Foreigners night × Forbidden heresy

北海道旅行記 エピソード8
「と、いうわけで任務は完了した。詳しくはこの書類に全て書いてある」
「ああ、ご苦労さん」
 久坂 零次は今回の仕事の事後処理のため、暝嵜探偵事務所を訪れていた。
 眼の前にいる男は暝嵜 航平。
 この探偵事務所の主にして、月花 楓の実兄である。
「ふん、なるほどね。出てきたのは二流の吸血鬼、か。これでしばらく大人しくなるといいんだがな」
 書類に眼を通しながら、航平はそう呟く。
「銀の弾があっても、当たらないんじゃ話にならないからな」
 やれやれと言った表情で煙草を灰皿に押し潰す。
 そこへ、航平の秘書であり恋人の外村 絵菜瑠が零次が座っているソファの眼の前の机に、御茶を置いた。
「粗茶ですが、どうぞ」
「では、ありがたく」
 そう言うと、零次は出されたお茶に口を付ける。
「そういえば、そっちの近況はどうだ?そちらでも吸血鬼事件があったという噂を聞いたが」
「4ヶ月ほど前にな。まぁ、犯人は頭がイカレた能力者だったが、天夜のヤツが狩った。最近じゃ、どこぞの暗殺組織が色々やってきたが、今度こそ跡形もなく潰してやった」
「あなたらしいな」
 暝嵜 航平も、様々な事情から今までに何度も闘争の中を渡り歩いてきた人間である。
 異法人ならともかく、普通の能力者とも互角に渡り合えるという点だけでも、一般人としては充分規格外に属する。
「妹さんの方は?」
「色々あって記憶取り戻したよ。相も変わらず天夜と同棲中だ。人の事言えないが」
「ほう、心配か?」
「別に。天夜なら安心して任せれる。他の男だったら容赦しないがな」
 実際、昨日妹にコナかけようとしていた男(航平視点)に発砲したのは良い思い出である。
「うむ、同じ立場なら俺も同じ事をしているだろう」
「気が合うな、久坂」
「全くだ、暝嵜よ」
「「はっはっはっはっは」」
「…ああいうのを、世の中じゃシスコンっていうのかしら」
 そんな2人の様子に、呆れながら聞こえぬようにボソッと呟く絵菜瑠。
「して、どうだ?これから一緒に競馬でも」
「悪くないが、これから冬塚たちと合流して遊びに行くのだ」
「やはりか。存分に遊んで来い」
「お前は行かないのか?」
「俺まで行ったら世界観設定が混沌と化して…もとい、昨日こっそり付いて回ったから問題ない。妹のユニホーム姿なんて珍しいもの見れたしな。写真に撮ったから今度墓参りの時に持っていかないと」
「…航平、キャラが変わってきてるわよ」
「俺も自分でそう思う」
 じゃあやるな。
 絵菜瑠は心の底からそう思ったが、言って聞くのでは実の妹に「兄馬鹿」呼ばわりされてないだろう。
「楓ちゃんも変な影響受けなきゃいいけど」
 そう呟いて、絵菜瑠は深く深く溜息を吐いた。


「よう、話は済んだのか?」
「天夜…」
 遥と楓が戻ってきた時、集合時間10分前だと言うのに、天夜は既に札幌駅の広場に来ていた。
「天夜くん、早いね」
「時間はきっちり守る主義でね」
 煙草の煙を吐き出しながら、そう答える。
「…楓、何か良いことでもあったのか?」
「え?」
「なんとなく嬉しそうだぞ、お前」
「そ、そうか?」
「ああ」
 そう頷いて、天夜は、
「楓とはどんな話を?」
 と、遥に尋ねる。
「それは女同士の秘密って事で」
 微笑みながら、遥はそう返答する。
「…まぁ、それはそれで別にいいけど」
「あ、姉さーん!こっちこっち!」
 そこで、たった今到着したらしい秋風市の面々が手を振って声をかけてきた。
「涼子ちゃん!」
「姉さん、零次見かけた?」
「ううん、私は見てないけど…天夜くんは?」
「見てないな」
「そう…あ、勇人くんたちも来たみたいね」
 緋河家所有の豪華そうな車から勇人たちが出てくる。
 ただし、昨日の面子の中では朝那と夕騎がいなかった。
「おはようございます、皆様」
 礼儀良く眞昼がそう挨拶をする。
「眞昼、どこぞの馬鹿姉貴はどーした?」
「昨日無茶やったせいで、母様に締められてました」
「そうか…鬱陶しいのがいなくていいな」
「そうですね、兄様。姉様がいると、無意味に事態がややこしくなりますし」
「……まっぴー、何か黒いものが出ているわよ?」
 笑顔で自分の姉をさり気無くボロクソにしている眞昼に、玲は思わずそうツッコミを入れた。
「ふむ、緋河の次女の腹の黒さは暝嵜からも聞いていたが、本当だな」
「そ、そうみたいね、零次…零次!?」
 いつの間にやら自分の隣に陣取ってる零次に涼子は思わず指を指して驚く。
「どうした、涼子?人を指で指すのはあまり感心できないが」
「いや、いきなり現われてそれはないんじゃないかと」
 全くである。
「久しぶりだな、緋河」
「久坂さんも、空気が読めなさっぷりは相変わらずのようで」
「気をつけてはいるのだがな」
 苦笑しながら零次はそう答える。
「…天夜、お前は昔いったい何をやらかしたのだ?『制裁の剣天使』と知り合いとは聞いていなかったぞ?」
 楓は零次の噂を暗殺者時代に何度か聞いた事があった。
 曰く、『黒き制裁者に手を出すな。ソレを敵に回せば、災厄がその身に降りかかる』と。
 そんな人物と知り合いな天夜の交友関係に呆れるやら感心するやらで思わず突っ込んだ。
「…いや、別に俺がやらかしたってわけじゃないんだが。まぁ、ある時は味方である時は敵ってとこかな」
「そんなところだろう。君が月花 楓だな?君の事は暝嵜からよく聞いている」
「暝嵜…兄さんと知り合いなのか?」
「仕事上の付き合いだがな」
 改めて、自分の兄のコネの多さも思い知った。
「じゃあ、これでみんな揃ったのかな?」
「そうじゃねーの?で、今日は何処に行くんだ?」
「あ、うん、それは昨日の夜にみんなで話し合ったんだ。今日は…」


 北海道函館市、五稜郭。
 戊辰戦争最後の戦いの地であり、新撰組副長である土方歳三の遺体がこの地の何処かに埋められているとも言われている。
「…信じられんな」
「そうですね、兄様…」
「まさか、個人専用飛行機持ってるとは…」
「姉様が持ってたりしたら、世界中飛び回ってそうですね…」
 と、志乃専用飛行機で函館に到着してから結構経つのに未だに呆然としている天夜と眞昼。
「ほらそこ、いつまでカルチャーショック受けてんの?」
「…順応力高いな、お前」
「気にしたら負けかな、と」
 そう言って溜息を吐く玲。
 なんだかんだで結構カルチャーショックを受けているらしい。
「ヤザキン、ここの土掘り返したら骨が出てくるかも知れないからやってみたら?」
「なんでそんな事僕がしなきゃいけないんだよ」
「掘り出したら、歴史に名前が残るかもしれないじゃん。つちかたさいぞうだっけ?」
「“ひじかたとしぞう”だ。ファンの皆様にバレたら殴られるだけじゃすまないぞ」
 美緒にツッコミを入れるのはバスガイドが如く、秋風市の皆様に五稜郭の説明をしていた響志郎。
「ふむ、ここに来るのは私も初めてだが、なんとなく趣というものを感じるな」
「こういう歴史的名所もなかなかいいもんだね」
「ああ、全くだ」
 楓、雅、藤田の3人はそんな事を言いながら観光気分を満喫する。
「ところで涼子、昼食はどうなっている?」
「昼食ねー、函館と言えば塩ラーメンかな。天夜くん、どこかお勧めある?」
「函館は馴染みが少ないが…まぁ、なくはない」
「じゃ、天夜くんのお勧めでいいでしょう?少ししたら、五稜郭タワーに行って、それから昼食って事で」
 と、いうわけでもうしばらく五稜郭で気ままに過ごす一行であった。