ユグドラシル聖戦記

ディアマンテがシオンを連れて城に帰ると、そこは異様な雰囲気に包まれていた。
「ディ、ディアマンテ様・・・ご機嫌麗しゅうございますだ・・・」
<ご機嫌麗しゅう・・・?>
ディアマンテは今まで兵士はおろか、メイドからもその言葉を聞いたことがなかった。
故に、なんだか嫌な予感が頭の中をよぎる。
「何があった?言え・・・。安心しろ、俺様は寛大だ。何があっても怒らないでやるぞ?」
「実はユーリ公女に逃げられましてぇ・・・」
「のわにぃ~~~~~!!!」




第8章 愛の芽生えとすれ違う心




「テンルウ王子、貴方まさか・・・」
キラの質問にテンルウは黙り込んでしまった。
<俺は、本当に・・・・・・>
そうして思い出したのはシオンが見せたあの笑顔だった。
「・・・」
「テンルウ王子・・・」
そうこうしていると、上空から一匹のドラゴンがテンルウ達のそばに降りてきた。
「あれは・・・トラキアのドラゴンナイト・・・?!」
「オスカー様!!キラ!!」
ドラゴンの背から降りてきたのは紛れもなく攫われたユーリだった。


「ユーリ?!」


二人は驚きを隠せなかった。
そして後ろにはコウヘイがいる。
「あの人、確かトラキアのコウヘイ王子だよ」
マルスが背後からテンルウに話しかけた。
「トラキアの王子がどうしてこんなところに?」
「ユーリと彼は許婚同士なんです」
オスカーはテンルウにそう言った。
「オスカー様、シオン様は?」
「ユーリ、せっかくだけど・・・今、雑談してる場合じゃないんだ。姉上がディアマンテ王子に攫われた。すぐに助けに行かなきゃいけないんだ」
「遅かったか・・・すまないユーリ、俺がもう少し早くお前を助けに行けばこんなことには・・・」
「コウヘイのせいじゃないわ。だから落ちこまないで。ディアマンテの狙いはシオン様自身じゃなく、シオン様の「巫女の特性」が目的ですわ。早くシオン様を助けに行かないと、シオン様の貞操が・・・!!」
ユーリの言葉に反応するテンルウの顔色は次第に青くなっていく。
それに気付いたのか、マルスがテンルウの肩に手を置いた。
「テンルウ、自分の気持ちに正直になったほうが良いよ。後から後悔しても僕は知らないからね」
と、彼はテンルウの耳元でそう囁いた。
「・・・・・・」
そして、テンルウは走ってランチアの街を出た。
「テンルウ王子?!」
「キラ、彼の後を追って!!私も後で行くから」
「はい!!」
キラはオスカーに言われ、テンルウの後を追って走り去っていった。
「それより、ユーリ。君はナディアに帰ってくれ。」
「いえ、オスカー様。私も行きます!!このままおめおめとナディアには帰れません!!」
「さっきまで攫われていたのに、同じ所に戻るつもりかい?」
ユーリはそうオスカーに言われ、黙り込んでしまった。
するとコウヘイがユーリの前へ割って入ってきた。
「ユーリの代わりに俺がアンタ達と一緒に行く」
「・・・コウヘイ」
「ユーリの為にここまでしてくれたんだ。ユーリの婚約者として黙っているわけにはいかない。俺も連れていってくれ」
コウヘイはオスカーに自分を連れていくように頼んだ。
オスカーはしばし考えこむ。
「それじゃ、ユーリはクリシュナと一緒にナディアに戻っていてくれ。姉上を取り戻したらすぐに戻ってくる。城でちゃんと待ってていてくれるね?ユーリ」
「・・・わかりました」
「それと、これはユーリに返すよ」
そう言ってオスカーがユーリに渡したのはバルキリーの杖だった。
「バルキリー!!!」
「姉上が誰もいない城に置いておくのはまずいからって持ってきてたんだよ」
「シオン様・・・」
「待っていてくれるね?君にもしものことがあったら私は姉上にも君の父上にも合わせる顔がないよ」
「はい!!」
それからしてすぐ、ユーリはクリシュナの馬の背に乗って、クリシュナと共にランチアの街を出て、ナディア城にへと向かったのだった。
「マルス公子、コウヘイ王子、ではリベロ城へ向かいましょう。ルカも・・・一緒についてきてくれ」
「はい、オスカー様」




その時、シオンはというと――――――




「いてててててて・・・」
ディアマンテの自室に連れこまれ、悪戯されそうになっていた。
「・・・・・・」
シオンはこれまでディアマンテに平手打ち5発は確実に入れていた。
けど、女の・・・しかも巫女の力では到底敵うはずもない。
だが、シオンには取っておきの技があった。
スカートを少し捲り、綺麗な足を伸ばし、ディアマンテ目掛けて振りまわした。
だが、彼女の蹴りはディアマンテには当たらず、近くにあった石柱に当たる。
すると、シオンの蹴りは石柱を粉々に砕いてしまったのだった。
それを見て、ディアマンテの表情が引きつり、青ざめる。
「な、なんなんだ?!女の・・・しかもあの細い足でなんで石柱が粉々に砕け散るんだよ?!!」
シオンは実は護身術に格闘術を修道院で叩きこまれていた。
その修行は極めて異常と言えるべきものであった。
足に30キロの重りを付けて回し蹴りの練習やら、普通の修道院ではやらないような過酷な修行をさせられていたのだった。
それ故に、あの細くて綺麗な足でも石柱を粉々にする力があったのだ。
流石にそれを目の当たりにしたディアマンテに焦りが出始める。
恐らく、あの蹴りを食らえば、骨は一撃で折られるどころか、粉砕してしまうと考えた。
そこで、彼は彼女を気絶させようと考えた。
「チッ・・・おとなしくしやがれ!!」
ぐいっと身体を引き寄せられみぞおちに拳を叩きつけられたシオンの目の前は暗転していった。
<いや!誰か助けて・・・>
その思いは言葉には決してならなかった。




「テンルウ王子、待ってください!!」
キラはやっとの思いでテンルウの足に追いついた。
「一人で、どうなされるおつもりですか?!」
「・・・アイツを助けに行く」
テンルウは少し息を切らせながらもキラにはっきりと言った。
「やっぱり、シオン様のこと・・・お慕いしてらっしゃるのね」
キラの質問に答えはしなかったものの、テンルウは首を縦に振った。
「そうらしいな、情けないぜ。よりにもよって俺の国の侵略者で、俺の祖父の仇の娘に惚れるなんてな」
「・・・仇?シオン様が?」
キラにはテンルウの言葉の意味がわからなかった。
「戦争は何も生まない」
「・・・何を急に・・・」
キラは少し暗い表情でそう呟いた。
「シオン様のおっしゃっていた言葉です。本当はシオン様、アリストへの凱旋を反対してらっしゃったの。アリストが戦争を仕掛けることになったのには何か深い理由があるに違いないって。けど、国王陛下もシオン様のお父上もソアラ城の公爵に丸めこまれて・・・凱旋してしまった」
「・・・俺の祖父はユグドラシルへ行ったまま、二度と帰ってはこなかった」
「それ、本当なのですか?!」
「ああ。城の者は皆、祖父が殺されたと思い、ユグドラシルとの全面戦争に望んだんだ。俺は父にバルムンクを授かり、生き延びるためにユグドラシルへ来たんだ」
キラの表情が急に青くなったのは言うまでもなかった。
「そんな・・・トレノ王はグランビアにはいらっしゃってないわ」
「・・・何?!」
「オスカー様が言ってましたわ。貴方のお連れのマルス王子とちょうどその話になってたみたいで。それにアリストからユグドラシルへ来る場合、私の城のアベニールを越えないとグランビアには行けないんです。アベニールにトレノ王はいらっしゃってないわ。これは確実な情報です」
テンルウはその言葉を疑ってしまった。もしそうなればグランビアとセフィーロは戦争をする直接的な理由がないのである。
「まさか、そんな・・・じゃあ、誰かが戦争を故意に起こしたとでもいうのか・・・?!」
「そうしか考えられませんわ」
「・・・・・・」
テンルウは今まで誤解していたのだった。グランビアの王族が自分の祖父を死に至らしめ、戦争しかけてきたとずっとそう思っていた。
「とりあえず、俺はこのままリベロへ行く。アイツを取り返しに行く。後には引けない。それに・・・」
「それに?」
キラは首をかしげてテンルウに質問した。
「惚れた女をおめおめとあんな薄汚いヤローに取られてたまるか!!」
その言葉を聞くとキラは少し笑った。
「何故笑う?」
「今まで、シオン様を慕ってきた男の人は幾人もいましたけど、やっとシオン様を人並みに恋愛が出来そうですわね」
「・・・・・・?」
「シオン様も、昔・・・恋をした相手がいました。シオン様は特徴しか教えてはくれませんでしたけど・・・2年前に、ある任務で行った国で、黒髪の綺麗な・・・小さいのにとてもしっかりした少年に会って、彼のことが気になって仕方ないって・・・私にそっと教えてくれました。でも、それ以来シオン様は彼の話をしてくれる事はなかったんですけどね。テンルウ王子はシオン様が言ってた初恋の相手にとてもよく似てる・・・」
「・・・何故そう思う?」
「どうしてでしょう・・・何故かそう思うんです」
「まぁ・・・黒髪の人間はアリスト王国以外、見る事はないがな・・・」
「とにかく、早くシオン様を助けに行きましょう!!私も共に行きます!!!」
そしてテンルウとキラは再び走ってリベロ城へと向かった。




「畜生・・・一体どうなってるんだ!!」
気絶している隙にシオンを陵辱しようとしたディアマンテはシオンに触れられずにいた。
シオンは意識を失っているが無意識のうちに結界を生み出し、その結界がシオンを守っていたのだった。
その光はまばゆく、青白い光を放っている。
「こんな話、聞いてねえぞ!!」
そう言いつつシオンに再び触れようとした―――




バチィッ




結界がシオンに触れることを拒み、ディアマンテは結界の力によって壁にたたきつけられた。
「・・・気絶させなかった方が良かったかな?」
今更そんな風に考えるディアマンテだった。




2時間後―――――




テンルウとキラはリベロ城へ着き、すぐさま戦闘に入っていた。テンルウがバルムンクで剪伐し、キラがそれをイチイバルで援護するといった形でリベロ城の城内を走り回っていた。
そして、テンルウはリベロの兵士の胸倉を掴んだ
「言え!!グランビアの王女は何処だ!!」
「へっ・・・そんなこと親切に教えるかよ」
リベロの兵士はものすごく反抗的にテンルウにそう言い放った。
その言葉にテンルウはだんだん苛立ってくる。
「吐け!!シオン王女は何処にいる!!」
リベロの兵士はそっぽを向いて話そうとはしない。
「吐かないなら貴様のその首、生きたまま斬り落とすぞ?!」
ものすごく怖い顔つきでテンルウがそう言って脅すと兵士は顔色を真っ青にし、両手を組んで涙ながらに言った。
「すいませんすいません!!何でも言いますからそれだけは勘弁してくださぁい!!」
「言え、シオン王女は何処にいる!!」
「ディ、ディアマンテ様が自室へお連れになりましたぁ・・・」
「自室は何処にある!!」
「王室の玉座の奥にありますドアがディアマンテ様の自室ですぅ・・・」
「嘘じゃないだろうな?」
「嘘じゃないですぅ・・・」
半分泣き、半分放心状態で兵士はそう言った。
「よし、今は信じてやる、嘘をついてたとわかったら・・・貴様の身体、バラバラに切り刻んでやる。キラ、お前はここでコイツ、見張っててくれ。嘘ついてたら困るし、オスカーがそろそろ来るだろ?」
「わかりましたわ」
キラは一人王室近くの廊下に残り、テンルウは奥に入っていった。
テンルウと別れて間もなく、キラはオスカー達と合流した。
「テンルウは?」
マルスがテンルウの居場所をキラに聞いた。
「シオン様の元へ・・・」
「おい、シオン王女の居場所は?そこにディアマンテも居るだろう?」
「王室の玉座の奥に部屋があるそうですから・・・」
そうキラから聞くとコウヘイも何も言わずに王室へと走っていった。
テンルウが王室のドアの前に着いた後、すぐにコウヘイがテンルウの後を追ってやってきた。
「ここに王女が?」
「そうらしいな」
「ディアマンテは俺が殺す」
「好きにしろ、俺は王女を助ければそれでいい」
コウヘイとテンルウは王室に入っていった。
するとそこは真っ暗で何も見えない状態だった。だが、ドアを開けっぱなしで入っているので何処に何があるかの判別はつく。
玉座の奥に見えるドアがディアマンテの部屋。




そこでテンルウとコウヘイが見た光景は――――




今に襲わんとしているディアマンテとベッドに横たわってるシオンの姿だった。
「貴様ぁ・・・シオンに触るな!!」
「何!!どうやってここが・・・!!」
「・・・これでお前も終わりだな、ディアマンテ」
「てめえ、シヴァ!俺を裏切ったな」
「ユーリを攫った上に俺を侮辱した礼、今させてもらうぜ。お前の命でな」
その言葉を聞いた瞬間、ディアマンテの顔が青くなる。
「まさか、お前は・・・!!」
「・・・俺はトラキアの王子、コウヘイだ」
「畜生・・・俺をだましやがったな!!だが俺には切り札がある!!」
ディアマンテは傍にあった斧を、気絶しているシオンの首筋に当てた。
「動くなよ、動いたらこの女の首が飛ぶと思え」
ディアマンテはテンルウとコウヘイを脅した。
テンルウは少し悔しそうな顔をしている。
だがコウヘイは――――




「・・・動く必要など・・・・・・ない!!!」




コウヘイは持っていたグングニルをディアマンテに投げつけた。
そのグングニルは見事、ディアマンテの左胸に突き刺さった。
「畜生何で俺が・・・」
それがディアマンテの死に台詞だった。
テンルウはディアマンテの死体を蹴り上げシオンから離した後、気を失ってるしオンを抱きかかえた。
「お姫さん、しっかりしろ!!」
軽く頬を叩くテンルウ。なかなかシオンの意識は戻らない。
「おい、大丈夫なのか?」
だが、コウヘイがふっと顔を上げると、目に付いたのは粉砕した石柱のなれの果てと、残骸だった。
彼はコレを見た瞬間、なにやら嫌な予感が頭の中をよぎった。
<・・・ディアマンテが自分の部屋の石柱を壊すとも思えん・・・まさか・・・これって・・・>
だが、彼はその先の考えを深く仕舞い込んだ。
<・・・まさか・・・な・・・>
と思いつつ、コウヘイはシオンに視線を戻す。
「・・・よかった、着衣に乱れはないからディアマンテには何もされてない・・・間一髪だっだぜ。シオン、目を醒ませ!!シオン」
するとシオンの眼が少しずつ開いた。
「・・・」
けどシオンの声はサイレスによってまだ封印されていた。
「お姫さん、大丈夫か?」
テンルウの質問に首を縦に振るシオン。
「良かった・・・」
そしてテンルウはシオンの身体をぎゅっと抱きしめる。
シオンはそんなテンルウの行動にちょっとだけ戸惑う。
「王女?」
シオンがさっきから一言も話さないことに気付いたテンルウはシオンを気遣う。
「そうか・・・魔力を封じられてるから喋れないのか・・・」
彼がそう言うと、シオンはまた頷いた。
テンルウは元に戻るのを黙って待つ。
そして、シオンののどから違和感が消えた。
「あ・・・・・・有難うございます、テンルウ王子」
やっと声の出せたシオンの顔は笑顔に戻っていた。
その笑顔を見てテンルウの顔は赤くなる。
コウヘイはテンルウの気持ちがわかったのか部屋から出ていってしまっている。
「シオン、俺は・・・」
「初めてですね」
「え?」
「貴方が私の名を呼んでくださったのは」
「ああ・・・そういえばそうだったな」
しばし沈黙が部屋を襲う。
その沈黙を破ったのはテンルウのほうだった。
「シオン、単刀直入に言う。俺は、お前が好きだ」
突如言われたその言葉にシオンの顔は林檎のように赤くなる。
「へ・・・?」
シオンはテンルウが冗談でも言っているのかと思っていた。
「そんな、冗談はやめてください。テンルウ王子・・・」
「俺は、お前が好きだ。この気持ちは嘘じゃない」




そう言われたシオンは――――――――




「ごめんなさい、私・・・自分の気持ちがわからない。わからないの・・・」
今までそんな気持ちになったことすらないシオンには、テンルウの気持ちにどう答えて良いのか、自分の気持ちはどうなのか、それがわからなかった。




作者:さぁ・・・ついに恋愛の始まりが来ました!!ハルですよ。ハァル!!
キラ:次はどうなるんですの?
作者:ローバー城へ出向くことになります。
キラ:どうしてですの?
作者:シオンの命を狙ってる輩がいるから
キラ:シオン様、お可愛そう・・・
作者:キラ、君はシオンにお説教しなくちゃいけないんだからね
キラ:そうなんですの?では私、シオン様のために頑張りますわ☆
作者:おう、頑張ってくれたまへ!!