ユグドラシル聖戦記 外伝2

大迷宮に住まう少女



セフィーロ王国の王子、テンルウは今年で15歳を迎えたばかり。

好奇心が旺盛であるテンルウはよく城を抜け出しては、探険や冒険を求めアリスト王国内を出歩きまわっている。

そして今日も、テンルウは従兄弟のマルスを連れて城を抜け出したのである。

「テンちゃん……城を抜け出したことがばれたらまた叔母様に部屋に閉じ込められちゃうよ?」

「いいって。母上ももう諦めてるから」

「そう言う問題?」

「そう言う問題」

マルスはテンルウの一言に頭を抱えた。

しばらくして二人はある大きな神殿のような建物前に辿りついた。

「ここは………」

「ラビリンス………クロノス………」

そこはアリストでも有名な古い大迷宮「クロノス」の姿だった。

今までそこに足を踏み入れた者の中に帰ってきたものは一人もなく、「魔の迷宮」として人々に恐れられてきた。

「テンちゃん……まさかここに入るわけじゃ………」

「面白そうだよな~………」

「え?」

マルスは非常に嫌な予感がしてきた。

「入ろうぜ」

「…………僕帰るわ」

そう言ってマルスは後ろを向いて城の方向へと向かおうとした時、テンルウはマルスの首根っこを掴んだ。

「何処行くんだ?!さっさと行くぞ」

「テンちゃん、はなしてぇぇぇぇぇぇ!!!」

こうして二人は迷宮の中へと入っていった。



そこは少し湿気が入り混じり、ロウソクが点々と辺りを照らしていた。

入ってから約1時間………

二人は完全に迷っていた。

「テンちゃん………だから帰ろうって言ったのに、迷っちゃったじゃないかぁ!!」

「…………そんな過ぎたことをグチグチ言うなよ………」

「お腹空いたよ………」

マルスがそう言って地面に座り込んでしまった。

すると……

ガスッ

マルスの顔に赤い林檎が命中した。

「いったぁ…………」

マルスは顔をさする。

「クスクスクスクス…………」

何処からともなく女の子の笑い声が聞こえてきた。

テンルウとマルスは辺りを見まわした。



塀の上にちょこんと栗色の髪をした女の子が座っていた。



「クスクスクス………」

その女の子は微かに笑っていた。

「君は……?」

テンルウは女の子に聞いた。

「私はクリス」

クリスという名の少女は塀から飛び降りた。

塀の高さは3mを超えている。

テンルウはその女の子を受けとめようとした。

女の子は浮くように地面に足をつけた。

「ごめんなさい。お兄さんたち「お腹が空いた」って言ってたから林檎を上げようと思ったの」

女の子は笑顔でそう言った。

「でも、あんまり見事に顔で受けとめちゃったから思わず笑っちゃったの。本当にごめんなさい」

少女は受け止めそこなって壁にぶつかり、座りこんでいたテンルウに近づいた。

「お兄さん。名前は?」

「俺はテンルウ」

「素敵な名前ね☆」

少女はテンルウに笑顔を向けた。

「私ね、ずっと病気で寝ていたからお父さん以外の人とお話するのはじめてなの!それからね!!元気になったら色々とやりたいなって思ってたことがたくさんあるの!!友達を作って一緒に遊んだり、お料理作ったり、お茶会開いたり……」

クリスは嬉しそうな顔をしてテンルウとマルスに語った。

「それとね………「恋」ってしてみたかったの!!!」

「恋……………?」

テンルウとマルスはちょっと困った顔をした。

「恋って素敵なんだろうな~……私の読んだ本はどれも恋のすばらしさしか書いてなかったもの!悲恋がまた良いのよね~。恋人ができたらどんな気分なのかな?デートって楽しいかなぁ?」

クリスは完全に自分の世界に入り、浸っている。

そしてクリスはテンルウに向かってこう言った。

「そうだ!!テンルウさん、私と恋してくれませんか?」

「…………え?」

その言葉にテンルウは一瞬硬直した。

マルスは固まっている。

「私、人を好きになるってよくわからないんだけど………どうすれば良いのかはわかってるつもりよ」

するとクリスはテンルウの首に腕を回した。

「こうするんでしょう?」

クリスは瞳を閉じてテンルウにキスをした。

「な………な………」

あまりの驚きにマルスは言葉が出ない。

急に、クリスの様子がおかしくなった。

テンルウに寄りかかるようにして倒れこんだのだ。

「お……おい……」

ドクン

テンルウの体の中で何かが脈を打った。

何故か身体から力が溢れてくる………

クリスはフッと意識を取り戻し、テンルウの顔を見た。

「ご……ごめんなさい……私………」

クリスはテンルウから離れ、走り去っていった。

その時にクリスはブリキでできた妖精の形をした小さな人形を落としていった。

「テンちゃん………これ、あの有名な「魔法人形師」のカリオスの作ったものだよ」

「魔法人形……?」

「テンちゃん、相変わらずこういうものには疎いね~……あのね「魔法人形」っていうのは魔法の力で動く人形のことだよ。ユグドラシルで今流行ってるものなんだよ。その人形師の一人、カリオスの作った人形はすごく有名でとても良い仕事をするって言う話。あのグランビアの王女も彼の作った人形には一目置いてるって噂だよ」

「へぇ~………」

テンルウは感心したように言った。

すると、マルスの持っていた人形が動き出し、宙を浮いて迷宮を進み出した。

その方向はさきほどクリスが走り去っていった場所だった。

「テンちゃん、どうやらこの人形が持ち主のところまで案内してくれそうだよ」



クリスは迷宮にある花畑で彩られその真中の辺りに立つ小屋の中に入っていった。

「お父さん、ただいま」

「おかえりクリス」

クリスはそう言って父に寄りかかった。

その男は人形師・カリオスの姿だった。

「クリス………お前、誰かと逢わなかったか?」

「あのね………」

クリスがカリオスに言いかけようとしたその時………

「久しぶりだな、カリオス」

黒いマントを着た男が急に目の前に現れたのである。

「これは……司教様………」

司教と呼ばれた黒マントの男は少しばかり話しにくそうな顔をした。

「クリス、おうちの中に入っていなさい」

「はい……」

クリスはそう言われ、家の中に入っていった。

「アレはできあがっているのか?」

「もう間もなく………」

「それとな……アリストの王子がここに来ているぞ」

「なんですって!!!じゃあ……さっきのクリスの様子は………」

「前に言ったと思うが………クリスの件の事、忘れるなよ?」

黒マントの男は真面目な顔をしてカリオスにそう言った。

「わかっています……クリスは………」



丁度その頃、テンルウの父リバティはテンルウがクロノスに入っていったことを知り、グランビアに来ていた。

「クオリス王子よ……何か方法はないものか……?」

「私の言いつけで今あの子がクロノスに向かっています。きっとあの子が何とかしてくれるでしょう」

「そうか………すまない………ところで……「あの子」というのは……?」

リバティの言葉にクオリスは笑みを浮かべる。

「じきにわかりますよ。あとであの子に逢ってやって下さい」

「わかった……そうさせてもらう」



「ここね………クロノス………」

一人の少女が迷宮の入り口の前に立っている。

その少女の姿から見て、魔道士と判断できる。

「………クオリス様の命ですもの……仕方ありませんわね……」

そうぶつぶつ言いながら少女は迷宮の中にへと入っていった。



テンルウとマルスは魔道人形の導きによって迷宮の中をさまよい歩いていた。

「それにしても……この人形………何で動いてるんだ?」

「魔力を貯めこんである核みたいなもので動いてるって聞いた事があるよ」

「へぇ~………」

そういうものに全く興味がないテンルウは感心したようだ。

そして二人は……ある気配に気付いた。

二人の足の動きが止まる。

「こんな迷宮にもならず者っているもんだな」

「まったくだよ……」

そう言いつつ、二人の周りに黒ずくめの男達が数名姿をあらわした。

「この迷宮から立ち去れ………さもなくば………」

「さもなくば………なんだよ?」

「殺す…………」

黒ずくめの男達は魔道書を持ち、術の詠唱を始めた。

しかし、そんなひまを与えるほど世の中そんなに甘くはない。

術が完成する前にテンルウとマルスは剣を構え、何人かの魔道士を倒していた。

そして、一人の術が完成した。

「ヨツムンガンド!!!」

亡霊の叫び声のような声があたり一面に広まる。

テンルウとマルスはあまりの気味の悪さに耳を塞ぐ。

頭の中を掻き回すような痛みが広がっていく。

「ライトニング!!!」

その叫び声は光と共に消え去った。

テンルウはすぐさま剣を持ち、魔法を放った魔道士に斬りかかった。

「ぐああ!!!」

そしてその魔道士はそのまま地に倒れこんだ。

「ふぅ………ギリギリセーフってところね」

一人の少女がテンルウとマルスのもとに歩いてきた。

テンルウはその少女に剣先を向けた。

「誰だ?お前………」

「助けてあげたのに剣先を向けることないじゃない」

「じゃあ、さっきのライトニングは君が……?」

マルスの質問にうなずく少女。

その金髪の少女はテンルウを指差した。

「そこの王子様がここに迷いこんだって聞いて、リバティ王子がユグドラシルのクオリス王子に貴方達を助けるように依頼したのよ。その命を受けたのが私。全く無鉄砲なことするのね。ここは一度入ったら出られないっていうジンクスがある迷宮なのよ?」

「お前みたいなちんちくりんに言われたくねえな」

「ち………ちんちくりんですって!!失礼な!!少なくとも貴方より年は上よ!!成人前のガキにそんなこと言われたくないわ!!」

「成人前で悪かったな。でも育つところはちゃんと育ってるぜ?お前と違って」

「悪かったわね!!!背が小さくて!!!」

テンルウと金髪の少女が痴話ゲンカを始め出した。

しかもそのケンカのレベルは低かった。

マルスは止めようにも止められずオドオドしている。

「だいたい、15歳って発展途上中じゃないのよ!!何が「育つところはちゃんと育ってる」よ。お笑い種だわ!!」

「お前がいくつかは知らないけどな、成長の止まった年増よりましじゃねえか」

「誰が年増よ誰が!!」

「お前」

その少女は顔を真っ赤にして怒っている。

「いいかげんにしなよ!二人とも!!それにテンちゃん!!彼女がせっかく助けに来てくれたのにそんな言い方ないでしょう?!!」

マルスがテンルウに向かって怒鳴った。

マルスがテンルウに対して怒鳴ることなんて滅多にない。

テンルウは少し驚いてしまった。

「助けに来てくれて有難う。先程は失礼しました。僕はマルス、彼がテンルウです。貴方は?」

「私は…………シュカよ」

「シュカ、君はどうやってここまで来れたの?」

「ここに住みついているのがあの有名な魔法人形師・カリオスだったら、この人形が作り主のもとまで案内してくれるんじゃないかなって思って、彼が作った人形を持ってきたのよ。この人形の案内通りに進んだら貴方達がいたって言うわけ」

「へぇ~……この人形可愛いね~」

「カリオスがシオン王女をイメージして作ったらしいわ」

その人形はブリキ製の妖精の人形とは裏腹にきちんとした作りであった。

なおかつその人形は天使の形をしている。おまけに髪の色は真珠色。もちろん今は宙に浮いている。

「コンニチハ、シオントモウシマス」

その人形はマルスに挨拶をしたのである。

「すご~い!!言葉まで喋るんだ」

「王女がイメージなだけあって王女の名前を名乗るようにできているの」

「さすがカリオスの作った人形ってところだね」

「これ、王女にお借りしたものなのよ。だから私のではないんだけど……本当に可愛いわよね~………」

テンルウをほったらかしにして二人は人形の話しで盛りあがる。

テンルウは面白くなさそうにふてくされている。

「あ、テンちゃん………ごめん……」

マルスがテンルウがふてくされているのに気付き、とっさに謝った。

「ところで……お二方……どちらへ行こうとしていらしたの?」

「この人形の持ち主にこの人形を返そうと思ってさ」

「人形の持ち主………?」

「シュカは知らないの?「クリス」って言う名前の女の子……」

「クリス………」

その名前を聞いてシュカの顔つきがガラっと変わった。

「何か知ってるの?」

「え?いいえ………別に……」

シュカはそのまま一人で考え込んでしまった。

「とりあえずさ、シュカも一緒に行こうよ」

「ええ、そうさせてもらうわ」

「足手まといになるなよ」

「それはこっちの台詞よ」

相変わらず二人が喋ると言い合いになるのだった……。



歩いていくうちに天使の人形が喋った。

「コノサキ……キケン………キヲツケテ…………」

「有難う、シオン」

シュカは天使の人形にお礼をいうと

「ドウイタシマシテ」

天使の人形はそう言った。

テンルウはその人形を見て

あることに気付いた。

「お前さ、その人形に似てる気がするんだけど……?」

「え?」

シュカはその言葉にギョッとする。

「わ………私とシオンは従姉妹だから似てて当然よ」

そう話している時、シュカは耳をすませたのである。

「どうしたの?」

「迷宮が………仕掛けが発動した……」

「仕掛け?」

「この宮殿が迷宮といわれているのは宮殿の仕掛けによって迷うからなの。気をつけて。バラバラにはぐれてしまうわよ?!」

そう言っていた矢先だった。

地震が起き、3人が地震の揺れにに堪えていた隙に壁が動き、3人は離れ離れになってしまった。

「しまった!!」

シュカは突然降りてきた壁に握りこぶしを叩きつける。

「シオン人形があるから………大丈夫よね………」

シュカはそのまま別の道に進んだ。



テンルウはシュカが持っていた人形を持って先にへと進んでいる。

辺りは静けさで覆われ、自分の足音しか聞こえない。

「アト500メートルッテトコロデスワ」

シオン人形がそう言った。

「なんでお前……話せるんだ?」

テンルウは帰ってくるはずもない質問を人形にした。

「ソレハワタシノナカニクミコマレテルコアノオカゲデスワ」

以外にもその質問の答えが返ってきた。

「なぁ……シオン王女ってどんな人なんだ?」

「ゴシュジンサマハトテモオヤサシイヒトデスワ」

「なぁ………王女のスリーサイズとかって知ってるか?」

テンルウは冗談半分で人形にそう聞いた。

「スリーサイズ?ゴシュジンサマノデスカ?タシカ……ウエカラ……90・54・86ダトオモイマシタ」

テンルウはある意味「この人形すごいな……」と思った。

人形と話しながらテンルウは目の前に光が刺しこんでいることに気付いた。

「ツキマシタ」

人形はそのままテンルウの手の上に乗っかり動かなくなった。

テンルウはその光が刺しこんでいるところに入っていった。

すると………

そこには無数に広がる花畑がある。

その真中には赤い屋根の小さな小屋があった。

テンルウはそこで花を摘んでいるクリスの姿を見た。

クリスはテンルウの姿に気付いた。

「テンルウさん!!!」

クリスは持っていた花の束を投げ捨て、テンルウのところに走ってきたが、一歩手前でとまったのだ。

「どうしたんだ?」

「あのね………お父さんがテンルウさんに触れちゃいけないって言うの………」

クリスは少し不満そうな顔をして言った。

「私とテンルウさんは触れてはいけない者同士なんだって……」

その言葉を聞いたとき、テンルウはクリスにキスされた後急に力がみなぎってきたことと関係があるかもしれない……そう思った。

「でもテンルウさんどうやってここまで来れたの?」

「ああ……この人形がさ………」

そう言ってシオンの人形を取り出した。

「あ、これお父さんが王女様のために作った人形だ!!」

「知ってるのか?」

「お父さんがこれ作ってるところ、見たことあるの。王女様そっくりに作ってあるんだよ」

「王女ってこんなに可愛いのか?」

テンルウは人形を見てそう思って言った。

「テンルウさんは王女様に逢った事ないの?」

「ああ、一度もない。親父は逢ったことあるみたいだけどな」

「テンルウさんのお父さんって偉い人なのね」

「一応………な………」

あえて自分の身分を明かさないテンルウ。

「そういえば………ここは一体………」

「ここはこの迷宮の中心。お父さんが私のために作ってくれた遊び場なの!!でも素敵!!これってデートなのよね?」

クリスは本当に嬉しそうな顔でテンルウを見つめる。

「だって、私とテンルウさんは恋人同士なんだから!!」

クリスのその台詞にテンルウは顔を赤らめる。

「こ……恋人ぉ~?!」

少し焦るテンルウ。

「あー!!テンルウさんもう忘れてる!!」

クリスは膨れっ面をした。

「さっき私達恋をするって約束したじゃない!!その証のキスも交わしたでしょ?」

「………ひょっとして……さっきのキスで俺達恋人同士になったのか……?」

「そうよ!でも互いに触れてはいけない禁断の恋人同士……初めての恋が禁断の愛だなんて私ドキドキしちゃう!!!」

クリスは顔を赤らめつつ笑顔で感動していた。

「クリスは何にでも感動できるんだな」

テンルウはそんなクリスに感心した。

「そう!だって生きてるって楽しいじゃない!!」

クリスはそう言った後急に暗い顔つきになった。

「だって……私は………」

すっかり落ち込んでしまったクリス。

「元気出せよ。今が楽しければそれで良いじゃないか」

クリスはテンルウの台詞にきょとんとする。

「今を生きて、今を楽しむ。それで良いんじゃないか?」

「うん!!」

クリスはテンルウに今までで一番いい笑顔を見せた。

「クリスは笑顔が一番似合うよ」

「テンルウさん………私…………人を好きになるってどう言う事か少しわかってきた気がする………」

テンルウは少しその言葉にドキッとする。

そして数分間、二人はじっと見つめ合っていた。

「私の娘に触るな!!!」

その声に二人はドキッとした。

「クリス、その男から離れなさい!!!」

「お前が……カリオスか………なんだってこんなところで……」

「貴様にわかるはずもないわ!!とにかくクリスから離れろ!!離れないというのであれば………殺す!!」

カリオスのその言葉と共に周りにはブリキでできた人形がテンルウの周りを覆い尽くす。

「テンちゃん!!大丈夫?!」

そこへ、マルスがテンルウのもとにやってきた。

「やってしまえ!!」

カリオスの声でテンルウとマルスに襲いかかってくるブリキの魔法人形たち。

二人は剣で応戦するが、相手がブリキ製なのであまり通用しない。

「エルサンダー!!!」

突如魔法人形に落ちてきた落雷が魔法人形たちの動きを止める。

「あ、シュカ!!」

「じらされた分だけ喜びも大きい……でしょ?」

シュカの顔を見た瞬間、カリオスは硬直する。

「シ………」

カリオスは小さな声でこう囁いた。



「シ………様………」



その頃、クリスは家の中の地下倉庫にいた。

<どうして私は、テンルウさんと触れ合っちゃいけないんだろう……お父さんのあの顔……尋常じゃなかった………私……全てを知らなくちゃいけない!!!>

クリスはその部屋にぽつんと置かれている水晶玉に手を触れた。

「カリオス、貴方ほどの人がどうしてこんな………」

「貴方にはわかりません……私のような庶民の気持ちなど……」

「だからと言って、禁呪に手を出すなんて愚か者のすることです!!」

カリオスとシュカの会話を聞いて、テンルウとマルスは互いを見合って首をかしげる。

「シュカ………禁呪って何?」

「………光があればまた闇もある………闇魔法には「禁呪」と呼ばれるものが数多く存在します。それに手を出したら暗黒教団に荷担したことになります。貴方方を先程襲ったもの達も暗黒教団の者たちです。その禁呪の内の一つ、『反魂』でカリオスはクリスの命をこの世にとどめていたの」

「それって………」

「クリスは一年前に………病気で亡くなっているの……しかもその病気は……不治の病と言われている「衰死病」……じわじわと体力を奪い眠るように死んでいくという病気………」

その言葉を聞いてテンルウの表情が変わった。

「じゃあ……さっきのあの様子は……」

「………とりあえず……禁呪は封印しなくてはいけません……」

「ちょっと待てよ、シュカ。禁呪ってどうやって封印するんだ?」

テンルウはシュカにそう聞いた。

「貴方が……彼女を抱くの………そうすれば……禁呪で蘇ったクリスは天国に帰れるわ」

その言葉を聞いて、テンルウの表情が変わる。

「俺が………あの子を抱けば……クリスは……死ぬのか……?」

「正確に言えば、12聖戦士の直系に当たる人間が触れれば……」

「……………」

テンルウはシュカを睨みつける。

「俺にそんなこと………できるわけないじゃないか……」

テンルウはうつむきながらそう言った。

「でも……それが貴方の今の役目なのよ」

シュカは冷たくテンルウにそう言い放つ。

「勝手に決めるなよ!!!お前の従姉妹の王女にでも頼めば良いじゃねえか!!!なんだって俺が……」

「あの子は貴方に信頼を寄せているからよ。今一番彼女が警戒心を持っていないのは貴方なのよ!!」

「その信頼を俺に裏切れって言うのか?!」

「つらいのは………貴方だけじゃないわ………」

テンルウはシュカの胸ぐらを掴み、怒鳴りつけた。

シュカはそれをただ聞くだけしかできなかった。

「………いくら貴方が相手でも……クリスを殺させはしません……!!!」

「カリオス……禁呪に手を出した罪………死をもって償ってもらいます……」

シュカは両手で魔力の玉を生み出した。

カリオスは………

「私の人形の力………とくとご覧にいれましょう…………私の最高傑作を……」

その言葉が鍵になり、足元からが光と共に巨大な人形が現れた。

その人形の中にカリオスは消えた。

「エルファイアー!!」

シュカの魔法が巨大人形に炸裂する!!

しかし魔法は全く通用しない。

「エルファイアが効かないなら………」

シュカは一冊の魔道書を持ち印を切る。

<聖なる炎よその力持て敵を焼き尽くせ!!>



「ボルガノン!!!」

シュカの力ある言葉と共に巨大人形の足元からものすごい勢いで溶岩と高温の炎が現れ巨大人形を包みこむ。

が……

それだけであった……

普通なら中にいる人間がその熱さに絶えきれるはずがないのだがカリオスにはいっさい通用していなかった。

その人形が動いた。

その人形はシュカを蹴り上げた。

「きゃあああああああああああああああ!!!」

シュカよりも6倍もある人形に蹴り上げられ、シュカの身体は飛びあがり、壁に身体を撃ちつけられた。

「ごふっ……」

喉からこみ上げてくる血の塊を吐き出したシュカ。

そしてそのまま意識は遠のき、シュカは気絶してしまった。

「シュカ!!」

マルスは倒れたシュカのもとに走り、シュカの身体を抱き上げる。

テンルウは剣を構え、何度か攻撃を仕掛けた。

「流星剣!!」

しかし相手にはいっさい攻撃が通じない。

傷をつけることで精一杯なのである。

テンルウの表情に焦りが見え始める。

すると人形は持っていた斧を振り上げテンルウに向かって振り下ろした!!

「テンちゃん!!!!」

その時、マルスはテンルウの死を覚悟した。



「お父さん、やめてぇ!!!!」



クリスの声が辺りに響き渡る。

クリスはテンルウの前に立ちはだかり、人形の斧は最後まで振り下ろされなかった。

「テンルウさん、大丈夫ですか?」

「え…?ああ………大丈夫だよ……クリス……」

「テンルウさん……後は……私がやります」

クリスはそう言うと、父に向かって叫んだ。

「お父さん、やめて!!!………もう………全部わかったの……お姉さんとお父さんの会話……全部……水晶球で聞いていたの……」

その言葉にカリオスは一瞬ひるんだ。

「お父さんは間違ってるよ!!私……違法を犯してまで………闇魔法に頼ってまで……暗黒教団に身を落としてまで……生きていたいなんて思わない!!!」

「何を言うんだ、クリス……私はお前のことを思って……」

「そんなの私の大好きなお父さんじゃない!!!!誰にでも優しかったお父さんじゃない!!!今のお父さんは……」

クリスは涙ぐみながら巨大人形にいる父にこう言った。

「この世で一番大ッ嫌いよ!!!」

「クリス………」

カリオスはものすごく寂しそうな表情になり、今まで自分がしてきたことを振りかえり、そのことがクリスを苦しめていたことに気付いた。

クリスはテンルウの方を向いた。

「テンルウさん……私を抱いて………お父さんの目を覚ますには、こうするしかないの……」

「けど、俺は……」

テンルウは一瞬ためらった。

「いいの。知ってるよ……テンルウさん………伝説の12聖戦士の血を濃く受け継いでいるんでしょう?抱けばその力が私を全て吸い取ってしまうんでしょ?でもそれでいいの……」

「クリス……」

「テンルウさん………本当に短い間だったけど……楽しかった……取っても素敵な時間を過ごせた……それに……」

今までうつむいていたクリスが涙を少し浮かべながら笑顔で顔を上げた。

「恋までできちゃったんだから……だからテンルウさん……私を抱いて……最後くらい好きな人に抱きしめられて……それで消えていきたいの……」

クリスは少し切なげな表情でそう言った。

「テンルウさん……今度は貴方からキスして………だって私達……恋人同士でしょ?」

その様子をマルスと意識を取り戻したシュカが少し心配した表情で見つめる。

<目をそらすな………!この娘が生きた証をどんなことがあっても見届けなくちゃならない……!!>

そしてテンルウの手がクリスの身体を包みこみ、抱き上げた。

「テンちゃん………」

「王子………」

マルスもシュカも悲しそうな表情でそれを見届ける。

「やめろぉぉぉ!!!!」

カリオスの声が巨大人形から叫びとなって辺りを埋め尽くす。

「お父さんありがとう………さよなら………」

そしてテンルウはクリスを抱き寄せキスをした。

<テンルウさん……………大好き……………>

そして辺りが光に包まれ、クリスは消滅した。

テンルウの身体に溢れる程の力が涌き出てくる。

「クリス………許してくれ………私は……父さんは間違っていたよ………」

そしてカリオスは一歩も動かなくなった。

「流星剣!!!!」

テンルウの必殺技が巨大人形をバラバラに切り裂き、カリオスも巨大人形と共にテンルウの技によって、この世を去っていった………。

「………カリオス………」

シュカは何とも言えない表情でその光景を見ていた………。




三人は迷宮の外に出ることができた。

「王子………立派でしたわ……」

「…………」

シュカが話しかけてもテンルウは終始無言のまま、セフィーロのある方向に向かって歩いていった。

「シュカ、それじゃ僕達は帰るよ」

「気をつけてね」

マルスはシュカにそう言って手を振りながら走り去っていった。

二人の姿が豆粒ほどに小さくなったとき、シュカは髪を掴み、その髪を取った。

そこからは光の反射で薄紫と薄いピンクの入り混じった髪が現れた。

その髪が風になびく。

そこへリバティが姿を現した。

「王女、すみませんでした。あの子達だけでは何かと心配で……」

「いいえ……でも今回の城の抜け出しは彼にとっても忘れられない、つらい思い出になるでしょう………」

「これで少し懲りてくれると良いのですが…………」

「ふふふふ………」



それから三ヶ月、テンルウは城から抜け出すことはなかった。

そして時々物思いにふけった様に窓から空を見つめているという……

<クリス………>



迷宮の前には二つの墓が立てられている。

その墓の前を通る時、女の子の笑い声が聞こえてくると言う………




☆ちょっと長い後書き☆



作者:あ~………疲れた。

テンルウ:いつになく長いな……

作者:良いじゃん。別に~

テンルウ:で、これって俺の初恋話なんだろ?

作者:そうだけど?

テンルウ:誰が初恋相手なんだよ?

作者:クリスに決まってんじゃん。

テンルウ:あの「シュカ」って意味ありげなキャラだけど……?

作者:あ~……シュカね~………何かありそうに思うの?

テンルウ:思う!!しかもあの金髪ってかつらだったんだろ?誰だって何かありげに思うって!!

作者:あれ、実は…………

マルス:シュカはシオン王女なんだよね~☆

作者:マルス………喋ったな?

マルス:だって本当のことだもん。

テンルウ:…………え?

作者:「ちんちくりん」だの「年増」だのなんだの言ってたよね~?シュカに……

テンルウ:…………(滝汗)

マルス:王女、まだ根に持ってたりして………

テンルウ:……………後で謝っておこう………

シオン:……………………(ものすごい表情でテンルウの後ろに立つ)

マルス:あ、王女………

テンルウ:わ~!!すいません、すいません!!!だからお預けだけは勘弁……

シオン:………………そんなこと言ってたかしら………?

テンルウ:…………へ?

作者:(シオンって18歳の時の記憶だけそっくりそのままないんだよね~…)

シオン:むしろ………その以前に私、テンルウ様に逢ったことあったかしら……?

テンルウ:………覚えてないの?

シオン:何の事ですか?

テンルウ:…………いや、なんでもないよ。シオン☆(内心安心しまくっている)

マルス:良かったね………テンちゃん…………

作者:複雑な夫婦だよな………今考えてみれば………

マルス:複雑過ぎない?

シオン:そういえば………オペル様っていつお亡くなりになったのかしら……?

テンルウ:シオン…………ひょっとして怒ってる?

シオン:いいえ……怒ってなんかないわよ?

テンルウ:………(目が据わっているシオンを見てたじろぐ)

シオン:ええ、怒ってなんかいないわ………けれど……ちょっといじめたくなっちゃったわ……。

テンルウ:何?その鞭は………