長き時を経て

第8話
 この時期、アグストリアの盟主であるシャガール王子はアンフォニーへやって来ていた。
 アグストリア内でも西方に位置する国である。
 領主であるマクベスは欲の深い男だったらしい。
 シグルド軍とハイライン軍の戦いの際には、近隣の村へと盗賊を向かわせていた。
 目的は、国民から富をまきあげる事にあった。
 王自らが国民を脅かす盗賊と繋がっていたことも異常だが、その盗賊に自国の民を襲わせたという事例は過去にない。
 マクベスは国の繁栄を望まず、あくまで個としての自分を大事にする人物だった。
 極端に悪質な王と言うべきであろう。
 そのような国家であるが故か、アンフォニーの騎士団はほとんど力を持たない。
 騎士団を育てていけば軍事力は得られるが、王としての絶対性が若干薄れる。
 強い力を持つ騎士団はときとしてクーデターを起こすやもしれず、また、そうでなくとも強力な発言権を有し王を黙らせる場合もある。
 マクベスはそれを恐れ、アンフォニーで力を持つのは自分一人、という姿勢を貫いた。
 アンフォニー軍の主力部隊は、マクベスが金で雇った傭兵たちである。
 この男の基本心理には、常に金という存在があったらしい。
 ところで、村へと向かわせた盗賊たちは失敗した。
 正確には戻ってこない、というべきであろう。
 裏切られたのか、何者かにやられたのか。
 どちらにせよマクベスの目的は達成されなかった。
 さらに、彼にとって最悪なことに、この暴挙がシャガール王に気づかれてしまった。
 イムカ王は盟主としての力を振るい、諸侯をまとめてきた。
 が、新しき王シャガールは愚鈍と見たのか、マクベスは今回のような暴挙に出た。
 だがシャガールは、マクベスが思っていた程愚鈍ではなかった。
 シャガールはマクベスの行動に気づくと、馬を飛ばしてアンフォニーへとやって来た。
 そのとき丁度シャガールと同じ頃に、ハイラインの陥落を告げる伝令が到着した。
 シャガールの怒りとマクベスの焦りは、どのようなものだっただろう。
「馬鹿が、貴様がくだらんことにうつつを抜かしている間にこのような事態になった。どうしてくれる!」
「お、お許しくださいシャガール様。すぐに傭兵たちを出撃させますので」
「当たり前だ。責任を取りきれないのであれば、貴様はここで死ね!」
 顔を真っ赤にさせてシャガールは叫んだ。
 彼にとっても厄介であっただろう。
 父王を暗殺し、どうにか手に入れたアグストリアであったが、その内実を早々に見せ付けられたのである。
 アンフォニーは私利私欲の塊が支配し、マッキリーは慎重すぎる領主が治めている。
 ハイラインは早々に陥落し、ノディオンに至ってはアグストリアに反旗を翻した。
 エルトシャンには不服だろうが、シャガールの認識はこんなものであっただろう。
 慌てて傭兵たちに出撃命令を下すマクベスを内心で見下しながら、シャガールは歯噛みした。

 今しばらく視点をアンフォニーに向けたい。
 城主であるマクベスは騎士団をあまり育てず、傭兵部隊を雇っている。
 名をヴォルツ傭兵隊という。
 隊長のヴォルツは武勇誉れ高く、一個の傭兵隊としては大陸屈指の力を有していた。
 さすがに国家そのものが巨大な傭兵隊となっているトラキア王国には及ばないが、マクベスにとっては十分以上に頼れる存在であった。
「傭兵は正規の騎士団などと違い、数々の戦いを経験してきている。連中がいればハイラインはおろかノディオンにさえも勝てるだろう」
 と、マクベスは密かに思っていたらしい。
 エルトシャン率いるノディオンのクロスナイツ相手に互角というのは過大評価とも取れるが、ヴォルツ傭兵隊ならばある程度の勝負にはなるであろう。
 ハイライン軍相手ならば確かに勝てるはずである。
 シグルド軍も間違いなく苦戦するはずであり、下手をすれば敗れ去ることも考えられる。
 しかし実際には、シグルド軍の猛攻の前に、ヴォルツ傭兵隊は呆気なく消え去ることになるのである。

 原因は傭兵というものの体質と、マクベスの性格にある。
「この仕事は虫が好かねえ」
 アンフォニー城に招かれてから、平素そのようなことを言う者が多かった。
 その筆頭が、隊長ヴォルツの片腕ともいえるベオウルフなのである。
 このベオウルフは、ヴォルツの指揮下にあるわけではない。
 彼は傭兵隊というものにも属さない個人の傭兵であった。
 かといって戦に参加した経験は決して浅くはない。
 彼がヴォルツと共に動くようになったのも、戦場で働くためにヴォルツ傭兵隊と合流し、お互いに気が合ったからである。
 無論傭兵同士の友情である以上、お互いの力量も認め合っていた。
 マクベスから出撃要請が降りた後、二人は与えられた部屋で語り合っていた。
「出撃命令なんて言いやがるが、俺はすぐに出ようとは思わん」
 と、ヴォルツは普段の彼ならばまず言わないようなことを言った。
 それに対してベオウルフは何も言わない。
 お互いにマクベスのやり方が気に入らないのである。
「あの野郎は気にくわねぇ。自国の民を食い漁るようなハゲに付き合ってられるか」
 ベオウルフは感情を露わにして、今にも怒鳴り散らしそうな勢いである。
 もちろん、部屋の外にアンフォニーの兵がいるかもしれないために小声であったが。
 ヴォルツは同感の意を示しながら頷いていた。
「そろそろ別の雇い主でも探そうかと思ってる」
 という、とんでもない発言に対しても文句を言わず、ただ聞いていた。
 出撃命令が出たときにこの種の発言をするということは、普通ない。
 ヴォルツにとってここでベオウルフに抜けられるのは大きな痛手であったはずだが、それでも彼はにやりと笑いながら、
「好きにしな。俺たち傭兵はそうやって自由気ままであるべきだ」
 と言った。
 もっともこれはベオウルフに対する皮肉なのかもしれない。
 ヴォルツ傭兵隊としてマクベスに雇われた以上、名声のためにヴォルツは抜けることが出来ない。
 名声、あるいは信頼のない傭兵隊など自然消滅するしかないのである。
 その点個人で傭兵をやっているベオウルフは気楽であった。
 そういった意味での羨望の意、あるいは皮肉の意がこの言葉に込められていたのかもしれなかった。
 ともあれ、こうした傭兵隊の不満が、後の大敗北へと繋がる。
 マクベスは金さえ払えば傭兵は言うことを聞くと勘違いした。
 そうした忠実さは正規の騎士団に求めるべきで、傭兵にそれを求めるものではない。
 金を中心に世界を見るマクベスには、その手の内実が分かっていないようだった。

 シグルド軍はハイライン城に駐留していたが、全軍がそうしていたわけではない。
 盗賊軍についての情報を得た後、すぐさまいくつかの部隊を開拓村へと向けた。
 その部隊の中にはフィンやラケシス、ティールの姿がある。
 なるべく誤解を招かないようにと、アグストリア出身のラケシスが自ら志願したのである。
 フィンやティールはいわば彼女のお守りのような立場であった。
「まだアグストリアにこんなところがあったのね」
 ノディオンの王宮で育ったラケシスは、外界をよく知らないようであった。
 珍しそうに周囲を見渡しているが、彼女の隣にいるフィンはやや険しい表情をしていた。
 この進軍中のあるとき、
「姫」
「なんですか、フィン」
「お言葉ですが、もう少し集中していただけませんか。どこに敵が潜んでいるか分かりませんので」
「ええ、ですからあちこちを見て気をつけているんです」
 という話があったらしい。
 この言葉にフィンは二の句が告げず、以降ずっと黙りきってしまった。

 やがて日が暮れる頃、ティールが二人の部隊の元へとやって来ていた。
 彼はシグルド軍から派遣されたノイッシュ隊と行動を共にしており、フィン隊よりも前を進んでいた。
「どうしたの、ティール」
「盗賊軍は全滅、そのほとんどを捕虜にすることに成功しました」
 その報告には、フィンもラケシスも仰天した。
 敵はそれなりの数を揃えているとの報告があり、だからこそシグルドはノイッシュ隊、フィン隊、アレク隊の三部隊を出撃させたのである。
「ノイッシュ隊だけで敵を倒したのか?」
「いえ、どうもゲリラ戦で盗賊軍はかなりの被害を出していたようです」
 ティールもいまいち信じられないのか、戸惑いの表情を浮かべた。
 が、既に起こった事実なのである。
 ゲリラ戦を展開したのは、レヴィンという吟遊詩人と、シルヴィアという踊り子の二人であった。
 レヴィンは風の魔道書、視界の悪いこの開拓地という条件を巧みに使い、個人としては考えられないほどの成果を叩き出した。
 シグルド軍には超人的な実力を持った人物が何人かいたが、レヴィンもそのうちの一人であった。
 ノイッシュ隊は、レヴィンに手酷くやられた残党を捕虜にしただけである。
 もっともここでシグルド軍が現れなければ、レヴィンのゲリラ戦はさらに続き、彼の体力が尽きていたかもしれない。
 その点ではノイッシュたちの行動は無駄ではなかった。
「それで、そのレヴィンさんとシルヴィアさんはどうしたの?」
「そのことなんですが……」
 レヴィンは、シグルドに会わせろと要求しているらしい。
 どうやら彼は、ひどく怒っているようだった。
「とにかくハイラインへ戻りましょう。捕虜の件にしても、その吟遊詩人の件にしても」
「シグルド様の指示を仰がねばなりませんからね」

 ところがシグルドは動き続けている。
 ティールがラケシスたちの元に報告した頃、彼は既にハイライン城から出ていた。
 シャガールに急かされたマクベスが、シグルド軍へと戦いを仕掛けてきたのである。
「その軍勢は劣弱にて大したことはありません」
 と、オイフェは最初からこきおろしている。
 アンフォニー騎士団はマクベスの影響か、惰性に包まれた軍となっている。
 軍という統率機関ではなく、烏合の衆といった感がある。
 兵は戦いの勝利よりも己の保身のみを考え、主君のために戦おうとする者はほとんどいなかった。
 これはもはやアグストリアでは常識のような説となっていたが、オイフェは念のため密偵に探らせた。
 が、結局騎士団は特に注意すべき存在ではないという結論が出た。
「しかし問題はヴォルツ傭兵団です」
「私も聞いたことがある。相当な強さだというが、実際はどの程度なのか」
「普通に戦えば勝率は五分五分ってとこだな」
 と、ホリンが予想を立てた。
 彼は大陸を駆け回った経歴の持ち主であり、ヴォルツ傭兵団とも顔を合わせた経験がある。
「ホリン、真っ向から勝負して対応できそうなのは誰かな?」
「俺やアイラなら負けはしないが、こっちは歩兵であっちは騎兵だからな。機動力で翻弄されるとまずい」
「となれば、私やキュアンが戦いつつ敵を包囲し、アイラ、ホリン部隊で決戦を挑むというのが一番か」
「レックス隊も包囲作戦に参加していただきましょう。さらにアゼル隊とジャムカ隊は後方援護に」
「分かった。ではその作戦でやろう。本日正午に出撃する」
 その後、シグルドはオイフェたちと共に軍備を整えハイライン北方の谷へと進軍した。
 途中、ハイライン正規軍と交戦したがこれは呆気なく蹴散らした。
 交戦とすら言えないかもしれない。
 ハイライン正規軍は進軍するシグルド軍を見るなり、あっさりと意気消沈したらしい。
 士気は下がり、軍隊としての統率も取らず、数十分戦っただけで逃げ去ってしまった。
「あれが正規軍か」
 シグルドたちはこの“現象”に驚いた。
 あれは正規軍ではなく、単なる盗賊、山賊の類ではないかとさえ思った。
 やがてその現象はまた別の現象を引き起こした。
「アグストリア軍なんざ大したことはない」
 という意識がシグルド軍に浮かび始めたのである。
 もしこの声をアグストリア出身のラケシスやティールが聞いていたらどう思ったであろう。
 軍全体が高揚感に突き踊らされて動き続けている。
「軍とは、気まぐれなものですね」
 この様子を眺めていたオイフェが、若干驚きの感情を持って呟いた。
 ヴェルダン戦では必死に動き回っていたためよく分からなかったが、落ち着いて見るとこれがまた妙に見えてくるのである。
「軍隊は不完全な生物なのだそうだよ。スサール卿がそう仰られていた」
「祖父が、ですか」
「卿の言葉だ、覚えておいて損はないと思うぞ」
 少しだけ笑って、シグルドはオイフェに語った。
 が、急に視線を鋭くし、前方を仰いだ。
「もうすぐアンフォニー城だな」
 なぜシグルドがそんなことを言い出したのか、オイフェは瞬時に判断できなかった。
 しかしすぐさま聞こえてきた大軍の足音に、その意図を察した。
 ヴォルツ傭兵団が迫ってきたのである。

 激戦は凄まじいものであった。
 傭兵団はさすがに大陸中を渡り歩いてきただけのことはあり、シグルド軍は少しずつ押されはじめた。
「こいつはきつすぎるぜ」
 頑強で知られたドズル公レックスでもこれはたまりかねた。
 ヴォルツ傭兵団の攻撃の凄まじさはハイライン軍の比ではない。
「後方に戻って、谷に誘い出すんだ。そこで迎撃する」
 いちいち報告するゆとりもなかったため、レックスはそのまま部隊を後退させた。
 偶然ながら、オイフェも戦局を見て同じ考えを持った。
「なるべく狭い地で戦う方がいい」
 シグルドに進言し、シグルドもこれを取り入れた。
 その光景を、東の谷の上から眺める者がいた。
 ティールである。
 彼は伝令を通して、シグルド軍の同行をついさっき知りえたばかりである。
 偶然谷の付近を通過しているときであり、丁度谷の下から戦いの音を聞き取った。
「これは急がないと」
 ティールは手際がいい。
 すぐさまノイッシュの元へ向かった。
 この三部隊の総指揮権はノイッシュに委ねられていたからである。
「すぐさま全軍を進軍させ、北方から回り込み、傭兵団を挟み撃ちにするべきです」
「だがアンフォニー城の方にも敵軍が残っているかもしれない」
「それならご心配なく。多少人数を貸していただければ、城兵の方は牽制してみせます」
 ティールの進言を聞き入れたノイッシュはこれを承諾し、フィン隊、アレク隊を率いてヴォルツ傭兵団を背後から奇襲することにした。

 ヴォルツ傭兵団は負ける要素がいくつも揃っていた。
 挟撃される可能性が高い戦場、君主の影響による士気の低下。
 そして、ベオウルフの裏切りである。
「さて、ここらが潮時かね」
 ベオウルフは傭兵団の最右翼にいた。
 そこには丁度シグルドの部隊がやって来ている。
 肝心なのは、裏切り方である。
 マクベスにはいくつもの裏切られるべき要素があった。
 だが、そう簡単に敵対する勢力への寝返りは出来ない。
 傭兵というものは信用こそが大事であり、だからこそヴォルツはマクベスを裏切ることが出来ない。
 裏切りとは傭兵にとってかなりの危険性がつきまとうものなのである。
 そのときベオウルフが取った行動は奇妙なものだった。
 シグルド軍の眼前にまで迫りながら、戦わないのである。
 ただしシグルドの目に止まる程度に動き回る。
 当然シグルド軍の兵士たちはベオウルフを倒そうとするが、軽くあしらわれてしまう。
 いわば、戦場で自分というものをアピールし始めたのである。
 シグルドの視線が段々とベオウルフに集中し始めた。
「あそこの傭兵は敵意がないようだが、どうしたのだろう」
「分かりません。私が出向いてみましょうか」
「……いや。私が直接行こう」
 そう言ってシグルド本人が動いたことには、ベオウルフも驚いた。
「随分と気楽に動く大将だな」
「単騎、敵将の目前までやって来る君には負ける」
「ククッ、口も中々達者だな――話がある。寝返りたいと言ったらあんたは信用してくれるかい」
「ほう、寝返る? それは穏やかな話ではないな」
「そうでもない。マクベスの糞野郎に嫌気がさしている連中は思いのほか多い。俺はその筆頭というわけだ」
 マクベスの悪評はシグルドもよく聞いていたため、特に疑うこともせず頷いた。
 オイフェは少々顔をしかめたが、シグルドもベオウルフも気にしない。
「もちろん傭兵だから契約金はいただくがね。さて、どうする?」
「構わない。もっとも契約金については戦闘後に決めてもらうことになるが」
「この状況だからな。それじゃ俺に手兵を数十人貸してくれ」
「それだけでいいのか?」
「なに、向こうの不平分子がすぐに集まる。問題ないさ」
 ベオウルフの言葉は実現した。
 彼はこの後すぐに敵軍へと身を投じて、ヴォルツ傭兵団から数百人を引き抜いた。
 さらにフィンやノイッシュらの部隊が北方から攻撃。
 窮地に追い込まれたヴォルツ傭兵団は奮闘虚しく、ついに壊滅した。

 隊長であるヴォルツはこのときフィンによって討ち取られた。
 フィンが自ら攻め入ったのではなく、ヴォルツ自身が特攻する形でフィンの陣営へと突入してきたのである。
 その戦いぶりは鬼神の如きもので、フィン配下の兵たちは次々と倒された。
 さらにヴォルツは進み出て、とうとうラケシスの間近まで迫った。
 そのときフィンがヴォルツの前に立ちはだかった。
 ぶん、とヴォルツは剣を振るうのだが、これがなかなかフィンに当たらない。
 フィンは槍のリーチの長さを利用し、一定の距離を保ちつつヴォルツと対峙している。
 だがヴォルツはさすがに凄腕の傭兵だけあって、隙がない。
 そのため両者は膠着状態になった。
 数十秒。
 先に動いたのはフィンだった。
 彼はラケシス護衛を任じられたとき、キュアンから勇者の槍という名槍を授かっている。
 一瞬のうちに二度攻撃するといわれる槍で、この槍があればこそフィンはヴォルツとまともに戦えていると言っていい。
 フィンは主君から貰った槍と、自分の実力を信じた。
「おおおぉっ!」
 普段は無口なフィンの、凄まじい咆哮が響き渡る。
 側でこれを見ていたラケシスは、思わず竦みあがってしまったほどだった。
 ――――閃光の如き一線。
 その軌跡はヴォルツの胸を貫いていた。
「チッ、こんな奴がいるとはな」
 最後に好敵手に会えたことに喜びを感じたのか……。
 ヴォルツは薄く笑って、その場に崩れ落ちたという。

 その後のアンフォニー攻略はあっという間に終わった。
 ヴォルツ傭兵団が壊滅したことを知ったマクベスは、ある程度戦った。
 が、これはシャガールに対する体面のようなものだったらしい。
 頃合を見計らって、彼はシグルド軍に投降した。
「私は戦ったのだが到底勝ち目がなさそうだった。城の兵たちの命を救うためにやむなく降ったのだ」
 というのがマクベスの言い分だったが、これはシグルド軍もシャガールたちも、誰もが信用しなかった。
 普段は温厚なシグルドも、マクベスに対しては嫌悪感を隠せなかったらしく、
「あんな領主が、なぜ」
 と、オイフェに漏らした。
 その後シグルドはマクベスを本国へと送った。
 シグルドが用意したマクベスに関する書類には、マクベスに対する辛辣な見解が多分に含まれている。
 これを参考にしたグランベル本国は、マクベスを極刑に処した。
 シグルドはそのことを知る機会がなかった。
 彼はもはやマクベスなどのことに構っていられるほど、余裕のある人生を過ごせなかったのである。