Foreigners night × Forbidden heresy

北海道旅行記 エピソード3
 人数が多すぎるという問題が発生した為、秋風市御一行は三組に分かれて行動することにした。
 一組目は遥、涼子、美緒、詩巳。
 二組目は藤田、雅、沙耶。
 三組目は笹川姉兄妹と亨。
 なお、小摩木源五郎は呼べばどこからともなく現れるので人数外とする。

 そんなわけで、まず天夜宅を辞した笹川家一行と亨。
 四人はまず道庁へ向かうことにしたのだが……。

「なぁ睦美、なんであの響志郎ってのがいるんだ?」
「なんでも亨さんとソウルブラザーになったらしいよ」
「……なんだそりゃ」
「さぁ? まぁ実際のところは、あの玲さんって人の機嫌が悪いから避難しに来たんだと思うけど」
「好き勝手言うなそこのツインズ!」

 こそこそと話していた二人に、響志郎からストップがかけられた。

「別に玲ちゃんは本気で怒ってる訳じゃない、あんなの日常だ日常」
「……あれが日常か」
「亨さんと気が合うのも、その辺りの共通点が……」
「違うっての」

 子供に鋭い指摘をされた大人のような面持ちだった。
 響志郎は二人の言葉を遮るように、大きな声で赤レンガの建物を指差した。

「ほら、あれが道庁。正式名称『北海道庁旧本庁舎』だ」
「ほ、ほっかいどうちょうきゅうちょうほんしゃ?」
「北海道庁旧本庁舎」
「……要するに、赤レンガで有名なとこだろっ!」

 今度は一転して響志郎のペースだった。
 面白いことにこの双子、まるで二人で一人のような反応を見せる。

「へぇ、あれがそうなんですか」
「文明開化を感じさせる建物ですね……きっと当時の人たちは、私たちよりも新鮮な思いでこれを見てたんだろうなぁ」

 亨と志乃は並んで赤レンガと称される建物を見ていた。
 現代にある洋風とも違うし、昔の日本にあるような和風でもない。
 和と洋が出会い、一つになった時代に生まれたこの建物。
 他のどの時代にも感じさせない、特別な雰囲気をかもし出しているように見えた。

「でも立派過ぎてちょっと仕事場としては……プレッシャー感じますね」
「そうですか?」
「いや、志乃さんにとってはそうじゃないのかもしれませんが……」

 ちなみに秋風市御一行は、今回の旅行中『志乃の別荘』に泊まる予定である。
 どこにあるのか、どんな建物なのかは知らないが……養子、それも四人目の子が個人でも別荘を持てる笹川グループ。
 改めてその巨大さ、もとい無茶苦茶さを実感する。

 そんな笹川家の婿候補となっている事実に、亨本人は全然気づいてはいなかったのだが。

「ほらほら、そんなところでストロベリってないで。中入ろうぜ中」

 響志郎に背中を押される形で一行は中へと足を踏み入れる。
 中は想像よりも薄暗い感じがしたが、少し気になる程度であまり問題はない。
 外観もそうだが、中に入るといよいよ明治という時代を感じさせられる。
 正面入り口にある上り階段、窓から差し込む光。
 建物全体に心なしか厳かな雰囲気が漂っており、五人の口数も減ってきた。

「……中ってこんなんだったっけ」
「響志郎、あまり来たことないんですか?」
「ないない。観光地なんて地元民あんまり来ないだろ」
「……秋風市付近には観光名所なんて言える場所がないので、なんとも」

 最高の料理と暖かな雰囲気の榊原家がそれに近いかもしれないが、今は最高の料理と言うセールスポイントがなくなってしまったので魅力半減である。

「とりあえず一階から見て回ろうぜ。左の方から。確か、北海道の歴史なんたらってのがあったはずだ」

 響志郎の先導の元、亨たちは比較的穏やかに観光巡りを進めていった。





 一方ちっとも穏やかじゃないのは藤田一行。
 当然原因は沙耶だった。

「ビッ○カメラだーっ!」
「いやなんで俺らこんなとこに来てんでしょうね」

 思わず藤田でさえツッコミに回ってしまうこの現状。
 なぜか沙耶は、わざわざ札幌まで来て某有名量販店に行くと言い出したのである……!

「秋風市にはないもんね。一度は来てみたかったんだよっ!」
「気持ちは分からんでもないけどなぁ……」

 と、藤田は周囲をぐるりと見回す。
 秋風市駅前付近のビル街も凄いが、やはり札幌程の有名都市とは比べ物にならない。
 あちこちに様々な店があって、何が何やらまるで分からないのが正直なところだった。

「とりあえず買い物は今度にしようぜ。別に今日帰るわけでもないんだし。……なぁ雅?」

 助けを求めようと雅を姿を探すが、どこにも見当たらない。

「ちなみに雅ちゃんは上のオモチャコーナーに行ったんだよ。『ここならアレがあるかもしれないっ!』って」
「また例のあれか」

 雅は男勝りの性格、並の不良なら倒してしまう我流闘法、そして面倒見の良い姐御肌な性格が特徴である。
 だが、そんな特徴に似合わず趣味は『可愛いもの集め』。
 地元の店になさそうなものを、こうした大きな場所で探すつもりだろう。
 初めて彼女の部屋に案内されたとき、普段とは異なる乙女チックな顔で数々のぬいぐるみを紹介された。
 その普段とのギャップにやられて理性が吹き飛びかけたのも、今では良い思い出である。

「……って一人で惚気てる間に水島もどっか行っちまったよ」

 困ったなぁ、と藤田は一人頭を掻く。
 この土地は不慣れだし、二人を置いて遠くへ行くわけにもいかない。

 ……さて、どうしたもんか。

 この下にはバス乗り場があり、そこから色々なところへ行けるらしい。
 藤田は元々そこからどこかへと行くつもりだった。
 もっと遡って言うなら、雅と二人きりで来る予定だったのだ。

「……ぐっ、上手くいかないもんだなぁ」

 がっくりと項垂れる藤田。
 仕方ないので、とりあえず一階にある携帯電話コーナーを眺める。

 基本的に細かい性能を気にしないため、藤田は携帯にあまりこだわらない。
 それでも様々な種類の機器を見ていると、不思議と目移りしてくる。
 新しい携帯が欲しくなってきてしまうのだった。

「あ、これいいなぁ。もうファイナレファンタズー、6まで携帯で出来るのか」

 時代の流れは恐ろしい。
 画素数やら何やらも、少し前のデジカメに追いついているという状態だ。
 考えてみると、携帯の進化は凄いものだ。

「お客様、何かお探しでしょうか」

 親切な店員さんに声をかけられ、藤田は浮かべ顔で質問する。

「いやぁ、色々あって目移りしてしまいまして。家族への土産に買って帰ろうかなーなんて」
「……? お客様、失礼ですがご住所はどちらになられますか?」
「あ、○○県の秋風市なんですけど……」
「申し訳ありません。そちらの住所ですと、当店の方では……」

 それからしばらくして、雅がほくほく顔で戻ってきたとき。
 藤田は一人、しょんぼりとした様子で北海道牛乳を使ったソフトクリームを食べていたという。





 そして最後に、遥一行。
 彼女たちは天夜たちに案内されて、テレビ塔の前までやって来ていた。

「東京タワーに似てるね」
「そうか?」

 遥に言われて、天夜はもう一度見上げる。
 周囲が高層ビルに囲まれているとは言え、テレビ塔も立派な高さを誇っている。

「とりあえず入ろう。有料なのは展望台だからな」
「そうなんだ。……それじゃ展望台は行かないの?」
「笹川の足があるなら夜にも来れるだろ。夜景の方が多分綺麗だ」

 この時期なら午後十時近くまで展望台は利用可能である。
 夕食を取った後にでも来れば、綺麗な夜景を見ることが出来るだろう。

「天夜、私も見てみたいのだが」
「んー、そうだな。……折角だし、俺たちも行くか」
「いいなぁ、楓ちゃん。私も響ちゃんに頼んでみようかなぁ」

 などと、天夜の一言が次々とデートフラグをオンにしているようだった。

 一行はまだ昼食を取っていないことに気づき、とりあえず地下の蕎麦屋へ。

「あ、今朝急に呼び出しちゃったお詫びに、ここは私たちが奢るから。ね、涼子ちゃん」
「んー、そうね。さっきはちょっと悪ノリし過ぎたし」

 ということで、この場は式泉姉妹の奢りということになった。
 元々天夜はそのつもりでいたのだから文句はない。

「あ、ちなみに味の方は? 私たち、結構味にはうるさいわよ」
「分かってる。っていうか俺もその点じゃ同じだからな……ここなら保証出来る」

 早速席につき、適当に注文を頼む。
 腰を落ち着けたことで一同はゆったりと、もう一度自己紹介を始めた。
 ちなみに詩巳がいるので、能力だのなんだのという話はなしにしてある。
 なので楓と出会った話などはかなり脚色されてしまった。

「————と、というわけだ」
「ふーん。何かちぐはぐな気もするけど、まぁいっか」
「……お前、人が苦労して考えたのにその言い草かよ」
「ん、何か言ったか?」
「いや。……何でもない」

 とりあえず誤魔化せたのだから良しとしよう。
 そう自分に言い聞かせながら、天夜は深く息を吐いた。

 その一方で、他の女性陣は会話に華を咲かせているようだった。

「なるほど、天夜にそんなことがあったのか」
「うん。それで梢君がその喫茶店に緋河君を連れて行ってね————」

 なぜか天夜のことを遥に尋ねる楓。

「やっぱトラブルを巻き起こすときの大原則は、最後の最後に巻き込んだ相手に爽快感を与えることよ。巻き込まれて良かったーって思わせとけば、後腐れないでしょ」
「ふむふむ、なるほど……」

 なぜか美緒に妙な話を吹き込まれている玲。

「詩巳」
「なんだ?」
「今後俺の生活が著しく危険なものになりそうな気がするんだが、責任取りやがれこの野郎」
「俺は野郎じゃねぇ! あ、っつーかどさくさに紛れて俺の蕎麦取るんじゃねぇ!」

 ——————こうして、観光初日の正午は過ぎていくのであった。