ユグドラシル聖戦記 外伝

復活した暗黒神の下僕 ヴァンパイア



ここのところ、平和な日々が続いている。

シオン達は1年半の間、このナディアで生活を送っている。

「あら、ユーリ。コウヘイ様の姿が見えないようだけど?」

「あ、シオン様。コウヘイったらまだ傭兵をやっていたときの癖が抜けなくて、仕事探しに行ってしまいましたのよ?呆れたものですわよね?一国の王子が…」

シオンはこの間コウヘイと話していた内容を思い出した。

「王女、女って………どんなものをあげれば喜ぶと思う?」

「はい?」

「いや………そろそろユーリの誕生日だし………何かあげたいなと思って…」

「う~ん…………ユーリの好みにもよるから………」

「そういえば、王女はテンルウから何をもらったんだ?」

「え?私ですか?このサークレットをいただきましたの」

「そういえば………この間とサークレットが違うな」

「今の私の一番のお気に入りですの」

「やっぱり………そういうものの方が喜ぶのかなぁ……」

「でも、コウヘイ様。一番肝心なのはその人を思う気持ちですわ。確かにもらったら嬉しいですけど……何も形にこだわらずとも…………」

「そうか…………」

そんなことを言っていたのだ。

(ひょっとして………ユーリの誕生日プレゼントを買う資金が欲しくて……)

そう思いつつシオンは

「あら、いいじゃない。人は色んなところで生きがいを見つけるものよ」

「そうですか………」

「それよりもね………最近邪気が強くなっているような気がするの」

「シオン様もそう思いですか?」

「う~ん………マイラの魂の封印が解けたせいなのかもしれないし……どっちにしろ気が抜けないわ」

「ええ……………」



その頃コウヘイはある神殿近くの村に来ていた。

「では………お願いします………」

「わかった」

コウヘイはマグを連れてその神殿にへと向かった。

仕事の内容は…………

神殿にある封印が解けそうだったので封印札を使ってその封印を掛け直すというないようだった。

村の人は神殿を怖がり入ろうとはせずに人に頼んでやらせようとする実に自分勝手な方法でことを治めようとした………

だが…………それがまずかったのである…………

暗く湿った神殿は嫌な雰囲気をかもしだし、いかにも何かが出そうなくらい不気味だったのである。

「これは…………入りたくないのも無理はないよなぁ……」

グングニルを片手にコウヘイは神殿の奥にへと入っていった。

そして一番奥の方に祭壇があった。

その祭壇の上には、何かを封印するように祠があってその祠の扉にはお札がはってあった。

コウヘイはその札をはがし、扉を開いた。

そこには子瓶に入った灰とその灰を覆うように一匹の白くて馬鹿でかい蝙蝠がいた。

「!!!」

その蝙蝠がコウヘイの顔にはりついた。

そしてその蝙蝠を払った瞬間、子瓶にコウヘイの血が1滴かかったのである。

「てめえ………よくも………」

その時であった。

その子瓶は不気味な光を放った。

その力は衝撃波を起こし、コウヘイの身体は吹き飛ばされ、コウヘイは柱に叩きつけられた。

「く…………」

一瞬意識が遠のきそうになったが、すぐに態勢を立て直した。

「フフフフフフフ……またこうして大地に足を踏みしめることが出来ようとは…思わなかった………」

「クライスラー様………お懐かしゅうございます…………」

「ブルーバード………長かったな………ヘイムに封印されてからもう何年経つのだろう……」

「もう………500年は経っています………」

「また………乙女の生き血が堪能できるな………」

「ははっ……………」

コウヘイは内心「やべえ………どうしよう………」と思った。

「しかし………あの男の血もなかなか………強い霊力を秘めているな……」

「クライスラー様には乙女の血が合っております……あのような男の血はやめた方が………」

(悪かったな………!!)

「じゃ、手始めに………女漁りでもしようか、ブルーバード」

「はい、クライスラー様」

そう言って、ヴァンパイアは飛び去っていった。



そして村へ帰ると…………村には誰一人………いなかったのである……。




「この馬鹿ぁ!!」

ユーリの怒鳴り声が城中に響き渡る。

「どうしたの?ユーリ……大声あげて怒鳴ったりして……」

オグマを抱いたシオンが、たまたますぐ近くにいたのでユーリのところへ歩いてきたのだった。

「シオン様、コウヘイったらマーチ神殿に封印してあったヴァンパイアを復活させてしまいましたのよ?!しかも………神殿監視していたハチロク村に人がいなくなったって話ですわ!!」

「それは……………一大事ね」

「そんなのんきに言わないで下さいよ、シオン様。いい?コウヘイ。ヴァンパイアを封印するまでは城に入れてあげないからね!!!」

「ユーリ………言いすぎよ」

シオンがちょっと困った顔をして、ユーリを叱る。

「封印するまで、コウヘイとは会わないし、口も利いてあげない!!」

そう言って、ユーリはスタスタと歩いていった。

『……………………』

コウヘイとシオンはしばらく黙り込んでしまった。

「王女………」

「何かしら?」

そう言って、シオンからオグマを奪い、片方の腕でシオンを小脇に抱えた。

「え?ええ??」

そして、オグマを床に置いた。

「さあ、ヴァンパイア退治に行くぞ!!」

「え?ちょっと………いやあ!!降ろしてぇ!!!!」



2時間後………

「シオン!!………………シオン!!」

テンルウはシオンを捜して城中を歩き回っていた。

そこへ、ユーリと鉢合わせたのである。

「テンルウ様、どうなさいましたの?」

「いや………イナルナが急にぐずり出して……泣き止まないんだ……」

「そういえば………シオン様、先ほどから見当たりませんね?」

ユーリとテンルウが話しこんでいると………

「だぁー……ぶぅー……」

なんと、オグマがはいはいをしてテンルウのところにやってきたのだ。

テンルウはオグマを抱き上げる。

「…………何でオグマがこんなところに………」

「そういえば先程、シオン様が抱いていらしたような………」

そして、少しの間沈黙が走る。

「まさかコウヘイ……………シオン様を連れていったわねぇ!!」

「………ユーリ、何かあったのか?」



「ヴ………ヴァンパイアなんてこの大陸にいたのか…………」

「シオン様の力を借りるなんて………自分が悪いのに……」

「まずいな………」

「え?」

「シオンは魔道書を持って歩いてないぞ」

「………………………」

「ロッドも部屋に置きっぱなしだ」

二人の間に再び沈黙が走った。

「コウヘイ………何処まで馬鹿なのよあいつはぁ!!」

「……………あの野郎…………シオンに何かあったら殺す!!」

「テンルウ様、とりあえず行きましょう。何かあったら大変ですわ!」

そこへ、運が悪いことにオスカーとキラがこっちに向かって歩いてきたのである。

「あ、オスカー様、丁度良いところに………」

「え?何が丁度いいの?」

「オスカー、こいつ預かってくれ。ついでにイナルナのお守もヨロシク!!」

「え?え???」

「じゃ、行くぞユーリ!!」

「はい!!」

そして二人は走り去っていった。

「……………何があったんでしょうね………」

「……………さあ……?」



シオンを無理やりマグに乗せて、マーチ神殿に向かうコウヘイ。

「よし、王女の力があればヴァンパイアなんて目じゃないぜ!!」

「あの…………どうでもいいんですけど………」

「ん?何だ王女」

「私………ロッドも魔道書も持ってないんですが…………」

「え?」

「今の私は手ぶらな上に三属性魔法しか使えません」

しばし、沈黙が流れる

 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「しまったぁ!!」

「城に戻れば、どちらも手に入りますが……?」

「いや、城には帰らない!!」

「……………頑固一徹ですわね………」

「他に方法は?」

「聖杯も城においてあります。聖水なら今持ってますけど………」

そう言ってシオンは懐から小さな子瓶を出す。その子瓶はペンダントの飾りだった。

「ただの飾りじゃないか…………」

「この中に聖水が入ってますのよ」

「へぇ………でもやっぱり定番は十字架とにんにくだよな?」

コウヘイがそう言った時、シオンは変な顔をして言った。

「今時……そんな弱点のヴァンパイアなんていませんわ……」

「……………やっぱり?」



マーチ神殿…………

マーチ神殿は昔マイラが女帝だったころ、ありとあらゆる美女を手元に置き何人もの女の生き血を吸ってきたヴァンパイアを封印してきた神殿である。

しかも、今となってはヴァンパイアの気にあてられ邪気に満ちている。

シオンとコウヘイはマグを神殿の入り口で待たせ、二人は神殿の中にへと入っていった。

コウヘイは片手にトーチを持っている。

「薄気味悪いですわ…………」

「さっきより不気味な気配がするぜ………」

そう言ってると………

神殿の柱の火が灯り出したのだ。

「どうやら………」

「歓迎してくれているらしいですわ…………」

そして………ひたひたと何かが歩く音が耳を打つ。

「…………」

そして……それは姿を現した。その瞬間………

「いやああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

シオンは顔を真っ青にして悲鳴を上げた。

やってきたのは…………

ゾンビの大群だったのだ。

「いやあ!!こないでぇぇぇ!!!!」

シオンは完全に取り乱してしまった。

「……………」

コウヘイは「役立たず………」と内心思っていた。

挙句の果てにシオンはその場に座り込んでしまった。

「いやあ………テンルウ様ぁ………」

ついには泣き出している。

「………………」

コウヘイはシオンのこめかみあたりの部分に銀の剣を柱に差した。

「うるさいぞ、王女!!!」

その時、シオンの頬に痛みが走った。

シオンは頬に手をあて、そして手のひらを見た…………。

血が少しついていた。

コウヘイが銀の剣を柱に差した時に切れたのである。

「…………………」

「本当に役に立たねえな!!」

そう言われた時、シオンの中で何かが途切れた……



「誰が役に立たないって?!」

さっきまでの声とは裏腹に怒気の入り混じった、低い声でシオンはコウヘイに向かって言った。

「誰が役に立たないんだって聞いてるんだよ?!」

シオンはコウヘイの胸ぐらを掴み睨みつけた。

<め………目が据わってる………>

「ったく………誰のせいでこんな状況になったんだ?人に頼るんじゃねえよ!!」

言葉遣いもさっきの穏やかな言葉ではなく、男言葉になっている。

「てめえらもうざいんだよ!!」

そう言ってシオンは胸元から一本の棒を取り出した。

そして、その棒から一本の閃光が鞭のようにうねりを上げた。

その鞭でシオンは周りにいるゾンビを叩きつけた。

「………………」

<メチャクチャ怖ぇ…………………>

コウヘイはさっき言った言葉を前言撤回しよう………そう思った。

「おまえも突っ立ってないで戦えぇ!!!」

「はい…………」

シオンの鞭がゾンビを叩きつけ、コウヘイの銀の剣がゾンビを切りつける。

二人は攻撃しながら奥へと走っていった。

ある程度来たところでゾンビの姿は消え、二人は息をつく。

「………王女?」

「なんだよ?!」

「いや…………」

「用がないなら呼ぶんじゃねえよ」

<こ……怖い上にまだ目が据わってる………>

「だいたい、何で自分で処理できないような依頼なんて受けるんだよ?プレゼントなんて花の1輪でも送ってやれば良いじゃねえか」

「いや…………でも………」

「金がねえのに無理すんじゃねえっつってんだよ!!」

コウヘイはシオンを話しているという実感がわいてこない。

むしろ怒ってるテンルウと話しているような気分である。

それくらい、今のシオンは怖いのである。

「テンルウ…………苦労するだろうな………」

ピクッとシオンがコウヘイがボソッと言ったことに反応した。

「何でそこでテンルウが出てくるんだよ?!!」

<………おまけに地獄耳…………しかもいつもは「テンルウ様」って呼んでるのに今、呼び捨てだったぞ?>

「お前………今すっごくむかつくこと考えてただろ?」

「いいえ!!そんなことは微塵も思っておりません!!」

「…………ふうん…………」

目つきもがらっと違うせいか、コウヘイは今すごくシオンに対して恐怖感を抱いている。

<王女って……………怒るといつもこうなのかな………?>

<でもこの間、テンルウと痴話ゲンカしてたような……?>

<……………とりあえず早くもとの王女に戻って欲しい……>

そう切実に思うコウヘイであった…………。

すると………

「コウヘイ様?どうかしました?」

シオンの顔つきはいつもの穏やかな感じに戻り、口調も元に戻っていた。

「…………王女?」

「なんですか?」

「……………いや…………なんでもない………」

「…………そうですか」

さっきのシオンの対応とはまったく違う。

「やっぱり………いつもの王女が良いな………」

「何か言いまして?」

「いえ何も…………」

<でも………やっぱり地獄耳だ………>



シオンとコウヘイはまだ続く回廊を歩いていた。

そして、だんだん自分たちが何処にいるのかわからなくなっていた。

「…………空間がねじれてる………」

「空間が?」

「ええ…………さすがは暗黒神の下僕………おそらく私達が来ると踏んで空間をいじったんですわ………1度戻ったほうがよさそうですわよ?」

「そうするか………」

コウヘイは後ろを振り返ってすたすた歩いていった。

そしてシオンもコウヘイの後についていこうとした瞬間に、口を押さえられ羽交い締めにされた。

意識が保っていられなくなり……シオンの意識は暗転していった。



しかし、さっきよりもあっさりと出口に着いた時にシオンがいないことに気付いた。

「あれ?王女…?」

とその時、ユーリとテンルウが神殿前に来たのであった。

「コウヘイ!!」

「おい。シオンはどうした?」

テンルウの質問にめちゃくちゃ躊躇するコウヘイ。

「王女は…………はぐれちゃった………」

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

「流星剣!!!」

テンルウの必殺技がコウヘイに炸裂した。

「ぐはぁ!!!」

そしてコウヘイは血だらけになって倒れた…………。



そのころシオンは薔薇の茎に両腕を縛られて、ある場所に連れてこられていた。

その場所には幾人もの女が全裸姿で一人の男に群がっている。

「…………」

「初めまして、レディ。私はクライスラーと申します。できればレディ、貴方の名前をお教え願いたい」

「……………シオン……………」

相手が名乗ってきた場合、自分の名前を名乗るのは礼儀である。

「シオン………美しい名前ですね………」

「はぁ……………」

「その服装を見ると………貴方はどこかの司祭・巫女とお見受けしましたが…?」

「……………巫女よ…………」

「そうでしたか………貴方の放つ魔力は実に高かったものですから……」

「……………」

「では、そろそろ本題に入りましょう………これから貴方の血を吸わせていただくことをお許し下さい、レディ………」

そう言ってシオンの腕を縛っていた薔薇の茎を切り落とし、左腕を掴みあげ、シオンの身体を抱き上げる。

「…………………!!!」

シオンは眼を閉じ、イナルナとオグマ。そしてテンルウのことを思った。

<テンルウ様…………ごめんなさい…………>

そして………シオンの首筋に強烈な痛みが走り…………

シオンは…………




「おい、コウヘイ。ほんとにこっちなのか?!さっきと同じように見えるぞ?」

「確か…………」

ユーリに回復してもらって、コウヘイが先頭になって歩いているが……道に迷ったらしかった………

「確かって………頼りないわね」

「だって、しょうがないじゃないか!!同じようなところがありすぎて……」

「同じ所なんじゃないのか?」

そう言い合っていると、向かいから人の歩く音が聞こえてきた。

向かいからやってきたのは………シオンだった。

「テンルウ様?いらしてましたの?」

コウヘイはシオンがさっきと服装が違うことに気付いた。

その服の色は赤く染まっていた。

「テンルウ様…………」

そう言ってシオンはテンルウに抱きついた。今のシオンは妖艶な雰囲気をかもし出している。

「シ……シオン?」

シオンは滅多に自分からテンルウに抱きつくことはない。

しかもその瞳は妖しく、いつものシオンからは考えられないほど色気のある声で抱きついてきたのだ。

「シオン………急にどうしたんだ?」

「どうもしませんわ………ただ、テンルウ様とこうしていたいの……」

そしてシオンはテンルウの首に腕を回した……

「テンルウ様!シオン様から離れて!!!」

「え?」

その時シオンはテンルウの首筋に噛みつこうとしていたのを見て、テンルウはシオンを引き剥がした。

そしてシオンは大きく後ろに飛び、テンルウ達との間を作った。

「チッ……………モウ少シダッタノニ………」

「シオン?!」

「テンルウ様、今、目の前にいるのはシオン様じゃない………シオン様の姿をしたヴァンパイアですわ」

「フン……噛マレ後ニ気付カレナイヨウニ、服マデ着替エタノニ……ユーリガ来テイタトイウノハ誤算ダッタヨウダナ。ダガ、オ前ハクライスラー様ノイケニエ………オ前達二人ハ私ノモノニナルノダ」

「俺………シオンにだったら血を吸われても良い………」

「そんなこといってる場合じゃないですよ!!」

「コウヘイ…………後でどうなるかわかってるな……?」

テンルウはものすごく鋭い目つきでコウヘイを睨んだ。

「………………はい」

「オ前達…………ヤレ…………」

そう言ってシオンはパチンと指を鳴らした。

すると八方からゾンビの群れが現れ、テンルウ達はあっという間に囲まれてしまった。

その時、シオンは妖しげな笑みを浮かべた。

「あんなにゲテモノを怖がるシオンが…………ゾンビを呼び出すなんて…」

「だから…………今はヴァンパイアなんですってば………」

「ゴチャゴチャ言ッテナイデ、何トカシタホウガ良インジャナイノカ?」

妖艶な笑みを浮かべつつ、シオンは後ろを振り返り、そして歩いていった。

「ソイツ等ヲ何トカシテ………私ノ元ヘ来イ…………血デ全テヲ埋メ尽クシテアゲルワ………」

シオンはそう言い残し、去っていった。

「まったく………封印どころかヴァンパイアを倒さなきゃいけないじゃない!!!このドジ!!バカ!!」

ユーリは頭に血を上らせ、コウヘイに怒鳴りつける。

「倒さないと………何かあるのか?」

コウヘイがユーリに聞き返す。

「あの状態のまま、ヴァンパイアなんて封印したら、シオン様ずっとあのままなのよ?!血を吸った奴を倒さないと、元に戻らないのよ?!」

「何?!それは困る!!」

「俺は別に………あんなに色気があるんなら………」

「テンルウ…………そんなに色気のある方が良いのか?」

「そう言うわけじゃないけど………ああいうシオンも俺は好きだ。」

「……………………そう…………………」

「それよりも今は………こいつ等を何とかしないと………」

「それならこれがありますわ」

そう言うとユーリは懐から杯を出した。

「これはシオン様のものなんですけど………あの状態じゃ使えませんし、私が使いますわ」

<聖なる杯よ、聖なる光を放ち悪しき力を封印せよ!!>

ユーリはその杯を天に掲げた。

すると杯から浄化の光が放たれ、ゾンビの大群を覆う。

ゾンビはその光を嫌がり、ユーリから離れていく。

「さ、今ですわ!奥へ行きましょう!!」

ユーリの言葉でテンルウとコウヘイは走りだし、奥へと進んでいった。



かなりの距離を走ったが未だにそれらしき場所にはいっこうにつかない。

テンルウ達は走りつかれてへとへとである。

「何もないなんて………おかしくないか?」

「そういえば………さっき王女が、空間がいじられてるって言ってたような……」

「何でそれをもっと早く言わないのよ!!!そうすれば聖杯に案内させたのに…この馬鹿!!」

本日、3度目の馬鹿の一言である。

「こんな杯で、ヴァンパイアの元につくのか?」

「こんな杯って無礼よ!!これはナーガの力がこめられてる、グランビア王国の家宝の一つなんですのよ?!」

「そうなんだ…………それでシオンが後生大事にしてたわけだ……」

「これで、ヴァンパイアを封印するんですけど………もう無意味ですわね。シオン様をあのままにして置けませんから、完全に消滅させないと……」

「……………こいつのせいでややこしくなったわけだ………」

テンルウはそう言ってコウヘイを見る。

「…………」

<これから先………ずっと言われ続けられそうだ……>

コウヘイは内心でそう思っていた。

「でも案内させるって……どうやって?」

「こうするんですのよ」

そう言ってユーリは杯に水を一滴垂らしたのである。

「これに聖水を垂らすと、聖水が私達の行きたい場所へ案内してくれるんですの」

「へぇ……便利なアイテムだな」

「といっても……探し出すのはシオン様のナーガの力なんですけど……」

「何でシオンなんだ?」

「きっと………シオン様のいるところにヴァンパイアもいますわ!!それに今持ってる聖水の量ではヴァンパイアを探し出せませんの」

「聖水の量で捜せるものも増えるわけだ」

「そういうことですわ」

そういっているうちに聖杯がユーリの腕を引っ張ったのである。

「こっちですわね」



そう長いこと歩かないうちについたのは、祭壇の前であった。

「おい…………ここ、祭壇じゃねえか」

「いえ………ここですわ」

「ナラココカラ先ハ私ガ案内シテアゲルワ」

後ろから声が聞こえ、3人は後ろを振り返った。

「ヨクアノゾンビドモノ中ヲ切リ抜ケラレタナ。誉メテアゲル」

「シオン様……………」

「コッチダ。ツイテ来イ」

シオンが祭壇に触れた時、別の空間が現れた。

「今マデオ前達ガ走ッテイタ神殿ハ空間ガネジレタ異次元ノ世界。ココガ今ノ本来ノ神殿ノ姿ダ」

「シオン………」

何気に悲しそうな眼でテンルウはシオンを見た。

「ソンナ眼デ私ヲ見ルナ。テンルウ。別ニオ前へノ気持チヲ忘レタワケジャナイ………タダ今ノ私ノ主人ハアノ人ダケ……ソレダケナノダカラ……」

シオンのその言葉が、テンルウの心を傷つける。

<絶対後でコウヘイを………ぶっ殺す!!>

その怒りは全てコウヘイに向けられるのだった。



「クライスラー様………連レテマイリマシタ………」

そう言ってシオンはひざまづいたのである。

それを見たテンルウの心にまた怒りが込み上げてくる。

「ご苦労様………さぁ、シオン………おいで………」

「ハイ…………」

その時のシオンの眼はうつろで何かに操られているような感じがした。

さっきよりも鈍い動きでシオンはヴァンパイアの元に歩いていった。

「てめぇ………人の女に手を出すなんて良い度胸してるじゃねえか」

「ふふふ………この女の魔力は実にすばらしい………味も格別だったしね…」

「………………」

「全てはそこにいる男のおかげというわけだ………感謝するよ」

「されたくねえな、そんなもん」

「そうかい?別に良いけどね………とりあえず………彼女はもう私のもの……絶対服従する私の人形なんだ」

ヴァンパイアはシオンの頬に触れ、軽くキスをした。

「…………」

だんだんテンルウの頭に血が上ってくる。

「シオンに………触るんじゃねぇ………」

「ん?それは怒っているのかい?君は実に美味しい怒りを私に注いでくれるんだね………」

「何?!」

「私の生きていく糧が生き血だとでも思っていたのかい?私は暗黒神の腹心の一人。別に血を吸わなくても生きていけるよ………魔力だってあげることもできる。」

「じゃあ、何で女の生き血なんてすすってるんだよ?!」

「私はね…………若くて綺麗な女が大好きなんだよ…………たとえ女に子供がいようがそうでなかろうが…………」

「何……………?」

「ハーレムを作るのが趣味なんだよ」

「……………………………………………………」

そんなヴァンパイアの一言に絶句する3人。

そして………テンルウがキレたのである。

「てめえ………ふざけんなぁ!!そんな理由で俺のシオンに手ぇ出しやがって!」

「かなりふざけてるな」

「…………馬鹿ですわ…………」

そしてテンルウがバルムンクを鞘から取り出し、ヴァンパイアに向かって走り出した。

するトシオンがヴァンパイアの前に立ちはだかった。

「!!!」

テンルウの動きが止まる。

「だから言ったはずだよ。彼女は私の人形だって…………」

するとシオンが印を切ったのである。

<げ!!魔法?!>

テンルウは後ろへ退いた。

「エルウインド!!」

それを3人がかわした。

「おい……王女の魔法威力、いつもの数倍あるんじゃねえか?風の刃が異様に大きかったぞ?!」

「今宵は満月……………ヴァンパイアと化した彼女の能力が上がるのは当然のこと……」

「シオンには手は出せないぞ!!」

「ユーリ、どうすれば良いんだ?」

そういっていた時、シオンが細身の剣を持って、テンルウに襲いかかった。

二本の剣が交わる音が木霊する。

「シオン、やめろ!!」

「そんなこと言っても無駄だよ………」

ヴァンパイアはそれを見て楽しそうに笑っている。

シオンの攻撃をテンルウは受け流す。

さすがに運動神経のいいシオンは、細身の剣を使いこなしている。

テンルウは、傷つけてはいけないと思い、バルムンクから稽古用の鋼の剣に持ち替えている。

「くっ……」

シオンの攻撃には力こそないものの、速さがある上にテンルウ自身、シオンを傷つけることをためらい、攻撃を受け流すだけで精一杯だった。

だが、このままでは埒があかない。

「シオン、ごめんな」

テンルウはそう言うと、シオンの右手に向かって剣を振るった。

細身の剣がはじかれ、シオンの手から離れ、シオンの右手にはうっすらと傷がつき血が流れている。

シオンはその流れてる血をじっと見つめ……

テンルウを上目遣いで見つめつつ腕から流れる血を舐める。

そして、シオンは懐から扇を取りだし、力をこめた。

「あれは…………神通扇……………」

「神通………扇?」

「あれも、ナーガの遺産の一つですわ。魔力を込めて攻撃する武器の一つ……」

「あと……鞭もあるんですけど、あれはシオン様の別人格が使う武器ですから…」

「あいつ………二重人格者だったのか……」

「といっても、滅多に出てこない人格なんだけど…」

コウヘイは内心「俺はもう見たよ………」と言い聞かせていた。

シオンは扇を開き、テンルウに向かって振り上げた。

テンルウはよけたものの、顔に一筋の傷がついた。

<どうすれば…………どうすればいいんだ?シオンを傷つけずにことを治める方法は……>

そう考えて矢先に、ユーリが動いたのである。

そして、ユーリが聖杯を天に掲げた。

「それは………ヘイムの聖杯!!!」

先ほどゾンビを退いた、聖なる光はあたり一面を包み込む。

「あ………私………」

シオンの目の色がだんだんいつもの青い色に変わった。

「し………しまった!!呪縛が光のせいで一時的に解けたか!!」

「テ…テンルウ様?!どうしてここに………」

「シオン、お前………」

「私………アイツに噛まれて………呪縛が………」

そう言った瞬間、自分にかかっていた呪縛が解けていることに気付いた。

「ユーリ!!私のロッドは??」

「持ってきてますわ!シオン様!!!」

ユーリがシオンにロッドを投げ、シオンはそれを手に取った。

「今度は封印じゃすまないわよ?永遠の闇に送り返してあげるわ!!」

「くそっ………せっかく復活したのに………」

<聖なる光の龍よ、我が意に従い邪悪なる闇を打ち払え!!>

「オノレ…………ヘイムめ…………またしても………」

「ナーガ!!!」

シオンの呼び出した光龍はヴァンパイアを飲みこみ……そして消えた。

今までゾンビと化していた死体は土に帰り、操られていた女達も元に戻り、そしてシオン自身の噛まれたあともすっかり消えた。



「まったく………とんだ災難でしたわ」

「シオン、元に戻ってよかったよ」

「テンルウ様…………」

そして二人は抱き合う。

「はぁ………見てらんないぜ………」

「誰のせいでこんな風になったんだ?人の妻は攫う、子供は置き去りにする、あげくにシオンまで置いてきぼりにした上にヴァンパイアにさせる………これは元々お前が封印を解いたから起こったんじゃないのか?」

「…………助ける余地なしですわ」

「…………あははははは………」

「流星剣!!!」

「うぎゃああああああ!!!」



「ま…………同情の余地なしね………」

こうして、ヴァンパイア事件は解決したのであった。



だが……………



「ああ…………血が欲しい…………」

「………………え?」



1ヶ月の間、シオンはにんにくの匂いをかげば気絶する、十字架を見れば嫌がって走って逃げる、口を開くたびに血を欲しがりトマトジュースを飲む。

ヴァンパイアの習性が抜けずにいた上に牙が取れてなかったのである。

そんな毎日が続いたのである。

「コウヘイ………」

「…………………」




作者:特別編の外伝完成!!

テンルウ:長いなぁ………

シオン:テンルウ様………血を吸わせて………

テンルウ:え…?それはちょっと…………

コウヘイ:まだ抜けてないのか………

ユーリ:貴方のせいでしょうが!!

コウヘイ:…………すみません…………

シオン:これからは依頼の内容を考えて受けましょうね。

コウヘイ:…………はい…………

作者:それにしても………あんたよく指名手配されなかったね

シオン:そこらへんは私が手を回しておきましたから……

作者:もみ消したね?

シオン:いいえ、犯人はもう死んでますって言いましたから。

コウヘイ:殺すな…………