ユグドラシル聖戦記

イナルナがライナを仲間に引き入れ、神官の称号を経て、約3日が経ち、ユウキの故郷であるトラキアへ入国した。
トラキア、王都カローラの他にも、スパシオ城、フィールダー城、レビン城がある。
その中にあるもっともレンスター寄りの城、フィールダー城は、トラキアの中で帝国への忠誠が強い者達が集い、反乱を起こすことを目論んでいる者も少なくなかった。
トラキアの王女、ユーリは病に倒れるまでその反乱分子と対立し、今までその者達を抑えてきたがすでに限界まで来ていた。
そして今、トラキアの反乱軍を率いるコウヘイの親戚にあたるフィールダー城の城主アルカディアはトラキアに帰ってきたユウキとその軍の要であるイナルナへ挑戦状を叩きつける。




第38章 限りなく近い死の狭間で




「ここがトラキア・・・ユウキが育ったところなのね・・・」
「あぁ、ここは特別優れた所こそないが、飛竜が育ちやすい地形だからな。竜騎士が主流なのも地形の関係が殆どだな。センティアを天馬の国というなら、ここは飛竜の国って言うわけだ」
「私、こんなに遠くへ来たの・・・始めてだから、何だか嬉しい」
イナルナはそう、微笑みながらユウキに言う。
「今まで帝国に見つからないよう、隠れながらウイングロードに篭りっきりだったもんな。でも、平和が来ればいつでも来れるさ」
「そうね、その為にも・・・頑張らなくちゃね。ね、ブラン」
「ワン!」
イナルナの呼びかけに、尻尾を振りながら吠えるブラン。
そう、和やかに話しているユウキとイナルナを尻目に、テンルウだけは厳しい表情をしていた。
彼の表情に気付いたショウが、彼に近づき、彼に話しかける。
「テンルウ様、どうかなさいましたか?」
「ショウか・・・いや、ちょっと昔の事を思い出してな」
「昔の事・・・ですか?」
「グランビアとアリストとの戦争があった頃の事さ。俺はマルスとアリストからここを抜けてユグドラシルに入った。その頃の俺はシオンを含めてグランビア王家の人間を許せないと思っていた。この手で殺す事を・・・心に決めてた」
「昔はシオン様とテンルウ様は敵対していましたね・・・。最も、シオン様にその気はさらさらなかったみたいですが・・・」
ショウの言葉に、テンルウはフッと笑って見せる。
「あいつは戦乱を生き抜くには優しすぎた。でも、あの優しさがあいつの魅力でもあった。今、子供達がこうして集っているのもあいつの人徳があるがゆえだ。あいつは・・・本当に凄い女だよ」
「だからなおさら、テンルウ様はシオン様に惹かれた・・・違います?」
「・・・かもな。あいつと一緒にいたら、あいつをこの手にかけることなんてすぐに消え失せたよ。でも、あいつはあの日から本当の微笑みを俺に見せることなんか・・・一度もなく逝ってしまった。それが一番の心残りだ」
そう言いながら、テンルウは今やシオンの形見になってしまった青いアミュレットをぎゅっと握り締める。
その瞳はとても寂しそうに、ショウの目には映った。
「でも、シオン様は幸せだったと思いますよ。テンルウ様と一緒になって、二人で時を過ごして・・・楽しかったと思います」
「そうだと、いいな」
「そうですよ。だからこそ、オグマやイナルナ様を置いて、たった一人でトンベリの軍へ赴く事を・・・最後まで躊躇ったんですよ」
ショウの言葉がテンルウの心に響く。
そして、彼は少し微笑んだ。
「でも、俺は・・・もう二度とあいつを抱きしめてやる事も出来ない。そんな想いをするのは俺一人で十分だ。子供達に同じ想いをさせたくはない。だから・・・命がけで守ってみせる。今度こそ・・・・・・!!」




丁度その頃、カローラ城では。ユーリの容態はしだいに悪くなる一方で、ユウキの妹のクスハはただ、兄の帰りを待っていた。
ユーリはクスハがイナルナの軍の元へ一刻も早く向かい、自分も戦いに参加したいという思いをもっていることはすでに知っていた。
しかし、自分の身体を気遣い、カローラに留まっていると言う事も知っていた。
そして、自分の命がもうすぐ尽きるということも・・・
「クスハ・・・私の事はもういいのよ・・・?だから・・・」
「母様、そんなこと言わないでください!!もうすぐ・・・兄様はイナルナ様と共に帰ってきます。それまで諦めないでください!」
涙が入り混じったような声でクスハはユーリを説得する。
「クスハ・・・これは私の罰なの。あの時、意地でもシオン様を止めればよかったのに・・・私は行かせてしまった。シオン様を・・・大事な主君を死に追いやった私への罰なの・・・だからいいのよ・・・」
「母様・・・シオン王女様は、母様にそんな思いはないはずです。これ以上・・・自分を責めないでください」
「・・・・・・クスハ・・・ユウキには話してなかったけど、もうそろそろ話さなくてはいけないわね」
「何を・・・ですか・・・・・・?」
「・・・ユグドラシル帝国の女帝、マイラのことです・・・」
ユーリがそう呟き、クスハは驚いた表情をする。
「母様、やっぱりマイラのことを知っていたのですか・・・!?」
ユーリは今日のこの日まで、ユウキにマイラの事を尋ねられても、一切口にしようとはしなかった。
知らないと、ユウキには言ってきかせていたのだ。
だが、このまま真実を墓場まで持って行っても仕方ないと、そう思い、クスハにだけでも真実を告げようと思った。
「マイラは・・・シオン様の身体を依童に降臨した・・・暗黒龍ロプトウスの化身です」
「母様・・・!?」
「そして、軍神ヘイムの双子の姉でもあった。マイラにとって、軍神へイムの生まれ変わりで、グランビア王家の血を色濃く受け継いだシオン様はマイラに一番近い存在であったの・・・マイラはシオン様の魂を身体から追い出し、その身体を手に入れた・・・マイラは本来、魂だけの存在なのです」
ユーリの重々しい告白は、さらに続いた。
クスハの表情も真剣な眼差しに変わり、ユーリの言葉をかみ締める。
「マイラは肉体を持ち合わせてはいない・・・彼女に「死」という概念は存在しないの。けれど、シオン様は身体を追い出される前にマイラの魂を自分の身体から二度と抜け出せないようにマイラの魂を封印し、マイラ自身に「死」という概念と直面させることができた。だから、今までイナルナ様には手を出さずに、帝国を作り上げ、力を蓄えていったの」
「でも・・・もしそうなら、イナルナ様が子供のうちに・・・始末したほうがよかったのでは・・・?」
「・・・マイラは知らなかったの。イナルナ様が生まれてることを・・・多分、そのことに気付いたのは10年くらい前ね」
「シオン様の身体を乗っ取ったのなら、脳に残ってる記憶を引っ張り出す事もできたんじゃないのですか?」
「それがね、出来なかったのよ。シオン様は封印を行った時に自分の記憶も封印した・・・マイラの周りにはイナルナ様の存在を確認できている人間は一人もいなかったのよ」そして、急にユーリの表情が険しくなった。
クスハはその表情を見て不思議に思う。
「平和に導きし光、輝きを失い希望が絶望へと変わる。ダインに最も近き者の手により、ナーガの力は絶える・・・」
「母様、まさかそれは・・・!!」
「・・・この間ね、ちょっとお祈りした時に降りてきた神託なの・・・」
ユーリは少し苦笑いをしつつ、クスハにそう告げた。
「イナルナ様は近いうちに死ぬわ。しかも・・・ユウキに一番近い力によって」
「お兄様に・・・・・・?」
クスハの問いかけにユーリは頷く。
「それが何なのかは、わからないわ・・・でも、その力は多分・・・マイラの腹心である12神将のうちの誰か・・・だと思うの」
ユーリの言葉を聞いたクスハは深く考え込んでしまう。
ユウキのイナルナに対する気持ちは、ただの恋愛感情としてはあまりに大きすぎる。
むしろ、ユウキにとってイナルナは人生の全てと言えるくらいに大事な人である。
ただ、ユウキは物凄い照れ屋なので、そのことは絶対に口外しない。
だが、明らかに態度ではその事がはっきりと感じ取れる。
そんなユウキに、イナルナが近いうちにしかも自分に近い力のせいで死ぬなどという神託が降りた事などは、口が裂けても言えない。
神託はいずれ必ずその言葉通りに現実に起こってしまう。
「クスハ・・・ユウキには、内緒にね・・・あの子はイナルナ様を慕っているから・・・」
「私には・・・兄様にそんなこと、言えません・・・」
ユウキの気持ちが痛いほどわかるクスハには、その事を聞いたユウキの気持ちを考えると胸が張り裂けそうになる。
「バルキリーは今、力を持たないただの棒と同じ・・・クスハ、絶対にイナルナ様を死なせては駄目よ。ユウキに、テンルウ様や私と同じ思いをさせたくないの・・・」
すると、ユーリは急に咳き込んでしまう。
その手には血がにじんでいた。
「母様、今はゆっくり寝てください。兄様が帰ってくるまで・・・」
クスハにそう言われ、ユーリは瞳を閉じた。
彼女はそれを見届けると、ユーリの布団を掛けなおし、ユーリの部屋から出ていった。
クスハが部屋を出ると、扉のそばにはファングが控えていた。
「ファング・・・いつからここに・・・?」
「20分くらい前、でしょうか・・・大事なお話をされていたのでずっと待っていました」
「もしかして・・・話の内容・・・」
「聞くつもりはなかったのですが、聞こえてしまいました・・・」
ファングが申し訳なさそうな表情で、クスハに頭を下げる。
「うぅん、いいの。でも、兄様には絶対に口外しないでね・・・」
「もちろんです。イナルナ様が亡くなられるなど・・・言う勇気など私にはありません」
「そうよね・・・私ですら言う事など・・・できないもの・・・」
「はい・・・それでクスハ様、王妃様の様子は・・・?」
ファングがクスハにユーリの状態を聞くと、クスハは首を静かに横に振った。
その様子を見たファングは切なそうな表情をする。
「肺まで病気が進行してしまってる・・・もう、1週間も持たないと思う・・・」
「・・・そうですか・・・」
「ファング、それより私に何か用があってここで待っていたのでしょう?」
「あぁ、そうでした。ユウキ様がイナルナ様と共に王国領内に入られたという情報が入りまして・・・」
ファングの報告を聞いたクスハが、嬉しそうな表情になる。
「それ、本当なの?!」
「えぇ、ですが同時にアルカディアが動き出したようです」
「アルカディアが・・・?!」
「先程、密偵をフィールダーに送っていたのですが、その密偵から連絡がありました。主力部隊が暗黒魔道部隊という情報が・・・」
「ファング、母様が亡くなられる前にどうしても兄様に帰ってきて欲しいの。一刻の猶予も許さないわ。お願い、イナルナ様の軍に加勢にいけないかしら・・・?」
クスハの言葉に、ファングは考え込んでしまう。
竜騎士は基本的に魔法防御に乏しい。
魔道士が主力の部隊に戦いを挑むなど、自殺行為に等しい。
だが、今は緊急事態でもある。
「わかりました。ですが城の警備が手薄になってはいけません。最小限の兵力を率いて加勢に行きます」
「ありがとう、ファング!!貴方には私が出撃前にマジックシールドの魔法を掛けてあげるわ。絶対に兄様を連れて帰ってきてね・・・」
「恐れ入ります、クスハ様。絶対にユウキ様を連れて帰ってきます」
そう言うと、ファングは出撃準備に入る為、クスハの前から席を外した。
一方ユーリの方は、クスハが部屋を出た後、眼を開けていた。
そして、哀しげな表情になる。
「コウヘイ・・・ごめんなさい。結局私・・・何も出来なかった・・・何も出来ないうちに・・・貴方のもとに行くことになるわ・・・それでも貴方は・・・そんな私を・・・許してくれる・・・?」
その瞳には涙が浮かんできた。




数時間後、イナルナ軍はフィールダー城が見える位置にまでトラキア王国の中を進んでいた。
しかし、彼らはすでに戦闘準備万全の状態である。
「イナルナ、フィールダー城の城主、アルカディアは中々手強い相手だ。あいつはマスターナイトだからな・・・」
「マスターナイトか・・・確かにちょっと手強い相手ね。油断は禁物だわ・・・」
「あぁ、相手もどんな手を使って攻めこんでくるかわからんぞ?」
「うん、わかってるわ」
<最も、イナルナだけは俺が全力で守ってみせるがな・・・>
とユウキは心の中でそう思う。
すると、偵察に行っていたオグマが血相を変えてイナルナの元に走ってきた。
彼の後ろからルウランとライナもいる。
「イナルナ、大変だ!!」
「どうしたの?オグマ・・・ていうか、息切れてるよ、大丈夫?」
「・・・っ、そんなこと言ってる場合じゃないって!フィールダーの兵の状況を見てきたんだが、あいつらダークマージやダークビショップを主体で攻めこんできてやがるんだ!!」
「数はだいたい500っていうところです」
「しかも、見たところダークビショップ全員がリザーブの杖を持ってるみたいなの」
その報告を聞いたイナルナの表情が一気に変わる。
ユウキもそれがどういうことか大体の予想はついてるみたいだ。
「ビショップの数はどれくらい?」
「ビショップは全部で20ね」
「ダークマージの他は全部アーマー系騎士です。陣形はダークマージが前線、その後ろがアーマー系騎士、そしてダークビショップと言うカンジですわ、お姉様」
「そのダークビショップはフェンリルやウォームは使えるの?」
「使えるみたいよ、もしウォームの魔法が来たら私のフォルセティで蹴散らすわ!!あいつらに正義の鉄槌を下すのよ!!」
ライナがそういうと、バックに炎が燃えあがる。その様子を見て、オグマは頭を抱えた。
ルウランは面白そうにわらってその様子を見てる。
ユウキは眼中にないようである。
「アーマー系は斬鉄剣があれば楽勝なんだけど、確か誰も持ってなかったよね?」
「いや、確かショウがストック一本持ってたはずだぞ?アイツ、最近色んな剣集めてたから・・・」
「私やお父様は月光剣があるので、斬鉄剣は必要ありませんわよ?お姉様」
オグマの言葉にルウランが補足をつける。
今現在、オグマは流星剣オンリーでルウランは月光剣オンリーである。
2人はテンルウに教えてもらってはいるのだが、まだマスターするにはほぼ遠い状態である。
「いやね、私が持とうと思って」
イナルナの言葉を聞いてオグマが慌てだす。
「何言ってる!!つい3日前に始めて剣を握ったヤツが、いきなり斬鉄剣を使うなんて無謀以外の何物でもないぞ?!!」
「何よ、お父様だって筋がいいって誉めてくれたのよ?それくらい大丈夫よ」
「どう見たってお世辞に決まってんだろ、それくらい気付け!!」
「でも、使うったら使うのぉ~!!!」
と、何故かイナルナとオグマはケンカしだしてしまう。
その様子を見てルウランはオロオロしている。
「あのな、斬鉄剣がどれくらい重いかわかって言ってるのか?!」
「わかんないけど・・・でも大丈夫だもん!!」
「お兄様・・・斬鉄剣はさほど重い武器じゃありませんわ・・・」
ルウランのツッコミにオグマは固まる。
「・・・だけど、無謀だったら無謀なんだぁ~!!!」
「・・・・・・」
その様子を見て、ユウキはマグに乗ってフィールダーとは逆の方向に飛んでいってしまった。
だが、兄妹ケンカの真っ最中であるイナルナとオグマにはそれに気付いていない。
ライナは面白そうに傍観モードに入っている。
「神官になりたてで、まだ守備力低いくせに、アーマー系の敵と戦うなんて絶対に許さないからな!!」
「もう、なんでオグマに親みたいなこと言わなれなくちゃならないのよ!!」
「父上だってきっと同じこと言うぞ、絶対に!!」
「私の作戦に文句あるんだったらオグマが作戦立てればいいじゃない!!!戦術なんて一切わかんないくせにケチつけないでよ!!」
ルウランは、自分じゃこの2人のケンカを止められないと思い、ケンカしている二人をその場に残しショウのいる方へと走っていく。
さほど離れていたわけじゃないので、すぐにショウのもとに辿り着く。
ショウの傍にはテンルウとカーディフがいた。
「ルウラン、息を切らして何かあったのか?」
カーディフが馬から降り、息を切らしたルウランの背中をさすってやる。
「ショウ、お兄様とお姉様がケンカしてるんです・・・なんとかしてくださいぃ~・・・」
ルウランの言葉を聞いてショウはがっくりと肩を落とす。
一方テンルウの方は頭を抱えている。
「あいつら・・・今どういう状況なのかわかってるのか・・・?」
「で、ケンカの原因はなんなんですか?ルウラン様」
「お姉様が斬鉄剣を使う使わないで・・・」
「もしかしてイナルナ王女、剣の修行始めて3日しか経ってないのに、あの斬鉄剣使う気でいるの?」
カーディフの質問に、ルウランは頷く。
「確かに・・・それはちょっと無謀というか・・・」
「全く・・・あいつらは・・・!!」
そう言いながら、ショウとテンルウはイナルナ達の元へ走って行った。
「大変だね、ルウランも」
「でもね、嬉しいんだ。今まで家族はいないって・・・思ってたから。兄姉がいるとこんなに楽しいんだって・・・」
「そうか・・・俺もアミナル姉さんがいてくれて、楽しかった記憶があるよ」
「うん・・・でも、カーディフ。今は私、貴方と一緒にいる時が一番楽しいの・・・」
ルウランのその言葉を聞いてカーディフが頷く。
カーディフがルウランの手を握り、二人の唇の距離がだんだん縮まる。
2人の距離があと1センチまで近づいた、その時である。
「カーディフ、ルウラン・・・お前達一体何やってんだ・・・?」
ウィングの呼びかけに、ルウランとカーディフが目を開け、2人はとっさに距離を遠ざける。
その顔は真っ赤である。
「ウ・・・ウィング、ど、どうしたんだい・・・?」
「お前、声が裏返ってるぞ・・・?」
「そ、そんなことないよ・・・・?なぁ?」
「え、えぇ。そ、そうだよねぇ?」
カーディフの問いかけにルウランも必死で弁解する。
<畜生・・・あと1センチだったのにィィィィ~!!!>
とカーディフは心で叫んでいた。
ウィングの後ろでそれを見ていたアミナルとユラがクスクスと笑っている。
「やっぱり、ルウランもカーディフもお互いを好きあってたみたいね」
「あ~あ、私も彼氏ほしぃ~なぁ~」
アミナルが二人の様子を見てそう言うと、ユラが羨ましそうに見てそう言った。
「全く、最近の子供は恋愛が早いことで・・・」
ナルツガイスもそう言いながら呆れてるようだった。



一方その頃、ケンカを繰り広げていたイナルナとオグマはというと・・・



みっちりテンルウに絞られていたのだった・・・
「この大事な時にケンカする馬鹿がどこにいるんだ!!」
「まぁまぁ・・・テンルウ様、そう怒らなくても・・・」
2人を怒鳴りつけるテンルウを諌めるショウ。
「俺はただ、イナルナを心配して・・・!!」
「言い訳するな!!結果的にはケンカに発展してたら心配もクソもないだろうが!!」
「ですが、イナルナ様。斬鉄剣を使用するにはもうちょっと剣に慣れてからにしてください。私も賛成しかねます」
「・・・・・・」
とその時、マグに乗ってユウキが帰ってきたのだった。
「ユウキ様、何処かに行ってたのですか?」
「あぁ、ちょっと買い物を・・・」
「買い物・・・?」
ショウの質問にユウキは白い布に包まれた細長い物体を取り出す。
「ユウキ様、これは・・・?」
「何も斬鉄剣だけがアーマー系騎士に効く訳じゃないからな。これだったらイナルナでも扱えるだろ?」
そう言ってユウキが出したのは白銀のレイピアであった。
ショウはそれ見て少し驚く。
「このレイピア・・・普通のレイピアとは素材が違うみたいですが・・・?」
「そりゃそうだ。俺が特別に仕入れたものだからな」
ユウキはショウに説明すると、そのレイピアをイナルナに渡す。
「ユウキ・・・これ・・・もしかして私に?」
「あぁ、お前にやるよ。これで自分の身を守れよ?」
「嬉しい・・・!!ありがとうユウキ!!」
その様子を見てオグマは面白くなさそうな顔をする。
テンルウの方はフッと微笑んでいた。
「よかったですね、イナルナ様」
「うん☆」
イナルナはそう言うと、ユウキの腕に抱きつく。
ユウキは頭を掻きながら照れてるようだった。
「それにしても・・・あまり見慣れない素材みたいですけど、何で出来てるんですか?」
「オリハルコンだが?」



「えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?」


ショウの問いかけにユウキが平然と答える。
が、それを聞いたオグマとイナルナは非常に驚き、ショウも驚きの表情を露わにする。
「ユ、ユウキ。こんな高価なもの、私受け取れないわ!!!」
イナルナはめちゃくちゃ焦りながらユウキにレイピアを渡そうとする。
「いいよ、それは俺が集めたオリハルコンで作ったものだから元手は掛かってない」
「でも・・・・・・」
「今じゃ誰も立ち入らないところにあったから大丈夫だ。それにまだ残ってるしな。安心して使ってくれ」
「う・・・うん・・・」
テンルウはイナルナの焦りようをみて不思議そうな顔をする。
「別に驚くほどでもないんじゃないか・・・?」
「父上、何言ってるんですか!?オリハルコンってめっちゃくちゃ高価な鉱石ですよ?!!しかもあまり数が取れないんで滅多に手に入らないんですよ!?」
オグマがそう力説すると、テンルウは懐から、一つの袋を出す。
その中はジャラッと音を立てた。
そしてテンルウはそれをオグマに手渡した。
彼はその中を見ると、そこには砂利程の大きさのオリハルコンがかなり入っていた。
「なっ・・・・・・これ・・・・・・」
「あのなぁ・・・今はどうか知らないけど、セフィーロの裏にオリハルコンが大量に取れる隠し鉱山があったんだよ。あれは王家の人間しか知らないから、まだ存在するはずだが・・・」
その言葉を聞いてイナルナもオグマも言葉を失う。
「俺は、クロノスの奥にある洞窟の中で見つけた。アリストにはオリハルコンを含んだ鉱石がたくさんあるみたいだし、あの辺りは誰も近寄らないみたいだからまだたくさんあったぞ?」
「ねぇ、オグマ・・・もしそれ知ってたら・・・」
「俺達・・・食べ物に苦労しなかったかもな・・・」
2人はそう言いながら肩を落とす。
「ユウキ、クロノス周辺の洞窟は一応王家が立ち入り禁止にした場所なんだが・・・?」
「帝国領になってからは自由に行き来できましたよ。まぁ、帝国のやつらも気味悪がって誰も入らなかったみたいですが」
「・・・・・・お前、勇気あるヤツだな、あそこ死霊の巣窟だぞ?」
テンルウはユウキの言葉を聞いて呆れつつそう言う。
だが、ユウキはそれを聞いても笑ってかわした。
「・・・さすがコウヘイの息子・・・怖いもの知らずなとこはそっくりだな・・・」




で、そんなこんなもあったが、再び作戦に話を戻す。
「とりあえず、私とライナ、カナメ、ウィング、アールマティが前線に出てダークマージと一戦交えます。回復のほうなんだけど、本当はクスハがいてくれればいいんだけど、今はいないから適任者がいないのよ・・・でね、相手が闇魔法なら、ナルツガイスはちょっと不利だと思うの。だからナルツガイスにリザーブとかの回復をお願いするわ。私もスキを見て、ナルツガイスの援助をするつもりだけど・・・」
「それ・・・古代のほうで使うのか?」
「うん、そっちの方が範囲を気にしなくても済むもの。ちょっと体力的には負担が大きいけどね」
古代魔法にも回復魔法は存在する。
存在するのはリカバー、リブロー、リザーブである。
杖を媒体にリブロー、リザーブを使うと体力には一切負担はかからないがその範囲は狭い。
古代魔法は、体力を媒体に使用できるがその消費は大きい。
だが、その分広範囲に魔法を使用することが出来るのである。
古代魔法の中で一番消費が激しい魔法はイリュージョンとライナロックという伝承が残されている。
ユウキはその辺を心配しているようだった。
「なるべくアーマー隊を早く一掃するよう心掛ける。イナルナ、無理するなよ」
「大丈夫よ、リザイアを主体に応戦するから・・・」
その様子を見て、ライナはオグマにこう呟く。
「あの2人、本当に恋人同士じゃないの?どこからどう見ても恋人同士にしか見えないわよ?」
「イナルナはユウキの気持ちに気付いてないし、ユウキは照れ屋だからその事絶対に口にしないからな・・・」
オグマの言葉にライナは信じられないと言った表情を露わにする。
「気持ちに気付いてないって・・・それちょっと鈍感すぎない?」
「イナルナにしてみれば、ユウキは優しい人だって言う風にしか思ってないんじゃないか?」
「彼、他の女の人にも優しいの?」
ライナの質問にオグマは首を横に振る。
「いや、他の女には容赦ない男だよ、ましてや敵ならなおさらだ」
「・・・・・・変な人たち・・・・・・」
彼女の呟きにオグマは<お前も十分変だがな>と思うのであった・・・
そしてそれから数時間後、イナルナ達はアルカディアの軍隊と一戦交える事になった。




作者:はい、10章完成しました。
イナルナ:この人、見事に1日で仕上げましたわ・・・
オグマ:明日、北の大地に雪が降るな・・・
イナルナ:まだ10月になってないのにねぇ・・・
作者:なんか・・・めちゃくちゃ酷い言われかたされてるって思うのは気のせい?
ユウキ:当然の結果だな。9章書き上げるのにどれぐらいの時間が掛かったと思ってる・・・?
作者:うぐっ・・・
テンルウ:でもまだトラキア編は続くだろうからな・・・
ユウキ:なんせ、本人が一番かきたかったのはトラキア編だったみたいだしな。
ファング:ギリアム・・・アリシアに続き、外伝だけのキャラだと思っていたのに・・・出せてもらって嬉しいです、ユウキ様。
ユウキ:あとがきにはギリアムもアリシアも出てないがな・・・
ファング:これも外伝作者がかなり本編に食いこむようなストーリーを書いてくれたおかげでしょうか・・・?
ユウキ:・・・ファング、それは禁句だ・・・(汗)