異法人の夜-Foreigners night-

-第一部-
第六話「反撃の始まり」
 赤間カンパニーには『特務課』などという課が存在する。異邦隊の仮の名前だ。
 一般社員たちは決して近づくことのない地下十階。そこが、零次たち異邦隊の本拠地だった。
 だだっ広い部屋に零次は入室するなり、強烈な臭いに思わず鼻をつまんだ。
「……赤根、ここは禁酒禁煙のはずだ、今すぐタバコを始末しろ」
 ほとんど睨みつけるようにして、対面で寝転がる男に注意する。その男は目つきが悪く、かなり細身の男だった。スラム街の路地裏にいるような、そういう危険な雰囲気を持っている。
「いちいちうるせえ野郎だな。人の楽しみにケチつけんのか?」
「己の快楽で周囲に不快感を与えるなと言っている」
「ケッ」
 舌打ちすると赤根はぐりぐりと力任せにタバコを灰皿に押し付けた。押し付けながらも、その視線は零次のほうを睨み続けている。
「優等生はいちいち言うことが面倒くさいんだよ。確かにてめぇは実力は俺らの中でもかなりのもんだが、礼儀ってもんを知らねぇ」
「お前よりは知っているつもりだが?」
「それが礼儀がなってねぇって言ってんだ! ここでは俺のほうが先輩だしそもそも年上だ。敬意を払え、敬意を!」
「俺は払うべきだと判断した人物には敬意を払っている」
「っ……てめぇ!」
「――――――やめんか!」
 今にも赤根が零次に飛び掛ろうとしたまさにその時。
 部屋の入り口で、柿澤源次郎が二人を恫喝した。瞬時に二人は姿勢を正す。
「私は非常に悲しい。君たちは同じ力を持つ仲間同士だ。それなのになぜこうもいがみあうのかね」
「こいつと同じ!?」
 いかにも赤根は不機嫌そうに零次を指差す。
「ケッ、やってられるか。くだらねぇ教師みたいなこと言ってんじゃねえよ隊長」
「別に私は仲良くしろと言っている訳ではないのだがね。せめて、チームワークを乱さない程度の付き合いはしてもらいたいものだ」
 重々しいため息をつく。
「だいたい他の者たちも、こういった争いをただ静観するだけとは。まったく、私がいないと喧嘩を止めることもできんのか」
「隊長、そのへんにしといてくださいよ。僕らもう説教は聞き慣れてますし」
 ファッション雑誌を読んでいた亨が口を挟む。表立ったことは言わないが、他の隊員たちも同じ意見のようだった。
 柿澤のこめかみに青筋が立つ。
「久坂、赤根、亨の三名に一週間社内の便所掃除の手伝いを命ずる」
「僕もっ!?」
 素っ頓狂な声を上げる亨を無視して、柿澤はホワイトボードの前に立った。
「さて、それでは総勢三十七名、全員集まったかね」
 周囲の席に座る部下を見回した。赤根は不機嫌そうに頬杖を突いている。
 零次は渋々と席についた。
「霧島がいないようですが」
 と、隊員の一人が報告する。
「奴には別件を頼んでいるところだ、後で私が直接説明する」
「……」
 その言葉に零次はかすかに眉をひそめる。
 先日、例の研究機関の研究者を捕らえた件についてだろうか。考えてみれば、あの日以来霧島を見ていなかった。
 亨のほうに視線を移すも、なにやら不満げにぶつぶつ言っているだけ。
 零次は再び柿澤に視線を戻した。
「現在、我々には主に四つの標的が存在する」
 そう言ってホワイトボードに、四枚の人相書きを貼り付けた。隣にあるスクリーンに、拡大表示される。
「うち一つ、S級の異法人である土門荒野の行方は知れないままだ。そして凶悪犯罪者である通称ザッハークに関しても同様」
 淡々と告げるその声に感情はない。
 今柿澤が挙げた二人は、十年以上、その足跡さえもつかめないでいる。
 土門荒野は四十年前に存在を確認された、伝説の能力者。誰がはっきりと見たかは知られていないがとにかく存在、そして驚異的な戦闘能力の高さだけが知られている現世の怪物。情報の信憑性のなさから、この男の捜査は行われていない。人相書きとて、誰が書いたかすらはっきりしないいい加減なもの。つまり―――単に外部からの情報を待つのみなのである。
 もう一人、ザッハークと呼ばれる男は十五年ほど前に大規模な事件を引き起こした異常者として伝えられている。事件の詳しい顛末は零次には知らされていなかったが、よほど凄惨なものだったのか、以前それを語ったときの柿澤の表情は暗かった。
「あれは人の業に反する」
 と柿澤は呟いていた。
 その柿澤が、新たに二つの人相書きを示した。
「これが、現在我々が探している少女。ハルカと呼ばれている。隣の男は少女を連れ攫った異法人だ」
「馬鹿な野郎だ」
 梢の人相書きを見て、赤根は心底おかしそうに笑った。
 だが零次は笑えない。未だに足取りが掴めないのだ。二度、逃げられてもいる。雑魚と侮っている場合ではなかった。
「当面はこの男を探し出すことが任務の中心となるだろう。だが油断はするな」
 そこで柿澤は視線だけを零次に向けた。零次はその視線を怯むことなく跳ね返す。
 ふむ、と頷いて柿澤は言葉を続けた。
「……この男の捜索の任務は異法人だけで行おうと思っている」
 隊員たちがざわめく。異邦隊の中でも、異法人の数は少ない。隊長である柿澤を含め、日本支部には六人しかいなかった。
「ほぉ」
 愉快そうに声をあげたのは赤根甲子郎。この男も異法人である。
「面白れぇ、普段はあれこれと規制されて能力を使えないからな。久々に遊ばせてもらうとするか」
 ククク、と不気味に笑う。そんな赤根を零次は半眼で見据えている。
 ……足元を救われなければいいがな。
 口にはしない。どうせ喧嘩になるだけだし、嫌いな相手にわざわざ忠告してやるほど零次はお人好しではなかった。
 それよりも気になるのは梢のことだった。様子から察するに、特に遥に危害は加えていないことは零次にも分かる。
 ……悪人ではないだろう。
 だが、あまりに無知で愚かだと思った。異常とも言える力を持つ能力者が一般社会に溶け込んでいる。
 ……あの男はそれのどこが悪い、といった風だったが。
 大いに悪い。
 少なくとも梢は視野が狭い。それは一種の罪だ。一般人の視点で考えてみれば、それはたまらない恐怖となる。知人が、友人が、家族が――自分をいつでも殺せるような力を持っているとしたら、普通の人間はどんな反応を示すか。
 その答えを、零次は知っている。
『出て行け、疫病神!』
『やだ、気持ち悪い』
『悪魔の子よ、あそこの子は呪われてるに違いないわ!』
『化け物! あっちにいけ!』
『こ、恐い……嫌っ、来ないで、近寄らないで!』
 零次は、頭を振った。
 今でも思い出すたびに胸に突き刺さるような言葉。一刻も早く忘れたいのに、頭からその声が消えることはない。
 だが、それだけならまだいい。零次の脳裏には、死んだ母と妹の姿が浮かんでいる。それが、終始まとわりついて離れない。
 ……所詮、我々は相容れない者同士……いや、相容れてはならないんだ。それを、あの男は分かっていない。
 そう思ったとき、涼子の姿が思い浮かんだが、すぐに霧散して消えた。否、消した。
 ――分からせてやる。お前がどう考えていようと、我らと人は共に生きれない。
「……では、これにて会議を終了とする。我ら異邦隊に平穏を」
「我ら異邦隊に平穏を」
 零次たち隊員は柿澤に倣って、一斉に姿勢を正した。

 夜の町は、いつになく静かに感じた。まるで自分以外に生きている者がいないのではないか―――。
「なんてな」
 意味のない思考を閉ざし、梢は周囲に気を配る。既に時間は零時を回っていた。
『今日から深夜、町を見て回る』
 昼間の吉崎との会話を思い出した。
『先手必勝ってやつだ。待ちの姿勢でいたら、最悪家が狙われるってこともある。それなら、こっちから動いた方がいい』
 当然ながら吉崎は反対した。
『敵は複数だ。一人相手に苦戦してるお前じゃ話にならないと思うぞ』
『だけど考えてみろよ。結局いつかは連中と戦う必要はあるんだろ? それだったら少しでも多く実戦に慣らしたほうがいいじゃねぇか』
 その言葉に黙る吉崎には、やばくなったら逃げるから、とだけ言ってある。
 夕食を終えた辺りから、梢の心臓は激しく動いていた。
 高揚感にも似た何かがある。榊原邸の門を出た瞬間、夜風が梢に襲い掛かってきた。
 それがたまらなく心地よく、そして同時にひどく気持ち悪かった。緊張している。両手で顔を叩き、気を取り直してから梢は町へと出てきたのだ。
 この秋風市は、おおまかに四つのエリアに分けることが出来る。まず一つが、榊原邸のある住宅街。古くからの町の住人が数多く住んでいるところである。
 その住宅街から、坂道を上って西に進むと、T字路がある。そこを真っ直ぐ―――さらに西へと進んだところに、新興住宅街がある。冬塚涼子や、久坂零次らの住居はここにある。ここをさらに進んでいくと、この町で唯一の墓地に出る。
 T字路を南に下ると今度は商店街。その先には梢たちの通う朝月学園がある。そこから南に進むと、駅を中心とした賑やかな繁華街に出る。
 梢は今、三十分ほど歩いて繁華街にやって来ていた。他の場所よりも遅くまで賑やかさを保つこの場所も、さすがに静かになっている。
 駅前の公園、その中心にある噴水の前で梢は立ち止まった。
 ……さて、どうやって連中をおびき寄せるかだな。
 彼の視線の先には、赤間カンパニーがあった。
 距離にして数百メートル。そこから何者かが出てくるのを、梢は待っている。
 ……あるいは、俺に気づいて向こうから仕掛けてくるか?
 周囲の気配を探るため、感覚の網を広げる。接近するものがあれば、即座に対応出来るように。
「……って、早速かよ」
 何かが飛来してくる気配がした。
 瞬間、梢は前に飛び出していた。身体を回転させて、すぐさま体勢を立て直す。
 今まで自分がいた場所に、見慣れぬ男がいた。梢と同様―――いや、それ以上の目つきの悪さ。身体から滲み出る、淀んだ魔力。真っ赤な血を連想させるような、赤い服を着た男。
「出かけるのが面倒くせぇからここに残ってたが……こいつは当たりかねぇ」
 ククク、と獰猛な笑みを浮かべる。その態度は、自信に満ち溢れていた。
「さて……一応言っておくがとぼけるのは無しだぜ。俺の攻撃を避けた時点で、てめぇが異法人なのはお見通しだ。そしてその目つきの悪いバカそうな面構え。お前がハルカとかいう女を攫ったんだろう?」
「バカそうな面なのはお互い様だ。てめえこそ、何者だ」
「異邦隊所属の異法人、赤根甲子郎様よ。そう、これからてめえをぶちのめす男だ!」
 言いながら、赤根が突撃してくる。
 梢はすぐさま後方に飛び退いた。この場で戦うつもりはない。敵の本拠地で戦うのはさすがに危険すぎる。
「逃がすわきゃねぇだろ」
 可笑しそうに笑いながら、相手は追いかけてきた。
 速い。普通の人間にはまず出せぬであろう速度で、赤根は梢を追いかける。
 しかし、梢も負けてはいなかった。
「異法人ってなんだ」
 後方の気配に対し、そんなことを聞く。
「俺やお前みたいな奴のことさ。変な力と馬鹿みてえな力を持つ化け物のことだよ!」
 返答と同時に、背中を何かがかすった。確認するよりも先に、梢は横に飛び退いた。そのまま高層ビルの側面を駆け上る。
「ほお、やるな」
 当然のように赤根もそれに続く。自分の優位を確信しているのか、その表情は余裕の色で満ち溢れている。
 だが追われている梢も冷静だった。
 六十階建てのビルの四十階まで差し掛かった頃に、屋上に向かって具現化した蔓を放つ。蔓は屋上にあった金網に巻きつけられた。それを利用し、一気に駆け上る。
「あん?」
 相手の行動に何かを感じ取ったのか、赤根はやや訝しげな表情をした。だがビルを駆け上っている以上立ち止まることは出来ない。
「何しようとしてるかは知らねぇが―――」
 ギラリと、瞳が怪しげに光る。
「俺には通用しねぇぜッ!」
 赤根の腕が吼える。
 屋上に立つ梢にもはっきりと視認できた。
 ――それは爪。
 猛獣を思い起こさせるような、禍々しく、あまりに歪で、かつ鋭い爪。
 それが二つ。梢を狙って物凄い勢いで迫ってくる。
 ……ある意味ではいい機会だ。
 この危機において、梢はそんなことを考えていた。
 ……こいつはあの男に比べれば魔力も少ないし、動きも劣っている。
 あの爪さえなんとか出来れば、対処できるはずだ。そしてあの爪に打ち勝つには、"あの篭手"を使う必要がある。
 ここ数日でなんとか形だけは出来ていたものの、まだ完成には程遠い。だが、時間をかければそれなりの強度にはなる。
 そのために梢は赤根が飛び出してくる前から、右腕に魔力を集中させていた。
 時間にしてみればまだ一分程度。だが、これ以上時間をかけていては後々の実戦にも到底使えない。
「やるしかねぇか」
 大切なのはイメージ。
 赤根はもうすぐ屋上に達する。躊躇している暇はなかった。
 心の中にあるのは空想の植物。手の中にあるのは自らの魔力。戦う手段は己の拳。
 魔力は拳を包み、植物は拳を創る。それが倉凪梢の武器。
 ――――――翠玉の篭手(エメラルド・ガントレット)。
「……おっしゃあ!」
 今、梢の右腕には翠玉の輝きを放つ、立派な篭手があった。
「篭手、ね」
 クク、と笑いながら赤根が屋上に達した。
「だが片腕だけじゃ、俺の双魔爪からは逃れられんぜ」
「ごたくはいいから、さっさとかかってきな」
 その梢の挑発に、赤根甲子郎は乗った。
「おらぁぁぁぁぁッ!!」
 左右から、魔爪が迫り来る。赤根の言うように、たった一つの篭手ではこれら両方を防ぐことは難しい。
 右からの攻撃を、梢は篭手で弾く。しかし、すぐさま左の爪が梢の足を切り裂いた。
「ケッ、浅えな」
 お互いにとって満足のいかない攻防は終わり、一旦距離が置かれた。
「くそ」
 攻撃を防ぎきれなかったせいか、梢は不満げに右腕を見て―――気づいた。
 右腕の篭手には、傷一つついていない。
 ……精度は十分。あとは俺の使い方次第か。
「何を呆けてやがる!」
 目の前に赤根が迫っていた。
 再び迫りくる魔爪。それを、梢は後方に飛び退いて避けた。
「篭手のテストはもう終わりだな」
 となれば、次に試すものがある。それは梢自身の戦闘能力。
「悪いがてめえで試させてもらうぜ、俺の力を!」
「試すだぁ?」
 不快そうに眉をしかめる赤根を無視して、梢は初めて自分から攻撃をしかけた。
「ぬおッ!」
 突然の攻撃に赤根は戸惑いながらも、赤根は爪でガードする。だが梢は攻撃の手を休めない。即座に屈みこんで赤根の足に蹴りを放つ。
「がッ!」
 初撃をガードしていたせいで足元が無防備。赤根はなんなく体勢を崩してしまった。
 これを好機とみて、梢は後方に回り込むと赤根の背中にエルボーを放つ。不安定な体勢は完全に崩れ、倒れこみそうになった赤根の足を掴んで地面に叩きつける。
「こ、ンの」
 糞餓鬼が。
 そう叫ぼうとする赤根を、梢の拳が黙らせる。
「うがぁぁぁぁぁ!」
 今度こそ梢の攻撃を止め、赤根は半ば憎悪の意思だけで立ち上がった。
「ふざけんなよ。てめえ、青二才が……。あとで隊長にしこたま叱られそうだが、ぶち殺す」
 赤根は二つの爪を構える。
 あの爪は防御にはさして役に立たないのだろう。しかし、下手な刃物よりも鋭い切れ味を持っているから、武器としては危ない。
「能書きはいい。口だけの野郎に興味はないね……早く来いよ」
 ―――だからこそ、梢はそれを倒そうと思っている。
「あの世でたっぷりと後悔しやがれ!」
 刹那、魔爪と翠玉の篭手が衝突する。
 それはほんの一瞬。
 赤根甲子郎の爪は梢の喉元へと向かう。対する梢は、身体を低く構え、捻るようにしてストレートを放つ。
 それで、全てが終わった。
「がはッ……」
 そうして倒れたのは――赤根甲子郎だった。
 梢は爪の一撃を受けているものの、どうにか立っていた。
 勝敗はほんの僅かなスピードの差。あと数瞬遅れていたら、梢は今頃八つ裂きにされていただろう。
「やれやれ……これぐらいの相手に苦戦してるようじゃ、あの野郎とはまだまだ戦えないな」
 足元がふらつくので、金網に寄りかかる。
 赤根は気絶してしまったらしく、起き上がる気配はない。そのことを確認すると、梢は赤根を担いでビルを下りていった。

 噴水のところまで戻って、担いでいた男を放り捨てる。
「ここに置いておけばお前の仲間の誰かが見つけてくれるだろうさ。風邪ひくかひかねぇかは、知らないぞ」
 無責任な一言だな、と思いつつなんでこんなことしてるんだろ、とも思っていた。
 中途半端に甘い。それは良くも悪くも梢の特徴の一つだ。もはや直しようもない。
「さて、じゃ今日は帰るとするか―――」
 そう言って振り返った先に。
 一人の男がいた。
 久坂零次ではない。彼よりも、一回りも二回りも大きい。
 相当の距離があると言うのに、恐ろしいまでの威圧感があった。
「――おいおい」
 なんてでたらめな化け物か。
 零次と対峙したときにも感じなかった寒気が、梢の全身を走り回る。
 今しがた対峙していた赤根が猫ならば、先日の男は狼。そして今の巨漢は象のようだった。
 その象は離れた距離から、梢を見ていた。あまり感情の色が現れず、何を考えているのか今ひとつ図りかねる眼。
 その眼に、梢は負けた。
「チッ―――」
 すぐさま逃げ出す。
 敵わない。今の自分では敵わない。
 そのことを実感しながら、梢は夜の闇へと消えていった。

「……」
 矢崎刃は噴水のところで倒れている赤根甲子郎を担ぎ上げた。
 静かに携帯電話を取り出し、柿澤に繋げる。
「俺です」
『刃か、どうした?』
「赤根が敗北した模様です。これから医療室に連れて行きます」
『……敵はいたか?』
 そう尋ねられて。
「見ていません」
 刃は顔色一つ変えず、少しも躊躇うことなく答えた。
『そうか、分かった。では医療室で待っている。他の四人にも連絡をいれておくとしよう』
 そう告げて、柿澤は携帯を切った。
 刃はただ、梢が去っていった方向をじっと見ている。