ユグドラシル聖戦記 外伝6

ソウルバイブル………

それは悪魔に本としての命の源である文字を奪われた暗黒の書物。

書物は悪魔に魂を売り、意思を持つと言われている。

その本の願いは………………・




ソウルバイブルの願い




シオンはナディア城の奥にある書庫室に来ていた。

彼女は本を読むのが好きで、時々ここから面白そうな本をあさっては読み尽くしている。

そこでシオンは、一冊の本を取り出した。

「あれ?この本…………題名がない…………」

本の表紙にはなんの文字も書かれてはいない。

「……………」

シオンは何かに惹かれるようにその本を開いた。

それにはこう書かれていた。




Pray for them who giveth

Their immortal soul

Into satan…

For each is damned

To relive that wretched life

Threugh all times…




「霊魂を悪魔に渡したものの為に祈れ…………死ぬたびに生まれ変わり、永遠に呪われて暮らす運命だからである……………か…………何だか面白そうね」

その時にシオンの目に映ったのはこの文字だった。




My beloved…




「我が…………最愛の……………?」

だがその先は一文字も書かれていなかった。

その時、シオンの頭に誰かの声が響いた。

<シオン…………戻って来い…………シオン………………>

「だ…………誰?」

<シオン…………戻って来るんだ…………シオン…………>

その瞬間、本はまばゆい光を放ったのであった。




そして、彼女の意識は暗転した。

彼女の傍に落ちてある白紙の本は次々に文字を刻み出した。








My beloved……Sion……







彼女は目を醒ました。

そこはまるで異国のようである。

見たことのない光景が彼女の目に入るが、それはすぐに違和感のないものになった。

「シオン、大丈夫?」

「うん、大丈夫。ありがとうキラ」

彼女はキラの手を取り、立ちあがった。

「ちょっと、スイフト!!なにやってるのよ!!砂袋を落としてシオンに当たったらどうするのよ!!?」

「あ?ああ………すまねえ。」

スイフトはやる気のなさそうにシオンに謝る。

「シオン、少し休みましょう」

「え?ええ………………」

シオンはキラと共に楽屋の奥にある自室へと戻っていった。

「………………」

スイフトはただ黙っていた。そこへ、同じ道具係の同僚が彼の元にやってきた。

「おい。何で砂袋がシオン目掛けて落ちてくるんだよ!!」

「あ?……………幽霊の仕業だろ?」

「何言ってる。お前、シオンに見とれてただろ?その時、左手を何処にやっていたんだよ?」

「うるせえな。事故だ!!事故!!」

「放っておけ、こいつには何言っても聞きやしねえよ」

同僚の二人はそう言いながら、彼の元を去っていった。

「事故だよ………………事故……………」




彼はその時、鏡に向かっていた。

身なりを整えているらしい。だが、その瞳にはただならぬものを漂わせている。

「シオン………………」

彼が口にしたのはシオンの名………

そして彼は、その場から立ちあがり、何処かへ行ってしまった。




スイフトは一人、舞台の上に備え付けてある照明などを掃除していた。

「おい!」

「あ…………テンルウさん…………」

そこにいたのは紛れもなくテンルウだった。

「砂袋のが落ちたのは……………幽霊のせいだって?」

「事故ですよ…………事故…………」

「俺のせいにした」

テンルウはスイフトに威圧をかけた。

「もう………しません………」

「そうとも……………お前は……………クビだ」

テンルウはそう言った後、スイフトの顔を蹴り上げた。

この足場は非常に狭く、足を踏み外せば舞台に叩きつけられてしまうくらいの幅しかなかった。

スイフトの足に舞台に使う場面幕を上げ下げするための縄を絡め、落ちても地に叩き付けられる事はなかった。だが、かなりの恐怖を味わうものである。

テンルウは場面幕を思いきり下ろした。

その瞬間、スイフトの身体は上に上がっていく。

テンルウは懐からナイフを取り出し、上がってきたスイフトの身体に思いきり突き刺した。

スイフトの身体は止まることを知らず、まだ上に上がる。

突き刺さったナイフは、スイフトの身体を縦に切り裂いていった。

その返り血を浴びたテンルウの表情は、悦びに満ちていた…………




シオンは自分の楽屋に戻り、衣装に着替えようとしていた。

「シオン、今日はよく歌えたね」

シオンは自分以外誰もいないはずの楽屋を見渡す。

確かに自分以外誰もいない。

その時、窓から人影が見えた。

「あなたなの……?」

「そう………俺は君の守護天使…………」

シオンは急に表情が暗くなった。

「怖かったわ……………事故で…………」

「関係ない。大事なのは音楽だ」

シオンはその言葉を聞いて少し哀しそうな顔をした。

「さぁ、シオン。今日もその美しい歌声で音楽を奏でておくれ」

「でも…………」

シオンは歌うことをためらう。

「ねぇ………姿を見せて……………」

「近いうちに見せる。さぁ、歌うんだ。シオン…………」

シオンは深呼吸をして自分に与えられた役の歌を歌う。

「違う。プリマの歌を歌うんだ。歌いたかったんだろ?マルガリーテを歌いこなせるのは君しかいない………」

シオンは謎の声にそう言われ、少し考えこんだが、すぐにマルガリーテを歌い出した。その視線は窓に行っている。

「違う、もっと情熱を込めて歌うんだ。さぁ、天使の歌声を聞かせておくれ……」

シオンは瞳を閉じ、オペラ舞台をイメージし、歌い出す。

声の主はその歌声を聞いて悦びに満ちていた。

「シオン、今夜世界が君の歌声を聞くことになるだろう………」

「……………今夜…………?」

「そう………今宵世界は君を愛するだろう…………」

シオンは窓に手を伸ばすが、その後すぐに人の気配が消えた。




今回行われるオペラのプリマドンナのキイナは入浴を楽しんでいた。

程よく立っている泡は彼女の心を綺麗に洗い流している。

そこへ、ヨウスケがキイナを尋ねて来たのである。

「キイナ」

「あらヨウスケ、公演前には逢わないことにしているけど、今日は特別よ?」

「ありがとうキイナ、さっそくだが………俺と契約をしろ」

ヨウスケは間髪入れず、キイナに交渉を持ちかけた。

だがキイナは興味がなさそうである。

「…………そうねぇ………良いけど………シオンをコーラスに戻して頂戴」

「何言ってる!シオンは今は端役、代役だって必要だ」

「代役なんて必要ないわ」

キイナはヨウスケの言葉を面白くなさそうに言いのける。

「キイナ!!サインをしろ」

ヨウスケは怒りが入り混じった声で叫ぶ。

「私の条件を聞き入れてくれるのなら」

キイナは意思の硬い瞳でヨウスケを見た。

「………………」

ヨウスケはキイナを睨みつけ、その場を去っていった。

キイナはミラージュにバスタオルを用意させ、バスローブを羽織った。

風呂から上がったキイナは大きな鏡の前で髪形を整える。

そして、彼女はクローゼットを開けようとした。

その時、何かがキイナの足元を滑らせたのである。

キイナは足元を見た。

そこには紅い液体がべっとりとついていた。

まるで人の血のようである。

キイナは恐る恐るクローゼットを開け、その中を見た。

そこには……………






キャアァァァァァァァァァァァァァァ!!!






部屋中にキイナの悲鳴が響き渡ったのである。




そこには、身体中の皮膚を剥がされた男が吊るされていたのである。

「助けて…………くれ……………」

その男の声は今にも途切れそうだった………

だが、その男の命はその後、すぐに途切れた………







「シオン!!シオン!!」

テンルウはナディア城を歩き回り、シオンを捜してからすでに2時間が経過していた。だが、いっこうにシオンの姿は見当たらない。

「テンルウ様、どうかなさったんですか?」

ショウはテンルウの様子を見て、彼に聞いた。

「シオンが…………さっきから見当たらないんだが………ショウ、お前知らないか?」

「シオン様が先程、書庫室に入って行ったのは見ましたけど?本でも読んでらっしゃるんじゃないんですか?」

「あいつと街で買い物でも行こうと思ってさ…………」

「なら、書庫室に行って見ましょうか?」

「俺も行くよ」

ショウとテンルウはナディア城の奥にある書庫室へ足を運んでいった。




ショウは何事もなく書庫室の扉を開ける。

「シオン様」

ショウはシオンの名を呼ぶが声はおろか物音すら聞こえない。

「シオン、いないのか?」

テンルウの声にも反応しない。

ショウは広い書庫室の中を歩き回った。

だが、人の気配すら感じられない。

そして、彼がたくさん並んでいる本棚の間を歩いていたその時だった。




開いたままの本が一冊が落ちていた。

その傍にシオンが倒れていたのである。

「シオン様!!」

ショウの声を聞いてテンルウは急いで彼のいるところへ向かった。

そして、テンルウは気絶しているシオンを抱きかかえているショウを見た。

「シオン、しっかりしろ!!シオン!!」

だが、シオンは反応しない。

そのテンルウの声を近くで聞いていたユーリがテンルウとショウの元にやってきた。

「どうかなさったんですか?」

「ユーリ、シオンが…………」

ユーリはシオンにそっと触れた。

だが彼女からはエネルギーを感じない。

「魂が……………抜けている…………」

「え?!!」

「シオン様の魂が、身体の中に入っていらっしゃらないの!!」

そう言ってユーリは傍に落ちていた本を見た。

その本を見たとき、ユーリの表情はガラッと変わった。

「これは…………『ソウルバイブル』…………」

「ソウルバイブル………?」

「その名の通り、魂を取りこんで物語を刻む本ですわ。この本は自分の意思を持っている……シオン様の魂はどうやらこの本に取りこまれてしまったみたいです」

テンルウはそのユーリの言葉を聞いて顔色をサーっと青くする。

「おい!!シオンは?!シオンはどうなるんだよ!!」

「落ちついてください、大丈夫です。物語が終われば魂は解放されます」

「本当か?」

「ええ。心配なさらないで下さい。この本の目的は物語を刻むために魂を取りこむだけですから…………」

ユーリはそう言って、一番最初のページを見た。

そこに刻まれた文字を見て、彼女はギクっとする。

「……………我が…………最愛の…………シオン……………」

ユーリの言葉にショウとテンルウもソウルバイブルに刻まれた文字を見た。






My beloved……Sion……






「何だよ…………これ…………!!」

<もしかして…………ソウルバイブルに伝わる『願い』って…………!!!>

ユーリはその文字を見て、嫌な予感を隠しきれなかったのだった。

「とりあえず、シオン様を寝室へ………このままでは………」

ユーリの心配をよそに、ソウルバイブルは止まることを知らずに文字を刻んでいった……………




シオンを部屋に運び、ベッドに寝かせた後、テンルウとユーリ、そしてショウはソウルバイブルに刻まれる文章に釘つけになった。

「そして、オペラ座には満席になるほどの客が訪れた…………」




ヨウスケはその様子を見て実に嬉しそうだった。

批評家であるオペルも観客席の中でも舞台上が見渡せるボックスにいた。

「今回、プリマのキイナは急病のため欠席です。マルガリーテの役はシオン・グランビアが勤めます」

舞台のスタッフの言葉を聞いて、退場するものもいる。

ヨウスケはそれを聞いて表情を変えた。

「シオンじゃ駄目だ」

だが、ヨウスケの言葉をカンピナスが止める。

「キイナめ………」

「ヨウスケ、シオンを信じてやってくれ。彼女なら出来る………!!」

ヨウスケはカンピナスに説得され、その席に座る。

<シオン…………頑張れよ…………>




5番ボックス…………

そこは観覧するには一番良い場所で、特別な人間がそこで舞台を観覧することが出来る場所である。

テンルウは毎晩そこで舞台を見ている。

彼の視線は、シオンが現れると彼女にのみ集中した。

シオンはマルガリーテの衣装を身に纏い、糸を紡いでいた。

そして……………シオンのソロが始まったのである。

シオンは踊りながらマルガリーテを歌う。

テンルウはそんなシオンを見てとても満足そうであった。

しかもいつも以上に良い声が出ている。

彼女の歌には周りを惹きつける何かがあった。

オペルも予想していた以上に彼女が良い声で歌っていたので、その歌に聞き入っている。

そして彼女の歌が終わった時、客席は歓声を上げ、喝采した…………。

テンルウはボックスにある座席に金貨一枚と紅い薔薇を一輪、シオンのために置いて行った……………




彼は夜の町を歩いていた。

その道には娼婦がうろうろとしている。

彼の姿を見て「ねぇ……私が欲しくない?」と彼に話し掛けてくる女がいたが、テンルウの目を惹きつけるほどの女はいなかった。

そして、彼とすれ違いざまに肩がぶつかった女がいた。

彼女は彼に一礼すると、その場を去ろうとするが、テンルウはその彼女の腕を掴んだ。




彼女は部屋の明かりとして備えてあるロウソクに火を灯そうとマッチをすった。

だが、テンルウはそのマッチの火を消してしまう。

「よせ、暗いままが良い。ただでさえ夜は短すぎるから…………」

彼はそう言ってベッドに座り、彼女の身体を抱きしめた。

「どうぞ………」

彼女の着ていた服を脱がせるテンルウ。

そして彼はこの言葉を口にした。

「シオン……………」

彼のその言葉を聞いて彼女は笑う。

「私の名はモニカよ」

彼はモニカの言葉を聞き、彼女の身体を押し倒した。

「今夜はシオンになれ…………」

彼女は何かを言おうとしたが、テンルウによってそれを止められてしまう。

「そのまま……………」

そして、二人だけの快楽が始まる…………。




その頃シオンは打ち上げパーティーに出ていた。

彼女はカンピナスに嬉しそうにこう語ったのだった。

「今日はね、特別に良い声が出たの。夢がかなったのよ。また助けられたんだわ…………」

「助けられたって?誰にだい?」

「父が私に送ってくれた守護天使様…………私の先生なの。そして今日のあの声とフィーリング………私、一生忘れないわ」

シオンは本当に嬉しそうに彼に話した。

「やれやれ………俺にも予定があったのにな」

「どんな?」

「君に求婚する」

シオンはその言葉を聞いて表情が少し変わる。

「カンピナス、困るわ…………今は無理よ…………」

「分かってる。どうやらチャンスを逃したようだな」

「お願い、もう少し待って………そうしたら私……………」

そう言うと、シオンはカンピナスに左手を差し出した。

カンピナスはその左手にキスをする。

「ああ。その時は…………」




「商売にならない」

ヨウスケはシオンを遠目にそう言った。

「だが、それでは彼女が気の毒だ」

オペルはヨウスケが持ちかけた交渉に反対する。

「たたかれもしたら成長するさ………」

「確かに…………成長するには長い年月と涙が必要だ…………いいだろう。手を貸すよ」

そう言ってオペルはワインを飲み干した。




「何だよこれ……………何で俺がシオン以外の女を押し倒さなきゃならないんだよ!!!」

「まぁまぁ、相手は本ですよ?本相手に怒らないで下さい、テンルウ様………」

「だって…………」

「この本がそうさせているようですわ。そして……………」




テンルウは一人、店の奥で楽譜の譜面を広げていた。

しかし、鏡を見るとすぐさま傍にあったロウソクに火を消した。

そしてこの店のウェイトレスが彼の傍に来てワイングラスを置いていった。

「いかがでした?」

「感動した」

彼はそう言うと、彼女が置いていったワインを飲む。

そして彼女は傍にあった金貨を持っていく。

彼女がテンルウの元を去り、別に頼まれていたオーダーを持って店の中に言ったとき、その店で賭け事をしながら飲んでいるディアマンテが彼女の腕を掴んだ。

「おい、あいつを紹介しろよ」

「駄目よ。あの紳士は作曲家。今お仕事中よ」

彼女はそう言ってその場を去ろうとするがディアマンテはトレイにのっていた金貨を取った。

「金貨で払えば紳士か?試してみるか?」

「相手にならないわよ」

彼女はディアマンテから金貨を奪い取り、その場を去っていった。

そして、彼はテンルウのもとに近づいた。

彼はそれを察知したのか

「作業中だ、行ってくれ」

とディアマンテに振り向かずに言った。

「毎日顔を見せているみたいだが?」

そう言ってディアマンテはマッチをすり、テンルウに差し出した。

テンルウはその腕を掴んだ。

「ああ。顔を見たら忘れない」

ふっとマッチの火を消し、再び譜面を書きつづける。

ディアマンテは気に入らなさそうにその場を去っていった。




それから2時間後…………

テンルウは一人、人一人いない街道を歩いていた。

すると、先程の男達3人がテンルウの前に立ちはだかった。

「何か用か?」

「金をよこしな」

「代償は?」

「こっちは鉄だ」

彼の言葉にテンルウはため息をつく。

「釣り合わないな」

だがその時のテンルウは何故か笑っていた。

そして……………彼らはテンルウにナイフを向け、彼に襲いかかった。

だが、彼は機敏な動きでそれを受け流し、ディアマンテの仲間を一人、投げ飛ばしたのである。

彼は何処からともなく鞭を取り出し、仲間の一人の首にそれを括り付け、自分に引き寄せる。そして、懐から大きなナイフを取り出し、彼の腹に突き刺した。彼は力なくうなだれ、その場に倒れこんだ。

それを見て、ディアマンテはもう一人の仲間をけしかける。

テンルウは左手に持っていたナイフを右手に持ちかえる。

もう一人の仲間も、ナイフを持ってテンルウに襲いかかるが、ナイフを持った手を力一杯握られ、ナイフを持っていることが出来ず、ナイフを落とす。

テンルウはその男の首を羽交い締め、ナイフを首に当て、思いきり切り裂いた。

男の悲鳴が街道を木霊する。

彼は生きたまま、その男の首を切り取ったのだ。

身体は無造作に倒れ、首はテンルウの左手に握られている。

そして、彼はその首をディアマンテに向けて投げつけた。

ディアマンテの表情は恐怖に満ちる。

あまりの恐ろしさに逃げようとするが、テンルウからは逃げられない。

「欲しいか?」

テンルウは金貨の入っている袋を見せつけ、ディアマンテを殴りつけた。

ディアマンテはその時に、壁にたたきつけられた。

そして、テンルウに首を掴まれ、体を持ち上げられる。

「欲しいんだろ?くれてやるよ。そして…………金持ちになって死ね」

「貴様…………地獄から来たな…………?」

「お前は地獄へ行け」

その言葉が彼を死へと誘う…………。

彼は死んだディアマンテの目の上に金貨を乗せ、その場を去った。

その街道には生首が一つ、男の死体が3体転がったまま夜を明かす…………




キラは新聞を持って、女子寮を走っていた。

そして、シオンの部屋に入ったのである。

シオンはその音で目を醒まし、キラを見た。

「新聞ね?早く見せて」

「待って、今読んであげるから」

シオンは早く新聞が読みたくてうずうずする。

「待っててね、今読むから。昨夜、オペラ座でオペラが開幕された。それは反響を呼び、会場は満席となる」

その言葉を聞いてシオンは嬉しくなり、キラから新聞を受け取った。

「だが、期待にそえることはなかった…………それはプリマドンナ・キイナの不在である………若いシオン嬢ではマルガリーテ役は無理、声は綺麗だが未熟さを隠しきれない。これではシベール役もこなすことは出来ないだろう……………」

新聞を読んでいるうちに彼女は気落ちする。

「シオン、気にしないほうが良いわ。批評家の偏見よ。会場に来ていたことすら疑わしいわ」

「いいえ!!来ていたわ………………私は失敗したのね…………」

「客席は喝采だったわ」

「お世辞だったのよ!!」

シオンは半分泣きながら新聞を握り締めた………………。




その頃、批評家のオペルは行き付けの風呂場にいた。

彼はバスローブを着て、サウナに入った。

そこには先客がいた。

テンルウである。

「湯気、立たせるかい?」

「ああ、頼むよ…………………君は………昨日オペラ座にいたね」

「いたよ。批評家だからね」

オペルはそう言いながら座りこんだ。

「なら…………シオン嬢の歌をコケ下ろしたのは………君だな?」

「シオン嬢には悪いが、彼女にマルガリーテ役は無理だよ」

「どうやら君はちゃんとしたボックスが用意されていなかったようだな。良く聞こえなかったとか………もし考えなおしてくれるのなら、俺のボックスを提供してあげるよ」

「ありがたいがね。あの金切声を聞くよりは死んだ方がましだ」

テンルウはその彼の言葉を聞いて心の中で何かが途切れる。

「なら………………そうしろ」

彼はそう言って持っていたタオルをオペルの顔に括り付け、思いきり力を入れて引いた。

オペルの絶叫と共に顔からタオルごしに血がしみこむ。

そして、彼は壁にオペルの身体を叩きつけた。

その時の表情も、彼は悦びに満ちていたのである……………




その夜、シオンは一人、何処かへ出かけようとしていた。

「シオン!!何処に行くの?」

「お願い…………一人にして……………」

シオンは泣き声でキラにそう伝え、花を持って女子寮を出た。

そして、馬車を止め、馬車に一人乗り込んだ。

「シオン!!待て!!」

カンピナスがちょうどその場に居合わせていたが、シオンにその声は届かず、馬車は行ってしまう。

カンピナスはすかさず、他の馬車を捕まえたのであった。




シオンが向かった先は墓場だった。

ここに彼の父は眠っている…………

彼女は父の眠っている墓に足を向け、花を供えた。

「お父さん…………来てくれたでしょ?感じたわ…………でも…………失敗しちゃって………私は…………これからどうすればいいの?」

一人、墓の前で沈んでいると不意にヴァイオリンの音色が聞こえてきた。

シオンはそのヴァイオリンの音色に耳を澄ます。

その時、墓場に入るための扉の鍵がかかる。

カンピナスもその場につくが、鍵がかかっているため、中に入ることが出来ない。

「シオン………シオン!!」

「……………カンピナス…………?」

シオンはカンピナスの声に反応するが、ヴァイオリンの音色が気になって仕方ない。

「シオン…………君のお父さんに頼まれた…………君の守護の天使…………さぁ………一緒に不滅の歌を歌おう…………馬車に乗りなさい………それが君の運命………」

シオンはその声に誘われるかのように、馬車に乗った。

「シオン!!シオン!!」

もはや彼女にカンピナスの声は届かない。

カンピナスは必死になって扉の鍵を外し、シオンに近づこうとした。

その時、ヴァイオリンの音が彼の鼓膜と脳を激しく刺激した。

あまりの音に思わず耳を塞ぐ。

彼がひるんだ隙に、馬車を走らせる。

そして、遥か彼方に消えていったのである………………




暗く湿った地下道のような道をテンルウとシオンは歩く。

「ねえ……私を何処へ連れていくの………?」

「家だ」

テンルウはシオンの手をしっかり握り、エスコートする。




シオンが連れてこられた部屋はあたり一面、ロウソクが灯っていた。

数は百以上はあるであろう。

「ここはオペラ座の地下だ。信じられないかもしれないけどな…………」

そしてシオンは一冊の譜面を見つけた。

それには「勝ち誇るドン・ジュアン」と書かれていた。

その作曲者の名前は「テンルウ・セフィーロ」となっている。

「貴方が………テンルウ・セフィーロ?」

シオンの言葉にテンルウは反応する。

「彼は…………死んだよ」

「ねえ、これを弾いて…………」

「いや、モーツァルトが良い」

「弾いて…………お願い……………」

シオンは切実にテンルウの腕を掴んで頼みこんだ。

その言葉がテンルウの心を動かす。

「わかった…………君の頼みは断れない」

テンルウは譜面を持ってオルガンの前にある椅子に腰掛け、その曲を引き出した。

シオンはその曲を何処かで聞いたことがあるような気がした。

そして自然にその曲の歌詞が頭に浮かんできたのである。

テンルウはそんなシオンを見て驚きを隠せない。

ある程度曲が進むと、テンルウはオルガンを弾いていた手を止めた。

「歌詞を………………どうして知っていた?」

「良くわからないけど……………何処かで聞いたことがあるような気がして……」

「そんなはずはない!!……………………シオン、君は俺の天使だ。俺の声だ………二人で一緒に成功しよう……………おいでシオン………何でもあげるよ」

シオンはその言葉を聞いてテンルウに近づいた。

「俺は音楽だ、そして君は音楽を愛している。そして音楽と愛は永遠だ」

テンルウはシオンの左手を握り、薬指に指輪をはめた。

それを見てシオンの顔色は変わる。

「いや…………」

「君は今音楽と結婚した。夫は一人で良い…………他の男とは逢うな」

「…………………………約束するわ……………………」

シオンはしばらく考えこんでそう言葉にした。

テンルウはそんなシオンの左手にキスをする。

「今夜、君は俺の花嫁になった…………………共に音楽を奏でよう………」




「シオンが危ない」

カンピナスはオペラ座で起こった殺人を担当している警部のコウヘイを尋ねた。

「いや、君の命も危ない。君はシオンと親密な仲だ」

「だから俺が殺したとでも言うのか?」

「違う」

コウヘイはそう言ってカンピナスにある写真を見せた。

その写真は全部死体の写真で、その死体は全て前身の皮膚が剥がされていた。

「皮膚が剥がされてる…………で、こいつらの何が共通するんだ?」

「殺された動機だ」

「動機…………?」

カンピナスはコウヘイの言葉を聞いて深く考えた。

「犯人はシオンの邪魔になるものを排除していっている」

「で、目星はついているのか?」

「……………………お前は神を信じるか?」

「ああ……………」

「なら、話せる。それくらい信心深くないとこの話しは信じられない」

コウヘイは少し、話すのをためらっていたようだが、カンピナスにある話をした。

「犯人の名は…………テンルウ・セフィーロ。遥か昔の作曲家だよ。聞いたことがあるはずだ」

「伝説だろ?彼の曲を葬ると彼も死ぬらしいが……………」

「ああ…………有名になるために悪魔に魂を売った男……………その時に自分の持っていた美を失い、誰からも愛されなくなったと言う…………」




シオンは一生懸命石鹸水に手をつけ、必死に指輪をはずそうとするが、いっこうに外れる気配すらない。

「どうしたのシオン、地獄から帰ってきたみたいな顔して………あら?婚約指輪?カンピナスから貰ったのね」

「違うの、彼じゃないの………………」

「そういえば今日は仮面舞踏会があるわね。シオンは行かないの?」

するとチャイムの音が聞こえる。

キラが窓から誰なのかをのぞいた。

「カンピナスよ」

「お願いキラ、これを彼に渡して、私は留守だと伝えて頂戴」

「…………わかったわ」

キラはシオンからカンピナス宛のメモを受け取りすぐさま彼に渡しに行った。

シオンはその間も指輪を外すのに懸命だった…………。

「どうして………?どうして外れないの………?」




カンピナスは女子寮のシオンの部屋に入ろうとするが管理人に

「ここは女子寮です、男性は入れませんわ」

と言われるが、カンピナスはおかまいなしに寮の奥に入ろうとした。

そこへ、キラが来たのである。

「カンピナス、シオンは今留守よ。これを預かったわ」

カンピナスはキラから受け取ったメモを見た。

「命が狙われているんだ、悠長なことはしてられないぞ!!」

そう言い残し、彼は女子寮を去った…………




夜……………

ある所で仮面舞踏会が開かれていた。

そこにはヨウスケとカンピナスの姿が見える。

「シオンは何処にいる?」

「シオン?こんなに混雑してるんだ。そのうち見つかるさ。それより楽しもうぜ」

「俺にはそんな余裕はない!!」

そう言ってカンピナスはシオンを捜しに何処かへ行ってしまった。

ヨウスケはそこで、キイナの姿を見つけたのである。

「あら、シンデレラのようですわね」

「ありがとう」

「キイナ」

キイナはヨウスケの声を聞いてヨウスケを見た。

すると、キイナはちょっとスンとしている。

「キイナ。一緒に踊ろう」

「後で踊ってあげるわ」

「俺は君のような美人を見ると黙っていられないタチなのさ」

そう言ってヨウスケはキイナの手を引いて、ダンスをしている人たちの群れに混ざっていった。

その時、シオンは色んな所を見渡し、カンピナスを捜していた。

そして、カンピナスの姿を見たのである。

カンピナスはシオンの手を引き、身体を引き寄せる。

「カンピナス」

「シオン、君の守護天使はテンルウなんだな?」

「だから危ないわ。何処で見ているかわからない…………」

カンピナスはしばし考えた。

「馬車を捜そう。少しでもこの街から離れたほうが良い……………」

シオンはそんなカンピナスの頬を撫でる。

「カンピナス…………好きよ………………だから、死なないで…………」




だが、テンルウはその様子をしっかりと見ていた。

テンルウは階段を下り、ある考えを実行しようとするその時、ある男がテンルウの前に立ちはだかった。

「誰だ?顔を見せろよ」

と言われ、彼の仮面に手をかける。

が、彼はその手を握り、その男を突き飛ばす。

「無礼者」

彼はそう言って、計画を実行する…………




キイナはヨウスケと共に、ダンスをしていた。

「今日は随分積極的ね」

「もちろんさ、仕事だけじゃなく人生のパートナーになって欲しいよ」

その時、テンルウのその様子を見てあたりが少しざわめいた。

「誰かしら?」

キイナは紅いマントを纏った男を気にかける。

するとその男はキイナの前に現れ、一緒に踊っていたヨウスケを突き飛ばす。

「ちょっと!」

「踊ろう、姫…………」

曲が変わり、キイナとテンルウは一緒に踊る。

テンルウのダンスはキレがよく、とても上手だった。

「ダンスがお上手ね」

「仕事でね」

「一体誰なのかしら?顔を見せてくれない?」

「代償は?」

その言葉を聞いてキイナは笑う。

テンルウはキイナの身体を抱きしめ耳元でこう囁いた。

「何か頂くよ」

そう言ってキイナを人影がないところへ連れこんだ……………




「さぁ………顔を見せて…………」

「俺の顔を見たら…………死ぬさ」

キイナはそんな言葉をおかまいなしにテンルウの仮面を外した。

彼女はテンルウの顔を見て顔色を一気に青ざめた。

「きゃああんぐ…………………」

テンルウは悲鳴を上げるキイナの口を塞ぐ。




コウヘイはその時、仮面舞踏会に忍び入って、ある怪しい人物を見た。

「犯人なら……………もういないぜ?」

コウヘイが警察なのを知っているのか、彼はこんなことを口にした。

「貴様、何か知っているな?」

「アイツならさっき若い女を連れこんで何処かへ行ったよ」

「言え、アイツは…………テンルウは何処にいる?」

その時、会場がざわめいたのである。




シオンはそのざわめきの正体を見た。

パーティーの料理として出されたスープの中に……………

プリマのキイナの首が入っていたのだ。

シオンは思わず口を塞ぐ。

あたりは悲鳴が飛び交っている。

それを見たヨウスケは完全に肩を落としている。

その騒ぎをよそに、テンルウはシオンに近づいたのである。

シオンはテンルウに抱きかかえられた。

「きゃああああああああ!!!」

思わず悲鳴を上げるシオン。

その声を聞いてカンピナスがシオンを捜した。

すると、もうすでにテンルウがシオンを連れ去ってしまったのだ。

コウヘイがカンピナスのところに、先程の怪しい男を連れてきた。

「さぁ、白状するんだ!!アイツは何処に行った!?」

「……………地下だよ」






テンルウはシオンを家に連れ去り、シオンをベッドのある方へ突き飛ばした。

彼女はベッドに横たわってしまう。

そして、彼はそのシオンの上に覆い被さった。

「シオン!婚約の誓いはどうした?!!…………貞節を誓ったはずだぞ!!!」

そう言ってテンルウは仮面を外す。

「きゃああああああああああああああああああああ!!!!」

シオンが見たテンルウの顔は半分皮膚が剥がれ、筋肉質が見えていたのである。

テンルウはシオンの両腕を握り、離そうとはしない。

「欲望は悪魔のものだ!!地獄のものだ!!!永遠に!!!」

「いや…………離して…………」

「シオン。もう2度と、ここから出さんぞ!」

シオンの眼に涙が浮かぶ。

彼女の心には「恐怖」の二文字しか残されていない。

そして、テンルウはシオンの唇を塞ぐ。

だが、それも長くは続かなかった。




地下中に、シオンを呼ぶ声が聞こえたからである。




「くそっ……………」

テンルウは悔しそうな顔をしてシオンに駄目押しして言った。

「シオン、お前は俺のものだ。ここからは出られないぞ」

そう言って彼はシオンを残して部屋を去った。

「お願い…………誰か助けて……………」




「シオン………………」

「なんか、思いっきりテンルウ様、悪役ですね…………」

「でも、俺シオンのためなら何でもするから、シオンの邪魔になるヤツは殺すだろうな」

「そんな肯定しなくても……………」

「でも、このテンルウは………ただの「テンルウ」じゃないですわ…………恐らくこの「テンルウ」は……………」




シオンは必死で逃げ道を探すが、何処のドアも開かない。

「お願い!!誰か助けて!!!!」

ドアを叩くがなんの反応もない。

だんだん心が不安定になってくる。

「お願い……………誰か……………ここから出して……………」

シオンは泣きながらそう言葉にすることしか出来なかった…………




カンピナスはコウヘイと共に、シオンの救出とテンルウの捜索に入った。

他の二人は別行動を取っている。

「本当にここがやつの住みかなのか?」

「ああ、右へ右へ行け…………さすればアイツにも遭遇できる…………」

そう言ってみすぼらしい男は地下の奥へと消えていった。

「何処を見てもトンネルばかりだ…………」

「コウヘイ、とりあえず早くシオンを助けないと……………」




一方のテンルウは別行動を取っていたコウヘイの部下と殺人ゲームを楽しんでいた。

「くそ!!」

彼はテンルウに何度も銃を発砲するが一発もあたらない。

逆に彼のボルデージは上昇していく。

そして、テンルウの高笑いは地下のトンネル中に響き渡る。

彼は完全にテンルウを見失っていた。

気配だけを頼りに彼はテンルウを見つけようとするが見つからない。

すると、ドアの音がカタンとなったのである。

彼は恐る恐るドアに近づき、ドアを空けた瞬間に発砲した。

そこにいたのはすでにテンルウの手によって殺された下っ端の警官だった。

彼はそれを見て怖くなる。

だが、それも長くは続かなかった。

テンルウが背後に忍び寄っていたのだった。

テンルウは彼を後ろから動けないように首を締める。

「俺の邪魔をするやつは皆死ぬが良い」

そして彼はコウヘイの部下の首にナイフを突き刺した。

頚動脈が切れ、勢い良く血が吹きだす。

その血を浴びたテンルウの表情はまだ血を欲しがっていた。

テンルウが次に目をつけたのは地下に良く出没するあのみすぼらしい男だった。




テンルウはすぐにみすぼらしい男を探し出すことが出来た。

「お前だな?ここの場所をあいつらに教えたのは…………」

「この間、女と歌っているところを聞いたよ」

「それが命取りだ」

テンルウはその男を睨みつける。

「俺を殺せばネズミ達がお前を襲うぞ?」

「なら一緒に地獄へ連れていけ!!!」

テンルウは彼の体を持ち上げ、トンネルから突き出ている鉄の刺に彼の身体を突き刺した。

彼の悲鳴はトンネル中に響き渡ったのである。




シオンは出られるような場所を捜したがいっこうに見つからず、疲れきっていた。

そこへ、テンルウが帰ってきたのである。

そして彼女はテンルウに疲れきった声でこう言った。

「私も殺すの?」

「誰でも死ぬ。殺すべき人間は殺す」

「私は……………何時死ぬの………………?」

完全に生きる事に絶望を感じたシオンの弱音であった。

テンルウはオルガンに向かい、彼女に言う。

「結婚行進曲にするか、葬送曲にするかは…………君が決めろ」

彼はそう言ってオルガンを弾く。

その音が地下中に響き渡っているのも知らずに……………




そのオルガンの音を、コウヘイとカンピナスは聞き逃さなかった。

「下から聞こえる……………!!!」

「何処かにドアがあるはずだ、捜そう」

「シオン……………」

カンピナスはシオンを心底心配するのであった。

そしてそれから10分後、二人はオルガンが聞こえてくるドアの前に立ち尽くしていた。

彼らは頷き、そのドアを蹴破ったのである。

それに気付いたテンルウはシオンの腕を引っ張り、別の場所への移動を図ろうとした。

「シオン!!!」

シオンの耳にカンピナスの声が響く。

「カンピナス!!!」

シオンは彼に駆け寄ろうとするがそれをテンルウが許さない。

テンルウはシオンの背後に立ち、彼女の両腕を後ろで掴んで離さない。

カンピナスはテンルウの右手を銃で撃ちつけた。

彼はその衝撃でシオンの手を離した。

カンピナスはテンルウからシオンを引き離した。

その時の衝撃で彼女は壁に叩きつけられる。

彼女の意識はそのまま暗転する。

そしてテンルウは、傍にあった剣をカンピナスのわき腹に突き刺した。

「あ………………」

あまりの痛みに声が出ない。

それにその剣にはロウソクがのっていたのだった。

彼の服に火が引火する。

その様子をシオンは何とも言えない表情で見ていた。

「シオン、こっちへくるんだ」

テンルウはシオンに右手を差し出した。

シオンは目の前にあった燭台を押し倒す。

その瞬間、周りの物に火が引火する。

「言ったはずだ、お前はここから逃れられない!!愛と音楽は永遠なのだ!!」

炎があたりを覆っているにもかかわらず、彼はシオンに歩み寄る。

だがシオンはテンルウに向けて銃を放った。

彼の身体に弾が撃ちこまれる。

だが彼はそれに一瞬ひるんだだけだった。

すぐに彼女はテンルウに左手を握られる。

その時コウヘイがテンルウに向かって3発銃を撃った。

それは彼の身体に当たり彼はその度に身体をひるませた。

すると、シオンの左の薬指にはまっていた指輪がするっと抜け落ちたのだった。

シオンはそれを信じられない表情で見つめた。

今まで何をやっても抜けなかった指輪がテンルウの手によって抜けたのである。

彼女はこれを良しとし、自分の後ろにあったもう一つの燭台をテンルウに向けて倒したのだった。

その火が、彼の楽譜に燃え移ったのであった―――――――――――――――

彼は自分の楽譜が世から葬られると命を失うのである。

そのまま彼は絶命したのであった………………

<シオン……………戻ってこい……………シオン……………>




こうして、ソウルバイブルは物語を刻み終えたのである……………




彼女は目を醒ました。

そこは朝、目を醒ますと何時も見る光景であった。

自分の部屋の景色…………

シオンは自分の「いるべき時間と場所」へ帰ってきた。

あれはただの夢…………恐ろしい悪夢だったんだと…………そう頭の中で認識した。

シオンは少しホッとして軽く目をつぶった。

すると、あまり時間が経たないうちにテンルウが部屋に入ってきた。

彼女はそれに気付き、目を開け、ベッドから身を起こし、立ち上がった。

「シオン、気分はどう?」

「ええ、大丈夫ですわ」

シオンは疲れた様子も見せずにテンルウに笑顔を向けた。

テンルウはそれを見て、シオンの身体を自らのもとに引き寄せ、彼女の頬に触れた。

「よく…………戻ってきたね、シオン…………」

(戻って…………きた?)

シオンは頭の中で夢の中のテンルウが<戻ってこい>と何度も言ってきたのを思い出した。そして、ハッとしたのである。

今、目の前にいるのは自分の最愛のテンルウじゃないと、彼女はそう認識した。

「貴方………まさか…………」

だが、シオンが言いたかったことを言い終わらないうちに彼女は彼にベッドに押し倒される。

「待っていた………この時がくるのを………俺の最愛のシオンを手に入れられる時を………」

「いやあ!!!やめてぇ!!」

シオンは顔を青ざめ、思いきり抵抗する。

が、彼は彼女の言葉を聞かず、シオンの衣服を思いきり破り出す。

シオンは服を破られた瞬間、心の中で何かが音を立てて壊れたのである。

「俺は音楽、そして君は音楽を愛し、契りを結んだ。君は俺から逃れられない」

そう言って彼はシオンの首筋に口付けをする。

「いやぁ……………お願い………やめてぇ!!!!」

彼女の叫びと共に、シオンは結界を張って彼を弾き飛ばした。

シオンはそれを見て、身を起こし、破られた服を握って部屋から走り去った。

彼は不適な笑みを浮かべ、シオンを追いかけたのだった。




シオンは後ろを気にしながらナディア城を走りまわった。

隠れられるような場所を捜しながら…………

シオンの目には涙が浮かんでいる。

「テンルウ様…………助けて……………怖いよ…………」

そう思っていてもテンルウは助けに来てはくれない。

そうこうしているうちに彼はシオンを追いかけてくる。

息を切らせながら、逃げるシオン。

だが、その時足をひねって転んでしまう。

「いた…………」

左の足首を見ると踝が赤くなって腫れている。

けれど今はそんな余裕はない。

彼に追いつかれてしまう…………

シオンは痛い足を引きずって、城外へ出ることを決意する。




走って逃げていく内に、足を捻挫しているせいで熱が上がってくる。

頭がボーっとしながら、シオンはなおも逃げ続ける。

そして、行きついた場所はナディア湾の崖だった。

完全に逃げ道を失うシオン。

おまけに熱もエスカレートしてきている。

熱のせいで息遣いが荒くなる。

とうとう、彼に追いつかれてしまった。

「言ったはずだ。逃げられないって…………」

熱で頭がボーっとしているシオンの頬を撫でる『テンルウ』

「さぁ、シオン…………俺の愛を受け取っておくれ…………」

そう言って彼はシオンにキスをした。

シオンは完全にされるがままになっていた。

だが、シオンには耐えきれなかった。

<テンルウ以外の人間にキスをされる>という現実に…………

だが、二人だけの時間はそう長くは続かなかった。

「そこまでよ!!!」

シオンが見たのは一冊の本を持ったユーリとショウ。そしてテンルウだった。

「シオンから離れろ!!本の分際で!!!」

「本?いや違う、俺は悪魔に心を奪われた…………シオンと言う名の悪魔に心を奪われた音楽…………そして彼女は永遠に俺のものになるんだ」

「ソウルバイブルの願い…………それはとりこんだ魂の持ち主を地獄へ引きずり共に過ごす事…………そんなことは絶対にさせない!!」

「どうして俺の邪魔をする?俺はただ………シオンに愛されたいだけなのに………なんで邪魔するんだよ?!!!」

『テンルウ』の悲痛な叫びがひしひしと心に刺さるシオン。

だが、その思いを受け入れることは彼女には出来ない。

そしてユーリが動いた。

「永遠の炎に焼かれると良いわ!!!悪魔の書「ソウルバイブル」よ!!」

ユーリは持っていた本を空に放り投げた。

そして短い『炎』の魔法を詠唱し、印を切った。

「ファイアー!!!」

ユーリの放った炎が本を燃やす。

その瞬間、『テンルウ』の身体が燃え出したのだ。

「ぐああああああああああああああ!!!」

『彼』は熱さに耐えきれず悶え苦しむ。

それでも、彼はシオンに歩み寄る。

「あ……………」

「シオン、こっちに来い!!!」

テンルウの言葉を理解はしていても足は崖の先に後ずさりするばかり。

「シオン…………一緒に地獄へ行こう…………業火に焼かれながら…………」

手を差し伸べながら、『彼』はシオンに近づく。

シオンはなおも後ずさるが足場がなくなってしまう。

これ以上『彼』から逃げられなかった。

『彼』がシオンの頬に触れようとした時、彼らの足場が崩れ出したのである。

シオンはすかさず左手を上に差し伸べて崖の岩にしがみつくが、『彼』はそのまま海へ投げ出されてしまう。

シオンはその様子をじっと見つめていた…………

が、彼女自身も身体を支えることが出来ず、左腕から力が抜け、岩場から手を離してしまう。だが、テンルウがそれを止めた。

「シオン、今引き上げてやるから………」

「テンルウ様…………」

シオンはテンルウに身体を引き上げてもらった瞬間、テンルウに抱きついた。

そして、声を立てずに泣いていた。

「ソウルバイブルはその存在を忘れられた本が読まれたかったために悪魔に文字を売り渡し、魂を取りこむ本になる。そして、魂を取りこんだ相手を愛し、地獄に引きずりこむ………………ひょっとしたらソウルバイブルがテンルウ様の姿でシオン様の前に現れたのはシオン様の記憶と思考を読み、一番自分が愛されやすいと感じた形を取ったのかもしれない…………」

「けど、その本と一緒に地獄に連れていかれていたら………どうなっていたのかな?」

「さぁ……………私達には一生…………わからないし、わかりたくもないわ」






作者:外伝6作目完成~!!!!

シオン:何時になく…………長いですわね

テンルウ:まるで「殺人鬼」だ………俺…………

ショウ:テンルウ様、随分狂気に満ちていますよね?

ユーリ:コウヘイが刑事…………コウヘイが頭が良い………絶対に有り得ないわ……

テンルウ:というか、何で獅子王とシオンが恋人同士なんだよ?!!!

カンピナス:なら言わせてもらうが何でモニカがテンルウ王子に押し倒されるんだよ?!!!!

キイナ:私………テンルウ王子に殺されてるし………

ショウ;本の内容、普通に想像したらすごくグロいですよ?平然と書かれているけど…………

作者:フフフフフフ…………

シオン:ホラー映画の見すぎですわ

テンルウ:シオンの嫌いな「生首」ネタを出すとは………作者、許せん……!!!

シオン:何故かあの時「生首」見ても平気だったんですよね?夢だったからなのかしら?

ユーリ:シオン様…………あれはシオン様にとっては現実です………

シオン:え…………?

ショウ:本の中でシオン様が実際に体験なさってたんですから………

シオン:……………………はうっ(気絶)

テンルウ:シオン!!

カンピナス:………………憐れ、王女…………