異法人の夜-Foreigners night-

-外伝-
受け継がれしもの?
 冬。
 冬休みが終わり、生徒たちが登校し始める頃。
 秋風市では雪が降り続けていた。
 もうすぐ三年が卒業するというこの時期、朝月学園ではあるイベントが行われる。
 生徒会選挙。
 大袈裟に言ってしまえば、一般の生徒が学校の支配権を賭けて謀議の限りを尽くし合う恐るべき行事。
 行事関係や学園内での規定、部活動への支援に設備の購入。
 学園生活は彼ら生徒会にかかっている。
 その生徒会の構成は以下の通り。
 会長一名、副会長一名、書記二名、会計二名。
 その他必要に応じて臨機応変に応援要員が追加される。
 まともなようでいて、かなりいい加減だった。
 が、とりあえず選挙で決定するのは最初に述べた六名のみ。
 全校生徒の中心となって活動する重要な役職。
 権力を狙う有象無象を蹴散らし、我こそはと名乗りを上げる精鋭たち。
「時は満ちた! 今より我が朝月学園高等部は戦乱の幕を開くこととなる!」
 暗闇の中、一人の青年が勢いよく立ち上がる。
 発言が明らかにおかしかったが、それを訂正する者はいない。
「さて、諸君に集まってもらったのは他でもない。この戦乱において、私はある二人の人物に天下を取らせたいと考えている」
『天下蹂躙』と書かれた扇子をパッと広げる影。
 それと同時に、今まで闇に隠されていたホワイトボードにスポットライトが当てられた。
 そこには二つの写真が貼られていた。
 写っているのは目つきの悪い男と、ポニーテールの少女。
「この二人に、この学園の支配権を譲渡したい」
「会長、一つ質問が」
「なにかね斎藤君。存分に語りたまえ」
「何故その二人を?」
 斎藤の問いかけに、会長と呼ばれた男は静かに微笑んだ。
 怜悧なる相貌が闇の中で輝きを増す。
「彼らと特に親しい君ならば分かると思うのだがね」
「……成る程」
 納得したのか斎藤は引き下がった。
「他に質問のある者はいるかね?」
「ああ、それなら俺から」
 暗闇には似合わぬ明るい声が響く。
「なんで俺たちをここに招集した?」
「それは君たちに協力を頼みたいからだよ藤田君。考えてみたまえ、この面子を」
 闇の中薄っすらと浮かび上がるのは数人の影。
 その顔ぶれに、藤田はニヤリと笑った。
「かなり本格的だな」
「やるからには全力で行うのが私の流儀だ。君たちにも存分に働いてもらう」
 ホワイトボードに、カレンダーが貼り出される。
「これより二週間後。そこで全ての結果が明らかになる」

 グラウンドにて。
 青春を謳歌するために燃える生徒たちが集う場所。
 その隅っこに人だかりができていた。
 中心にいるのは藤田である。
「おい藤田、話ってのはなんなんだ?」
「あんまりくだらねぇ話はするなよ」
「キャプテン、なんなんっすか?」
 急に召集されたサッカー部や野球部などの面々が藤田に問い詰める。
 藤田はそれを両手で制しながら、不敵な笑みを浮かべる。
「落ち着けお前ら。今日は悪くない話を持ってきてやったんだぜ?」
 誰もその言葉を信じない。
 なにしろ相手は藤田四郎。
 学内で有名な四馬鹿の一角なのである。
 藤田はまずサッカー部のキャプテンを見た。
「サッカー部、今お前らは飢えているな?」
「な、なに……?」
「マネージャー」
「ぐはぁっ!?」
 藤田の放った一言に胸を押さえ、よろめくサッカー部キャプテン。
「き、貴様何故それを……」
「あれで隠していたつもりか! 毎回毎回お前らのせつなさ全開的な声が、こっちまで届いてくるんじゃい!」
 グラウンドで隣り合わせに練習しているせいか、藤田たち野球部とサッカー部は良くも悪くも内情が筒抜けだったりする。
さらにサッカー部は毎回練習が終わった後、
「マネージャー欲しい!」
 と叫ぶ習慣を持ち合わせていた。
 不気味を通り越して変態の域に突入しつつあるかもしれない。
 とにかく、サッカー部はマネージャーに飢えていた。
 そう、一人もいないのである。
「次に女子陸上部」
「な、なに……?」
「練習できる場所が狭くて困ってるだろ?」
「うっ……」
 部長である女子が藤田から目を逸らす。
 男子陸上部と比べ、近年できたばかりの女子陸上部は練習場所に恵まれていない。
 現在は短距離の練習ぐらいしかまともに出来ておらず、それ以外の練習は各自で行わねばならないという有様だった。
「さらにラグビー部! 練習用具が不足気味だが部費が足りないので購入できていない!」
「ぐあっ!」
「男子陸上部も同じように部費不足だ!」
「ぐふっ!」
「女子ソフトボール部はまだ専用の部室がないな!?」
「うぅっ!」
 次から次へと各部の痛いところを突いていく。
「そして我が野球部も部費不足だッ! 練習用具どころかボールが残り少ないっつー始末!」
 その言葉に野球部一同の悲惨な呻き声が響き渡る。
「だがしかぁしッ! そんな我らの現状を打破する方法があるのだよ諸君!」
 うおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!
 藤田の言葉に観客がどよめく。
 明らかに、先ほどからヒートアップしっ放しの藤田のペースに巻き込まれていた。
「我々が欲する英雄ッ! それは冬塚涼子と倉凪梢の両名だッ!」
「うおおおおぉぉぉぉっ!」
「彼らはこの停滞している状況を突き崩す剣となるだろうッ! ならば我らがすべきこととはなにかッ!?」
「うおおおおおおぉぉっ!」
「それはその剣を選ぶことだ! そして剣に選ばれることだッ!」
「うおおおおおおぉぉぉっ!」
「我らにかつてあった自由は死んだッ! 何故だ!」
「坊やだからさっ!」
「よろしいっ! ならば我らは大人となれっ! 国民よ立つのだッ、ジーク涼子!」
「ジーク涼子!」
「ジーク梢!」
「ジーク梢!」
 さらにヒートアップする運動部。
 その光景は見るものに恐怖をもたらすほど凄まじいものであったという。


 一方その頃、新聞部の部室にて。
 新聞部の部長と向き合うのは眼鏡をかけた男、斎藤だった。
「今日は交渉に参りました」
「生徒会選挙に関わることかい?」
「……既に情報が流れていましたか」
「ふふふ、あたしら新聞部を舐めてもらっちゃ困るねぇ」
「いや全く。今後は細心の注意を払うとしましょう」
 お互いに悪だくみでも企んでそうな笑みを浮かべる。
 そこへ、不意に乱入者が現れた。
 バン、と勢いよくドアを開け放つ音とともに、一人の男子生徒が入り込んでくる。
「新聞部の部長はいるかい?」
 言いながらも部長の存在に気づいたのか、斎藤を押しのけて部長の前へ立つ。
「部長、僕さ……生徒会長に立候補するんだよね」
「ああ、聞いてるよ」
 男子生徒の乱入にも動じることなく、部長は落ち着いた笑みを浮かべた。
 ちらりと視線を斎藤に送り、待ってな、と指示する。
「それで、新聞部の方で色々と情報操作とかやってもらいたいんだよね」
「やっぱりそういう魂胆か。まぁあたしらは別にいいけど」
「本当だな? 約束したからな、破ったら酷いよ?」
「ああ、いちいち疑うな。ちゃんとあんたを記事にしてやるよ」
 部長がそう言うと、男子生徒はいやらしい笑みを浮かべた。
「ま、当然だよね。いや、そんな姑息な手段なんか必要ないと思うけどさっ」
 そういって高笑いをしながら去ろうとする。
 その直前。
「で、斎藤。あんたの方の交渉はなんだい?」
 部長の言葉に、出て行きかけていた男子生徒はその場で止まった。
 振り返り、斎藤のほうを見る。
「なに、君ももしかして生徒会長に立候補するのかい?」
「ん、僕は違うが」
「あれ、あんたじゃないのかい?」
「ああ。冬塚を会長に。倉凪を副会長に」
 ああ成る程、と部長は手を打った。
 男子生徒の方はというと、不快そうに顔をゆがめている。
「冬塚に倉凪だって? ハン、あいつらが会長と副会長なんて、愚の極みだね」
「なんだ、あんた二人のこと知ってるのかい」
 部長が意外そうに男子生徒を見る。
「ま、僕は人の顔と名前を覚えるのは得意だからね。あんな小物二人のことだって覚えてやっているのさ」
「……ところで君は誰だ?」
 先ほどから疑問に思っていたことを斎藤が尋ねた。
 すると男子生徒はますます不快そうに顔をゆがめた。
「なんだ知らないのかい? これだから愚民は困るね、この西園寺孝之を知らないなんて」
「西園寺……?」
 どこかで聞いた覚えのある名前に、斎藤はしばし首を捻った。
 約三十秒後、おもむろに手を打って、
「女たらしの西園寺か、思い出したぞ」
「どういう覚え方をしているんだ君はっ!?」
 余計怒らせてしまったらしい。
 もう少し好意的な言い方があったか、と思い斎藤はしばし思考する。
 約三十秒後、おもむろに手を打って、
「スケコマシの西園寺だな」
「余計悪くなってないかねぇっ!?」
「むぅ……他には思い浮かばん」
「もういいよっ!」
 拗ねたらしい。
 斎藤は無視して新聞部の部長――伊坂喜美恵に向き直った。
「で、二人の選挙活動に協力してもらいたいのです」
「ああ、別にいいけど……なにすればいい?」
「貴方たちが普段やっていることと同じことをしていただければ。ただし冬塚や倉凪の人柄を少し詳しく書いてもらいたいのですが」
「成る程。要するにあの二人の特集でも組めばいいんだね?」
「ちょ、ちょっと待てよぉっ!」
 成立しかけた交渉は、西園寺の叫びによって中断された。
 不愉快そうに眉を吊り上げて、彼は喜美恵に詰め寄る。
「困る、困るよ。そんな余計なことされたら、僕が当選する可能性が減っちゃうじゃないか!」
「別に“小物”が相手だ。困ることはないのではないか?」
「うぐっ」
 斎藤の言葉に西園寺はたじろいだ。
 すぐに顔を真っ赤にして、
「僕は細心の注意を注意を払ってるだけだ! 冬塚なんて、倉凪なんて関係ないね」
「――――そういやアンタって以前冬塚涼子に振られたんだっけ」
 西園寺の過剰な反応を見て思い出したのか、喜美恵がぼそりと呟いた。
 その言葉に、部室内の空気が凍る。
「か、関係ないだろぉっ、そんなことはっ! あんな女、チクショウ、あんな女なんかぁっ!」
 関係ないと言いながら、無茶苦茶動揺していた。
「さらに当方の調べでは、その後も冬塚に付きまとい続け、ストーカーとして通報されたこともあったとか」
「ち、ちょっと待て! なんでそんなことまでっ!」
「終いには強硬手段に及ぼうとしたところで倉凪に吹っ飛ばされたと」
「うわ」
 斎藤をはじめとして、新聞部の面々が可哀想なものを見るかのような視線を西園寺に送る。
 女子たちは心なしか西園寺から距離を取ろうとしていた。
「――――話を聞いている限り、君のほうが小物に思えてくるのだが」
 斎藤の一言が決定打となった。
「うわああぁぁぁぁぁん、ダディー、マミィー! 皆が僕をいぢめるよぉぉぉぉぉ!」
 滝のような涙を流しながら、部室を飛び出していく。
 その後姿を見送りながら、斎藤はハン、と鼻で笑った。
 その様子を見て、喜美恵は頭を掻きながら、
「あんた、結構愚民扱いされたこと根に持ってたでしょ」
「なんのことかさっぱりですな」
 斎藤は心なしか、嬉しそうだった。
 斎藤恭一。
 3-A四天王の中で、もっとも敵に回してはいけないとされている男である。

 一方、校門前では。
「冬塚! 冬塚! 冬塚! 冬塚!」
「倉凪! 倉凪! 倉凪! 倉凪!」
 ここでも不気味空間が爆誕していた。
 轟く音の発生源は、応援団によるものである。
 でかでかと『冬塚』『倉凪』と書かれた旗を振りかざす。
 これは吉崎と美緒による差し金だった。
 その二人も応援団に混じって、大声で「冬塚&倉凪コール」を繰り返している。
 と、そこで砂煙を巻き上げながら近づいてくる影が二つ。
「止めぇぇぇぇぇぇっ!」
 応援団をも上回る声でその場を静めたのは、当の倉凪梢と冬塚涼子だった。
 静まったのを確認すると二人は息を乱しながら、
「お前らどういうつもりじゃあぁぁっ!」
 吼えた。
 その声は朝月学園全体に響きそうなくらい大きかった。
「どうって」
「言われても」
「なぁ」
 応援団員たちの視線は、吉崎と美緒に向けられる。
 彼らは二人に頼まれただけであって、詳しい内情は知らない。
「美緒ちゃん、これは、どういうことかな?」
 笑顔で――ただし青筋が浮かび上がっている――親友に詰め寄る涼子。
 返答次第によってはただでは済まさない、という調子である。
「りょ、涼子ちゃん落ち着いて。これは涼子ちゃんとお兄ちゃんのためなんだよ?」
「そうそう、何も心配するこたぁねぇ」
 吉崎が美緒をフォローする。
 彼は拳を高々と突き上げて、熱く語る。
「そう、今この学園は変革期にある。今こそ新たな指導者が求められているのだぁっ!」
「それがこの騒動となにか関係が?」
「君ら二人がその指導者~」
「なんで決定事項のようにのたまうかなお前はっ!?」
 ちなみに梢と涼子は何も聞かされていない。
 ただ、それぞれのクラスメートから校門での騒ぎを教えてもらって駆けつけてきただけである。
「だいたい俺ら立候補登録してないぞ、なぁ冬塚」
「ええ、私たち今年でもうこりごりでしたし」
 ちなみにこの二人、既に生徒会の役員だったりする。
 涼子は会計、梢は書記。
 この一年で、朝月学園の生徒会がどれだけ大変なものかを完璧に理解してしまっている。
 それ故に今回は立候補すまいと決心していたのだが。
「ふっふっふ、それなら問題ないのだよ」
 吉崎は笑いながら一枚の紙を見せた。
「冬塚涼子と倉凪梢の立候補をここに無断で認める。 山王寺聡一郎……ってなんじゃそらぁっ!?」
「私らの自由意志は無視っ!?」
 ちなみに山王寺聡一郎とは現会長。
 冒頭で『天下蹂躙』の扇子を持っていた男のことである。
「御大自らが計画したんだ、文句ならそっち言うべきだと思うぞ」
「その計画になんで吉崎さんや美緒ちゃんが関わってんですかっ!」
「面白そうだから~」
「即答っ!?」
 あくまでも軽いノリの吉崎と美緒。
 対する涼子はがっくりと項垂れていた。
 ちなみに梢は既に諦めているようだった。
「山王寺会長が仕組んだことなら、どう足掻いても決定事項なんだろうなぁ」
「先輩、そんな呑気なこと言ってていいんですか? 私たちの自由と意志と美味しいお昼御飯がかかってるんですよ?」
「いや、昼御飯てお前」
 どうやら非常事態のために冬塚は混乱しつつあるようだった。
 もはや目はグルグル渦巻き、ふらふらと回り続けている始末。
「呪いによってクルクルパーになってしまった冬塚。原因不明のこの呪いを解くために、倉凪は新たな旅に出る。共に旅立った相棒の山王寺の口元には不適な笑みが! 次回、第二話! 『山王寺の野望、パワーアップキット!』新システムが君を待つ! って感じだな」
「だぁれのすぇいでぇすかぁぁぁぁ!」
 訳の分からない次回予告を開始する吉崎の胸倉を締め上げる涼子。
 その目は本気だった。
 ガクガクと首を揺らして、吉崎はあっさりと落ちた。
「まぁ待て冬塚。ここで吉崎相手にいくらキレたところで事態はどうにもならんぞ」
「それはそうですけど……」
 涼子は肩で息をしながらどうにか答える。
 かなり疲れているようだった。精神的に。
「ここは会長に直接話を聞きに言った方がよさげだろう」
「むー、そうですね……」
 への字に口を曲げて、渋々同意する。
 ちらりと美緒の方を見ると、気絶した吉崎を介抱しているようだった。
「それじゃ行きますか――――主犯のとこに」

「よくぞ来た両君。私は歓迎しよう、愛と希望と憎悪と絶望によって」
「それってプラマイ0で無になるような気がするんすけど」
 生徒会室にやって来た二人を迎えたのは、こたつに入りながらお茶を飲む山王寺聡一郎だった。
 白髪のオールバックが特徴的な現生徒会長。
 そして同時に学園内でも屈指の変人。
 三年の中でも成績はトップを独走。
 そのくせ行動に奇怪なものが多く、驚異的なトラブルメーカーでもある。
 教師の中には彼が今年卒業するという事実に泣いて安堵する者もいたとかなんとか。
「プラマイ0などというものは存在しないのだよ倉凪君。足したという過程と引いたという過程がある以上それは無ではない」
「あー、さいですか」
 山王寺の屁理屈は聞き流すに限る。
 ここ一年の生徒会勤めでそのことに慣れていた二人はあっさりとスルー。
 山王寺の方も特に追求することはなかった。
「君たちの用件も検討がついている。これのことだね」
 山王寺は一枚の紙を広げてみせた。
 そこにはでかでかと、
『犯罪だからこっそりやろうね! クラッキング大会参加者募集中!』
 などと書かれていた。
「会長、それ」
「ん? ああ失敬、これは吉崎君に渡すものだった」
「ある意味聞き逃せない発言だけどまぁいいや」
 なにかを諦めたように溜息をつく梢。
「それより、私たちが会長と副会長候補になってるって聞いたんですけど」
「素敵な事実だね?」
「当たり前のように疑問系で返さないでくださいよぉっ!」
 涼子は既に泣きそうだった。
 が、山王寺は特に反応する様子もない。
「会長……こんなことをした理由は?」
 もはや精神的に力尽きかけている涼子の代わりに、梢が山王寺に尋ねる。
 山王寺は梢を見た。
 その視線は真剣なものであり、冗談を言う気配ではなくなっている。
「――私はもうすぐ卒業する。卒業をすれば上京しなければならなくなり……この町から離れることになる」
 こたつからのっそりと出て、山王寺は生徒会室の窓際に立つ。
 その視線は、校門までの並木道を捉えている。
 下校する生徒たちの姿が見えた。
「この学校は広い。さらに生徒主導で動く。……不安なのだよ、私が卒業した後、この学校は上手くやっていけるのだろうかと」
「会長……」
 山王寺の真面目な語りに、涼子も平常心を取り戻していた。
「だから信頼できる者にこの学園を、生徒会を託したかった。そのために様々な権謀術数を用いて、君たちが後戻りすら出来ないような状況を作り上げたのだよ」
「義務心から突っ込ませてもらうと最後のはおかしいっすからね」
「……?」
「いや、理解できないって風に首を傾げられても」
「そうか。ただ、私の計画は既に完成に近づきつつある。だが君たちがここに来た以上、問わねばなるまい」
 山王寺は二人に向き直る。
「降りるかね」
 それは自然な問いかけ。
 強制力も何もない、純粋な問いかけだった。
 だが。
「別にいいっすよ」
「……私も。会長にそんなこと言われたら断われませんよ」
 二人の言葉に、山王寺はやや意外そうに眉を上げた。
 それを見た梢が苦笑する。
「ひょっとして、断わると思ってました?」
「ああ。そのときのために六百六十六通りの誘導方法を考案していたのだが……その必要はなくなったようだね」
「……やっぱ止めていいですか?」
「男に二言はないと知りたまえ」
「会長、私は女なのですが」
「今の時代男女差別はないのだよ冬塚君」
『レディーファースト』と書かれた扇子を広げながら山王寺は淡々と告げる。
 どこまで本気なのか判断しにくい。
「だが私が君たち二人に期待をしていることは確かだ。頑張ってくれたまえ」
「宣言しちまった以上、やるしかないっすな」
「ですね、私も微力ながら頑張らせていただきますよ」
 結局のところ、頼まれたことを断われない。
 梢と涼子は、そんな二人だった。

 その後、圧倒的支持を得て冬塚涼子は生徒会長に。
 倉凪梢は生徒会副会長となった。
「あー、でも実感沸かないなぁ」
「上に同じく。つーかいくらなんでも9割以上票を獲得するとは思わなかったな」
 生徒会室にて。
 新会長と新副会長は、机に身を投げ出してそんなことを言っていた。
 そこに。
「会長、副会長はいるか」
「あ、斎藤さーん。どうかしたんですか?」
 二人に紛れて、何気なく生徒会の書記になっていた斎藤がやって来た。
 手には分厚い書類が一つ。
「なんですか、それ?」
「各部からの要求書だ」
「……要求書?」
 胡散臭そうに梢は書類を受け取り、中身を見た。
 そこには、
『マネージャーが欲しい!:サッカー部
練習場所増やして!:女子陸上部
部費の増加を要求する!:男子陸上部
同情するなら金をくれ!:ラグビー部
お願いですから部室をくださいっ!:女子ソフトボール部
心の友よ、部費をおくれ:野球部
全国へ行きたいので専属コーチをつけてください:バスケ部
部員が増加して部室が狭いです。新しいのください:アメフト部
もうちょい部費くれませんか?:男子バレー部
男子が覗こうとしてくるのでセキュリティシステムを搭載した部室が欲しいです:女子バレー部
毎月なんかいいネタあったら情報提供ヨロシク!:新聞部
静かなところで絵が描きたいので、専用のアトリエをよこしなさい:美術部
付き合ってください:匿名希望
テストなくしてほしいです:匿名希望
食堂のメニューに刺身定食(300円以下)希望!:匿名希望
エトセトラエトセトラ……』

「出来るかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 その日、梢の絶叫が朝月学園に木霊したという……。