異法人の夜-Foreigners night-

-Border Breaks-
第三十三話「約束の意味は」
 目的地へと向かう道。
 紅に染まる空の下、黒き影となった木々が揺れる。
 足元には緑の葉。
 桜が舞う季節は過ぎ去り、紅葉が散るにはまだ早い。
 そんな、緑色の季節。
「お前、どうして霧島に協力してんだ」
 横を歩く赤根に、梢が問いかけた。
 あまり親しい相手ではない。
 遥を守るため、異法隊員としての赤根と以前戦ったことがある。
 それだけの間柄だ。
 しかも、たった一回。
 あの夜、始めて翠玉の篭手を発動させたときに会っただけ。
 赤根の素性やこれまでの経緯、霧島との関係は知らない。
 異法隊員同士だったのだから、同僚ではあるのだろうが。
 赤根甲子郎は凶悪そうな顔つきをしている。
 一見して町の不良だと思えるような風貌だった。
 髪や服などが全て赤で統一されており、鮮烈な印象を相手に与える。
 猛々しく燃え盛る炎を連想させる。
 しかし、先ほど梢に対して沈黙で応えた。
 どうやら、凶暴で猛々しいだけの人物ではないらしい。
 赤根は、梢の問いかけに答えるべきかどうか少し迷っていたが、やがて口を開いた。
「ま、それは黙ってろって言われなかったしな。情けない理由だが、教えてやるよ。ケッ」
 相変わらず口が悪く、あまり友好的には見えない。
 しかし、この頃には梢も、これが赤根の地だと判断できた。
「俺があいつに協力してる理由は、なんてこたぁねぇ。ただ借りを返してるだけだ」
「借り?」
「俺がてめぇに負けたあと、放置されたままの俺はどうなったと思う?」
 亨が捜していたということは、異法隊が保護したわけではない。
 かと言って、赤根が自力で動ける状態でもなかったはずだ。
 そこから、異法隊は梢が赤根を捕らえたとも考えていたらしいが、それは梢自身が違うことを知っている。
 ということは。
「消去法で考えれば分かるだろう。俺はとっ捕まっちまった。研究機関にな」
 そう言って、赤根は自らの手を梢の前に突き出して見せた。
 全ての指に包帯が巻かれている様は、痛々しさを感じさせる。
「これはな、何もお前が俺の爪を叩き割ったからこうなった訳じゃない。いや、それも関係はあるんだが……一番の原因は、連中が俺の能力を調べようとして、ここを何度もいじくりまわしたせいだ」
「さっき堂々と俺のせいだって言ってなかったか?」
「言葉の弾みだ。忘れろタコ」
 ケッ、と吐き捨てるように言う。
「そこを助けたのが霧島の野郎だ。どうもあいつは研究機関を目の敵にしてるようでな。直接あいつがそう言ってた訳じゃないが、多分異法隊に入ったのも連中と戦うのに便利だと思ったからだろうよ」
 霧島は異法隊の中では浮いた存在だったらしい。
 異法隊は、霧島が入隊するまではどこかバラバラなところがあった。
 連携していたのは実の兄弟である矢崎刃、亨の両名ぐらい。
 柿澤源次郎は隊長として孤立し、藤村亮介はいるかいないかも分からない空気のような存在だった。
 赤根甲子郎は、今とさして変わらぬ嫌われ者。
 それが、霧島の入隊と共に雰囲気がガラリと変わったという。
 悪く言えば引きこもりがちだった藤村が表に出てきて、矢崎兄弟と親しくなった。
 赤根に対しても、忌み嫌うといったレベルから、ちょっと嫌な奴という程度の扱いになった。
 柿澤が隊長として孤立しがちなのは、藤村が間に入ることで若干緩和される形になる。
 そして、久坂零次が海外から戻ってきて、今の形になった。
 梢からすれば、異法隊は閉塞的な集団のようなイメージがある。
 しかし、それでも大分マシになった方らしい。
 今では霧島だけでなく、亨や藤村なども積極的に隊員同士の交流を取ろうとしているようだった。
「全部、霧島の野郎がきっかけだ。ケッ……俺からすれば鬱陶しかったんだがな」
 言葉は悪いが、赤根は決して霧島を嫌っているわけではない。
 そのことが分かって、梢は苦笑を漏らした。
 赤根がそれに気づき、苛立たしげに唾を吐き捨てる。
「ともあれ、そんな奴があそこまで憎しみを剥き出しにするとは意外だったぜ」
「機関相手に、か」
「……ケッ。だから俺はちぃっと興味が出てきた。霧島の野郎と機関どもの喧嘩。それがどうなってくのか、付き合ってやろうって気になったのさ」
「だから霧島の協力者になったのか」
「借りを返すのが大前提だ。俺は無法者として生きてきた。だからこそ、貸し借りのケジメはきっちりとつけなきゃ気が済まない。……ケッ、それでも俺は足手まとい宣言されて、偵察程度しか任せられなかったがな」
「そりゃそうだ。さっき俺も電話で足手まとい扱いされたし。その俺に負けてるお前じゃ、無理無理」
「喧嘩売ってんのかてめぇ?」
「売るならもう少し相手が万全のときに売ってる」
 少なくとも、爪がない赤根は梢の敵ではない。
 楽勝とまではいかないが、能力を存分に使えるのと使えないのとでは大きな差がある。
 逆に梢が能力を封じられていたら、万全の赤根には勝てる気がしなかった。
「それに、もうすぐ霧島と戦わなきゃいけないからな。余計なことで力使ってられない」
 幸いにも、先ほどの魔獣戦ではあまり力を使わずに済んだ。
「……無駄だと思うぜ。大人しく帰っとけよ」
 不意に、赤根が控え目な言葉を寄越してきた。
 その意味は、梢には嫌というほど理解できる。
「ガキの頃に……何度かやりあったことがあってな」
 あの頃は、お互いが異法人だということを理解していなかった。
 ただ、人の領域を逸脱した存在だということは分かっていた。
 そういった者同士が戦ったらどうなるのか。
 梢は何度か、それを確かめたくて霧島に挑戦したことがあった。
 だが、その結果はいつも同じ。
「俺ぁ霧島の能力も知らねぇんだ」
 知る暇さえ与えられないほどの速さで。
「――――いつも、一秒持たずにぶっ飛ばされてたよ」
 気づけば、霧島が指定した"裏山道場"のすぐ近くまで来ていた。
 木々がざわめく。
 どこからともなく、声が聞こえてきた。
「ついでに言うと、戦う場所は決まってここだったな」
「ああ。屋敷の道場じゃ、何かあったとき騒ぎになりやすい」
「だから人目のつかない山奥の方でやりあった。結局、いつも俺が瞬殺して終わりだったけどな」
「ここには良い思い出があんまねぇよなぁ。師匠の地獄合宿もあったし。あんたにゃいつもぶっ飛ばされてたし」
 なぁ、と呼びかける。
 山奥にぽつんと建てられた、古びた道場。
 天我不敗流の合宿用として使われる、梢にとっては懐かしい道場。
 その屋根に腰を下ろし、こちらを見下ろす人物に向かって。
「――――久しぶりだな、梢」
 夕陽によって照らし出されたその顔は、再会の喜びを意味する笑みを浮かべていた。

 研究室の中は色々なものがあった。
 二台のデスクは両親が使っていたものだろう。
 他に客人用のパイプ椅子もいくつかあった。
 その反対側には十の本棚がある。
 少しの隙間もなく、ぴっちりと本が収納されていた。
 日本語タイトルのものもあれば、英語ドイツ語フランス語のものまである。
 それらは棚ごとに分類されていて、まるで小さな図書館のようだった。
 一際異様だったのは、中心部の奥。
 そこの床には円が描かれており、ラインが淡い光を放っている。
 先ほど幸町が、ここの扉を開いたときのものと似ていた。
「これも、魔術なんですか……?」
「魔術の効果を抑えるための陣だね。一見、ただ円を描いてるだけにしか見えないだろうけど、僕にはこんなものを用意することはとてもじゃないが出来ない」
 どうやら相当熟練した者が創り出したものらしい。
「主に実験で使われる。よほどの力を秘めた術式でない限り、この円の外にまで魔術効果が及ぶことはない」
「つまり、有効範囲を設定するための円なんですね」
「そう。言ってみれば小さな結界だ。ただし、かなり高密度のものだよ。入ったところで問題はないけど、特に何も起こらない。実験のとき以外は無用のものだね」
「父さんと母さんは、これを使って魔術の研究をしていたんですか?」
 恐る恐るラインに触れてみる。
 発光しているから熱はあるのだろうか、と思ったりもしたが、そういうことはなかった。
「そうだね。君の父親、冬塚雪夫さんは純粋な研究者だった。けど水穂さんは少し違ってね。彼女はれっきとした魔術師だった」
「――――」
 魔術師。
 そんな単語は、物語の中でしか聞くことがないと思っていた。
 魔術に関わる研究をしていたのであれば、そう驚くべきことではない。
 それでも涼子は、そのことを事実として受け入れるのに若干の躊躇いがあった。
 記憶の中の母は、人当たりのいい専業主婦だった。
 父親に対するちょっとした不満を涼子に漏らしつつ、結局は世話を焼いてしまう人だった。
 何も特別なところなどはない。
 どこにでもいるような、ありふれた母親にしか思えなかった。
「冬塚夫妻の研究とは何なんですか? それって、冬塚さんが狙われる程のものなんでしょうか」
 涼子の後ろに控えていた亨が挙手して質問する。
 幸町はすぐには答えず、ゆっくりとした足取りで本棚の方へと歩いていった。
 涼子たちもそれに続く。
「冬塚夫妻の研究、か。正確には冬塚雪夫氏の研究、そして冬塚水穂女史の研究と言うべきなんだけど」
「別々の研究をしていたってことですか……?」
「目的は一つだった。二人はそれぞれ別々の方法で、そこに到達しようとしていたんだ」
 十の本棚、丁度その真ん中で幸町は足を止める。
「ここから左が雪夫さんの研究資料。そして右側が水穂さんの研究資料だ。僕が案内するのはここまで。ここからは自分で過去を探るといい」
 そのまま幸町は、別室へと行ってしまう。
 やがて漂ってきたコーヒーの匂いから察するに、給湯室かキッチンのようだった。
「僕らも手伝いましょうか?」
「うーん……いいわ。私が調べるから、適当にくつろいでて?」
「分かりました。まぁ僕らが見ても訳分からなさそうですしね」
 亨は適当なところから一冊の本を取り出し、パラパラとページをめくる。
 しかしそれはドイツ語で書かれたもので、亨には読めるはずもない。
 彼はすぐに元にあった場所へ資料を戻し、壁に寄りかかって欠伸をし始めた。
 刃も同様に、壁に身を預けて目を閉じる。
 涼子は彼らから意識を切り替え、資料に向けることにした。
 涼子は医療関係に進もうと思っており、前々から勉強を重ねてきた。
 フランス語などは分からないが、ドイツ語なら読み書きはどうにか出来る。
 本棚に収納された本の背表紙を順々に見ていく。
 どうやら色々なところからかき集めたらしく、中国語や韓国語らしきものもある。
 二十世紀半ば頃の書籍が多く、訳されているものは全くない。
 また、著者名に共通点があるのが気にかかった。
 ドイツ語の著者なら『 Erhard(エアハルト) 』の姓。
 フランス語の著者なら『 Dunan(デュナン) 』の姓。
 ロシア語の著者なら『 Verba(ヴェルバ) 』の姓。
 中国語の著者なら『劉』の姓。
 そして、日本語の著者なら『泉』の姓。
 一つ二つが同じならさして気にしないところだが、同じ姓ばかりがずらりと並ぶと違和感を抱かずにはいられない。
 四つのコーヒーを手に戻ってきた幸町に、そのことを問う。
 彼は「ああ、そのことか」と言って頷いた。
 涼子や刃たちにコーヒーを渡しながら、幸町は説明する。
「魔術師というのは異法人以上に己の存在を隠したがるものでね。悪く言えば閉鎖的なんだ。だから自然、派閥とか仲間とか、そういうのは血縁関係者によって構成されるんだ。
 現在では魔術の派閥は、ほとんど『家』と同義だと思っていい。一つの『家』がそれぞれ内部で研究を重ねている。時折他の家と協力しながらね」
「それが、著者の姓が集中している理由ですか?」
「そういうこと。冬塚夫妻の所属していた『家』と比較的友好関係にあった魔術の家、その姓さ。著書を提供してくれるなんて、凄く仲が良かったんだろうねぇ。仲が悪いところだと、著書の切れ端一枚で家同士が戦争引き起こしたなんて例もあるぐらいだし」
「そ、そうなんですか?」
 幸町の話を聞いていると、まるで日本の戦国時代のようだった。
 大名家とそれを取り巻く武将たち。
 それぞれの『家』は、ときに協力し、ときに潰しあって天下を目指す。
 魔術師が目指すものは天下ではないだろうし、領土の奪い合いもしないだろう。
 しかし、その部分を除けば、似たようなものなのかもしれない。
「日本の場合は、ほとんどがそのまま『家』だけど、外国の場合共同体としての名に過ぎないってケースも多いね。エアハルトっていうのも、本当の家名じゃなくてコードネームのようなものらしいよ」
「はぁ」
 現実離れした話に、涼子は曖昧に頷くのがやっとだった。
 コーヒーを飲みながら、頭の中で幸町の言葉を整理していく。
 すると、一つの疑問が浮かんできた。
「父さんや母さんが所属してた『家』は……冬塚、じゃないんですか?」
「冬塚っていうのは雪夫さんの元々の姓だからね。彼は水穂さんと会うまでは、普通の青年だったらしいよ」
「それじゃ、あの泉って書いてあったのが……」
「ああ。それは本家本元の方だね」
 言いながら幸町は立ち上がった。
 本棚の方へ行き、一冊の古ぼけた本を手に戻ってきた。
「それは?」
「泉家について簡単に書かれた本だ。このページに系図一覧が書いてある」
 幸町が開いたページを覗き込むと、確かに家計図のようなものがあった。
 一番初めに"泉"とあり、そこからいくつかの分家に分かれていく。
 そのうちの一つを、幸町は指差した。
「ここに" 式泉(しきずみ) "とあるだろう? これが、水穂さんが仕えていた魔術の『家』だ」
「――――え?」
 式泉。
 涼子はつい最近、その姓をどこかで見たような気がした。
 珍しい姓だから、そう簡単に忘れるものではない。
 あれは確か、榊原が持ち帰った――――。
「それって確か、遥さんの」
「そうだ。――――遥君の、実家だよ」
 涼子を取り巻く環境と遥。
 その繋がりが、見えてきた。

「いきなりやりあうのも無粋だしな。少しだけ話をしようじゃねぇか」
 屋根からひらりと舞い降り、霧島が言った。
「お前も俺に聞きたいことがあるはずだ。いきなり意識を失ったら話も出来ないし。最初に話を聞いてやる」
 それは必勝の宣告。
 対する梢に、返す言葉はない。
 幼い頃の話とは言え、梢が霧島に勝ったことなど一度もないのだから。
「……遥とあんたの関係は何なんだ? 冬塚から話を聞いただけじゃ、今ひとつ分からない」
「嬢ちゃんからは何て聞いたんだ?」
「あんたが、誰かと約束したこと。約束の内容が、遥と冬塚を守るってこと……それだけだ」
「ふむ。なら、順を追って説明した方がいいな」
 霧島は赤根に目配せをした。
 赤根は頷き、道場の向こう側へと姿を消す。
 込み入った話になるので席を外したのだろう。
 道場の前に用意された切り株の椅子。
 そこに二人は、向かい合って腰を下ろした。
「まず、八島優香って名前は聞いたか?」
「ああ。冬塚の姉さんだろ」
「そうだ。姓は違うが、間違いなく嬢ちゃんの実姉だよ」
 霧島は僅かに肩を落とし、腹の底から吐き出すように告げる。
「そして――――俺が愛した人だ」
 一字一句を噛み締めるように言う。
 霧島にとって、その言葉にどれほどの重みがあるのか。
 梢には、それを推し量ることはできなかった。
「七年前の事件はどれだけ知ってる?」
「……冬塚に聞いたぐらいしか知らないな。その優香さんって人が行方不明になって、あいつの両親が殺された。あいつ自身は久坂の野郎に重傷を負わされたらしいが……」
「ザッハークは知ってるな。さっきお前が倒した魔獣を創り出した奴だ」
「名前ぐらいしか知らねぇ」
「何も知らないんだな、お前は。……まぁお前は過去とあんまり関係ないからか」
 霧島は大袈裟に溜息をついて、
「七年前に嬢ちゃんの両親を殺した犯人は分からない。だが、その現場にザッハークがいたのは確かだ」
「つまり、そいつが殺したってことか」
「手口が奴のものと微妙に違うから断定は出来ない。だが、野郎が意味もなく事件現場にいる訳がない。犯人か、もしくはその共犯だろう」
「あんたは、なんでそんなことを知ってるんだよ」
「……俺もその場にいたからな」
 遠くで鳥の鳴く声が聞こえた。
 冷たい風が吹き、二人の間に沈黙が訪れる。
「あの日の事実は多すぎて、俺も全貌が分かっている訳じゃない。分かってるのは、俺が何も出来なかった不様な間抜け野郎だってことだ」
 自嘲の言葉は風に乗り、後半はかき消えていく。
「なぜ冬塚家が襲われたか。それは、優香が原因だ」
「優香さん、が?」
「あいつの家、八島家も冬塚家と同様に襲われている。共通するのは、ザッハークの関与と優香の存在だ。
 おそらくザッハークやそれに連なる者が優香を狙い、その過程で八島家、冬塚家が被害を受けたんだろう」
「……俺にはよく分からないんだがよ、その優香さんって人は狙われる理由があるのかよ?」
「ある。――――そう連中は期待して、優香を連れさらったんだ」
 歯を食いしばり、爪が突き刺さるほどに拳を握り締める。
「優香は過去を体感する力を持っていた。夢の中で自分と親しい人、あるいは強く意識した相手そのものになる力があった。連中はその力を狙って、優香を手に入れようとした」
 だが、と霧島は頭を振る。
「結局、連中は期待外れだと落胆してやがったよ。……ふざけるな、って感じだったよな」
 霧島は顔を伏せ、肩を震わせる。
 今にも爆発しそうな感情を、無理矢理抑え込んでいるかのようだった。
「俺が見つけたとき、優香は既にボロボロだった。身も心もズタズタにされて、最初は俺が誰だかすら分かってないようだったよ」
「……」
「間もなく優香は息を引き取った。最後に、最後の最後になって、俺に一つ頼み事をしてな」
「それが、遥と冬塚を守るって約束か……」
 涼子の予想は正しかった、ということなのだろう。
 八島優香が、遥と涼子を守って欲しいと願った。
 その願いを果たそうと、霧島は動いている。
「けど分からないな。冬塚は妹だから分かる。だけど、遥は何か関係あるのか?」
 ここまで話を聞いていても分からない。
 霧島と優香の繋がりは涼子の予想もあって、すんなりと分かった。
 しかし、霧島、優香、そして涼子の三人と遥の繋がりが全く見えてこない。
「最後の最後になってあんたに託したんだ。何の関係もないとは言わせないぜ。それに優香って人と遥の境遇、いやに似てる。……教えてくれ。その優香さんって人と遥は、どんな繋がりがあるんだ」
 梢は身を乗り出して問いかける。
 霧島は、そんな彼の双眸を真っ直ぐに睨み返した。
「……同じだよ」
「あ?」
「お前の言う通り、優香と遥の境遇は似てる。優香を連れ去った連中は機関とは別系列のようだったが、狙われる理由の大元は一緒だ」
「その大元ってのは、何なんだよ」
「式泉家」
 間髪入れず、霧島が言った。
 梢もその名には聞き覚えがあった。
 榊原が持ち帰った資料の中にあった名だ。
 遥の実家であり、魔術の中でも名門といわれる"泉"の分家筋の一つらしい。
 そして、泉家は既に滅び去っているとも書かれた。
「泉家は精神感応系統の魔術を専門としていた。精神ってのは扱いにくい反面、効果は絶大だ。特に、力で圧倒する相手を打ち破るのには最高のもの」
「……それって」
「研究機関や、それと似た考えを持つ者にとっては、泉家の力は喉から手が出るくらいに欲しいものなんだろうよ。
 魔術ってのは本来門外不出の代物だが、滅んだ泉家にはそれも当てはまらないからな。
 だから、優香も遥も連中にとっては格好の獲物なんだよ」
 霧島は吐き捨てるように言う。
 だが、梢はその言葉に違和感を抱いた。
「まさか、優香さんも泉家なのか?」
「八島夫妻も冬塚夫妻も、奥さんの方が式泉家に仕えていた身だ。そして両家は泉家が崩壊した際に、それぞれ主筋の娘を引き取って落ち延びている」
「……何?」
 梢は顔をしかめた。
 霧島の言葉が意味することが、瞬時には理解できなかったからだ。
 だが、思い出す。
 榊原が持ってきた式泉家の資料には、こう書かれていなかったか。
『姉妹が二人いるらしいが、そちらは泉家崩壊後、市井に身を潜めてしまったらしい。発見は困難か』
 姉妹が二人。
 それはなんだか、恐ろしいぐらいにぴったりで。
 梢の予想を後押しするように、霧島は宣言した。
「優香、そして嬢ちゃんの本来の姓は式泉だ」
「……まさか」
「そのまさかだよ。――――三人は、実の姉妹だ」