異法人の夜-Foreigners night-

-Border Breaks-
第四話「解放と遭遇」
 矢崎刃の連絡を受けて、零次は研究所の管理室までやって来ていた。
 そこには、植物の蔦のようなもので縛られた研究員たちの姿があった。
 ほとんど気絶しているが、何人かは目が覚めているようだ。
「襲われたらしい」
「やはり、我々と同じ能力者か」
 我々と同じという零次の言葉に、起きていた研究員は過剰反応を示した。
「ま、まさかあんたたちも」
「そうだ。貴様たちが目指そうとし、同時にモルモットにしていた少女の同類だ」
 ギロリと、敵意剥き出しの視線が研究員に突き刺さる。
 零次は激怒していた。
 人を、そして自分たちと同じ力を持つ少女を――その生命を、ただ道具としてしか見ようとしないこの研究者たちに、限りなく殺意に近い敵意を抱いていたのだ。
 が、今はそれに捕らわれている場合ではない。
「それで、そいつの特徴は聞き出せたのか?」
「ああ」
 刃が言うには、そいつは零次と同じくらいの年の男。
 険悪な目つきが特徴的で、紺のTシャツにジーパンといった比較的動きやすい服装。
 そして。
「こいつらを縛っている蔦は、そいつが出したのか?」
「そのようだ」
「植物を操る、あるいは具現化する能力者か」
 ふと、零次は研究員たちを縛っている蔦を摘んでみた。
 少し力を入れればすぐに潰れる。
「それほど恐れるべき能力者ではなさそうだな。彼女と遭遇しないうちに早々に捕まえておいた方がよさそうだ」
「――――いや、もう遅い」
 刃は細めた眼でモニタを見ている。
 その視線の先には、遥を連れて部屋から飛び出す梢の姿があった。

「大丈夫なの?」
 梢に手を引かれて走る遥が心配そうに周囲を見る。
「あの連中のことなら心配いらねぇ。多分全員気絶させたはずだ。それより、他に誰かいるなら――――」
 少なくとも、今この建物に人の気配はない。
 研究員たち程度の気配なら、かなり離れていても本気になれば探ることは出来る。
 が、そこで梢は足を止めた。
「どうしたの?」
「しっ、何か来る」
 遥の言葉から、一応気配を探りなおしてみた。
 それは特に考えあってのことではない。
 だが、その際に梢はほんのわずかな気配に気づいた。
 普通の人間どころか、ネズミなどの小動物よりもさらに薄い気配。
 どう考えても、意図的に気配を隠そうとしている輩にしか思えない。
 その、ほんのわずかな気配がこちらへと物凄い速度で迫ってくる――――!
「――――まずい、急げ!」
「う、うん……って、わっ」
 思わぬ出来事に慌てて倒れかけた遥の身体を、梢はしっかりと抱きかかえた。
「飛び降りるぞ」
「え」
 遥は驚きに目を見開いた。
 なぜならここは、
「ご、五階からっ!?」
「大丈夫だ、俺が抱えててやる」
「そういう問題じゃ……ってわっ」
 遥は建物五階分の高さからみた光景に声を上げる。
 久々に見る夜空に一瞬心を奪われたようだった。
 もっともそれは本当に一瞬。
 次の瞬間、遥は五階から落下する恐怖の中に落ちる。
「っ!」
 声を出すことすらできず、遥は力強く梢の身体にしがみついた。
 梢の方はというと、先ほど遥に手を握られただけで狼狽していたときとは異なり、冷静に迫り来る地面を見下ろしていた。
 このままいけば激突する。
 普通の人間ならばよくて大怪我、悪くて死。
 しかし、梢にはそのどちらもありえない。
 なぜなら彼は、普通ではないから。
 梢の右手が淡い光を放つ。
 それはどこか、エメラルドの輝きに似ていた。
 激突する。
 でも大丈夫。
 不可能ではない。
「――――出ろ」
 刹那、遥は信じられないものを見た。
 音もなく、存在感もなく、なにもかもを感じさせないまま、巨大な植物の群が出現したのである。
 ――――これが梢の能力、植物創製<グラス・クリエイション>。
 いつも白の部屋にいた彼女にとって、それは見慣れぬ色。
 周囲の暗さとは無縁の輝きを発する植物は、例えるなら草のベッド。
 それは梢と遥の身を包み込む。
 暖かな風と共にニ人は地面に到着した。
 役割を終えた植物が消える中で、遥は梢を驚きの目で見た。
 しかしそれに構っている暇はない。
「遥、悪いがその先の森から走って逃げてくれ」
 と、梢は研究所の周囲の森を示した。
「倉凪君は?」
「ちぃっとやることが出来たみたいなんでな。まぁすぐに追いつくさ」
 笑いながら梢は親指を立てた。
 心配するな、という合図だ。
 遥は逡巡したが、梢の顔を見て頷いた。
 何度か後ろを振り返りながら森の奥へと走り去っていく。
 それを見届けると、梢は突き刺すような視線を天に向けた。
 先ほど梢たちが飛び降りた五階の窓。
 そこに一つの影が現れた。

 下界は暗く、そして静かだった。
 ざわざわと木々が奏でる旋律を聞き流し、零次は闇の中に立つ一人の男を睨んでいる。
 ふわりと、零次は窓から飛び降り、梢の眼前で着地する。
 梢はなにをするでもなく、その様子を見ていた。
「彼女をどこにやった」
「知らないね」
 鼻を鳴らし、挑発的な視線を投げかけてくる梢に対し、零次は小馬鹿にしたような笑みを返した。
「隠しても無駄だ。モニタにしっかりと映っていたぞ」
「げっ」
 たじろぐ梢を見て、零次は内心呆れた。
「分かりやすい奴だな」
 溜息をつき、相手から視線を一旦外す。
 一瞬場の空気が和らいだ。
「――――それで、貴様は何者だ」
 その空気を即座に破壊する威圧感を放ちながら、零次は梢を睨みつける。
 ――――どくん。
 梢の額から汗が流れ落ちる。
 これほどの威圧感を持つ相手など、知らなかったのだろう。
「お前こそ、何者だ」
「俺はお前の同類だ。そう……お前と同じ、化け物」
「……」
 梢の顔色は悪くなる一方だった。
 知りたいのは、そんなことではない、とでも言いたげに。
「俺はただ、この研究所の噂を嗅ぎつけてやってきただけだ。お前は――――多分違うな」
「……ほう」
 断定する梢に、少し興味を覚えた。
 零次は皮肉気な笑みを浮かべて、一歩前進する。
「――――森の中か」
「っ……!」
 零次のその言葉が、戦いの合図だった。

 大地を粉砕する音が、二つ同時に巻き起こる。
 凄まじい音を立てながら、梢は零次に拳を放つ。
 弾丸よりも速いその攻撃は、普通の人間に放てば骨を砕き肉を抉り取る。
 それを零次は片手で受け止めた。
「――――本当に貴様は、分かりやすい」
 皮肉気な笑みはそのままに。
 零次の眼から、一切の色が消えた。
 感情を殺し、戦いに徹する。
 零次のそれは、まさしく戦士の眼だった。
「ちぃっ……!」
 拳を掴まれている梢は、零次から離れることが出来ない。
 それほどの握力だった。
 これならば像の足とて握りつぶせるであろう。
 拳にかかる圧力はどんどん増していく。
 ……このまま握りつぶすつもりか!
 梢は本能的に、眼前の男が危険だと察する。
 同時に悟る。
 この男が、自分よりも強いということに。
「離せ、この野郎っ!」
 拳を無理矢理捻りながら、どうにか零次の束縛から離れる。
 だが強引に引き剥がしたせいか、梢の拳は皮が多少剥げていた。
 もっともそんなことに構っていられるほど余裕はない。
 梢は零次から離れた勢いをそのままに、彼と一定の距離を置く。
 零次は追わない。
 だが、戦闘が中断されたわけではない。
 彼は己の魔力を徐々に高めていた。
 梢にも視認できるほどの魔力。
 それは梢のものとは異なり、黒き瘴気のような魔力だった。
「この程度で逃げ腰か。底が知れる」
 零次は右腕を振り上げる。
「な――」
 その腕が、肩口から徐々に黒く変色していく。
 いや、色が変わるだけではない。
 それは別物だった。
 腕だけが、久坂零次という存在とは別個のものになっている。
 ――――大気が凍りつく。
 夜特有の涼しさとは別の、明らかな寒気が周囲に広がっていく。
「第一段階――――解放」
 厳かに告げる零次の眼光は、鋭い。
 眼前の障害を除去せんとする意思が、ありありと伝わってくる。
「……arm」
 梢は動かない。
 否、動ける状態ではなかった。
 零次の腕はまさしく怪物のものだ。
 姿形だけならば普通の人間と変わらない自分の腕とは違う。
 あれは明らかに、人間の腕の形ではありえない性能を有している。
「チッ、本物の化け物か……!」
 忌々しそうに呻く。
 そしてはっきりと確信する。
 今の梢に、あの腕の一撃は止められない。
「――――化け物、か」
 零次が浮かべる笑みが、少しだけ寂しげなものになった。
 ちらりと自身の腕を見る。
 確かにそれは人間のものではなかった。
 黒色。
 肌が焼けているとか、そういうレベルですらない鉛色。
 確かに、こんな腕は化け物以外持ちようもないだろう。
 だからこそ、
「そうだ。だからこそ我々はあの少女を連れて行かねばならん。邪魔をするというのであれば――――同族であろうと、貴様を屠る」
 笑みを一切打ち消し、真顔に戻って零次は言い放った。
 これは最後通告でもある。
 ここで梢が大人しく道を空ければ戦闘は止む。
 誰だって命は惜しい。
 このまま戦えば、梢は零次の腕によって滅ぼされるだろう。
 何も言わず、そっと道を空ける。
 その後は、今夜のことなど全て忘れて元の生活に戻ればいい。
 それだけのこと。
 誰も、出会ったばかりの少女のために命を賭けたりはしない。
 それが普通のこと。
 だが、
「――――そうかい。けど、どくわけにはいかねぇな」
 梢は、倉凪梢という男は、
「……貴様も貴様で、おかしいな」
 ――――普通ではなかった。
「お互い化け物同士。普通じゃないのが、むしろ普通だろ」
「ふん、なるほど」
 一拍置いて。
「言うではないか、腰抜けが――!」
 零次の身体が、凄まじい勢いで梢に迫る。
 その動きはまるで獲物を狩る獣の如く。
 そしてそれらよりも遥かに獰猛なものだった。
 梢の眼はそれを的確に捉えた。
 ……視える!
 しかし、凄まじい勢いで迫ってきた豪腕に、身体が反応しきれない。
 零次が狙うのは、梢の顎。
 梢の方もそれを見切り、両腕を交差させて顎をガードする――。
 が、それはイメージ上でのこと。
 実際に防御は間に合わず、かろうじて頭を動かしてクリーンヒットを避ける。
 それでも凄まじい衝撃が走り、平衡感覚が一瞬途絶える。
 さらに背中に違和感を覚えたかと思うと、天と地が逆転した。
「うッ……!」
 咄嗟に投げられたのだと気づく。
 危うく木の幹にぶちあたるであろうところで、姿勢を元に戻す。
 そのまま木を蹴りつけた反動で、零次に目掛けて飛び掛る。
「たわけが!」
 梢の動きは弾丸そのものだった。
 この突撃が成功すれば、零次とてダメージは免れない。
 身体能力だけで言うならば、梢と零次の間に極端な差はない。
 だが、戦闘の決め手は、ステータスなどではない。
 経験、そこからくる勘。
 そして己の実力を理解したうえで、どれだけ無駄なく最大限の動きが出来るかにかかっている。
 その差が、梢と零次との間では――――。
「貴様と俺では、踏んだ場数が違い過ぎるわ――!」
 半身に構え、弾丸のように飛び込んだ梢の攻撃は紙一重で避けられる。
 さらに、避けたときの勢いをそのままに梢の背中に強烈な蹴りが入る――!
「っ――ぁっ!」
 自らの勢いを利用された形で、梢は研究所の外壁に突っ込んだ。

 よほど凄まじい勢いだったのか、梢の身体は壁一つ突き抜けている。
 ――――勝負は決まった。
 この状況下で、倉凪梢が久坂零次に勝利する術は存在しない。
 音を立てながら、零次は梢が突っ込んでいった壁へとにじり寄る。
 ここから先は勝負ですらない。
 ただの尋問となる。
 しかし、
「……む」
 零次は耳に手を当てて、どこか遠くの音を探るような仕草を見せた。
「第ニ段階、解放……head」
 その言葉と共に、零次の頭部が一変する。
 顔の一部を除いて、異形のものへと成り果てる。
 密着するような黒色の兜をかぶっているように見えるが、それは完全に皮膚であった。
 かろうじて口元と眼の周囲だけが変わらない。
 この状態の零次は視力、聴力などが大幅に上昇する。
 先ほどまではかすかにしか聞こえなかったその音が、確かに聞こえるようになっていた。
「時間をかけ過ぎたか。まずいな」
 ギロリと壁の中に埋もれているであろう梢の方を睨む。
 煙や瓦礫などで全く見えないはずの梢の姿が、零次にははっきりと見える。
 気絶していた。
「放っておいても、支障はない……」
 そう判断すると零次は即座に研究所の屋上へと飛び上がった。
 屋上からは町の様子がよく見える。
 頭部を変質させた零次は千里眼を有するため、位置さえ合わせればかなり遠方のものも楽々知ることができるようになる。
 だから、普通なら見えないはずの数台の車も視認できる。
 ……やはり警察。予想よりも遥かに早くたどり着いたか。
 この任務の前に柿澤が言っていたことを思い出す。
 警察がこの研究所を狙っていると。
 そして、警察の手に遥という少女を引き渡すことはできないのだ、と。
「警察の手には渡らないだろうが行方不明か。厄介なことになった」
 ぎり、と歯軋りをする。
 と、背後から人の気配がした。
「刃か。どうした?」
「撤退だ」
「――――」
 刃は最短でしか物を言わない。
 だから零次は察する。
 この撤退命令はおそらく霧島が判断したものだろう。
 彼は最年長ということもあり、いざというときチームのリーダーとなる。
 ちらりと、眼下に広がる森を見る。
 零次の千里眼を持ってしても、森の中に潜む少女は見つけることが出来ない。
 あるいは――――潜む、などというレベルではなく。
 既にどこか遠くへ逃げてしまっている可能性さえあった。
 踵を返す。
「了解した。任務は達成できず。久々の失態だ」
「……あれは、どうする」
 と、珍しく刃が余計ともいえることを言った。
「放っておいても問題なかろう。奴の正体は不明だが、少なくとも我々とは違うタイプのようだ。仲間がいる様子もない。構うだけ時間の無駄だ」
「……」
 納得したのか、どうか。
 刃は無言で屋上から飛び降りた。
 零次もそれに続く。
 急がなければ直に警察がやって来る。
 それまでに姿を隠しておかねばならない。
 ちらりと、崩れ落ちた壁の残骸を見る。
 なぜか、名前も知らないあの男が。
 ……ち。
 ――――ひどく、気に入らなかった。

「っ、痛……」
 零次が屋上から去って数秒もしないうちに目が覚める。
 梢は痛む身体を無理矢理起こした。
「あの野郎は、どこに」
 気配を探る。
 梢は気配を消したり、探ったりすることに長けている。
 天我不敗流門下生として修行するうちに身につけたもので、これがなかなか便利なものだった。
 普通ならば、研究所内で零次が接近してくることにさえ気づけない。
「もう、いないのか」
 見逃してもらえたらしい。
 そのことを理解すると、梢は壁から這い出てきた。
 遠くからなにか音が聞こえる。
 義父であり師でもある榊原幻の関係で耳に馴染んだ音だ。
「警察か。どうやらきちんと嗅ぎつけたらしいな」
 それはそれで結構だが、梢にはあまり関係がない。
 ゆっくりとはしていられない。
 先ほどの男――――零次が、遥を追って森へ向かった可能性もあるからだ。
「ちくしょう、痛ぇ」
 かなりひどい怪我だった。
 それでも普通の人間よりは動くことが出来る。
 そのおかしさに梢は苦笑した。

 森の奥深く。
 遥の逃げていった方に進んでいく。
 足跡は凝視しなければよく見えない程度のものだったので、いちいち確認はしない。
 やがて、遠くの方で一人分の気配を察知した。
「ようやく追いつけそうだな……」
 気配は動いていない。
 どこかに潜んでいるか、あるいは歩き疲れて待機しているのか。
 そこからまたしばらく進む。
 そこでやっと、遥の姿を見つけた。
「――――おい」
 彼女は倒れていた。
 慌てて駆け寄ろうとするも、身体が思うように動かない。
 自分でも気づかないうちに、かなり疲労しているようだった。
 だがそんなことは関係ない。
「おい、遥。しっかりしろ、おいっ!」
 倒れている彼女を抱き起こす。
 顔は真っ赤に染まり、全身から汗が吹き出ているようだった。
 抱きかかえてみると、身体全体がひどく熱い。
 高熱、などという次元では済まされない。
「なんだこれ……! いや、そんなこと気にしてる場合じゃねぇ!」
 焦る。
 遥の状態がどんなものなのかも正確に把握できない。
 さらにここは町から外れた場所。
 今の時間にやっているような病院には遠すぎた。
「くそっ、どうするどうする」
 ―――ー冷静になれ。焦って自分を見失うな。俺ができる最善のことは?
「ちっ……」
 思案するよりも先にすべきことだった。
 遥を抱えて、とにかくこの場から一刻も早く離れる。
 先ほどの男が追撃してこないとも限らないし、どのみちここで悩んでいてもどうにもならない。
 自分でどうしようもないと思ったことならば、どうにかできそうな人のところへ連れて行くしかない――!
「待ってろ。すぐに連れて行ってやる」
 どこにかは分からない。
 こんな異常事態に対応できるような知り合いなど、梢は知らなかった。
 ただ漠然と、とりあえず家まで連れて行こうと思っていただけだった。
 森から抜け出て、車道まで出る。
「――――倉凪!」
 それはどんな偶然か。
 そこには、バイクで疾走してくる吉崎の姿があった。
「なっ、なんでお前こんなとこに!?」
「心配だから様子見にな。ま、遠くからちょこっとって程度にするつもりだったけど……ん?」
 最初はいつものように軽い口調だった吉崎だが、梢が抱えている少女の姿を確認すると即座に態度を改めた。
「……彼女は?」
「遥。研究所にとっ捕まってた。なんか熱が出てていろいろヤバイ。どっか連れて行かないと」
 焦っているせいか、梢の説明は要領を得ない。
 だが吉崎は長年梢の相棒をやっている人間である。
 彼の言わんとすることをおぼろげに察した。
「OK。以前俺が師匠に紹介してもらった医者がいる。その人のところに連れて行こう」
「ああ、頼む」
 遥を抱きかかえたまま、梢はバイクに乗り込んだ。
「飛ばすぜ――しっかりつかまってろよ!」
 梢が頷くよりも早く、バイクは猛スピードで駆け始めた。