異法人の夜-Foreigners night-

-Border Breaks-
断章「空いたデスク」
「さすがに榊原さんも、まいってるみたいだな……」
 秋風署の刑事課で、若手の刑事が重い溜息をついた。
 彼は今年ここに入ったばかりの新人だが、榊原には何かと目をかけられている。
 組んで行動することも多いだけに、近頃榊原がやつれてきていることを心配していた。
 横に座っていた中年の刑事も、表情を暗くしながら書類に目を通している。
「さすがにな。四月の事件でも色々と大変だったってのに、こんなことが起きちゃあ……」
「犯人はどこに雲隠れしたんでしょうね。全然情報が入ってこないなんて」
 先日、榊原家で発生した強盗殺人事件。
 警察の必死の捜査にも関わらず、犯人に関する情報はまだ一つも出ていない。
 若手の刑事は、犯人に対する怒りを隠せずにいるようだった。
 中年刑事はコーヒーを差し出して、若手の刑事を落ち着ける。
「――――それを俺たちが探し出すんだ。榊原の負担を少しでも軽くしてやらにゃ」
 と、中年の刑事は書類から目を離し、室内を見渡した。
 ここに残っているのは数人。大抵は電話応対やら書類やらに追われている。
 その中に、榊原の姿はなかった。
「そういや今日は来てないな」
「吉崎君のことで色々と忙しいみたいです。葬儀は昨日終わったみたいですけど……」
「……休む間もないな」
「課長も心配してるみたいです。そのうち倒れそうだって」
 憂鬱な表情を浮かべる若手の背中を、中年が勢いよく叩いた。
「お前までそんな面してどうする。ほら、さっさと動け。まだ四丁目の聞き込み終わってないんだ。お前が行って来い!」
「は、はい! 分かりました!」
 中年に凄味を利かされ、若手の刑事は慌てて駆け出していった。
「……しかし、この町も随分と不穏になったもんだよな」
 四月に起きた、謎の研究所壊滅事件。
 市街地で噂になっている密輸だの麻薬だのといった危ない話。
 そして、今回の強盗殺人事件。
 七年前にはあの凄惨な事件もあった。
「ったく、どうにかしたいよなぁ……!」