異法人の夜-Foreigners night-

-Border Breaks-
第三十六話「集う思い」
 話し合いは静かに進行していく。
 藤村が持ってきた資料を手に、柿澤が淡々と過去の事件を説明していく。
 中には、話を聞いただけで吐き気のするものもあった。
 私利私欲のために、自らの能力を悪用するなどという輩はざらだった。
 凄まじいものになると、道楽のために村一つ、あるいは町一つを滅ぼしたケースもあるらしい。
 それでよく能力者、異法人らの存在が表沙汰にならなかったものだ、と感心してしまう。
 そうした例の中には、ザッハークに関するものも含まれていた。
 それらの事件を通して柿澤源次郎が言いたいことはただ一つ。
「要するに……我々のような能力者は、野放しにしておくと大変危険なのだよ」
 組織が必要だと彼は語る。
 例えば、異能の力と似たもので魔術というものがある。
 素質が関係するものの、頑張れば普通の人間でも使えるという代物である。
 が、危険であることに変わりはない。
「しかし魔術師たちは『家』という組織を作り、その中で自分たちを統制している。万一悪事を働く者が家中で出た場合、同じ家の者が処断するというシステムだ」
「……その『家』全体が、何かとんでもないことをしたなら?」
「魔術師たちには『家』よりも更に大きい組織単位として、同盟と連盟が存在する。もし『家』そのものが暴走した場合、同盟が動くだろう。……同盟自体が暴走したら、という質問は無意味だと予め言っておこう。魔術同盟は例えるなら国連のようなものだ。国連が暴走したら、などということを話しても仕方あるまい」
 なるほど、と涼子は頷いた。
 組織とは秩序だ。
 巨大な力を持つ者は、そうした者たち同士で形成された組織――――秩序が必要だろう。
「我ら異法人、あるいはそこにいる藤村のように分類不可能な能力者には、現時点でそうした組織がない」
 秩序がない。
 それは無法であるということだ。
「我ら異法隊がその組織になろうとしているが、生憎障害も多くてね。思うようにはいかないのだよ」
「……つまり遥さんを異法隊に入れるということは、彼女を秩序の中に組み込むということですね」
「その通りだ。君たちとて国という秩序の中にあるだろう。生まれれば戸籍登録をする。私がしようとしているのは、そういうことだ」
「それは違うんじゃないでしょうか」
 柿澤の言葉は巧みなものだった。
 思わず納得しそうになってしまうが、ここで頷いては話にならない。
 涼子はとりあえず否定の声をあげ、それから言い分を咄嗟に考えた。
「……少なくとも、日本国と異法隊を一緒にするのは無理があるんじゃないでしょうか。異法隊はあまりに自由がなさすぎると思いますが」
 その言葉に、零次や亨、藤村が大きく反応を示した。
 異法隊の理念に対しケチをつけたのだ。真っ向から喧嘩を売っているも同然である。
 藤村が挙手し、穏やかに反論してきた。
「我々はその特殊な力故に、普通の人々よりも厳しく己を律しなければなりません。冬塚さん、そこのところどうかご理解を」
「はじめまして、藤村亮介さん。貴方の言っていることは分かりますが、そこで私は頷くことが出来ません。秩序の中に生きることと不自由であることは同義ではないと思います。秩序を敷くことには私も賛成しますが、不自由であることには賛同しかねます」
「しかし――」
 なおも藤村は反論しようとする。
 が、柿澤が片手をあげてそれを制止した。
「藤村。発言の許可はしていない」
 言われ、藤村は押し黙る。
 これは議論ではなく勝負である。
 どちらが正しいかを決める場ではなく、どちらの意見が通るかを決める場である。
 藤村はその点が分からず、涼子の挑発に乗りかけた。
 それを柿澤は抑えたことになる。
 ……なかなか、食えないわね。
 学校でも教師相手に討論することが何度かあった。
 が、柿澤は彼らよりも数段上の相手だと思える。
「この場で見解の一致を望むのは難しい。今は論議の中心、遥君をどうするかを決めることだけを考えるのが大事だ。……そうだね?」
「はい、分かっています」
 柿澤の念押しは、零次や藤村にこの討論の主旨を伝えるためのものだ。
 零次はよく分からないが、これで藤村も迂闊に挑発には乗ってこないだろう。
「……ともあれ、一応確認しておこう。遥君を異法隊にて保護するメリット。それは、彼女という能力者を我々の秩序に組み込むことだ。そうすることで大事を未然に防げるし、彼女が不当な差別を受ける可能性も激減する」
 言いながら、柿澤は人差し指を立てた。
 続いて、中指を立てる。
「――――そして二つ目のメリットも言っておこう」
 二つ目、と聞いて涼子は内心どきりとした。
 半端なメリットなら突き崩せばいいが、柿澤はそんなものは出してこないだろう。
「……二つ目? なんですか、それは」
「なに、現状においてこう言うのもなんだが……」
 柿澤は薄っすらと、シニカルな笑みを浮かべた。
 そして宣言する。
「倉凪梢に任せておくより、我々が保護した方が――――彼女をより確実に守れるということだ」

 やられた、と涼子は舌打ちした。
 柿澤が述べた二つ目のメリットはかなり強い。
「倉凪梢は研究機関の手から彼女を守りきることが出来なかった。それは我々についても言えることだが」
 と、柿澤は視線だけ動かして一同を見回す。
 零次と刃が苦い顔つきになった。
「……が、そもそも人数が違う。おまけに我々の本拠地はこのような場所だ。研究機関もおいそれと手は出せまい」
「せん……倉凪梢が彼女を守りきれなかったのは、そもそも異法隊にも一因があるのではないでしょうか」
「その通りだ」
 と、刃が同意を示す。
 発言が許可されているわけではないので、軽く頷く程度だったが。
 柿澤もそれについて否定はしない。
 刃、零次といった乱入者がいなければ、もしかしたら彼は遥を守りきれていたかもしれない。
 その点、遥が研究機関に連れ去られたのは異法隊にも原因がある。
「無論、私とてそれは承知の上だ。故に倉凪梢と同盟を結び、彼女の救出を第一に考えている」
「だったら……」
「しかし、よく考えてみたまえ。倉凪梢が住まう家と、この異法隊本拠地。どちらが彼女を守ることに適しているかを」
 う、と涼子は言葉に詰まる。
 赤間カンパニーの地下深くに存在するこの本拠地は、厳重なセキュリティが敷かれている。
 普通の人間である研究機関の人間、そしてまともな思考が存在しない強化人間が侵入するのは難しい。
「万一侵入されたとしても、ここには最低でも私かその代役が一人は詰めている。が、倉凪梢の家はどうかね?」
 梢や美緒は学校があるし、榊原は仕事が忙しくて家を空けがちである。
 吉崎もよく出入りしているが、毎日いるわけではない。
 つまり日中、遥は一人きりだったはずだ。
「それに倉凪梢の周囲にいるのは皆、普通の人間だろう。研究機関を相手に無事で済む保障はあるだろうか」
 ない。少なくとも、異法隊の隊員たちと比べれば。
 異法隊のメンバーは、ほとんどが実戦経験のある戦士たちだった。
 それに比べて榊原家はどうだろうか。
 榊原は武術家として一流だ。付き合いが長い分、個人としては異法隊のメンバーより頼りになりそうな気がした。
 が、吉崎や美緒は違う。
 吉崎は魔銃『ヴィリ』で武装しているが、その点を除けば普通の人間だ。
 単独で強化人間たちに立ち向かうのは危険だろう。
 美緒に至っては、完全に戦力外だった。
 遥が連れ去られたときも、危うく銃で撃ち殺されるところだったらしい。
 遥を守るという点においては、梢よりも異法隊の方が適している。
 そのメリットを突き崩すのは、至難の業だった。
「以上でこちらの論述を終了する」
「……確認をよろしいでしょうか」
 表立って反論する前に、突き崩す箇所を探り出さねばならない。
 涼子は内心の焦りを抑えながら、素早く質問を考え出した。
「一つ目のメリットは、彼女を保護し秩序に組み込むこと。そうすることで大事を防ぎ、彼女を差別から守ると言いましたね」
「ああ」
「それには二つの前提が必要ですね。……彼女が不当な差別を受けるということ。そして、彼女がその力を使って大事を引き起こす可能性があると」
「……そうだが」
 柿澤の表情が微かに曇る。
 涼子はその変化を見逃さない。
 一つ目のメリットは、どうにか上手く突き崩す算段が浮かんだ。
 しかし、二つ目は今の時点ではどうとも言えない。
「……こちらの質問は以上です」
「では次にそちらの論述を。君の提案のメリットを述べるか、それとも私の提案のデメリットでも述べるかね?」
「デメリットの方を」
 涼子の提案は完全に感情論である。
 理屈の勝負では通用しない。
 ここは柿澤の論を破壊することに専念すべきだ、と涼子は考えたのである。
「異法隊に保護することのデメリットは二つあります」
「ほう――――では述べてみたまえ」
「一つ目のデメリットは、環境によるものです。……果たして異法隊による保護は、彼女にとって本当に安全であるかどうか。その保障がありません」
「我々が信用出来ないということかね?」
「違います。信用出来ないのは貴方たちではありません」
 異法隊が本当に信用出来るかどうかは分からない。
 が、今そのことを言っても意味はない。
 ここで言うべき、信用出来ない相手というのは他にいる。
 涼子は黙って上を指差した。
 柿澤を始めとする異法隊のメンバーは、それが何を意味するかすぐに察した。
「なるほど、赤間カンパニーか」
「その通りです。異法隊は現在赤間カンパニーの庇護の下活動していると聞いています。故に彼らの要請に従って、危険な仕事をしているとか」
「肯定だ。我ら唯一にして最大の汚点だな、それは」
「そうした仕事、異法隊に加われば彼女もしなければならなくなるのではないでしょうか。……と、これはここで尋ねても仕方ありませんね。それを決めるのは残念ながら貴方たちではなく、赤間カンパニーの人間でしょうから」
「いや、それは違う。あちらは任務に参加するメンバーに関してまで口出しすることはない」
「ですが、彼女は珍しい……少なくとも、今の異法隊にはないタイプの力を持っています。そこにカンパニーが目をつけたら?」
 触れたものの内面を読み取る力。
 使い方次第では、相当有効な能力になるだろう。
 遥が巻き込まれないという保障はない。
「そして二つ目のデメリット。これが、致命的です」
「致命的……?」
 柿澤が訝しげに眉をひそめる。
「何か問題があるのかね? 赤間カンパニー以外に、デメリットと言えるものが」
「あります。最大の問題点ですね」
「では……聞かせてもらおうか。その問題点を」
 柿澤は両手を組みながら、少し身を乗り出してきた。
 その動作一つでも、何か威圧のようなものを感じる。
 が、涼子は怯まずに告げた。
「そもそも、管轄違いなんです。彼女を保護するのは異法隊の役目ではありません」
 異法隊員たちの表情に、一斉に動揺が表れた。
 柿澤も瞠目し、呆然とした顔を涼子に向けている。
「その宣言、根拠は……なんだというのかね」
「先ほど隊長さんがご自分で仰いましたよ」
「何……?」
 言われて、柿澤は視線を宙に浮かせた。
 自分の言動を振り返っているのだろう。
 やがて、何かに気づいたらしい。
 渋面に冷や汗を浮かべながら、柿澤は視線を涼子へと戻した。
「まさか……?」
「気づいたみたいですね。そう、管轄違いなんですよ」
 涼子は繰り返し頷いてみせた。
 まだ事態を察していない零次たちは、柿澤と涼子の間で視線を泳がせている。
「私、優香姉さん、そして遥さんは式泉という"魔術"の出身です。彼女の力は異法でもなければ、分類不能な異能でもない」
 そこまで言われて、まず藤村が、続いて刃と零次がはっとした表情になる。
 それを確認してから、涼子は厳かに言った。
「式泉遥の"リンク・トゥ・ハート"の正体。それは魔術なんです」
「……つまり、彼女は魔術師」
「ええ。ですから、彼女を保護するならそれは異法隊の役目ではない」
 先ほど、柿澤が言ったことである。
「そう――魔術には魔術同盟という"秩序"が既に存在する! 仮に彼女を何かの秩序に組み込むのだとしても、それは異法隊ではありません!」
 涼子の言葉は、柿澤らの名目を叩き潰すものだった。
 柿澤は険しい顔つきで押し黙る。
 零次たちも何も言えずにいた。
「……証拠はあるのかね」
 かろうじて、柿澤が声をあげた。
「魔術師の家系にも異法人が誕生する可能性はある。確かに彼女は出自こそ式泉という魔術の家だが、だからと言って彼女の力が魔術である保障はない。第一魔術は長期間の鍛錬、優れた資質など諸々の条件が必要なはずだ。ずっと機関に軟禁されていた彼女が、魔術を得る機会などあったかね」
「少なくとも異法人ではありません。異法人は常人を凌駕する身体能力がありますけど、彼女にはそれがありません」
「むぅ……」
 柿澤は目を伏せた。
 ここでこれ以上反論しても無意味だと考えたのだろう。
 それ以上の追求はしなかった。
「以上でこちらの論述を終了します。確認はありますか?」
「いや……結構だ」
 沈んだ声で柿澤が言う。
 涼子は自分が優位に立ったことを確信し、内心胸を撫で下ろしたくなる心持ちだった。
 しかし、次の瞬間息を呑んだ。
 正面に座る柿澤の眼は、まだ得体の知れない輝きを発していたのである。
 ……あの眼は、まだやるつもりね。
 これから来るであろう反撃に備えて、涼子は素早く思考を回転させ始めた。

 梢と霧島の戦いは続いている。
 しかし、それは真っ当な勝負とは言えない。
 梢は防戦一方である。
 攻撃する間がないのだ。
 それもこれも、全て霧島の"速さ"が常識を逸していることが原因だった。
 梢たち異法人は、常人を凌駕する身体能力を有している。
 高速道路を走る車と同等以上の速さで駆けることも可能だった。
 しかし、そうした異法人の中であっても、霧島直人の速さは異常としか言いようがなかった。
 もはや肉眼で姿を捉えることも出来ない。
 疾風迅雷の勢いで迫り来る。
 霧島の移動によって、周囲一帯には激しい風が吹き荒れていた。
 移動だけでそんな現象が引き起こされる。
 それが激突した際の衝撃は、凄まじい。
 防御しきれるものではなかった。
 ……ちっ、刃の一撃よりもきついぞ!
 霧島は一個の嵐となったようなものだ。
 風のない中心点、即ち発生源に彼はいる。
 おかげで姿は見えずとも、どの辺りから迫るのかは気配で感知出来た。
 しかし、感知したところでどうにもならない。
 動きを封じようと、草木で牢獄じみたものを作り上げたりもした。
 が、霧島はなんなくそれを突き破ってしまっている。
 梢も足に魔力を集中させ、脚力を飛躍的に上昇させている。
 おかげでかろうじて立ち回れているが、正直速さでは絶対に敵いそうにない。
 梢が足だけ速いのに対し、霧島はその全てが速いのである。
 全てが早送りの霧島に速さだけで勝利するのは、無謀を通り越して絶望としか言いようがない。
 ……だが、どうする!?
 何度目かの攻撃を喰らいながら、梢は必死に頭を働かせようとする。
 梢は普段こそ頭が悪いものの、戦いにおいては機転が利く。
 時間さえ与えられれば、何か打開策を思いついたかもしれない。
 しかし、霧島を相手にしていては、考える余裕もない。
「遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅いそいそいそいそいやぁぁぁ!」
 後方の風が不自然な流れを生む。
 梢は咄嗟に振り返りながら、左腕を顔の横に突き上げた。
 刹那、鋭い痛みと共に視界が真っ白になる。
 左腕が衝撃に耐え切れず、へし折れたのだ。
 霧島の一撃はそのまま頭部へ達し、梢は意識を失ったのである。
 が、不思議なことに梢はすぐ意識を取り戻した。
 そのまま追撃をしかけようとした霧島は、意外そうな表情を浮かべて動きを止める。
「タフだなぁ、お前」
「……あー? ああ、いや、うん」
 突然のことに梢は混乱しているのか、返答は曖昧なものだった。
 気を引き締めるため、両手で顔を叩く。
 途端、梢は激痛に顔をしかめた。
 そのときようやく、左腕が折れていることに気づく。
「ちっ、また骨折かよ……」
 渋面のまま、梢は添え木を創り上げ、同じく創り上げた蔦で固定した。
「この辺で止めとくか? もう一時間以上もやりあったんだ、そろそろ諦めろよ」
 言われて、梢は自分が汗だくになっていることに気づいた。
 無我夢中で戦っていたせいで、時間の経過を忘れていたらしい。
 梢はふと、霧島を見る。
 あれだけ動き回っていたからか、霧島にも疲労の色が見て取れた。
 ならば、まだ梢が勝てる可能性はある。
「――――嫌だね。あんたが降参するなら止めてやってもいいけどな」
 梢の言葉に、霧島は盛大な溜息を返してきた。
「はっ、小生意気な坊主だね。ったく、頑固者、単純者、朴念仁、このお馬鹿」
「って、なんでそんなに言われなきゃいけねぇんだよ!?」
「些細なことで怒ってるのがガキの証拠だ」
「ぐっ……こ、このエロガッパ!」
「……言ったなクソガキ。そっちがその気なら泣いて謝るまでボコるぞこの野郎」
 そう言いつつ、霧島は笑っていた。
 なんとなく昔を思い出したのだろう。
 梢も似たような理由で、軽く笑みをこぼす。
「泣いて謝るのはどっちか、教えてやるぜ!」
「やれるもんならやってみろ、梢!」
 刹那、霧島は再び突風と化した。

 その戦いを見守る影が、二つある。
 一つは赤根甲子郎のもの。
 そしてもう一つは、吉崎和弥のものだった。
「派手にやってるねぇ、どっちも」
 吉崎が感心して呟く。
 彼は、先ほど榊原邸に来た涼子と軽く言葉を交わしている。
 そのとき、梢と霧島が何かするつもりらしいと教えられた。
 過去の経験から察し、とりあえずこの裏山道場までやって来たのである。
 そして、そこにいた赤根から事情を聞いた。
 赤根とは一度顔をあわせているから、余計な説明は不要だった。
「ケッ。……それで、てめぇは結局何しに来たんだ? 草野郎に加勢するつもりでもないみたいだが」
「当たり前でしょ。俺一般ピーポーですよ? おたくら異法人とまともにやり合えば、一分しないうちにミンチだわ」
「どうだか。腰に下げた銃が飾りじゃないなら、今の俺ぐらいならどうにか出来るんじゃねぇか?」
「無理無理。それに俺、肉体労働派じゃないし」
「……ケッ。だったら本当、なんで来たんだ」
 不思議そうな赤根の視線を受けて、吉崎は携帯をクルクル回しながら答えた。
「連絡係。今、冬塚ちゃんが異法隊相手に頑張ってるみたいだからね。……上手くいけば、この戦い止められるかもしれない」
 もし涼子が異法隊を説き伏せ、彼らが梢に全面協力すると言うのであれば。
 霧島の危惧している『異法隊との対立』がなくなる。
 加えて、異法隊という同志が増えるということになる。
 そうなれば、遥の救出は異法隊の隊員も加わることになるだろう。
 例えザッハークという能力者が手強くとも、それだけの人数で向かえば個々の力不足など補えるはずだった。
 涼子には、もし事が上手く運べば連絡を寄越すよう頼んである。
 その連絡が入り次第、吉崎は二人の戦いを止めるつもりでいた。
「ケッ。上手くいくとは思えんがな」
「なんで?」
「柿澤源次郎を説き伏せるなんぞ、それこそザッハークを倒すのと同じくらい難しいもんだ」
「ああ、それなら心配いらねぇ」
 冬塚涼子は普通の人間だが、言葉での勝負なら非常に強い。
 それに加えて、吉崎には彼女が勝つと断言出来る要素が一つあった。
「――――榊原家総出で動いてるからな。心配する必要なんざ何もねぇよ」

 話し合いは静かに進行している。
「君の挙げた一つ目のデメリットについては、現時点では認めざるをえない。ただ、私はこの数年の内に赤間から独立出来ると踏んでいる」
 異法隊は資金難故に、その方面で赤間カンパニーの庇護下に入った。
 しかし、どうやら独立するためのメドが立ちつつあるらしい。
 それは良いことだ、と涼子は思う。
 が、この場ではそれを喜ぶ訳にもいかない。
「数年の内に彼女が面倒ごとに巻き込まれる可能性もあります。先のことを論じられても困ります」
「……そうだな。私としても苦しい言い訳だったと自省している」
 シニカルな笑みのまま、柿澤はゆったりと頷いた。
 まだ余裕のある表情である。
 涼子の挙げたデメリットを認めても尚、余裕がある。
 ……その余裕、どこから来てるのかしら。
 そのことがどうも気になる。
 しかし、今は話を進めていくしかない。
「では、もう一つの方……彼女を保護するのは異法隊の管轄ではない、という点に反論はありますか?」
「ああ、それはここで教えておかねばならないな」
「……教える?」
「その通りだ。君はこれまで普通に生活してきたのだ、魔術師について知らずとも仕方あるまい」
 何か嫌な予感がした。
 確かに涼子は魔術師に関しては、ほとんど知らない。
 この二つ目のデメリットに関しても、柿澤の言葉を逆手に取っただけである。
 ……何か穴があった?
 内心の焦りを表情に出さないようにしながら、涼子は柿澤を見据えた。
 柿澤は静かに目を伏せると、一同に説明するように大きな声を出した。
「魔術師とは非常に潜伏上手な連中でね。我々より、研究機関よりも発見が困難なのだよ」
「……」
「よって、魔術師と連絡を取り合うことは難しい。個人を探し出すのも困難なのだ、同盟と連絡を取ることは、それ以上と心得てもらいたい」
 柿澤の言いたいことが、涼子にも分かってきた。
 つまり、魔術同盟に連絡する手段がないから、遥のことで助けを求めることが出来ないということである。
 思えば、冬塚の両親もそのことで苦悩していたようだった。
 日本にある他の魔術の『家』を頼ろうとしても、連絡手段が分からないからどうにもならない、と。
 が、涼子はそれに反論した。
「私が言いたかったのは、魔術同盟が彼女を保護するべきということではありません。異法隊が彼女を保護するのは管轄違いなのではないか、ということです」
「だが、本来彼女を管轄としているはずの魔術同盟、あるいは連盟、もしくは『家』……それらと連絡不可能であればどうにもなるまい。故に我らが動いたのだが」
「ですが、絶対に貴方たち異法隊でなければならない、という訳ではありません」
「そうだな。……だが、この辺りでは我々が一番彼女の保護に適している」
 それは、柿澤が挙げた第二のメリットだった。
 涼子のデメリットを突き崩し、自分のメリットを前面に押し出してきたのである。
 倉凪梢では力不足で、彼女を守りきれない。
 だが、我々ならばなんとかしてみせよう――――その意志が、涼子にもひしひしと伝わってくる。
 それを突き崩すだけの言葉が思い浮かばない。
 遥が梢たちの元を望んでいるから、というのはこの場では無意味だった。
 いくら本人が望んでいるとは言え、その結果また危険に晒されたらどうすると言われれば、それを押しのけることは出来ない。
 あくまで向こうを納得させなければならないのだ。感情論は通用しない。
「そのことについて、何か反論はあるかね……?」
 ふと思い浮かんだのは、赤間カンパニーへの疑惑である。
 カンパニーが研究機関と結びついているかもしれない。
 そのことを考えると、この場所は危険である――。
 しかしこの言葉には根拠がない。
 完全に推測である。
 それではどうしようもない。
 涼子は言葉に詰まった。
 梢と異法隊の力関係を逆転させることは不可能である。
 ならば別の発想を思い浮かべない限り、柿澤のメリットは崩せない。
「……一つ、質問をよろしいでしょうか」
 あまり期待はせずに、涼子は脳裏に浮かんだキーワードを告げた。
「仮に……ザッハークという男がここに乗り込んできた場合、異法隊は彼女を守ることが出来るでしょうか」
「ザッハークか。確か、君たちは先ほど襲撃されたそうだな」
 刃から話を聞いていたのだろう。
 柿澤は相変わらず余裕のある態度で頷く。
 しかし、零次や藤村は初耳だったのか、ひどく驚いた様子を見せていた。
「隊長……まさか今回の一件、ザッハークが絡んでいるのですか?」
「その可能性は高い。断定するに足る証拠はないが、機関と結びついているということは充分有り得る」
 一同の雰囲気が、より重苦しいものへと変わる。
 それほどザッハークという名は効果的だったらしい。
「……結論から言うと、絶対に守れるとは言い切れない。ザッハークというのはそれだけ危険な能力者だ」
「だったら、異法隊のところが安全という訳でなくなります」
「確かに。しかし、倉凪梢のところに彼女を置いておくよりは被害が少ない。ザッハークが関与しているとなれば、一般人の住まう環境からはより遠ざけるべきだと思うが」
 その通りだった。
 柿澤の言っていることは、至極正論である。
 遥を狙っている連中の中にそれだけ危険な相手がいるなら、美緒や吉崎が巻き込まれるのは絶対に避けるべきである。
 ……駄目か……?
 ぎり、と音を立てて歯噛みする。
 これ以上反論が思い浮かばない。
 このままでは押し切られてしまう。
 涼子は苦々しげに目を伏せる。
 そのとき突然、電話の音が鳴り響いた。
 音は涼子のポケットから聞こえてくる。
「構わんよ」
「……失礼します」
 柿澤に促され、涼子は退室してから電話に出た。
 受け取る際に見えた相手の名は『倉凪美緒』とある。
「もしもし、美緒ちゃん?」
『涼子ちゃん、今どんな感じ?』
 美緒は息せき切った様子で尋ねてきた。
「あー……ちょっと、厳しいかもしれないんだけど」
『そうなの!? それじゃ、私行った方がいいよね!』
「え、美緒ちゃん……?」
 美緒の言葉の意味がよく分からず、涼子は間の抜けた声をあげた。
『あのね、涼子ちゃん! さっきお義父さんが、凄いの送ってきたの!』
「凄いの……?」
『それがあれば絶対に大丈夫だから! えっと、赤間カンパニーだっけ!?』
「う、うん。でも普通にしてたら多分こっちには来れないと思うから迎えに行くわ」
『そうして! それじゃ私、すぐに行くから!』
「ちょ、ちょっと待って美緒ちゃん! ねぇ、何を持ってくるの?」
『それはね――――』

 涼子の提案により、話し合いは一時中断となった。
 柿澤は余裕のつもりか、それを快く許可している。
 だが、今は涼子も余裕を取り戻していた。
 美緒が電話してきてから二十分。
 異法隊本拠地の一室に、先ほどのメンバーに美緒を加えた七人が揃った。
「それでは再開といこうか。まず、先ほどのことについて、何か反論はあるかね」
「いえ、ありません。彼女を守ることに関しては、そちらの方が向いていると認めます」
「……ふむ。ご理解していただけたようでなによりだ」
 そう言いつつ、柿澤は警戒心を働かせているようだった。
 こうもあっさりと引いた涼子の真意が分からないのだろう。
 涼子は一度頷いてから、柿澤の眼を見て続けた。
「ただ、一つだけ。……相手にザッハークという能力者がいるなら、ここも確実に安全とは言えないんですね?」
「ああ。だが最善を尽くすつもりでいる」
「分かりました。では、もう一つの方ですが」
 柿澤が挙げたもう一つのメリット。
 それは、遥を異法隊に入れることで、彼女が大事を引き起こす可能性を抑えること。
 そして、彼女が不当な差別などを受けないようにすること。
 その二つが、柿澤が最初に挙げたメリットだった。
「先ほど確認したように、そのメリットには二つ前提が必要です。一つ、彼女が大事を引き起こす可能性のある力を持っているということ。もう一つは、彼女が不当な差別を受けるという環境にある、という点です」
 そこで涼子は大袈裟に頭を振った。
「率直に言わせていただきましょう。……彼女の場合、そのどちらにも当てはまりません」
「……説明を求めようか」
「はい。そちらには既に刃さんから説明があったと思いますが、彼女の能力は"リンク・トゥ・ハート"。触れたものの内面を読み取ることが出来る力です。……まず、この能力の性質上、物理的な破壊などのような暴力的事件が引き起こされることはありません。彼女は身体能力も普通の人間と同じ程度ですし、大事が引き起こされる可能性はほぼありません」
「確かに。だが精神的なものはどうだろうか。内面を読み取られるなど、あまり気分がいいものではあるまい。使い方次第では、暴力的なものよりも性質の悪いことになるが」
「その点に関しても心配はいりません。彼女は自分の力がどういったものか、そしてそれを使うことがどういうことなのか理解しています。彼女の性格からして、その力を悪用することはまずありません」
「……証明は出来るかね? 君は彼女とさほど長い時間接してきたわけではないと思うのだが」
「確かに私は、彼女と何度か面識があったに過ぎません。ですが、ここにいる私の親友は違います」
 と、涼子は傍らの美緒に視線を向けた。
 美緒は力強く頷いて立ち上がる。
「私、二ヶ月くらい一緒に暮らしてたけど、遥さんはそんな風に力を悪用する人じゃなかったです!」
「能力を的確に制御する術を心得ており、なおかつ彼女自身良識のある人物だと断言出来るのかね?」
「出来ます!」
 美緒は一応敬語を使っているが、その口調は挑みかかるようなものだった。
 梢がずっと敵視していた組織なだけに、美緒も異法隊にはあまり良いイメージはないらしい。
「もし、彼女がその力を悪用し、その責任を求められたら取れるのかね? いや、あるいは君がその被害に遭うかもしれないぞ?」
「責任だろうがなんだろうが、取ってみせます。それに大丈夫だと思います。私は遥さんを信じてますから」
「……随分と信頼しているようだな。ふむ、羨ましい限りだ。……だが、それではただの感情論に過ぎない」
 柿澤は険しい顔つきで目を伏せた。
 なぜかそれが、涼子には苦悩しているように見えた。
「最初は信じていると言う。だが、実際に我らの力が暴走すれば……君は本当に大丈夫と言えるのかね? 責任を取ることが出来るのかね? どう取る? 彼女と共に被害者に謝るか? 彼女と共に罪を背負い続けるか?」
 美緒は反論しようとした。
 しかし、それを遮るように柿澤は重い声をあげる。
「ここにいる者は。……皆、その"信頼"に裏切られた者たちなのだよ」
 その声は、本物だった。
 これまでの話し合いで柿澤が放った言葉は、どれも理屈の色が濃いものだった。
 しかし、その言葉だけは違った。
 異法隊は皆、普通の人々に裏切られた者たちだ。
 矢崎兄弟は両親に捨てられた。
 零次や藤村、柿澤も同じような境遇なのだろう。
 普通という世界から弾き出された、行き場を失くした者たちの最終避難場。
 それが、異法隊という組織。
 彼らからすれば、美緒の感情は眩しいと同時に苦々しいものだったのかもしれない。
 最初は信じてくれた。でも、後になって裏切られた。
 そうした過去を持つ者にとっては、美緒の言葉を素直に受け入れることは出来ない。
「それとも君は……君たちは、彼女を信じ、裏切らないと誓えるのかね? それを、証明出来るのかね?」
「――――出来ますよ」
 美緒ではなく、涼子が口を開いた。
「私と遥さんは家族です。でも、まだ少ししか話したことないし、実感もない。でも私はこれから彼女と話して、少しずつでいいから信じられるようになっていきたい」
「それでは足りない。……我々を納得させることは出来ない」
「ええ、今の私では無理です。でもここにいる美緒ちゃんや先輩、それに吉崎先輩やサカさんなら……この二ヶ月近く、彼女と一緒に暮らしてきた人たちならそれが出来ます」
 そう言って、涼子はテーブルの上にあるものを取り出した。
 それは先ほど、美緒が持ってきたもの。
 梢や美緒、榊原や吉崎。
 そういった榊原家の面々が、遥をどれだけ信じようとしているか――――その証となるものだった。
 それを受け取った柿澤の顔色が変わる。
「これは……!」
 榊原が用意し、美緒が届けたもの。
 ――それは、戸籍抄本だった。
 そこに書かれている内容は、柿澤を驚愕させるに足るものだった。
「――――『榊原遥』だと? 養子として迎え入れると言うのか……!?」
 柿澤が発した言葉に、異法隊員たちは揃って驚愕の色を示した。
 忌み嫌われるべき異能者を、赤の他人である普通の人間が"家族"にしようと言うのだ。
 異法隊員たちの境遇からすれば、とても信じられることではない。
 榊原自身は前々から動いていたらしい。
 特に遥が機関に連れ去られて、梢が異法隊と同盟を結んでからは積極的に動いた。
 いざというとき、異法隊に遥を引き渡さないための切り札にするつもりだったらしい。
 それにしても、実際にここまでやられると涼子も感心するほかない。
 元々本籍すら定かではない遥を養子にするには、様々な難問が存在するはずである。
 それをこの短期間で成し遂げ、しかも絶好のタイミングで寄越してきた。
 本当に、榊原幻という男は超人としか言いようがない。
「……それだけ信じ合ってるんですよ。榊原の人たちと遥さんは」
 信じられないといった様子の柿澤たちに、涼子は静かに宣言した。
「遥さんには信じてくれる家族がいる。帰るべき場所がある。たとえ彼女の力が暴走しても先輩なら止めてくれるだろうし、不当な差別を受けるなんて有り得ない」
「……」
 柿澤は頭を垂れ、しばらく沈黙していた。
 しかし、やがて面を上げる。
 そのときには既に、落ち着いた表情に戻っていた。
「彼女を守る分には我々の方が向いている。ただし、これは絶対にとは言えない。そして――――彼女が生きていくには、そちらの方が適している。それはどうやら、絶対と言ってもいいようだ」
 私の負けだ、と柿澤は呟いた。
 彼は席から立ち上がり、涼子と美緒の元へやって来た。
 仏頂面で二人を見下ろしながら、
「私は正直、この言葉が好きではないが……今回は、君たちの"絆"を信じよう」
 そう言って、彼は頭を下げた。
「彼女の同胞としての願いだ。……よろしく頼む」
 とても重く、真摯な願い。
 それに対し、涼子と美緒は揃って頷いた。

 涼子から"戦勝報告"を聞いた吉崎は、ほっと胸を撫で下ろした。
 異法隊は遥の奪還、および研究機関の殲滅に対しては全面協力する方針になったらしい。
 救出後の遥の身柄は、榊原家に預けることになった。
 梢があれだけ苦戦していた異法隊を、言葉だけで味方に引き入れてしまった。
 その手腕には、吉崎も感心してしまう。
 もっとも、涼子だけが凄い訳ではない。
 榊原家一同も動いた結果だし、最終的に折れたのは異法隊側である。
 彼らに良識があったからこそ、涼子に勝ちを与えたとも言えるのだ。
「……そんな訳ですぜ、お二人さん」
 吉崎はにやにやと笑いながら、足元に寝転がる二人に声をかけた。
「ちっ、冬塚……やるじゃねぇか」
「ははは、さすがは嬢ちゃんだ。行動力が半端じゃねぇな」
 霧島はまだ余力があるのか、快活に笑ってみせた。
 が、梢は満身創痍である。
 左腕と肋骨が折れ、他にも全身が痣だらけになっていた。
 それでもなお霧島相手に挑み続けたのは、ある意味では称賛に値するだろう。
 さすがにそんな梢を相手にする気にはならなかったのか、霧島は戦いを放棄した。
 下手に勝ち負けをつけると梢が文句をつけるだろう、と考えたのである。
 つまり実際の実力差はともあれ、二人の勝負は引き分けに終わった。
 霧島は走りつかれただけらしく、目立った外傷は一つもない。
「でもま、昔に比べたら大分マシにはなってきたなぁ。ええ、梢よ」
「うっせぇ。結局ほとんど防戦一方だったじゃねぇか」
「でもお前のタフさ加減は分かった。俺としてはやれやれって感じだが……ま、零次や刃たちも全面協力してくれるなら大丈夫かもしれんな」
 諦めたような表情で、霧島は溜息をつく。
「――――ついてきたけりゃ勝手にしろ。もう止めねぇよ、俺は」
 言いながら、霧島は起き上がった。
「赤根。俺もこんな状態だから出発はちと延期だ。乗り込むのは少し待ってくれ」
「あいよ。しかし異法隊も協力ねぇ……信じられねぇなぁ」
 赤根がぼやくと同時、遠くから車が走ってくる音が聞こえてきた。
「師匠に頼んで幸町先生呼んで来てもらったんだ。どうせ倉凪は大怪我するだろうって思ってな」
「はは、正確な読みだ吉崎。おいそこの馬鹿、さっさと怪我治さないと置いてっちまうぞ?」
「うっせぇ! これぐらい一時間もあれば治してみせらぁ!」
 そんな軽口を叩きあう梢と霧島を見ながら、吉崎は懐かしさを感じた。
 だが、それと同時に何か不安も感じる。
 現状は万全だと言える。
 梢に霧島、それに異法隊の面々も味方になった。
 遥の居場所は赤根甲子郎が知っている。
 助け出した後の遥は、誰の反対もなく榊原家に住めるようになった。
 これ以上ないくらい、好条件のはずだった。
 だと言うのに、何か胸騒ぎがする。
 ……何事もなく、遥ちゃんを助け出せたらいいんだけどなぁ。
 何気なく空を見上げる。
 雲に遮られて、星は一つも見えなかった。