Foreigners night × Forbidden heresy

北海道旅行記 エピソード4
 話は数日前に遡る。
「朝那様、笹川の御嬢様御一行が今度北海道へ旅行に来るそうです」
「笹川っていうと、志乃ちゃんたちね。あれ?確かあの子たちって天夜と知り合いじゃなかったっけ?」
「ええ、天夜様は一時期秋風市に滞在していましたから、その時に知り合ってるようですね」
「確か、あの子たちって毎年友人一同と出かけてるのよね」
「そう聞いています」
「んふふ〜…これは面白いことになりそうね。夕騎、すぐに向こうの予定を詳しく調査して」
「はっ…」
 彼女…緋河 朝那の顔はまさに新しい玩具を見つけた子供のようであった。


「…」
「……」
「………」
「…………」
 その場所で遥たちは物々しい沈黙を保っていた。
 いや、天夜と玲も沈黙を保っている。
「…このナイフもいいな」
 そう言って子供のように瞳を輝かせているのは楓である。
 その姿は、はっきり言って危ない人と大差ない。
「ねぇ、緋河くん…」
「言うな。俺だって後悔してるんだから」
「ここで楓ちゃんがナイフ探し出すとはねぇ…」
 昼食後、今度は時計台に行こうという事になったのだが、その途中で楓がふとある物を見つけて寄りたいと言い出したのだ。
 遥たちも少しなら、と了解を出したので、寄る事にしたのだが、天夜と玲がそれがミリタリーグッズの店だと気付いたのはその数瞬後だった。
「ま、まさか、本当にナイフ集めてるなんてねぇ…」
 そう言いながら、美緒は顔を引きつらせる。
 はっきり言って、彼女の理解出来ない領域である。
 まぁ、他の誰1人として理解出来ないけど。
「…マジでなんでお前あんなのと付き合ってんの?」
「可愛いから」
「いや、それはもう聞き飽きたから」
 例によって即答(当然、棒読み)する天夜に詩巳は思わずそうツッコミを入れる。
「ね、ねぇ、楓ちゃん…?」
「ん、これか?これはだな、シースナイフという種類のもので」
「楓、そういう講釈は航平さんか蘭さんにしろ。普通の人にしても煙吹くぞ。ついでに買うなら早くしろ」
「む、残念だ」
 名残惜しそうにそう言うと楓は店員にケースに入っているものを1つ指差してそのナイフを購入した。


 ほくほく顔の楓と、逆に疲れたような顔した遥たちは次の予定地である時計台に訪れていた。
「時計台…っていうからには、高い場所にあるのかと思っていたんだけど…」
「な、なんつーか、周りの建物に圧倒されてるよなぁ…」
 時計台の地味さに思わずそう呟く涼子と詩巳。
「日本3大がっかり名所の1つだからな」
「そ、そうなんだ…」
「ホント、壮大な草原の中にあるとか勘違いする観光客が後を絶たないのよね〜」
「あ、あはは…」
 玲の言葉に、思わず遥は乾いた笑みを浮かべる。
「ま、悪くない場所だと思うぞ?」
「うちの勇人と天ちゃんの妹のまっぴーの初デート場所だったりするしね」
「初どころか毎回行ってるらしいが。毎回行ってて飽きないのかね、あいつらは」
「え、え〜と、そろそろ中に入らない?」
 話題が身内にしかわからないような事になって来たので涼子はそう提案する。
「ああ、そうだな。それじゃ入りますか」


「へぇ、2階はこうなってんのか」
 ホールになっている2階に上って来て、詩巳はそう感嘆の声を上げる。
「思ってたより広いわね」
「ああ、2階は貸ホールになっている。向こうには鐘があったっけな」
「じゃあ、見に行って——」

 パッ!

 唐突にホールに一斉に明かりが灯る。
「な、なんなの!?」
「ふっふっふ…思ったとおりここにやって来たわね、天夜…」
 ホールから声が響く。
「…こ、この声は」
「まさか、朝」
「言うな。さぁ、下に戻るぞ」
 玲と楓の言葉を遮って天夜は冷静にそう宣言する。
「ちょ、ちょっと天夜!折角ホールを貸し切って来たのにそれはな」
「帰るぞ」
 ホールの中央に出てきた自分の姉…朝那の言葉をも遮って天夜は階段を下りようとする。
「ねぇ、あれってもしかして天夜くんのお姉」
「人違いだ」
「で、でも」
「見た事も聞いた事もない赤の他人だ!」
 遥の言葉に天夜はそう嫌そうに断言する。
「……時計台のホールを貸し切ってトラブルを起こすなんてスケールが違うね…」
「トラブルを起こすためなら、お金はいくらでも使うし、裏工作もしまくるのが天ちゃんのお姉ちゃんよ」
「多分、この旅行の事も前もって調べていたのだろうな。あるいは暝嵜を使ったのかもしれん。あの女ならそれくらいやってでもちょっかいかけるだろう」
「…うん、負けたかな、これは。凄いわ、あのお姉ちゃん」
「だからあんなの姉じゃないっつってんだろ!!」
 こそこそと会話してる美緒と玲、楓に、思わず天夜はそう叫ぶ。
「もう、天夜ったら照れてるんだから、この可愛い弟め」
「うるさい!とっとと帰れ赤の他人!!」
「なんで天夜が美緒さん苦手だったり、姉という言葉に過剰反応するのか分かった気がする」
「私も」


 さて、道庁の亨たちの方だが。
「あれ、勇人じゃん、こんなとこで何やってんだ?」
 ふと、響志郎は見知った顔の人間を見つける。
「響志郎?お前こそ、こんな所で何をしてる?」
 如何にも真面目そうな眼鏡をかけた青年…玲の双子の兄の風宮 勇人はそう響志郎に問い返した。
「俺?……観光案内」
「…風邪でもひいたか?大体お前、玲と一緒に…ああ、また喧嘩したのか」
「そういう納得の仕方はやめろ!」
 と、そこまで言って、響志郎は亨たちが「誰だこいつ」的な視線を送ってる事に気付く。
「あ〜、コイツは風宮 勇人。玲ちゃんの双子のお兄ちゃんだ。勇人、こっちは天夜の友達。旅行に来たんだってさ」
「ふむ…風宮 勇人だ。よろしく」
「で、お前一体何してんの?」
「…そろそろ戻ってくるはずだが」
 そう勇人が言ったところで、黒髪の15,6歳くらいの少女が歩いてくる。
 何故か、背中に竹刀袋を背負っていたりする。
「お待たせしました、勇人さん…あら?響志郎さん?どうしたんですか、こんなところで…ああ、また玲さんと喧嘩したんですね?」
「…眞昼ちゃんにまでそう納得されると俺、さすがに傷付くんだが…」
 みんなからの扱いにちょっと泣きたくなった。
「あれ?確か…緋河 眞昼さん…ですよね?」
「は、はい…そうですけど…」
 思い出したかのような志乃の言葉に、眞昼は頷く。
「私、笹川 志乃と言います。以前、パーティでお会いになった事があったと思いますけど」
「笹川…」
「その節は兄がご迷惑をおかけしました」
「あ…!い、いえ、こちらこそご迷惑をおかけして…!」
 思い出した。
 確か、笹川は以前、お見合いがあった時の相手だったはずだ。
 お見合いは移動中に天夜や勇人、楓が襲撃したせいで布衣になったのだが、やはり顔は会わせ辛い。
「その節ってなんですか?」
「兄がパーティーで眞昼さんを見初めて、お見合いをする予定だったんですけど…移動中に何者かが襲撃してきて眞昼さんを連れ去ってしまったんです」
「へぇ、物騒だなぁ…よく無事でしたね?」
「は、はは…」
 亨の言葉に眞昼は乾いた笑みを浮かべ、襲撃者の1人である勇人はちょっと明後日の方向へ顔を向ける。
「でも、見初めるのも分かる気がするなぁ…綺麗だし」
「ま〜た病気が始まったよ」
 ぽへ〜としながら、眞昼の手を握る亨に、思わず五樹はそうツッコミを入れる。
「あ、あの…ちょっと…?」
「ああ、こういう純粋培養な箱入り娘って感じの子に好かれるのもいいなぁ〜…」
「……」
 恋人の前でそんな事をほざいてる亨に、志乃はまた不機嫌な顔をするが、んな事に気付く亨ではない。
「……ちょっとよろしいですか?」
「はい?」
「あっ、馬鹿、答えるな、死ぬぞ!?」
「え?」
 切羽詰った響志郎の言葉も虚しく、亨は意外と力強い眞昼の腕に引き摺られて物陰へと連れて行かれる。
「え?え?ちょ、ちょっと!?」
「ふふふ、覚悟はよろしいですか?」

 ドカッ!バキッ!ズガガガガガガッ!グシャッ!!

 物陰からそんな凄まじい音がする。
「ああ、俺もう知らねー。勇人、お前の彼女だろ、なんとかしろよ」
「……無理だ」
 汗を流しながら、勇人はそうはっきりと答えた。


 しばらくして戻ってきた時、亨はボロ雑巾のような姿で、
「もう他の女の子に目移りしたりなんかしません。しませんから、許してぇぇぇぇ…」
 と志乃に泣きつくのであった。