マグはその大きな翼を大きく広げ、翼を上下に動かしだした。
コウヘイは敵を斬りつけつつ、マグの元に辿りつく。
「マグ!!飛べ!!」
その言葉をマグは理解したのかマグの身体が空に浮かんでいった。
「コウヘイ!!!!」
すると、コウヘイはマグめがけて飛んだのである。
マグの轡をつないでいる綱には一本の金具がつけてあり、そこから乗り降りできるようになっている。
その金具をコウヘイはつかんだ。
マグアナックは上空に舞い上がり、ユーリとコウヘイはリベロ城脱出に成功したのである。
「コウヘイ・・・」
「ユーリ、手を貸してくれ」
コウヘイは金具から左手を離し、差し出されたユーリの手を借り、無事にマグの背に乗ることが出来た。
「コウヘイ!!」
急に涙声になったユーリはコウヘイに抱きついた。
「ユーリ・・・」
そんなユーリを軽く片腕だけで抱きしめ返すコウヘイ。




すると―――――――




二人の口唇が重なり合った。
それはユーリが2年間、溜めに溜め込んでいた愛情表現だった。
「ユーリ・・・」あまりの唐突さに少し戸惑うコウヘイ。
彼の顔は真っ赤な林檎のように赤く染まっている。
「コウヘイ、シオン様を・・・シオン様を助けて・・・!!」
「そういえば、シオンって・・・お前の主だったよな?」
「ええ。貴方も一度お会いしたことがあるわ」
「あったっけ・・・?」
コウヘイは記憶力に乏しい。決して馬鹿というわけではないのだが、人の名前と顔が一致するのに半年はかかる。記憶力が無いだけである。
そんな無い記憶力を掘り出して思い出そうとするコウヘイ。
「私の城に遊びに来ていた時に、ちょうどシオン様はお父様に用事があって城にいらしてたの。その時にコウヘイは見かけたことがあるわ。真珠色の髪をした綺麗なお方よ」
「ああ!!思い出した!!」
真珠色の髪の人間はこの大陸では非常に珍しい。コウヘイはその珍しい髪の色の女性を他に見たことが無いので異様に印象に残っていたのである。
「確かに、かわいいと言うより、綺麗といったほうが似合いそうな人だよな・・・んで、その人がって・・・おい、ひょっとしてディアマンテが攫いに行った【シオン】って・・・」
「その人よ!!そのシオン様が危ないの!!ディアマンテがシオン様を攫いに行った理由は・・・」
「なんか深い理由でもあるのか?」
「ディアマンテはシオン様の持ってる巫女の特性を利用して力を手に入れようとしてるの!!」
「特性?」
「巫女は、その身体を純潔に保つことで、その魔力も普通の魔道士や私達司祭よりも遥かに上回っている。だから巫女って言うのは普通の騎士や傭兵より数倍も強いの。けどね、巫女は初めて交わった人にその魔力を交わった相手に自然に送り、その人の力に変換してしまうっていう不思議な能力をもっているの。その後の巫女は以前よりも高い魔力を貯め込むことが出来ないの。そしてその巫女に力を与えられた者は強靭な力を得ることになるの。それにシオン様はヘイムの血を引いた御方。ヘイムの血族はその魔力を使って結界を作り出す能力ももっているわ。その魔力がディアマンテに渡れば、この大陸そのものが支配されてしまう可能性だってあるの。まぁ、それ以前にシオン様を陵辱するなんて絶対に許せない!!」
やけに熱血してユーリは語ったのだった。
「わ、わかったよ・・・」
その迫力に押され気味のコウヘイだった―――




その頃、ランチアではディアマンテの軍が押し寄せ、シオン達に襲いかかっていた。
「いいか!?王女は殺さず俺のところへ連れてくるんだ!!あと街から金を巻き上げてこい!!」
ディアマンテは兵士達にそう指示した。
たまたま一緒にいたテンルウとシオンは街の様子が急に変わったのに不信を抱いていた。
「何だか、街の様子がおかしくありませんか?」
「そう言われてみれば・・・さっきより静かになったような気がするな」
そう言っていた矢先の話だった。
目の前にリベロの蛮族が二人の前に現れたのである。
「いたぞ!!グランビアの王女、シオンだ!!」
その言葉にシオンはぎょっとする。
「お前、何かしたのか?」
「いいえ、そんなことした覚えは一つも・・・」
「じゃあ何でお前を襲ってくるんだ・・・?」
「・・・さぁ?」
疑問を抱きつつ、シオンはリベロの蛮族と戦う為にリザイアの魔道書を懐から取り出す。テンルウもバルムンクを鞘から出した。
二人に対して一斉に襲い掛かってくる蛮族達。テンルウとシオンは背を合わせて敵に立ち向かう。
「リザイア!!」
シオン得意の魔法が炸裂する。
ちょうど同じ時、キラとオスカーも蛮族に襲われていた。
「オスカー様、私の後ろ、よろしくお願いしますわ」
「キラも私の後ろの方、よろしく頼むよ」
そう言って、オスカーは呪文を唱え、印を切る。


<聖なる光よ、我が意に従い敵を討ち滅ぼせ!!>


ライトトニングの魔法である。ライトニングは光魔法でもCクラスの魔法だがヘイムの血を引いたオスカーならライトニングでも十分である。
「ライトニング!!」
「イチイバル!!私に力を貸して!!」
弓兵のキラも伝説の武器・イチイバルを手にして蛮族を蹴散らしていった。
そしてマルスもオスカー達の近くで戦っていた。
「テンルウは?!」
「おそらく姉上と一緒じゃないかと」
「それなら王女の身も安心だね、とりあえず、こいつらをやっつけちゃおうか、王子」
「もちろんですわ、マルスさん」
ルサールカやクリシュナも蛮族たちと戦っていた。
「あなた、この場を切りぬけられるかしら?」
「大丈夫だ。兎に角早くシオン様の元へ・・・」
「ええ!!」




ルサールカは魔法で、クリシュナは剣でそれぞれ戦うのだった―――




「おい!!王女はまだ捕まえられないのか?!」
「はい、小人数とはいえ、かなり強力な軍ですので」
「ったく、どいつもこいつも役にたたねえな!!」
ディアマンテがため息をついたその時であった。
「なら、私が王女の力を封印して差し上げましょう」
黒い衣を身にまとったその者はディアマンテにそう言った。
「お前、たしか親父の・・・」
「シオン王女の魔法を封印することができれば、状況も変わるでしょう」
「・・・お前にあの女の魔力を封印できるのか?」
「はい、我等の長から預かりし、この<サイレス>の杖は魔力が相手の魔法防御を上回っていれば一時だけですが、魔法を封印することはおろか、言葉を発することさえ出来なくさせてしまうあやかしの杖。私の魔力ではシオン王女を止めることは本来出来ないのですが、これがあればシオン王女の魔法防御を上回ることもできましょう」
「マジックリングか・・・」
ディアマンテの言葉にうなずくその黒き者はうっすら笑みを浮かべている。
「なら、王女の魔法、封印してもらおうじゃねえか」
「御意」
そう言って黒ずくめは杖をかざし、魔術を唱え出した。
シオンは戦っているうちにテンルウと離れてしまい、今は独りで戦っていた。
「まったく、キリがないわ・・・」




そうぼやきつつ魔法を唱え印を切ろうとした――――




「・・・!!!」
のどに異変を感じたシオンは急にのどを押さえた。
<のどが・・・声が出ない!!誰かにサイレスを掛けられた?!>
その隙ができる瞬間を蛮族の一人が見逃さなった。
あっという間に右腕を掴まれシオンの身体は宙に浮く。
「!!!」
声の出ないシオンには助けを呼ぶことすら出来ずただ暴れるだけだった
「くそっ、おとなしくしねえか!!」
シオンは両腕を縄で縛り上げられ、担ぎこまれた。
<誰か・・・気付いて・・・!オスカー・・・>
その後にシオンが思い浮かべたのは父・クオリスの姿ではなく、さっきまで一緒にいたテンルウだった。
<・・・テンルウ王子・・・>
自分の不甲斐無さが心を締め付け涙が自然にこぼれるシオンだった。
「王子、シオン王女を捕まえてきました!!」
そう言って蛮族の一人がシオンを担いで連れてきた。
そして彼女を一目見たディアマンテの思考が一瞬、途絶えたのだった。
「美しい・・・」
「はい?」
蛮族の一人が変な顔をした。
「さすがユーリの主人だぜ。ユーリに負けずに綺麗だ・・・」
「ディ、ディアマンテ様?」
「よし!!決めた!!こいつは俺の妾にする!!!」
「!!!?」
シオンの顔が急に真っ青になり、首を思いっきり横に振る。
「嫌がってますよ?」
「誰がなんと言おうと、こいつは俺の妾!!本妻はもちろんユーリだぜ」
<駄目だ、自分の世界に入ってる・・・>
兵士はもう何も言わなくなった。
「よし!!てめえら、城に戻るぞ!!」
急に兵士達が引き上げていくのを見て、テンルウは諦めたのかと思いバルムンクを鞘に収め辺りを見渡した。
さっきまで一緒にいたはずのシオンが何処にもいないのである。
「・・・あれ?」
急に静まり返った、この街の近くでは人の声すら聞こえない。
<はぐれたか?まさか、逃げ出すはずないよな・・・>
そう考えながらテンルウはシオンを捜しだした。
1時間たってもシオンの姿は何処にも見つからない。
「・・・・・・」
一人立ちすくむテンルウ。
そしてそれはだんだん苛立ちに変わっていった。
「グランビアの王女―!!!!」
こう叫んだらきっと<王女と呼ばないで下さい!!>と怒りながら歩いてやってくるんじゃないかとテンルウは思い叫んだ。
だが、辺りは静まり返ったままである。
「・・・・・・」
だんだんテンルウはむなしくなっていった。
すると、オスカーとキラがテンルウの元に走ってきた。
「テンルウ王子、大変ですわ!!」
「姉上が、ディアマンテの軍に攫われました・・・」
「はぁ?!」
テンルウはシオンが攫われることなどまずないと思っていた。
彼はシオンの魔法の威力を目の当たりにした上、あの素早い動きには感心していたほどだった。
だから、彼女は攫われる事はないと確信していた。
それゆえにオスカーの言葉には半信半疑であった。
「ナディアの蛮族をほとんど全滅させたあの女がヤツら攫われるなんて、そんなバカな話しはないだろ?スピードもかなりあったみたいだったしな・・・」
「それが街の人が窓から見てたらしくて、その場所に姉上の魔道書と杖が落ちてましたから・・・まず間違いないでしょうね・・・」
その言葉を聞いてテンルウは心に何か空洞ができた気がした。
<・・・シオンが・・・そんな、まさか・・・>
信じられない気持ちと、不安がテンルウの心を襲った。
「テンルウ王子・・・貴方、まさか・・・」
キラはテンルウの気持ちにいち早く気付いたのであった。




作者:長かったねぇ・・・
キラ:今回も長い小説でしたね
オスカー:姉上ぇ・・・
作者:シスコンがここに一人・・・(ボソッ)
オスカー:ライトニングぅぅ~!!!
作者は灰になった。
キラ:オスカー様ぁ・・・