Foreigners night × Forbidden heresy

北海道旅行記 エピソード0.5

 ある少年と少女がいた。
 1人は生まれながらに人ならぬ力を持ち、それを悪用しようとする同類のモノを狩る宿命を背負った少年。
 もう1人は自らの意思とは関係なく人ならぬ力を持たされ、人を殺すためだけの存在にされた少女。
 物心が付くか付かないかの頃に出逢った2人は、互いの思いとは別に引き離される。
 そして、15年以上の時を経て運命的な再会を果たした2人は様々な事件に巻き込まれる。
 その度に少女は失くしていたものを取り戻していく。
 そして2007年7月、少女はあの懐かしい場所と夕焼けの下、少年との思い出を取り戻した。
 少年と少女は結ばれ、2人を中心とした世界は一時の平穏を迎える。

 これは、そんなわずかな平穏を得た世界の物語。



 2007年8月。
 北海道、札幌市。
 現時刻、午前10時半。
 緋河 天夜は、彼にしては珍しく遅めに眼を覚ました。
 というのも、前日までは仲間内でキャンプに出かけ、昨日帰ってきたばかりであったからだ。
「……だるい」
 起きて、まずそう呟く。
「やっと起きたか?」
 ふと、横を見ると、同居人にして彼の恋人である月花 楓は愛猫のゾーリンゲンを抱えたまま恨めしそうな顔で天夜を睨んでいた。
 どうやら、天夜が起きるのをずっと待っていたらしい。
「念の為に聞いておくが、楓、朝飯は?」
「…食べたように見えるのか、天夜?」
 天夜の質問に楓は即答した。
 この月花 楓と言う少女、料理の類は全く出来ない。
 …というよりは、料理を知らないと言った方が正しいか。
 以前、料理を手伝おうとした事はあったが、米を洗剤で洗おうとしたため、それ以来料理はさせていない。
「…しょうがないな。少し待ってろ。適当に何か作ってやる」
「味噌汁がいい。ジャガイモ入れてくれ」
 適当にと言ってるのに注文までつけてくる楓にやれやれ、と言わんばかりに天夜は立ち上がる。
 そして、台所に向かおうとする。
 が、そこで、

 ちゃらら〜ちゃらら〜ら〜ちゃらら〜♪

 天夜の携帯電話に着信が入る。
「…その変な曲、変えた方がいいんじゃないか?」
「俺のポリシーだ。これは譲れん」
 天夜はそう答えつつ、携帯を開く。
 見ると、相手は三嶋 詩巳と出ている。
 数年前に秋風市という街に一時期天夜は滞在していたのだが、その時の友人である。
 久しく会っていない相手だ。
「…珍しいな。また向こうで何かあったのか?」
 そうボヤキながら、天夜は携帯に出る。
「…何の用だ?」
 いきなりそんな台詞であるのは少し失礼であるかもしれないが、相手が詩巳ならばこれぐらいでも問題あるまい。
『久しぶりなのにいきなりそれかよ。お前変わってないな』
「お前もな。で、マジで何の用なんだ?」
『あ〜、実は今皆で新千歳空港にいる』
「……は?」
 予想もしていなかった言葉に、天夜は思わず間の抜けた声を上げる。
『今から札幌に行くから、迎えに来い。以上』
「ちょっと待て!俺の都合は無視か!?」
『いいから迎えに来い!どうせ暇なんだろ!!』
「確かに暇だが、それとこれは別だ!」
『あ、ついでに折角だからお前のバンドの曲聴いてやってもいいぞ』
「人の話を聞けっ!!」
『んじゃ、あと1時間ぐらいで行くからそのつもりで』
「って、おいっ!」
 一方的に電話を切られて、天夜は思わず携帯を握り締めていた。
「…天夜?なんだか凄い顔しているが、どうしたのだ?」
 普段は見た事がないような天夜の剣幕に、楓は少し驚いた顔をして見ていた。
「…あ〜、あ〜、あ〜、簡単に言うとだな」
「ああ」
「朝飯作るのは無理っぽい」


 約1時間後。
 そんなわけで札幌駅の前の広場にやって来た天夜と楓。
「…で、そのお前の友達がやって来る、と」
「ああ」
 クールな雰囲気をまとわせながら…とは言っても、コンビニで買ったパンを頬張りながら言っているので多少滑稽になっているかもしれないが…楓の言葉に、天夜は即答する。
 かなりの美人に、道行く人々の中には思わず見惚れる者もいるが、そんなヤツには片っ端から天夜が睨んでいた。
「全く、あの馬鹿は…俺を一体なんだと…」
 ブツブツ言いながら、天夜は火を点けた煙草を銜える。
「そうは言っても、あまり嫌そうではないな、天夜」
「そうか?」
「ああ、楽しそうにしていると思う」
「ふん…」
 心外だ、と言わんばかりに煙を吐き出す。
「しかし、私も一緒に行って良かったのか?」
「構わないだろ。お前、家にいてもナイフ磨ぐかゾーリンゲンあやすかしかしないし」
「……」
 天夜の言葉に、それこそ心外だと言わんばかりに楓もそっぽを向く。
「ほら、機嫌直せよ。後で好きなもの奢ってやるから。向こう持ちで」
「……普通は天夜持ちでないのか?」
「冗談じゃない。俺は無理矢理呼び出された側なんだから、それくらいしてもらわないとな」
 そう言って、さらに煙を吐き出す。
「大体、俺はそんなに金持ってないし、それにお前の方が金稼いでるじゃないか。どっちかというと小遣いかもしれないけど」
「…兄馬鹿だからな、暝嵜は」
 自分の実の兄の事だと言うのに冷たい物言いである。
 照れているだけだと天夜は判断したが。
 ふと、天夜が駅の中の方へ眼を向けると懐かしい人たちが今まさに中から出てこようとしていた。