異法人の夜-Foreigners night-

-Border Breaks-
第九話「繋がれた者達」
「どう説明をするつもりなのだ貴様らは!」
 赤間カンパニーの会議室に怒号が飛び交う。
 円卓に席を連ねる男たちが、中心部に立つ三人を睨みつける。
「不審者に侵入を許し、我らの社員を傷つけられた! 挙句逃亡を許したとはどういう料簡だ!?」
「説明したまえ柿澤源次郎。返答次第では貴殿らとの関係も見直させていただく」
「私は元から反対だったのだ、このような人外どもを受け入れるのは」
「今更そんなことを言っても始まらないだろう、それよりも侵入者については何か分からないのかね」
 憎悪、侮蔑、嫌悪、忌避、恐怖、憤怒、怨念と――――。
 次から次へと放たれる負の感情をうけながら、零次はそれ以上の負を以って周囲を眺める。
 ……やはり、俺たちはこういう存在でしかないのか。
 それは絶望。
 人と自分たちとの間に引かれた境界線を自覚してしまったが故の、どうにもならないほどに踏み越えられない終焉の形。
 忌み嫌われ、罵詈雑言を身に受けるだけの存在。
 そう。
 昔から。
 それは、ずっと昔からそうだった。
 少なくとも、零次にとっては。
 だが。
「うっせぇなぁ、文句あんのかよ?」
 柿澤、そして零次と共に立っていた男――霧島直人は不服そうな声をあげた。
 途端、会議室内に緊張が走る。
「あー、面倒くせぇ。俺頭悪いから説明とか嫌なんだけど、した方がいいか?」
「な、なにを説明するというのだ!」
「まず不審者の侵入許したのはあんたらだろ。俺たちのエリアは地下。賊が侵入したのは地上じゃねーか」
「う……」
「次に社員を傷つけたとか言うけど、それはなんでだろうなぁ? ん?」
 霧島が部屋の隅に視線を向ける。
 そこには、身体に軽く包帯を巻きつけた社員が何人かいた。
 揃って霧島の視線にすくみあがる。
「ま、そいつぁ不問にしときましょーか。逃げられたってのは本当だし。ただ、さっきも言ったように地上はあんたらの管轄。お互い自分の領域のことは自分で、というのが契約の内容にあったと思うんだけどなぁ?」
「霧島」
 挑発的な霧島を制して、柿澤が頭を下げた。
「申し訳ありません。この男は少々問題児でして」
「……しっかりと管理していただきたいものですな、柿澤君」
 そう言ったのは、老練といった印象を与える赤間カンパニーの会長。
 それ以外の重役たちは揃って霧島の言葉に竦みあがっており、言葉を発することもせず口をぱくぱくさせている。
 彼らは恐れているのだ。
 必要以上に異法隊の神経を逆撫でし、彼らの反逆を招くことを。
 同時に異法隊も恐れている。
 この鬱陶しい赤間カンパニーの重役たちを消すことは容易い。
 しかしその後、この地区の異法隊のメンバーは路頭に迷うことになる。
 ここで異法隊という組織を台無しにするのは、柿澤にとって避けたいことではあった。
「心得ております」
「うむ……こちらも厳粛な管理を心がける。そこにいる者たちのような輩が出ぬように」
 会長の視線が怪我をした社員たちを鋭く貫く。
 彼らはこの場にいることに耐え切れなくなったのか、
「失礼します!」
 と叫び、誰の返答を待つこともなく退室していった。
 それに呼応して、重役たちもこの場から逃れるように一人一人出て行く。
 やがて残ったのは会長と社長、そして柿澤たち三人だけとなった。
「しかし、賊についての情報が全くないというのは確かなのですな?」
 社長が確認するように問う。
 会長に比べるといささか威厳に欠け、ぎらぎらと粘りつくような野心を感じさせる。
 でっぷりと肥えた身体つきが、零次の嫌悪感に触れた。
 柿澤は社長ではなく会長に答えた。
「確かです。賊は我が隊の構成員ではありませんし、関係者でもありません。おそらくはこの地に居着いた能力者の類でしょう」
「これまでに接触したことは?」
「ありません。今回が初めてです」
「――?」
 柿澤の言葉に、零次は内心眉をしかめた。
 ……隊長には、あの男のことは説明したが?
 あの晩に研究所で遭遇した男。
 そして先ほど侵入し、零次と一戦交えたのは同一人物に違いなかった。
 そのことはここに来る途中で報告しておいた。
 ……どういうつもりだ、隊長は?
 もっとも、そんな疑念はおくびにも出さない。
 おそらくはカンパニーとの交渉手段として、カードを残しているのだろう。
 零次はそう解釈し、黙って成り行きを見守っていた。
「では情報が入り次第――」
「ところで例の件は――」
 長くなりそうだった。

 結局零次たちが会議室から解放されたのは、夜の九時を過ぎようという時間だった。
「……お前は何を考えてあのような発言をしたのだ」
 一階へ向かうエレベーターの中で、柿澤が重々しく口を開いた。
 視線の先には、壁に背を預けながら夜景を堪能している霧島がいる。
「俺は隊長の思ってることを言っただけですがね。ほら、隊長だと立場上言えないこともあるでしょ」
「……お前程度に看破されるほど浅い思考ではないと、自負している」
「ははは、これはまたきっついお言葉」
「――だが、今回に関しては概ねお前の想像通りのことを考えていた」
 苦々しげに柿澤は呟く。
 零次から見ると、柿澤と霧島は仲が良いのか悪いのかまるで分からない。
 基本的なところで通じ合っているくせに、それぞれの腹の内を探ろうとしているような――奇妙な関係に思えたのだ。
「正直イレギュラーの男の行動に関しても、責めるつもりはない。いやむしろ、褒めたいくらいだ」
「隊長がそういったことを仰られるとは珍しいですなぁ」
「……今は立場上障害となっているが、機会があればその男、異法隊に迎え入れたい」
 霧島の冷やかしを無視して、柿澤はそんなことを呟く。
 それには零次も驚いた。
「あの男を、ですか? 難しいと思いますが」
「だが不可能ではあるまい。場を設けて彼と話し合いが出来れば、無駄に戦わずとも彼女と彼を得ることが出来るやもしれん」
「それはそうですが」
「不服かね。君の話を聞く限り、彼は鍛えればかなりの使い手になると踏んでいるのだが」
「違います。……実力がどうとかいう問題ではなく――――あれは、異法隊を壊す者です」
 零次がそう言った途端、エレベーターが止まった。
 故障したらしく、一気に中は暗闇になる。
 もっとも、三人はそのことをまるで気に留めていなかった。
「……確信かね」
 柿澤は静かに問いかけた。
 零次はなんとも言えない、といった表情で、
「あの男と対峙すると嫌な予感がするのです。まるで自分の歩いてきた道が、間違いだと宣告されるような――――」
「ふむ」
 小さく頷き、柿澤はエレベーターの外に見える夜景を見据えた。
 闇の中に点在する光。
 人の力が夜に光を与えた。
 だが今彼らは……光のない箱の中にいる。
「我らはここから出ることをしない。我ら闇がこの窮屈な箱から出ればたちまちあの数多き光を侵食してしまうだろう。だから我らは、我らと同じ闇を内包するこの場所からは出ることをしない」
「……隊長?」
「問題は、我らがここから"出られないというわけではない"ということだ。私も君も霧島も、誰もがこの程度の箱はたやすく破壊できてしまう。外に出られるのだよ、いつでも」
「それは、」
「聞きたまえ。君にとっては今更かもしれんが。……さて、いざ出たとしよう。ここでもう一つの問題が発生する……闇は光を侵食するが、光は闇を打ち消すことができるということだ」
 柿澤がそこまで言ったところで、エレベーター内に光が戻った。
 先ほどまでの闇は跡形もない。
「我らは人を喰らうことができるが、同時に人に呑まれる可能性もある。ならば両者の間に境界線を創らねばならん。獣と人を区分けするようにな」
「……分かっています。そのための異法隊。間違っているとは思いません」
「うむ。……正直なところ、そのような境界線などなくとも共存できれば――それに越したことはないのだがな」
 柿澤は寂しげに笑う。
 零次はどう答えていいのか分からずに押し黙った。
 エレベーターは一階に到着する。
 そこで霧島がおもむろに口を開いた。
「隊長、一つ提案いいですかね」
「何だ」
「相手のイレギュラーはここに俺たちがいることに感づいている。あまりに対応が早過ぎると思いませんか」
「……確かに。ではどうするというのだ、異法隊最速の男よ」
「少し暇をいただきたい」
 その言葉に、柿澤は顔をしかめた。
「どの程度だ」
「今のところはよく決めてませんがね。後、暇をもらうのは俺だけじゃなくて、他の連中もってのはどうでしょう」
「――――?」
 零次は困惑と驚愕の色を浮かべた。
 霧島が何を言わんとしているのか、さっぱり掴めない。
 だが柿澤は違った。
 霧島の意図を瞬時に察し、考え込む。
「なるほど、このまま赤間カンパニーに留まっても仕方がないな」
「隊長……ここを捨てるおつもりですか!?」
「そうは言っていない。ここはまだ利用する必要がある……故に私と藤村はここに残る」
「そんで、他の五人は自由に動き回って――――イレギュラーの男と、例の彼女を探し出す」
 そこまで言われて、零次にもようやく霧島の意図が理解できた。
「この場所が割れている以上、後手に回るのは不利……ならばこちらから仕掛けて、先手を取ろうということか」
「そういうことだ。その為には各自好きなように動ける方がいいだろ、うちにはクセのあるのが多いから」
「お前もその一人だがな――だが、その案は悪くない」
 柿澤は顔を上げて、零次と霧島を見据えた。
「日に一度の定時連絡を入れろ。緊急事態の際にはこちらから連絡を入れるが、そうでない場合はしばらくここには来るな」
「了解」
「了解しました」
 柿澤は重々しく告げる。
「――――己を律し、世を尊重し、そしてその力を存分に発揮せよ。今回は同類が相手だ、遠慮はいらん」

「んで、この後どうすっかだけど」
 赤間カンパニーが用意した寮内。
 そこの食堂に、今六人の人間が集まっている。
 その内の一人、霧島が立ち上がり、他の五人に向かって話している。
「藤村は隊長と共に待機。特に学校やバイトもないから、多分カンパニー地下……異法隊自治区にいることになるだろうな」
「俺は身体的には普通の人間と変わらないし、戦闘には不向きだからね」
 藤村亮介は特に不満もないようだった。
 彼には戦闘能力はほとんどない。
 能力者と一口に言っても全てが"異法人"というわけではない。
 異法人は概ね身体能力が異常なまでに発達しているが、藤村はそうではない。
 異法人とは別に分類される能力者なのである。
 その代わり柿澤の副官的存在として、情報処理などの雑務を引き受けている。
 異法隊内における、たった一人の情報部員といったところだ。
「んで次。赤根ー」
 霧島が名を呼ぶ。
 すると横にいた零次はあからさまに眉をしかめた。
「赤根がこうした場に来るはずがないだろう」
「そうですね。今日賊が侵入したときも、一人だけ姿を見せませんでしたし」
 亨も同意する。
 刃、藤村は口にこそ出さないものの、零次たちの意見に反対はしない。
 だが霧島はチッチッと指を振った。
「いるのは分かってるぜ赤根。ちゃんと出て来いよ」
「……ケッ」
 吐き捨てるような言葉と共に、天井から一人の男が降ってきた。
 髪から衣服まで、そのほとんどを赤で揃えた凶悪そうな人相の男。
 細身だがそこに頼りなさはなく、むしろ近づくものを傷つけるかのような鋭さが感じられる。
 物腰柔らかく優男な藤村とは正反対だった。
 赤根甲子郎。
 特異者の集団である異法隊の中でも、とびきりの問題児である。
「相変わらず気配消すのは巧みだなぁ。ったく、最初から素直に姿見せろよ」
「うるせぇ。さっさと用件言え、俺はだりぃんだよ」
「無気力な若者ここにあり。赤根、もうちょい元気に生きてみない?」
「てめぇはウザイんだよっ!」
 霧島の軽口に苛立ったのか、赤根は霧島の胸倉を掴みあげた。
 否――そうしようとしたところで、邪魔が入る。
 霧島の胸倉を掴もうとした赤根の腕は、横から伸ばされた零次の手によって止められていた。
 赤根は零次を睨みつける。
「何しやがる!?」
「隊員同士の戦闘はご法度だ」
「……くっ」
 赤根は力任せに腕を振り払う。
 零次は無表情のまま、自らの腕を引き下げた。
「で、赤根。隊長からの伝言は特になし」
 まるで意に介していなかったのだろう。
 霧島は全く変わらぬ調子で、気楽に告げる。
「伝言なしぃ……? それは、つまり"いつも通り"でいいってことかよ」
「そうだと思うぜ。ま、暴れすぎるなよ」
「……ケケッ、保証は出来ないな」
 先ほどまで苛立ちが支配していた表情に、喜悦の色が浮かび上がる。
 赤根は一転して上機嫌な様子で、その場を足早に去って行った。
 それを見送る隊員たちの表情は曇っている。
 零次はやや重い声で、
「これで良かったのだろうか。赤根を野放しにして」
「気にするな気にするな。隊長だって考えなしってわけじゃあねぇ。赤根は戦闘力こそお前に劣るが諜報関係は割と得意分野だし、案外あいつが最初に標的見つけるかもしれんぜ?」
 零次や他の隊員たちは心配していたが、霧島はそれを一笑に付した。
「で、零次と矢崎兄弟は、植物野郎とお姫様の捜索。俺は普段の任務に戻る」
「霧島は捜索に参加しないんですか?」
「ああ、俺は俺でちょいと気になることがあってな」
 へらへらと笑いながら「報告終了ー」と言い、霧島は去っていく。
 その背中を見送りながら零次は矢崎兄弟の方に向き直る。
「俺も今回は単独で動く。固まって動けば安全だろうが、発見が遅くなる。こんな任務は早々に終わらせたいところだ」
「そうですか。僕らはどうしますか、兄さん」
「……」
 刃は亨の質問には答えず、零次の方を見た。
 その視線から刃が何を言いたいのか察した零次は、やや不快そうな顔で、
「あの男は戦闘経験のなさが目立つ。動きに無駄が多い……だが基礎能力は俺たちと同等だ。腹立たしいことだが、迂闊な行動をとれば返り討ちにされるやもしれん」
「ならば、俺は亨と組もう」
 零次の判断材料を基に、刃は即決した。
 刃一人ならば問題はないだろうが、亨の場合はそうはいかない。
 亨は後方支援型のため、単独で敵と戦う場合、ある程度の実力者が相手だと分が悪いのだった。
「いやだなぁ、兄さん。僕も一人で大丈夫ですよ」
「……」
 刃は沈黙を以って亨の言葉に答えた。
 そんな口を利くのはまだ早い、ということだろう。
 そんな兄弟のやり取りを耳にしながら、零次はその場を立ち去った。

 赤間カンパニーに貸し与えられた寮の自室。
 元々生活感などほとんどなく、荷物は数える程度しかない。
 赤間カンパニーと関わり合いになる場所からは身を引いたほうがいい。
 そう考えた柿澤は零次たちに寮から離れることを命じた。
 支度金は配給されている。
 その金で、適当な場所を用意しろということだろう。
 差し当たっては、荷物を持ち運ばねばならない。
 零次は新興住宅街にあるマンションの一室を借りているため、あとは移動するだけである。
 少ない荷物を鞄に入れる。
 途中、零次の手が止まった。
 それは一枚の写真。
 無愛想な少年と、まだ幼い少女。
 そして優しそうに微笑む母の姿。
 写真は何度かくしゃくしゃにされたらしく、いくらか歪んでしまっていた。
「母さん、郁奈……」
 雪が多く降る土地で、辛くもあったがまだ三人で頑張っていた頃。
 零次の記憶の中では――――二番目に幸せだった頃の記憶。
 それも、もう遠い昔のこと。
「こんな感傷に身を任せていられるような身分ではないな……」
 零次には二つの罪がある。
 おそらく今は誰からも責められることのない罪。
 責められることがないからこそ――その罪には終わりがない。
「俺はまだ何が正しいのかよく分からない。だから今は……信頼できる隊長に、従うまでだ」
 誰かの後に続いて。
 その中でいつか、自分の進むべき道を見つけ出せばいい。
 零次は写真を鞄ではなく、上着の胸ポケットの中にしまう。
 そして最終チェックを済ませると、さしたる思い出もない部屋を後にした。
 部屋を出るとそこは果て無き闇が続く夜の世界。
「夜は長いな……」
 全く、長い夜になりそうだった。

 夜の赤間カンパニー。
 その地下において、柿澤源次郎と藤村亮介がキーボードを打ち付けている。
 真剣に取り組まれる作業が中断され、藤村は一息ついた。
「なんだか大事になってきましたね」
「ああ」
「でも大丈夫なんでしょうか、皆に単独行動を取らせて。赤根とかが無茶をしなければいいんですが」
「赤根もそうだがね。私は他の隊員も心配と言えば心配なのだよ」
 柿澤も手を休め、目を閉じながら静かに語る。
「矢崎兄弟、彼らは異法隊の理念に同意したから入隊したわけではない。霧島に至っては動機も不明だ。赤根は町中で暴れまわっているところを強制的に"保護"したが……さて、こうしてみると異法隊とはバラバラなものだな」
「……」
「ただ、私が一番不安なのは……零次なのだがね」
「零次が、ですか? 彼は異法隊の理念に同意し、それに基づいて行動していると思いますけど」
「藤村。きつく縛り付けすぎた場合、一旦緩むとあっさりすり抜けるものなのだ」
 柿澤が腰を深く沈めると、椅子が若干軋んだ。
 藤村は何とも言えないような表情で、
「……零次に何かあるのですか?」
「色々ある。二重の鎖に縛り付けられているのだよ、彼は」
「あれですか? 例の、七年前の――――」
「それだけではないがね。七年前と……それから少し前」
 懐かしむように、どこか遠くを見ながら柿澤は呟く。
「久坂零次の能力。あれはひどく分かりやすい。なにしろ外見からして悪魔そのものだ。幼い頃は能力が暴走しやすい傾向にある。不意に悪魔としての姿が知られ、彼はとても酷い迫害を受けたと聞いている」
「……」
「そんな彼を連れて、母親はあちこちを転々として回った。確か……幼い妹も一緒だったか」
「その二人は、どうなったんですか……?」
「――――死んだよ。雪山の中へ逃げ込んだ挙句の凍死らしい」
 当たり前のように告げられる残酷な事実。
 それを前にして、藤村は我が事のように辛そうな顔をした。
 対する柿澤は淡々としている。
「どんな死に際だったかは私も聞いていないがね。……零次は二人の死に責任を感じている。それが、彼が異法隊の理念に賛同する理由の一つだ。一般人と能力者が関わったが故の不幸を身を以って体験しているのだ。そして――――だからこそ、彼はうつろいやすい。実際、七年前の彼は危うかったよ。理性では『相容れない』と分かっていながら、それでも日常を求めていた。――――だからこそ、あんな悲劇が起こってしまったのだがな」
 それきり、会話は途絶えた。
 風の音さえも聞こえない、地下十階の地。
 そこにいる二人は、重い沈黙の中に身を置いた。