異法人の夜-Foreigners night-

-後日談-
第二話「秋風市の人々」
 翌日は検察官の仕事を覚えるのに必死だった。昨晩の出来事を気にする暇もない。
 世に満ち溢れている事件に目を通し、司法の立場からこれを正しく取り扱うのが検察官の役目だ。そのために必要な知識はこれまで懸命に取得してきたつもりだが、現場は知識だけでどうにかなる世界ではない。経験に勝る宝はないのだと痛感する。
 やがて一息つけるようになったのは、日も暮れた頃だった。
 ……今日は呼び出しなしか。
 御法機関の上司は同じ地検で働いているが、今日は顔を見ていない。御法機関は有事の場合を除き、基本的には一般人と同じように生活をするから、特別おかしなことではない。
 しかし、昨晩のことで一度話はしておきたかった。結局あの後はそのまま解散してしまったので、あまり満足に話せていない。
 仕事の後で話せないか電話をしてみた。
『分かった。安くて美味い店を知ってる。そこで話そう』
 ということで、上司と地検前で待ち合わせ、店に向かうことになった。
 彼はこの町をいろいろ歩き回っているらしく、どこに何があるのかを面白おかしく説明してくれた。
 世界的に有名な笹川グループの家があるというのが秋風市の有名どころだが、それ以外にも面白いところはいくつかあるようだった。
「源市、お前も休日はよく歩いておけよ」
「はい。いざというとき、地形を把握しておかねば困りますからね」
「は? いやいや、そういうんじゃねぇよ馬鹿。適度に運動しないと太るぜ。俺ここに来る前メタボって言われてな。運動心がけるようにしたんだ」
「……そういえば、昔と比べて丸くなられましたね」
「何ぃ? これでも痩せたんだぞ」
 ほれほれと腹をつまんで見せる上司に適当な相槌を打っていると、いつのまにか店に到着していた。『和食・岡島』と書かれている小料理屋だ。
「いらっしゃいませ!」
 中に入ると、元気のいい声が聞こえてきた。割烹着姿の若い女性だ。
「おう沙希ちゃん。今日も元気だねぇ」
「いやいや、元気だけが取り柄なもので。二名様、ご案内致します」
 カウンター席の他に、いくつか二人用のテーブル席がある。私たちが案内されたのはテーブル席の方だ。
「常連なんですか?」
「おう。ここの飯は美味いぞ。週に三回は来てる」
 見たところ、私たちの他に客は二人ほどいた。店は母娘二人で切り盛りしているようだ。盛況という感じではないが、なんとなく完成された空気がある。
「……客足が途絶えないタイプの店なんでしょうね」
「ああ。ほれ、俺の奢りだ、好きなもの頼め」
 上司は既に注文を決めているようだ。私もメニューを軽く眺めて、目についたものを注文していく。当然安いものをだ。
「で、昨日の感想はどうだ?」
 随分ざっくりとした質問の仕方だった。
「やはり、どちらも若手が暴走しているように見受けられます。ただ、本格的な抗争に発展する危険性はあまりないように感じました」
「だろうな。上の方の連中は物分かりがいい。その分扱い難くて困るんだがな。狐と狸ばっかだ。俺たちをどうこうすることはないだろうが、念のため気をつけておけ」
「はい」
「むしろ気がかりなのは一般人を巻き込まないかどうかだが、若手もその辺バレたらやばいってのは分かってるはずだ。あいつらの自制心が吹っ飛ぶか、よほどの不幸が起きなければ当面問題はないだろう」
「はい。私もそう見ています」
 そう答えたところでメニューが来た。良い意味で家庭的な雰囲気を感じさせる作りになっていた。食べてみると、口によく馴染んだ。
「これは確かに美味しいですね。なんというか、飽きなさそうな味です」
「だろ? おふくろの味ってやつだわな」
「……はあ」
 おふくろの味。例えとしてよく使われる表現だが、私にはよく分からない。
 母に料理を作ってもらったことがないわけではない。ただ、あまりはっきりと記憶に残っていないのだ。薄情と言えば薄情な子かもしれない。
「ま、昨日両方に顔見せできたのは都合がいい。次の土日、空けられるか? 正式な挨拶を申し込んでおこうと思ってな」
「大丈夫です」
 昨日は想定外の遭遇という形だったが、今度は御法機関として安倍家・異邦隊の双方に挨拶をするということだ。主な話は上司がするのだろうが、私もこの町の担当である以上欠席は出来まい。
「ま、それまでは検察官としての仕事に専念しろ。二足の草鞋、どちらが脱げても格好はつかんぜ」
 それは重々承知しているつもりだったが、頷いておいた。分かっていると自分で思っていることほど、本当は全然分かってないのかもしれないのだから。

 次の土日、早速上司と共に安倍家・異邦隊の双方との会談が行われることになった。会談などというと大袈裟に聞こえるかもしれない。実際は単純な顔合わせだ。
 順番に会えばもっと突っ込んだ話も出来たのだろうが、最初は公平に、ということで一度に会うことになった。
 安倍家側は崎本博樹氏が、異邦隊側は榊原遥さんがやって来た。
 崎本氏は初老の痩せ気味な男性だった。大学教授にいそうなタイプで、話し方は理路整然としているが、どこかユーモラスでもある。単に研究熱心なだけでは、人の上に立つことはできないのだろう。
 彼は孝弘同様、安倍家の一族ではない。にも関わらず一定の地位を与えられているのは、安倍家が魔術師の家柄としては珍しく一族主義でない証と言える。
「ここ秋風市は、ザッハーク事件と土門荒野事件によって幻脈が変化しておりまして。魔術師の実験場としては格好の地なのです」
 安倍家が秋風市にこだわる理由を、崎本氏は簡潔に説明してくれた。
 幻脈というのは、地中にある魔力源の流れと言える。魔力源というのは文字通り魔力の源で、これが豊富な土地は魔術師との相性が良く――裏を返せば魔術師間の揉め事が生じやすい。
 ザッハーク事件も土門荒野事件も、秋風市一帯を揺るがす大事件だった。幻脈――魔力の流れ自体を変質させてしまうほどに。
「無論、一般人に危害を加えるような活動はしておりません。魔術は隠匿すべきもの。魔術同盟の大前提は順守しております」
「その点は我々も心配しておりません。そういった破滅的なことをやりたがるのははぐれ魔術師がほとんとですからな」
 はぐれ魔術師とは、どこの組織にも属さないフリーの魔術師のことだ。全員がそうだというわけではないが、危険な奴が多い。
 魔術師の組織の最大手である魔術同盟は、魔術の研究を推奨する反面、いくつかの禁忌とされる定義を設けている。しかし禁忌というのは魅力的なもので、それに手を出そうとして魔術同盟から脱退する輩がいる。はぐれ魔術師はそういった輩が多い。
 禁忌というのは、それがもたらす結果が危険だから禁忌とされるものと、過程が危険で禁忌とされるものに分かれる。どちらも問題だが、一般人の被害という観点で考えると後者の方が危ない。
 過程が危険。具体的には『一般人を拉致監禁のうえ魔術の実験材料として使った』といったケースだ。
 無論、こういった手合いが出ないよう魔術同盟でも内部監査は行っているが、身内同士だとどうしても甘くなる面がある。崎本氏の発言もあくまで自己申告だから、鵜呑みにするのは危険だ。
 ちらりと榊原さんの様子を見る。こちらの視線に気づくと、彼女は笑って、
「異邦隊としても安倍家が同盟規約に反する行いをしているとは見ていません。本格的な調査をしたわけではありませんから、参考程度に捉えておいて欲しいですけど」
 それからも話は延々と続いていく。
 互いの情報交換と現状把握。特に御法機関はこの地に来て日が浅いから、この会談で多くの情報を得ることができた。
 土曜の会談が終わり、一同は解散することになった。
「明日はお前らだけの会談になるけど、大丈夫か?」
 明日の会談は上司や崎本氏は出席しない。直接顔を合わせる機会が多くなるだろう面子の親睦会という位置づけである。
 出席するのは私や榊原さん、孝弘だ。安倍家や異邦隊はそれ以外の面子も出てくる可能性はあるが、御法機関については私だけとなる。
 親睦会と言ってはいるが、実際はどんな修羅場が展開されるか分からない。今日は話の分かる大人だけだったから良いが、明日は血の気の多い若手組が出てくるかもしれないのだ。
「榊原さんや川島がいるなら大丈夫だと思いますよ。私は気楽に構えておきます」
「そうだな、それくらいが丁度いい」
 私が力んだところで何もならない。この間の様子からすると、孝弘も榊原さんも若手をしっかりと掌握しているようだし、二人が衝突しなければそう問題にはならないだろう。私にできるのは、二人が直接衝突しそうになったとき間に入るくらいだ。

 熱気が漂っていた。若手中心の親睦会である。
 魔術同盟、異邦隊からそれぞれ三名の若者がやって来ていた。その上に孝弘と榊原さんがいる。私は間に挟まれるような位置にいた。正直息苦しい。
 そんな私の様子に気付いたのだろう。孝弘が爽やかに肩を叩いてきた。
「この間はきちんとした挨拶ができなかったが、久しぶりだな源市。まさか御法機関に入っているとは思わなかったぞ」
「こっちこそ、お前が魔術師になってるなんて思ってなかったぞ。高校卒業して間もなくだろう? そんな素振り、まったく見せてなかったのに」
「お互い様だ。ぶっちゃけると、お前の経歴慌てて洗わせたんだが、中学時代から御法機関と繋がりあったって言うじゃないか。たまに様子がおかしいときがあるとは思ってたけど、まさか怪異なんかに関わっていたとはな」
 互いに高校を卒業するまで、自分の抱えているものを隠し通していたということだ。それは信頼関係がなかったから、というわけではない。互いに相手を危険に巻き込むまいとしての結果だ。少なくとも私はそう思っている。
 私と孝弘の親しげな様子に、異邦隊の面々がピリピリした空気を発し始めた。
 ……やれやれ。腹芸がないだけ楽と言えば楽だが。
「コホン。まあ、互いに立場というものもある。お前個人に対してなら友人として協力は惜しまないが、安倍家のことでは手出しはしない。その点は承知してもらうぞ」
「当たり前だ。公私混同はせん。安倍家のことでお前の手を煩わせることはしない」
 それは、厄介事も起こしたりはしない、という意味も含まれているのだろうか。
 少し思索していると、榊原さんがこちらに視線を向けていることに気付いた。
「随分親しそうだな、君たち二人は。幼馴染というやつか?」
「ええ、こいつとは幼稚園からの腐れ縁です。高校卒業以来連絡は取ってませんでしたが」
「いいな。私には生憎そういう相手がいなくてね」
「姐さんには俺らがいるじゃないっすか! 何も問題なんかねえっすよ」
 榊原さんの横にいた若者が声を張り上げた。先日も見た顔だ。確か、村上正清。榊原さんからはマサと呼ばれていた。
「だいたい何すかコイツ! 御法機関て、あれっすか。敵っすか!?」
「敵じゃない。味方でもない。スポーツでいうところの審判役だ」
「審判ってエコ贔屓とかしますよね。俺、なんか嫌いなんだよなぁ」
 あぁん? と言わんばかりの表情でこちらを睨みつけてくる。どうも私は村上正清に悪印象を持たれているらしい。特に嫌われることをした覚えはないが、一目見た瞬間嫌になる相手というのもいるということなのだろう。
「すまない、気を悪くしないでくれ。どうもこいつは人に噛みつく悪癖があってな」
「気にしてません。しかし、羨ましいですね。大分慕われているようです」
「慕われるような人間ではないよ、本来は。妙な因果で、誤解されてしまったようだ。誤解を解こうと必死なのだが、全然上手くいかない」
 榊原さんは肩を竦めてみせた。言動は男らしいが、こういう細かい所作は女性的だ。
「くだらねぇぜ、そういう慣れ合いが異邦隊のスタイルかよ」
 と、そこでケチをつけたのは清原宗孝だった。
「おい坊ちゃん」
「そもそも俺はこんな親睦会なんて興味ないんだよ。仲良しグループ作りたいならやりたい奴らだけでやりゃあいいんじゃないか?」
 清原の発言に、安倍家の面々は微妙な反応を示した。表立って賛同はしないが、内心同じような考えを持っている、といったところか。
「では」
 空気が悪くなりかけたところで、榊原さんが声を上げた。
「ゲームをするというのはどうだろう。食卓を共にしながら親睦を深めるより、勝負事で互いを知る方がこの場には合っていると思うが」
「ふむ」
 勝負事。悪い提案ではない。
 急に親睦を深めろと窮屈な場に押しこまれて辟易としている者がほとんどだろう。勝負ということになれば、少なくとも窮屈な状態からは解放される。
「私は良いと思います。孝弘はどうだ?」
「構わん。やるからには負けるつもりはない」
 他の面々も反対はしなかった。この状況が続くよりはまし、と見ているのだろう。
「では何で勝負をします?」
「こいつを使おうと思う」
 榊原さんが脇にあった鞄から取り出したのはやや長めの箱だった。ジェンガと記載されている。三組一段の直方体パーツで構成された塔から、順番にパーツを抜いて上に重ねていくゲームだ。
「ジェンガのルールは皆知っていると思うが、今回はチーム戦ということで少し独自ルールを追加させてもらう。こいつだ」
 榊原さんはジェンガとは別に三つのサイコロを取り出した。三つのうち二つを、それぞれ私と孝弘に放ってよこす。
 目を見ると、一~三が二個ずつあった。四~六は存在しない。
「まずはチーム毎の順番を決める。順番になったチームはサイコロを振り、出た目の数まで一気に抜いていい。最低一回やれば、途中で自分たちの番を終了させても構わないということにしよう。チーム内の順番は都度変えてもいいが、一回やったメンバーは次にチームの順番が来るまでやることはできない。つまり一チームが三回やる場合、メンバー全員が一回ずつやることになる」
「なるほど、ある程度バランスは取れるな」
 きつ過ぎず緩過ぎない。ルールとしては問題なさそうだ。
 ただ、一点気にかかる。
「榊原さん。今のお言葉だと、チームは三人一組が前提のようですが」
「そうだ。我々が四人、安倍家が四人、君が一人。だから、我々から一名、安倍家から一名が君のチームに加わればバランスがいいだろう?」
 にっこりと、反対意見を許さない笑みを浮かべる。
 孝弘に視線を向けると、こちらも意地の悪い笑みを浮かべていた。
「なんだ。構わんだろう、バランスは取れている。チームプレイが要求されるゲームでもないし、別にいいんじゃあないか」
 確かにジェンガは元々個人戦用のゲームだが、やり方次第ではチーム内の連携が重要になってくるケースもある。しかしそれをつらつらと訴えたところで、孝弘や榊原さんが聞き入れるとは思えなかった。
「……分かった。その代わり誰を選ぶかはこちらで選ばせてもらうが、いいか?」
「ああ。だが俺と榊原はチームの代表だからな、それ以外で指名してもらうぞ」
「分かってるよ、お前とは組まない。仲間にするよりは相手にして戦う方が面白い」
「同感だ」
「で、誰を選ぶのかな」
 榊原さんに促され、私は迷わず二人を指名した。
「異邦隊の村上正清、安倍家の清原宗孝! 彼らと組んで戦わせてもらう」
 そう宣言すると、全員が驚きの表情を浮かべた。まさか、と思ったのだろう。
 村上と清原は先日決闘騒ぎを起こしていたばかりだし、あの様子からすると普段も犬猿の仲なのだろう。加えて村上は私にも敵意を剥き出しにしている。この三人で組むというのは、例えるなら魏呉蜀が三国同盟を結ぶようなものだ。
 指名された当人たちですら唖然としている。そこに畳みかける形で続けた。
「ただゲームをやるだけでは面白くない。せっかくだから敗者には罰ゲームを設けるというのはいかがでしょう」
「罰ゲーム?」
「それぞれの組織に迷惑がかからない程度の――我々参加者個人のプライドを賭ける程度の罰ゲームです」
「待て、源市」
 何かを察したのか、孝弘が口を挟んできた。
「罰ゲームだな、いいだろう。だが内容は俺に決めさせてくれないか。ゲームの内容を榊原が提示し、お前はチームメンバーと罰ゲームの適用を提案した。なら、罰ゲームの内容は俺が決める。それでバランスは取れるだろう?」
「ああ、分かった」
「……よし。なら罰ゲームは『もっとも積み上げた回数が多いチームのリーダーは、負けたチームのリーダーに一つ命令できる』だ」
「まあ、構わないぞ」
「私も特に異論はない。少し曖昧な気もするが」
 罰ゲームをだしに村上と清原のやる気を煽ろうと思っていたのだが、ここでごねても意味はないだろう。仕方ない。
 私は村上と清原の肩をがっしりと掴んだ。
「少し作戦会議がしたい。席を外しても構わないでしょうか」
「ああ、そうだな。それくらいは良いだろう」
 孝弘が口を挟む前に、榊原さんが頷いてくれた。
 肩を掴んだまま、二人と連れ添って店のトイレに入る。
「君たちも自覚しているだろうが、このチームは他と比べて不利なところがある」
「チームワークだろ」
 清原が吐き捨てるように言った。村上も鼻を鳴らす。
「おい、あんた。まさか勝つために仲良くやろうぜ、とか言い出すんじゃあないだろうなっ! 俺は嫌だぜぇ、この野郎と手を組むなんざな!」
 村上は私と清原に敵愾心剥き出しだった。清原は馬鹿でこそないが、思春期特有のひねくれ方をしていると見える。
 無論、私は二人に仲良くやろうなどと言うつもりはない。
 二人の肩を掴む力を強くしながら、なるべくにこやかな表情を浮かべた。
「私はこういう話し方のせいで誤解されがちだが、酷く負けず嫌いだ。中途半端なチームワークなど邪魔でしかない。そんなくだらない提案をするつもりは毛頭ないさ」
「じゃあ、何の用なんだよ」
「勝負だ」
 なるべく笑顔を崩さないよう気をつけているつもりだったが、二人の表情が若干引きつったところを見ると、どうも失敗したらしい。
 昔孝弘に言われたことがある。曰く、お前は勝負事になると目の色が変わる。
 今もきっと、目の色が変わってしまっているのだろう。
「僕ら三人でも勝負をするんだ。一番積み上げた回数の多い奴が、一番積み上げた回数の少ない奴に一つだけ命令できる」
「おいおい、マジかよ……?」
「ああ。そうでもしないと君たちもやる気が出ないだろう? 御法機関なんていうよく分からん組織の鬱陶しそうな新入りに、痛い目見せてやる良い機会だぜ」
「そんなことをして、あんたにメリットはあるのか?」
 清原が疑わしげな眼差しを向けてきた。それに対し、私はつい癖で鼻を鳴らしてしまう。
「この状況ならこういう条件が一番勝算が高い。それ以上のメリットが要るか?」
「いや、こんな勝負にそんなマジになる理由があるのかと――」
 言いかけた清原の肩を、少しばかり強く掴んだ。
「男が勝負をするなら勝ちを狙うのが当然だろう。勝つ気のない勝負なら最初から受けない。職業に貴賎がないのと同じだ。勝負にも貴賎はない」
 清原と村上はそれぞれ沈黙した。心なしか、こちらを見る目つきが少し変わったような気がする。
「どうする? この提案、乗るかい?」
「……はん。乗ってやるさ」
 まず村上が賛意を示した。残った清原も、舌打ちしながら頷く。
「命令の内容は、今決めた方がいいのか?」
「いや。こういうのは分からない方がスリルがあっていいだろう。万一、あらかじめ聞かされた命令内容が当人にとって大したことのないものだったら、やる気を削がれてしまうかもしれない」
「……あんた、優等生の皮を被ったギャンブラーだな」
 孝弘からもそう言われたことがある。実に不本意だ。
 優等生などという退屈な評価は、好ましくない。