ユグドラシル聖戦記

シオンは心の奥底で孤独になっていた。
<シオン様は立派な巫女として、この先、生きてゆかねばならないのです>
<シオン様はすばらしいわ。父上の言い付けをきちんと守って>
<シオン、お前は選ばれし者。恋愛は私が認めた者以外とは許さん>
そんな過去に言われたことがシオンの心を苦しめている。
それでも最後に思い出す言葉は――――――




『シオン、幸せになって・・・そして、私の分も精一杯生きてね・・・ゴメンね、ずっと傍にいてあげられなくて・・・』
オスカーを産み、産後の肥立ちが悪くその日のうちに亡くなった母の言葉とそしてもう一つ



「シオン、お前が好きだ」



先ほどテンルウに言われたその言葉だった。




第9章 シオンの決意




ローバー城では今、王子ディアマンテの死でユグドラシルの戦争の意思を見出していたものがいた。
「国王よ、これでもまだ信じられぬか・・・」
「しかしのう・・・あれはディアマンテの犯した罪、一国の王女を攫って手玉に取るなど王子としてあってはならぬ行動。それにあの子は元々強欲な息子だったから、あの子にこのローバーを任せるつもりなどなかったわい」
「では王位継承は次男の・・・」
「ジェミニに任せるしかないのう・・・」
「それと、ユグドラシルはこれからおそらく、ここをのっとりに来るでしょう」
「そなた、本当に予言者なのか?」
「ええ、れっきとした・・・」
リベロ城で一晩を過ごすことになったシオン達はその後、自由行動を取っていた。
シオンは一人、バルコニーで青い空を眺めていた。
「シオン様」
そこへキラがやってきたのであった。
「キラ。貴方は、何処かに行かなくて良いの?」
「ええ、シオン様と今は一緒にいたいんです」
「そう・・・」
そう言うと、シオンはまた青い空を眺めた。
「シオン様、迷っておいでですね?」
そう言われたシオンはキラのほうを振り向いた
「図星でしたか」
「私は、自分の気持ちがわかりません。確かにテンルウ王子のお気持ちはすごく嬉しい。けど、私は・・・」
「巫女だから、ですか?」
キラの言葉にうなずくシオン。
その言葉を聞いて、キラはもの凄く怒っていた。
「シオン様!そんなことで一国の王女が勤まりますか!!」
急に怒鳴られてシオンはビックリした
「巫女だから?それでご自分の人生を棒に振るおつもりですか!?シオン様だってテンルウ王子の事、お好きなんでしょう?!ならどうして、ご自分の気持ちを素直におっしゃらないんですか!!」
キラは実はテンルウを見ているシオンの眼がいつもとはまったく違うことに気付いていた。
「え?えぇ??」
「それに、男の人に抱かれたら純潔でないと誰が決めたんですか?!」
「それは・・・」
「たとえ男の人に抱かれても心が気高かさと誇りを忘れなければ皆、純潔でいられると思います!!私は、シオン様の心を純潔に保てるお方がテンルウ様だと信じておりますわ!!シオン様、お父上の言いつけなんて、もう守らなくても良いじゃありませんか。シオン様の人生はクオリス様が決めるものではなく、シオン様。貴方が決めていかなければならないんです。ですから、もう迷わないで下さい。貴方を想ってくれている方はすぐ傍にいるんですから」
「キラ・・・」
シオンの心にある決意が産まれたのだった―――――――――




「テンちゃん、シオン王女に告白したんだって?」
「・・・ああ」
「王女は何て?」
「自分の気持ちがわからないって言われたよ」
「そっかぁ・・・どおりで落ち込んでるわけだ」
「うるさいぞ、マルス」
「あははは・・・なら気晴らしに闘技場でも行くかい?付き合うよ」
「・・・そうする」
そう言って二人は、リベロ城の城下町にある闘技場へと足を運んだのである。
「キラ、ナイフを持ってる?」
「ええ、持ってますけど・・・」
キラは弓兵なので接近戦用の護身具に短刀を持っている。巫女と司祭は必要以外の刃物の所持は禁じられている。シオンはキラからナイフを受け取った。
その後にシオンが起こした行動は――――



ザクッと音がなる。
「シ、シオン様?!」
「私は、もう一度自分を見つめ直します。一人の女として・・・見つめ直したら、きっと良い答えも見つかる・・・」
「シオン様、何もそこまでなさらずとも」
シオンは自分の長い髪をナイフで切り落としたのだった。
辺りに真珠色の長い髪がてんてんと落ちている。
「キラ、残りの髪を綺麗に揃えて下さる?」
「は、はい・・・」
キラはシオンから、ナイフを受け取ると、複雑な表情で主人の髪にナイフを入れた――――




テンルウとマルスは闘技場に来ていた。
まず、マルスが挑戦する。この大陸の正式の闘技場は勝ち抜き形式で、7人まで勝ち抜くだけで賞金は20000Gは手に入るのである。
基本的には怪我をするだけで死ぬことのないのが正式な闘技場なのだが、中には殺人が目的の裏闘技場もちらほらあったりする。
裏闘技場は出場するだけでも金が要るという噂である。
もちろん、二人が来ているのは正式の闘技場である。
マルスは余裕の表情で7人勝ちぬきをする。
そしてテンルウも、バルムンクを使わずに7人勝ちぬきを果たしたのだった。
二人が闘技場を見物をしようと観覧席に座った直後だった。
「ねえ、テンちゃん。あの人、王女に似てなくない?」
マルスの言葉にしかめ面をするテンルウ。
「シオンがこんなところに来るわけないだろう」
「でもあの子、真珠色の髪の色してるよ?」
「髪型だって違うし、それにあんな格好したとこなんて見たこと・・・」
しかし、よぉぉく見ると確かにシオンだったのだ。
服装も、普段の清楚な感じはまったく感じられない。
ノースリーブにスリットの入った白い服、おまけにスカートの裾が短い。
普段見慣れない格好とさっきまでとまったく違う髪形だったのでテンルウは気付かなかったのだ。
「あのバカ、何考えてんだ・・・」
「王女、どうしたんだろうね?あの髪・・・」
横髪は長いままだったが、後ろ髪はうなじが隠れるほどの長さしかない。
「シオン・・・」
テンルウの心にはシオンを心配することしかなかった。
シオンはキラと一緒に闘技場に来ていた。
「シオン様、観覧席にテンルウ王子がいらっしゃりますわ」
「そう」
「でも、本気なんですか?シオン様・・・」
「私は自分で自分の運命を切り開いていくわ。それが例え・・・今までで一人しかなったことのない道でも」
シオンはあることを考えていたのだった。




つい1時間前―――――――――――――




シオンはキラに髪の長さをそろえてもらった後にキラにこう言った。
「キラ、私セイジの称号を得ようと思うの」
「セイジって、巫女からセイジになった例は・・・」
「一つだけあるの。私の先祖でね」
「誰なんですか?」
キラの質問にシオンはこう答えた。
「ヘイムよ」
「ヘイムが?!」
「グランビアには今までヘイム以外で直系として女の子が生まれたのは私だけなの。だから、ヘイムの歩んだ道を歩んでみようと思うの。大丈夫、お父様ならきっと許してくださるわ」
「シオン様・・・」
「それにはまず、光魔法に頼らずに戦わなきゃならないの。雷・風・炎の三つで生きていける自信を・・・これから付けに行くわ」
「闘技場へ、ですか?」
「ええ。付き合ってくれる?」
「もちろんです、シオン様」こうして今に至るのだった。
「シオン様、頑張って下さい」
「ええ」
そうして観覧席を見たシオンは、テンルウと目が合ってしまった。
テンルウは険しい表情でシオンの方をじっと見ている。
そしてシオンは、テンルウに向かって笑ったのだった。
「さぁ、ゲームの始まりよ!」
シオンの最初の相手はソシアルナイト。
シオンは普段とはまったく違った雰囲気の衣装を着ているので比較的身動きが取れやすくなっている。おまけに今回は三属性魔法で挑むために魔道書は所持していない。
シャーマンやハイプリーストと言ったクラスはマージとは違い、三属性魔法の魔道書がなくても魔法が使えるのである。
シオンは今までで三属性魔法を使うのは修行時代以来である。
ちょっと自信なさげに相手を見るシオンを相手は少しばかり見くびっていた様子だった。「珍しいなぁ。女が闘技場に来るなんてなぁ・・・しかも相手が魔道士。こんなに運の良い日はないぜ」
「女だからって見くびらない方が身の為ですよ?」
「・・・ほざけ!!」
相手のソシアルナイトは馬の腹を蹴り上げ、馬を走らせ突進してくる。
「シオン様!!」
キラの心配する声が、シオンに耳に届く。
相手が槍を突き刺そうとした瞬間にシオンは後ろの方へバック転したのだった。
シオンは実は言うと、運動神経が良かったりするのだった。
それを見たテンルウは唖然とする。
「王女って、意外と運動神経良かったんだね」
「ああ・・・」
そしてシオンは態勢を立て直し、印を結んだ。


<遥かなる風よ、万物を切り裂く刃となれ!!>


「エルウインド!!」
マルスはシオンの使った魔法を見て驚いた。
「アレは、風魔法Bクラスの魔法・・・王女、どうして光魔法を・・・」
「・・・何か理由でもあるんだろ?」
「あるとしたら・・・王女、セイジの称号でも得るつもりかな?」
「セイジって、あの万能の魔道士と言われてる?」
「うん。ひょっとして・・・シオン王女って・・・」
「シオンがどうした?」
「いや、何でもないよ・・・」
その後、シオンは光魔法を一切使わず、三属性魔法だけで闘技場を制覇してしまった。
キラも闘技場を制覇し、二人は闘技場を後にしたとき、テンルウとマルスも闘技場から出てきた。
「まぁ、お二人もいらしてたんですか?!」
キラは二人に気付かなかったフリをして、白々しく驚きの表情を見せた。
「王女、その髪どうしたの?すごく綺麗だったのに、もったいない・・・」
「ちょっと気分でも変えようと思いまして・・・似合いませんか?」
そういってシオンはテンルウの方を見た。
すると、テンルウは少し怒っていた。
「なんだってあんな無茶するんだ!!闘技場で戦うなんて、お前は巫女なんだぞ?おまけにそんな・・・」
テンルウの目がまず先行ったのはスラっとしたシオンの足だった。
「・・・心配するじゃないか」
「は、はい・・・」
そう言われつつ、彼の視線の先に気付いたシオンは顔を赤くし、スリットを手でふさいで太ももを隠した。
「ではシオン様、私お先に失礼しますわ」
「あ、僕も先に行くね。テンルウ」
「え?ちょっとキラ・・・」
「おい・・・」
そう言ってキラとマルスはテンルウとシオンを残して先に行ってしまった。
「・・・・・・」
互いにさっきの出来事を思い出したらしく、顔を赤くして目をそらした。
<どうしよう、何を話せばいいんだ?>
<何?この胸の鼓動は・・・>
二人はそう心の中で思っていた。
「怪我、ないか?」
「ええ・・・」
テンルウはそう言うと、シオンの手を握り締めた。
「ごめんなさい、心配かけて」
「いや。無事なら良いんだ。だけど、無茶はしないでくれ」
「はい」
テンルウに言われて笑顔と共に返事をするシオン。
その笑顔を見るたびにテンルウはシオンのことを可愛いと思うのであった。
「テンルウ様、今夜二人きりでお話ししたいのですけれど、22時にバルコニーに来てくださりません?」
シオンからのお誘いである。
テンルウは断るはずもなかった。
「わかった。10時にバルコニーへ行けば良いんだな?」
「はい。じゃ、お待ちしてますわ。私は寄るところがありますから、先に失礼します」
シオンはテンルウに一礼をして一人歩いていった。
テンルウは内心シオンに誘われたことを嬉しく思った。




夜の10時――――――――




シオンは少し前からバルコニーで月を見つめながら、小さな竪琴を奏でていた。
今宵の月は満月で美しい輝きを放っている。
シオンの心には決意がしっかりと根をはっていた。
まるで、何かの終焉を思わせるような切なげな曲をずっと奏でていた。
そこへ、コツコツと靴の音がバルコニーに響き渡る。
「シオン、話っていうのは何だ?」
シオンは声のした方向を振り返った。
テンルウである。
約束通りに来てくれたのだった。
「明日、国に帰るんだってな。オスカーから聞いたよ」
「オスカーから・・・?そう、あの子がそんなことを」
今目の前にいるシオンからはいつもとは違う雰囲気が漂っている。
「お話しというのは他でもありませんの」
シオンの表情が一瞬暗くなった。
「約束を果たしましょうか」
「約束?」
テンルウの言葉に頷くシオン。
「ええ。貴方とナディアで交わした約束です。ユーリは無事にナディアに帰りました。これも貴方達のおかげです。そして・・・約束を守るべき時が来たと言う事です」シオンとテンルウが交わした約束。それは―――――




ユーリを助け出した後にシオンはテンルウに殺される。そういう約束だった。




「・・・!!」
約束の内容を思い出したテンルウの顔には何とも言えない感情が出てくる。
「私はもう、覚悟は出来ています。さぁ、私を殺してください」
シオンは瞳をすっと閉じる。
「・・・・・・」
テンルウはバルムンクの柄を掴み、バルムンクを鞘から抜き出した。
そして、シオンに近寄りバルムンクを大きく振り上げる。
シオンは瞳を閉じたまま開けようとはしない。




そう、これでいいの。私にはもう、何もないから・・・だから、生きている意味も何もない




シオンの心にはそういう想いが溢れていた。
だが、テンルウの心には戸惑いが生まれる。
<畜生・・・そんなこと・・・>
するとテンルウはバルムンクを放り、シオンの身体を強く抱きしめた。
「!!!」
シオンは、自分がテンルウの心を傷つけてしまったことに気付いた。
「そんなこと出来るわけないだろ?俺はお前に死んでもらいたくなんかない!!バカ、そんなことで綺麗な髪ばっさり切って・・・俺は、お前じゃなきゃ駄目なんだ!!お前の全てが欲しい」
その言葉を聞いた瞬間、シオンの瞳に涙が溢れてきた。
そして、今まで自分の心にあった疑問が答えを出した。
「ごめんなさい、ごめんなさい・・・!!!」
シオンはテンルウを自分から離した。
シオンの眼には涙が無数にこぼれ出す。
「私、貴方を傷つけてしまったのね・・・ごめんなさい・・・。私、私だって本当は・・・自分の気持ちを認めるのが怖くて、でも想いはどんどん募っていくの。ずっと抱きしめていて欲しいの。傍にいて欲しいの。離さないでいて欲しいの。だって私は、貴方が好きだから。どうしようもないくらい好きだから。ずっと、一緒にいたい」
自分の今まで押し殺していた気持ちが一気に爆発し、自分の気持ちをテンルウに打ち明けるシオンは涙ながらに言った。
そんなシオンを優しく抱きしめるテンルウ。
「シオン・・・」
「テンルウ王子・・・私は・・・」
「もういい、もういいよ。お前は女で、重い使命を背負った巫女だから、つらかったんだろ?ずっと傍にいるから・・・お前の傍を離れたりしないから・・・だからもう、泣かなくて良いんだ。苦しまなくてもいいんだ」
テンルウはシオンの顔をくいっと上げ、涙を拭いた。
「テンルウ・・・様。私は、貴方が好きです」
シオンは笑顔でテンルウに自分の一番伝えたかったことを、テンルウに告げた。
「シオン・・・」
そうして二人は月の下で、口付けを交わし、愛を誓ったのであった。




それが、悲劇の始まりだとは知らずに―――――――――――




シオン:テンルウ様・・・♪
テンルウ:シオン・・・♪
作者:はぁ・・・あとがきくらい、はぐはぐは勘弁してもらいたいよね・・・
テンルウ:作者、僻むのは良くないぞ
シオン:そうですわ、僻みですわ
テンルウ:そうだよなぁ~・・・シオン☆
作者:・・・・・・しばかれたいか、愚か者どもめ・・・!!
シオン:だって本当のことですもの☆
作者:だからといって、言って良いことと悪いことがあるだろう!!
テンルウ:頑張れよぉ・・・
作者:うるさいわい!!!
シオン:哀れですわ
作者:いいかげんにしくされよ・・・(怒)