ユグドラシル聖戦記

イナルナ達はトラキア王国に入ってからはや、五時間が経った。
現在はフィールダー城の軍制と一戦交えている。
だが、ダークマージ部隊を一掃するために、魔道士メンバーが主力になり戦っているため、体力の消費が激しい戦争になっている。
ユウキは上空で必死にグングニルで攻撃し、ペガサス騎士三姉妹もトライアングルアタックを駆使して、ダークマージ一掃に貢献している。
オグマ達はその後ろに控えているアーマー隊との戦闘の為になるべく遠距離攻撃されないように、離れて待機している。
一方その頃、クスハにマジックシールドをかけてもらった、トラキア王国竜騎士団、騎士団長のファングは一刻も早く、ユウキの元へ向かおうと、10人の竜騎士団を率いてフィールダー城目指して竜を飛ばしていた。




第39章 偉大なる高僧侶との別れ




「急げ!!いいか、イナルナ様達の足手まといにならないように援護するんだ!!」
「しかし、ファング様向こうのダークビショップは遠距離魔法を所持しています、いかがなさいますか?」
「ダークビショップは私が斬り込み、混乱させる。その間に射程範囲内の奥の射程範囲外に近づくんだ!」
『はい!!!』
そして、彼らは一刻も早く着くよう、飛竜を飛ばす。



ダークマージを一掃しつつ、イナルナ軍は進軍する。
しかし、攻撃しつつ、ナルツガイスの回復を援助しているイナルナの疲労はピークに達していた。
だが、彼女は回復の手を緩めない。
全力で皆の体力を回復しないと、軍の勝利は難しくなってしまう。
「イナルナ!少し休め!!じゃないとお前の身体のほうが持たなくなるぞ!?」
ダークマージを斬りつけつつ、テンルウが娘の身体を心配する。
「いいえっ・・・これくらい、なんともないですわ・・・!!」
そうは言っても顔色は彼女の疲労を物語っている。
「くそっ・・・!!」
舌打ちしながら、オグマもバルムンクでダークマージを斬りつける。
ユウキにいたっては、イナルナを担ぎに行けない状態にイライラしている。
<ちくしょう・・・このままじゃイナルナが力尽きるまで時間の問題だ・・・!!>
と、頭の中で考えているところに、ユウキにとって見慣れた一騎の竜騎士がいた。
ファングである。
「ファング・・・?あいつ・・・」
とユウキがその竜騎士の行動を見て、動揺する。
こともあろうに、その竜騎士は遠距離魔法を所持しているダークビショップの軍団に斬り込んで行ったのだ。
しかし、その竜騎士は竜を華麗に操り、敵の攻撃を綺麗にかわしている。
そして鮮やかという言葉が似合いそうな攻撃を、ダークビショップ軍団相手にしている。
「アイツ・・・また腕を上げたな・・・?」
などと呟きながら、ユウキはアーマー隊に斬りこみに行く。
「ユウキ!!早くコイツらとのケリつけねぇとイナルナが・・・!!」
少し焦りの表情を見せて、オグマが上空にいるユウキに大声でそう呼びかけた。
「お前に言われなくても、そのくらい理解している!!イナルナの負担を・・・コレ以上重くしたりするものか!!」
2人は全力で、アーマー隊を一人、また一人と討ち取っていく。




それから数時間後、苦戦だったとはいえ、あらかたのアーマー隊とダークマージ隊を始末したイナルナ軍は、ダークビショップの一掃に全力を上げた。
だが、指揮官であるイナルナが疲労で倒れてしまったため、イナルナの代わりにショウが全軍を仕切っていた。
ウォームもフェンリルもあまり命中率が高い魔法ではないし、ある程度の距離まで近づくと、射程範囲から出てしまう。
いくら強固に見せてはいても、どれかが崩れれば、全て脆く崩れ去るものである。
それは現在では崩れ去った後しか大地には残されていなかった。
そして、何よりイナルナ軍が勝利の鍵を握れたのは、ファング達竜騎士団の加勢があったからである。
そのファング達はまず先にユウキの元へと訪れた。
ユウキは今、少し休んでいるイナルナと一緒にいた。
「ユウキ様!!」
「ファングか。久しぶり・・・・・・か?」
「お久しゅうございます。ご無事で何より・・・」
そう言って、ファングはユウキに深く頭を下げた。
「あぁ。まぁ今は俺じゃなくてイナルナが無事じゃないがな」
「イナルナ様も、お久しぶりでございます」
「お久しぶり、ファング。それより、貴方にお礼を言わなくてはいけないわね。ありがとう。貴方達が来てくれなかったら、今頃勝てたかわからなかったわ」
少し顔色を青くしているイナルナが、笑顔でファングにお礼を言う。
「いいえ、これくらいどうってことありませんよ。それよりユウキ様、ユウキ様の言い付けを守らずこうしてこの場に赴いた罰、後でお叱りでもなんでも受けます」
「いや、俺は別に怒ってなんかいないさ。クスハに頼まれたんだろう?俺の言葉は気にするな」
「ユウキ様・・・・・・」
その様子を見て、イナルナは少し微笑む。
イナルナの表情に気付いたのか、ユウキが少し不思議そうな表情で彼女を見る。
「イナルナ、何かあったのか?」
「うぅん・・・何にもないよ?」
「ならいいが・・・・・・」
「あ、ファング。確か外にアミナル王女と一緒にアリシアがいたはずよ。逢いに行ったら?久しぶりなのでしょう?」
イナルナの言葉にファングは少し顔を赤らめる。
「そうですか、では少し御前を失礼します」
ファングはユウキとイナルナに一礼し、テントから離れ、アリシアの元へと向かった。
ファングの背を見送った、イナルナの表情は少し羨ましい気持ちが混じっていた。
それを横目で見るユウキ。
どんな時でも、人に対する優しさが少しも変わらない幼馴染みを見て、ユウキはホッとする。
大抵、戦争の場に身を置かれると、人への思いやりだとか、人に対する優しさなどは簡単に消え失せてしまうものである。
それが欠落すると、戦争の空気に当てられ、内乱が起きたりするのも戦乱の世の中では日常茶飯事である。
このトラキアも一時はそういう状況に置かれていた。
だが、イナルナの傍にいるとそういう事すらも忘れてしまいそうなユウキであった。
丁度その頃、オグマ・テンルウ・ショウ・ノルン・ライナ・ウィング達はアルカディアの待つフィールダー城へと乗りこんでいた。




城に残っている全ての兵士を倒し、すでに玉座の間へと足を踏み入れていた。
「てめぇが・・・アルカディア・・・」
「やはり・・・あれ位の軍隊じゃ貴方達の足止め程度にしかならなかったみたいね・・・・・・」
苦笑いを浮かべながら、アルカディアはオグマ達にそう言い放つ。
「まぁ・・・イナルナを疲労させただけでも、合格点ギリギリってとこでしょうけど?」
「アルカディア、帝国に身を委ねて一体何の得があるというの?!」
「得・・・ですって?私は別に損得だけで軍を動かしたわけじゃない・・・全ては私の愛するツヴァイ様の為・・・」
「ツヴァイ・・・・・・12神将の一人ね・・・・・・!!」
ライナの言葉にオグマとノルンが彼女のほうを振り向く。
ショウやテンルウはあまり過剰な反応を見せてなかった。
「本当は、イナルナを殺すか、軍を全滅に追い込む予定だったんだけど・・・・・・カローラのユーリが死ぬ寸前までの足止めになっただけでも目的は達したも同然よ!」
「じゃあ・・・あの軍はまさか・・・・・・!!」
「そう、あんたたちとユーリを会わせない為の時間稼ぎに過ぎないわ!!」
「ユーリ・・・・・・」
「そもそも・・・ユーリの病気はただの病気じゃない。私が暗黒魔術の力を借りて、病魔の性質を変えたものよ。言わば、呪いっていう奴ね」
アルカディアは誇らしげにその事を坦々と語る。
だが、彼女の背後には何かが蠢いている事を、彼女は気付きもしなかった。
そのことに気付いていたのは、微かな殺気を感じ取っていたテンルウとショウ以外、誰もいなかった。
「これでカローラももうおしまい・・・!!コウヘイは戦死し、ユーリはもうじき死ぬ。ユウキもクスハもカローラを支えていけるほどの力はない。トラキアは私のものになるの!!」
「・・・・・・それはどうかな?」
さっきまで黙っていたテンルウがボソッと呟く。
「フッ・・・悪足掻きでもすっ・・・」
彼女の言葉は最後まで終わることはなかった。
アルカディアの左胸から生えた血がしたたっている矢尻・・・
それが彼女の生命の幕を下ろした。
だが、彼女を射ぬいたのはイナルナ軍の人間ではなかった。
「貴様・・・何者だ・・・?」
テンルウはその背後にいる者にそう言い放つ。
「・・・・・・殺気はかなり抑えていたはずなのに、よく私の存在に気付いたわね。まぁ・・・アルカディアの殺気はそれほど大した物じゃなかったっていう事ね・・・」
「・・・質問に答えろ」
「これは・・・返事が遅くなったわね。私の名はフュンフ。マイラ様の直属部隊の12神将の一人と言えば・・・理解していただけるかしら?」
テンルウやショウにとっては聞きなれた声の主はそう名乗った。
「姿を見せろ。このままでは帰すつもりは俺達にはないぜ?」
「お言葉に甘えたいところだけど、こっちも色々と都合があるものでね・・・今回はこの辺で引かせて頂くわ。それにしても・・・アルカディアはやっぱり使えない女だったわね。ツヴァイが直々に相手してやったっていうのに・・・どうやら無駄だったみたいね」
「ほぅ・・・随分と冷たい事をいうな・・・」
「使えないものは殺す。これが私達12神将やマイラ様のモットーなのよ」
「相変わらず・・・・・・人の命をなめてかかってるな・・・」
「弱肉強食。これがこの世の自然の摂理であり、それが全てを支配しているのよ」
その言葉を最後に、フュンフの気配は一瞬にして途絶えた。
テンルウはまだ、彼女がいた方向を鋭い視線で見つめている。
ショウも少し険しい表情で見ていた。
「ショウ・・・やはり12神将は・・・」
「・・・死者を冒涜していますねぇ。オマケに、当人とは明らかに違う性格・・・、残酷で非道な性格の持ち主にされてしまったみたいですね」
「畜生・・・」
テンルウとショウの言葉を理解できているのは、この場には誰一人いなかった。




イナルナが休んでいるテントに、オグマが入ってきたのはそれから30分後のことである。
オグマはユーリの死がすでに一刻と近づいていることを知り、ユウキにいち早くカローラ城に戻る事を薦めた。
ファングもユウキにその事を促すためにユウキを説得していた。
「ユウキ・・・私、カローラに行きたい」
そう言ったのは他の誰でもない、イナルナ本人であった。
「しかし、イナルナお前は・・・」
「ユウキ、ダメだよ・・・・・・親の死ぬ目に会うことなんて・・・二度とないことなんだよ・・・?」
「・・・・・・」
「ユウキ、私も一緒に行くから・・・だから行こうよ」
「・・・・・・わかった。すぐに出発する」
ユウキはそう言うと、マグの準備を始めにテントを出た。
そんな彼を見て、オグマとイナルナは少しホッとした表情で微笑んでいた。
「ファング・・・だったか?俺も一緒に連れてっては貰えないか?」
「お父様・・・・・・」
「え・・・あ・・・しかし・・・」
テンルウの急の申し出にファングは戸惑った。
ちなみに、テンルウとファングは初対面であり、テンルウがイナルナとオグマの父親だと言う事はまだ知らないでいる。
「ファング、その人は俺達の親父だ。おまけに、ユーリさんとは昔からの馴染みの人だ。だから大丈夫だよ」
「わかりました、俺の後ろで良ければお供ください」
ファングの言葉を聞いて、テンルウは少し微笑んだ。
「ねぇ、お父様。ショウを呼んできてはいただけないでしょうか・・・?」
「あぁ、わかった」
イナルナがテンルウにそう頼み、彼は一旦テントから出ていく。
そして、今テントに残っているのはファングとイナルナ、そしてオグマの3人である。
少しだけ、沈黙がこの場を包みこむが、その沈黙を破ったのはイナルナであった。
「お父様・・・凄く気にしてるみたいなの。ユーリさんの事・・・」
「・・・惚れてるのか?」
オグマの一言に、イナルナのロッドが彼の頭上に一撃を入れる。
「いってぇ・・・・・・冗談に決まってんだろぉぉぉ・・・」
「オグマ様、言って良い冗談と、そうでない冗談がありますよ・・・」
「全く・・・!!そうじゃなくて、多分・・・コウヘイさんの事だと思うんだ」
「コウヘイ様の・・・?」
「引け目に思ってるんだと思う。コウヘイさんとユーリさんを離れ離れにしてしまったことと、コウヘイさんを死なせてしまったことと・・・」
イナルナの一言に彼らは黙りこんでしまう。
何しろ、コウヘイの死に際を知っているのはテンルウくらいしかいないのである。
「お父様は・・・少し、死に急いだ戦い方をしてる。まるで死に場所を求めるように・・・」
「・・・他の仲間は死んでしまったのに、自分だけ生きてるっていう、負い目みたいなものか?」
「しかし・・・そればかりはどうにも・・・」
「誰も恨んでなんかいない。恨むべき人間は別にいる。それでも、認める訳にはいかないっていうところでしょうか・・・」
そう話をしている3人の会話を、ショウとテンルウはテントの外側で聞いていたのである。
2人とも複雑な表情を見せている。
「・・・・・・」
「なんだかんだいいながら、イナルナ様もオグマ様もテンルウ様の事を心配しているみたいですねぇ・・・」
「おいおい、何で親が子供に心配されなくちゃならないんだ・・・?」
「まぁ・・・テンルウ様はルウラン様含め、3人のたった一人の父親なのですから・・・・・・」
「・・・まぁ・・・な」
そう話している間に、準備を終えたユウキが二人の後ろに立っていた。
「ショウ、入るなら入れよ・・・邪魔くさい・・・」
と、ショウの耳元でボソッと呟くユウキ。
そう言われたショウはビックリして咄嗟に後ろを振り返る。
「・・・まだまだ甘いな・・・ショウ・・・」
テンルウは肩を竦め、呆れた表情でショウを見るのだった。
「ショウ?いるなら入って」
テント越しでイナルナに呼ばれ、軽く返事をしてからショウはテントに入る。
テンルウとユウキもショウに続いてテントの中へ入った。
「イナルナ様、何か?」
「私ね、ユウキと一緒にカローラ城へ先に行ってるから、後から来て欲しいんだ」
「で、そのときの指揮を私に取れ・・・と?」
「うん。キイナも天馬で行くって言ってたから、その間頼りになるのはショウだけだから・・・」
「わかりました。そのように致します」
ショウの言葉にイナルナは笑顔で頷いた。
「イナルナ、行くぞ?」
「うん!」




それから数時間後、ユーリはすでに虫の息となりつつあった。
クスハも、ユーリの傍でユウキの帰りを祈るように待っていた。
「お兄様・・・・・・早く帰って来て・・・!!」
涙声にも似たようなそんな哀しげな声で、クスハはそう呟く。
すると、ユーリの部屋のドアが少し乱暴に開けられた。
そして、少し急ぎ足でトラキア兵の一人が入ってきたのだった。
「なんですか!?お母様はご病気ですのよ?もう少し静かにドアを開閉しなさいとあれほど・・・」
思わず声を荒げるクスハをみて、兵士は申し訳なさそうに一礼する。
「申し訳ありませんでした、それはそうと、クスハ様。ユウキ様がお戻りになりました」
「本当ですか?!」
「はい!イナルナ様とキイナ様も一緒でございます」
「よかった・・・・・・間に合ってくれて・・・」
クスハは急に涙が込み上げてきたらしく、涙を零しながらそう言った。
すると、ユウキがイナルナと一緒に部屋に入ったのである。
「お兄様!!お母様が・・・」
「クスハ、今まですまなかったな。お前一人にまかせっきりで」
「いいえ、そんなこと気になさらないでください。イナルナ様、お久しぶりです」
クスハの挨拶に笑顔で軽く一礼するイナルナ。
彼女は後ろにいたキイナとテンルウを呼び、彼らもユーリの部屋に入れた。
「ユウキ・・・ちょっと、遅い帰りね・・・」
「すみません、母上・・・」
「おかえりなさい・・・イナルナ様も、よく来て下さいました・・・」
「ユーリさん・・・実はユーリさんに会わせたい方がいるんです。ユーリさんにとってはとっても懐かしい人・・・」
イナルナはそう言うと、テンルウの腕を引いて、彼女の傍に連れて来た。
彼の姿を見て、ユーリは驚きを隠せない。
「テ、テンルウ様・・・?」
「ユーリ・・・」
テンルウは彼女の名を呼ぶと、ユーリの手をギュッと握り締めた。
「テンルウ様・・・生きて・・・いらっしゃったのですね・・・よかった・・・」
「ユーリ、すまなかった・・・」
「それ以上、おっしゃらないで下さい・・・コウヘイが死んだことは、テンルウ様のせいなんかじゃありません。コウヘイは自分の意志でシオン様とテンルウ様について行ったんです。コウヘイにとって、テンルウ様は・・・親友だったんですから・・・」
「ユーリ・・・俺にとってもコウヘイは、大切な親友だったよ・・・」
切なそうな声で、テンルウはそうユーリに語る。
ユウキもイナルナもそしてクスハもその話を黙って聞いている。
「あいつの亡くした親友の変わりになれたかどうか怪しいところだがな」
「変わりどころか・・・それ以上でしたわ・・・。コウヘイは何も言わなかったけど、彼と一緒にいた時より楽しそうだった・・・」
「そう言ってくれると、少し救われるよ・・・」
その言葉を聞いて、ユーリは微笑む。
そして視線をユウキの方に戻した。
「ユウキ、貴方の力でイナルナ様を支えて、コウヘイ達ができなかった『平和を取り戻す』こと・・・必ず成し遂げなさい」
「はい、わかっています」
「それと・・・照れるからといって自分の言いたい事を押し殺したりしないで、いつか言う機会をなくしてしまうわよ・・・?」
そう言われて、ユウキはユーリのいいたかったことを察知する。
もちろん、彼女がいいたかったことは「イナルナにさっさとプロポーズしなさい」という意味である。
その言葉の意味がわかっていたのは、イナルナを覗いた数人であった。
「イナルナ様・・・ごめんなさい・・・貴方やオグマ様の母であるシオン様をみすみす・・・死なせるような事を・・・」
「ユーリさん、もう気にしないで。私もオグマもそんなことは何も思ってません。それに・・・ユーリさんは私達にとっても・・・母親だったのですから・・・」
「イナルナ様・・・・・・ありがとう・・・」
ユーリは、一筋の涙を零しながら、瞳を重く閉ざした。
「母上・・・・・・」
「お母様・・・・・・」
寂しい雰囲気だけが、その場を一気に包みこんだ。
その場にいたもの全てが、ユーリに黙祷を捧げた。
イナルナ軍はユーリの葬儀の為に、カローラ城に滞在することになった。
男性陣は騎士服装に着替え、女性陣は黒いドレスに身を固める。
カローラ城の礼拝堂が白い華で身を飾る。
ユーリが眠っている棺桶が祭壇に置かれ、その傍にはバルキリーの杖が置かれている。
イナルナとクスハが先頭に立ち、ユーリの冥福を祈るために祈りの言霊を捧げる。
それから数時間程して、葬儀は終わる。
ユーリを土に還す前に、ルウランが鎮魂歌をバックに踊りを捧げる。
その踊りは実に寂しげなものであった。
数時間に渡り、踊りは繰り返される。
そして、ユーリを土に還すのであった。




全てが終わり、ユウキは少し気を落ち着かせるためにバルコニーに出ていた。
言葉にできない悲しみと、彼は必死に戦っている。
黙って外を眺めるユウキを、イナルナはずっと見ていた。
だが、気配を消してはいても、好きな相手が近くにいると言う事をユウキが気がつかないわけがない。
「イナルナ、そこにいるんだろ?」
ユウキに名前を呼ばれ、驚くイナルナ。
なんでバレたんだろうという気持ちを表情に表しつつ、イナルナは顔を出す。
「ユウキ・・・・・・」
「・・・大丈夫だ、もう・・・ちゃんと戦える」
「・・・・・・でも、ムリしてる」
イナルナの言葉を聞いて、ユウキは彼女のいる方に振りかえる。
彼女の表情は実に寂しそうであった。
「産まれてからの付き合いだもの・・・それくらい、わかるよ・・・」
「イナルナ、俺は・・・」
「ユウキ、一人で苦しまないで。いつだって私は・・・貴方の傍にいるから・・・」
イナルナはそう言うと、ユウキに抱きついた。
「えっ・・・あ・・・」
突然の出来事に、彼は戸惑う。
だが、すぐに平静を取り戻し、彼女の身体をギュッと抱きしめる。
「ユウキ、元気・・・出して・・・」
「あぁ、明日からまた・・・戦争が始るもんな・・・」
「ごめんね・・・こんな時に・・・」
「いや、悲しんでいられないのは俺だけじゃない。大丈夫だ、イナルナのおかげで明日からまた戦える」
ユウキはそう言うと彼女の身体を離し、笑顔でそう言った。
イナルナもそれを見て微笑む。
で、その様子をやっぱりショウとテンルウは見ていたのだった・・・
「まったく・・・あそこでキスとかすればラブストーリーっぽくなるのになぁ・・・」
「・・・テンルウ様・・・前にも言いましたけど、これって出歯亀・・・」
「オグマとノルンはC寸前まで進んでるのに、あいつらはAすらもないってか・・・」
「テンルウ様・・・オグマ様達のも覗いてたんですか・・・」
「親は子供の幸せを一心に願い、見守るもんだ」
「これって、かなり屈折してると思います・・・・・・」
ショウは肩を落とし、そう呟くがテンルウの耳には一切入らないのであった。
「明日から、クスハも参戦するそうだ」
ユウキの言葉を聞いて、イナルナが驚く。
「クスハが・・・?回復の手が増えるのはかなり嬉しいけど・・・でも・・・」
「クスハを守る手段がない・・・か?」
ユウキの言葉に頷くイナルナ。
だが、ユウキは安心した表情でイナルナの肩に手を置く。
「大丈夫だ、クスハは母上に高僧侶の称号を貰ったそうだ」
「なら、攻撃魔法も使えるって事ね・・・よかった・・・」
そう言いながら、ユウキに微笑みかけるイナルナ。
ユウキもそんなイナルナに笑いかける。
「・・・今夜はもう遅い・・・明日も早いから・・・寝るとするか・・・」
「・・・ねぇ・・・ユウキ・・・小さい頃みたいに・・・一緒に寝ようか・・・?」
「えっ・・・!?」
イナルナの唐突な言葉にユウキは顔を赤らめる。
それを聞いたテンルウとショウも流石に驚いたらしく、驚愕の表情を隠しきれずにいる。
「イナルナ様ぁ・・・清純でいてくださいぃぃぃぃ・・・」
「いやぁ・・・いいことだ・・・うんうん・・・」
「テンルウ様ぁ・・・何納得してるんですかぁぁ・・・」
ショウが涙している中、テンルウは娘の成長に喜んでいるようだった・・・・・・
「いいでしょ・・・?今夜は・・・ユウキと一緒にいたいんだ・・・」
「お前・・・仮にも年頃の男と女が同じベッドで寝るって・・・どう言う意味かわかってるのか・・・?」
「わかんないけど・・・でも・・・ユウキは私に変なことしないってことはわかってるよ・・・?」
そう言われてしまい、内心肩を落とすユウキ。
どうやらショウはイナルナに恋のイロハ(?)というものを教え込んでいなかったようである。
イナルナもこの辺は母親のシオンとの違いを見せる。
でもシオンもシオンで昔は子供はコウノトリが運んできてくれるのだと思っていたみたいなので似たようなもの・・なのかもしれない。
「・・・ねぇ・・・いいでしょ・・・?」
少し切なげな表情をされ、ユウキは戸惑ってしまう。
だが、彼もコウヘイと同じで好きな相手の申し出を断れるほど、冷たい人間ではない。
「・・・わかったよ・・・イナルナ・・・」
その後、2人は寄り添うようにして、ユウキの部屋で夜を明かすことになる。
が、その夜の内に、何者かの手によってグングニルが盗まれるという、とんでもない自体が起こってしまうのであった。




作者:はい、11章完成しま・・・
オグマ:流星剣!!!
作者:うわっ!!何すんだいきなり・・・
ユウキ:ちくしょう・・・グングニル投げができないとは・・・!!
イナルナ:ユウキ・・・
作者:くっ・・・その腹いせに作者に攻撃とは・・・!!
テンルウ:まぁ・・・当然の結果だろうなぁ・・・・・・
ユウキ:何より腹立つのはオグマより役立たずって言われるのが腹立つ・・・
オグマ:・・・・・・ユウキ、俺にケンカ売ってんのか・・・?
作者:なんかヤバそうなので締めます~・・・