異法人の夜-Foreigners night-

-日常編-
ゲームセンターに血の雨を(その1)
 ある日曜の午後。
 榊原家には掃除機の音が鳴り響いている。
「久坂、部屋入るぞ」
 掃除機を片手に梢が零次の部屋に入る。
 しかし部屋の中は無人で、零次のゲーム機が散らかっている程度だった。
「っつうか片付けろよあの馬鹿」
 普段は真面目なくせに、うっかり何かを忘れるということが多すぎる。
 いつもは馬鹿なくせに結構細かい梢とは正反対だった。
 しかも力みすぎたせいなのか、コントローラーのボタンがいくつも破壊されている。
 これは毎度のことだったが、一体いくらかかっているのか、梢としては考えたくなかった。
「あれ、お兄ちゃん掃除中?」
 通りかかった美緒が声をかけてきた。
 梢はげんなりした顔で頷く。
「ああ……だけどこれじゃ掃除機かけられんぞ、あの馬鹿どこ行った?」
「今日は店長と一緒に、駅前のゲームセンターに行くって言ってたよ」
「なんだ、お前は行かないのか」
「むむぅ、お小遣いアップしてくれれば行けるのに」
 要するに今月は使いすぎて余裕がなくなってしまったのだろう。
「自業自得だ馬鹿たれ。それと値上げ交渉も前借もなしだ。本来俺たちは居候なんだぞ」
「えー、でもお義父さんは『家計のことは梢に任せてあるから好きにしろ』って言ってたよ」
「好きにするにしても限度があるだろうが! 今の時点でも居候が五人。はっきり言って師匠の収入よりも俺たちの出費の方が多いんだぞ」
「だったらお兄ちゃんバイトしてくればいいじゃん」
「お前がしろ、この役立たず」
 梢はこれまで何度かバイトの経験はある。
 対する美緒はまったくそういった経験がないのだった。
「遥は家事で貢献してるし、久坂は一応バイトしてる。暇人なのはお前と亨くらいだぞ」
「私たちだって部活で忙しいもんねー」
「やかましい、遥だって同じだろが。そのうえ家で俺の手伝いしてくれてんだぞ。それをお前らときたら家に帰るなり部屋でゲームだテレビだパソコンだなんだ……」
 日頃の鬱屈がここに来て限界を突破したらしい。
 月に一度は発動する倉凪梢のお説教タイムが始まった。
 いつものことなので美緒は適当に聞き流しているものの、正直鬱陶しい。
 そのとき、美緒の脳裏に兄を黙らせる良き案が浮かんだ。

 基本的にゲームセンターは耳がおかしくなるほどやかましい。
 だが今日は、いつもに増して凄まじい人の数である。
「これは……なにかあるんですか、店長」
 人込みにもまれる不快感に耐えつつ(人込みは嫌い)、久坂零次は傍らにいる店長に大声で呼びかけた。
 大声でというのは、それくらいでなければ声が聞き取れないのである。
 店長はにやりとニヒルな笑みを浮かべて、
「あるともあるとも、いいともに変わってあるともがあるくらいある感じさ!」
「意味が分かりません、日本語を使ってください」
「……」
 零次の場合、大真面目な態度で言ってくるから性質が悪い。
 わざと馬鹿らしく言っただけなのに、まるで本当の馬鹿みたいな気分にさせられるのである。
 もっとも店長はただのゲーム馬鹿なのだが。
「と、ともかくっ! 今日は秋風市最大最高のイベントが行われるのだよ!」
「ほほう、ゲームセンターで、ですか」
「含みのある笑みを浮かべるんじゃない! 少なくとも我らゲーマーにとっては、だ」
「む、ゲーマーの一大イベントですか」
 零次は店長と出会うことでゲームにのめり込むようになった。
 思い切り感化されているという点では、零次も店長のことを一から十まで馬鹿にはできない。
「そう、格闘、パズル、レース、果てはボードといったあらゆるジャンルの対戦ゲームを用いて、真のバトルゲーマーチャンピオンを決定するのだッ!」
「おお……!」
 真のバトルゲーマーチャンピオン。
 その響きがなにやら格好良く思えて、零次も感嘆の声を漏らした。
「ただしコレ、二人一組のチーム戦なのだよ」
「だから俺が呼ばれたわけですな」
「そういうことだよ。もう他に組める相手がいないものでね……」
「友達が少ないのですか?」
「そ、そういう哀れみを含んだ視線を向けないでほしいなぁっ!」
 そんな風に漫才をしていると、二つの人影が零次たちの元へ近づいてきた。
 気配を察知した零次が振り向くと、そこには見知った顔がいた。
「よっ、久坂。それに修羅堂の店長さんじゃないの」
「む、藤田に斎藤か。こんなところでどうした」
「どうしたとはご挨拶だな、ここにいるからには目的も一つってね」
 短髪の快活そうな少年は藤田。
 そしてその脇に控える眼鏡の策士は斎藤。
 倉凪梢にとってはもっとも付き合いの深い友人であり、零次にとっても比較的気楽に話せる仲だった。
「――久坂、あそこの電光掲示板を」
「ん?」
 斎藤に促されて零次がそちらを向くと、そこには予選の対戦票が表示されていた。
 A~Hまでのブロックに分かれ、レーシングゲームでチーム毎に走行。
 そのうちタイムがもっとも短かったチームだけが本戦トーナメントへと出場できるのである。
 そして、藤田と斎藤は零次たちと同じブロック。
 即ち、
「戦わなければ生き残れない、ということか」
「そういうことだ。悲しいけど、これって戦いなのよね!」
 無意味に盛り上がる一同。
 まるで背後に炎が見えてくるようである。
『さーて、会場にお集まりの皆さん! お待たせしましたぁっ!』
 気合の入った司会の声が響き渡る。
 集まった猛者たちの視線が一気にそちらへと注がれた。
『ではこれより、第二十九回秋風市グランドトゥルーバトルゲーマーチャンピオン決定戦を開始するぞぉぉぉっ!』
 やけに長い大会名だった。

 この大会のためにわざわざ設置しなおしたのかと思われる程のレーシングゲーム台が立ち並ぶ。
 ルールは単純で、ブロック毎に一斉に走り始める。
 合計三週するのだが、一周する毎にドライバーのチェンジを行う。
「つまり、どちらかが一周多く走るわけだね」
 1、3と2に担当が分かれるのであった。
「店長。いかがいたしますか」
「そうだねぇ、藤田君はなかなか手強いにしても……斎藤君が何をするのか分からないからな」
 ちらりと、少し距離の空いた場所で相談する二人を監察する。
 遊びは一通りこなしそうな藤田と、策士斎藤。
 梢に言わせると二人はかなり強いらしいが、梢はゲームに関してはド素人なのでいまいち意見が参考にならない。だが一筋縄でいく相手にも見えなかった。
「よし、ここは僕が先行しよう」
「安全策を取るわけですな。上策かと」
 零次たちの順番が決まった頃、藤田と斎藤の作戦会議も終了した。
『さーて、それではAブロックの予選試合を行うぞっ! ちなみに申し遅れましたが司会はこの矢崎亨、解説は朝月学園高等部教師、字は旦那! 一戸伝六さんにお越しいただきましたぁー!』
『遊んでばかりいるなよ貴様らー!』
『はい、ありがとうございましたっ! それではゲーマー共、用意はいいかぁ!? いくなくても言っちゃいますよー、レディ、ゴー!』
 無茶苦茶な司会の宣言と共に、バーチャル空間で一斉に戦いの火蓋が切って落とされた。
 ゲーマーたちは毒づくこともなく、既にアクセルを踏んでいる。
 さすがにこのようなことでは動揺しない。
 彼らの意識は既に、三次元画面の中へ入り込んでしまったのだ。
 一斉に走り出す車。
 その数に合わず、コースは狭い。
 同じ速度を出しているつもりでも、前後に分かれていく。
 意外なことに店長や藤田は最後尾であった。
 別にマラソンでもないのだから、出来るだけトップを維持しておくべきなのだが。
「スタミナなんてもんがあるわけでもないし、早く前に行った方がいいと思っているだろう?」
「店長……なにか、あるのですな」
「ああ、あるとも。そりゃもうあるともさ」
 直線が終わって最初のカーブに入る。
 この頃には弾き出されたり、スピンしたりする選手も大分増えてきている。
「これだよ、僕が待っていたのはね……!」
 にやりと獰猛な笑みを浮かべ、店長は――
『おおっと、修羅堂の店長……これは、弾き出されたりしている車を、ジャンプ台にしたぁぁ!』
「なにっ――!」
 零次が驚愕の眼差しで眼前の光景を見る。
 そこには確かに、他の車を踏み台にしてジャンプしようとしている店長の車があった。
「このゲーム、コースの脇に立ってる観客だろうとショートカットに利用できる仕組みになってるからねぇ……これくらいは基本だよ!」
「どういうゲームですか、それは!」
 零次のツッコミなどもはや耳に入らないのだろう。
 店長は画面を凝視する。
 すると画面の端に、店長と同じようにしてショートカットをしている車があった。
『藤田選手もこれに続いたぁぁ! この技、確かに反則的なショートカットですが、かなりやり込まなければ実用化は難しいとされる荒業! この二人、只者ではなぁぁいっ!』
 店長はちらりと藤田を見た。
 藤田も同じように店長を見据える。
「なかなかやるね――!」
「店長こそ……!」
 どん、と衝撃を吸収しながらも向かい側のコースに着地する二人。
 二人を真似てショートカットしようとする者は大半が失敗し、普通に走っている者たちはまだ後方にいる。
『即ち、実質的にこれは店長と藤田選手の一騎打ちだぁぁ!』
『一騎打ちか、ならば手を抜くことは許されんな』
『ようやく一戸先生もコメントしてくれました! そんなわけで張り切って――』
「遅いぜヤザキン!」
 亨が陽気に喋っているうちに、二人は一週目を終えた。
 すぐさま零次と斎藤の対決へと移行する。
「お手並み拝見といこうか」
「斎藤恭一……お前が相手では、手を抜くことは出来んな」
「僕は誰が相手でも手を抜いたりはしないがね」
「ならば本気でいくとしよう。泣いて謝るなよ」
 皮肉屋二人らしい会話だった。
 もちろん口だけではなく、ゲーム画面もせわしなく動いている。
『この二人は特にショートカットなどをすることもなく、地味に走り続けていますね。解説の一戸さん、そこんとこどうなんでしょうか』
『いやっ……二人の動きをよく見ろ!』
 一戸の言葉につられて、会場の視線がゲーム画面に集中する。
 そこには地味ながらも障害物の隙間を通り抜けたり、ドリフトを仕掛けたりする両者の姿があった。
『地味だと? 確かにこれは地味かもしれん。だが先ほどの二人に引けを取らぬほどの好勝負だ。職人同士の戦いとでも言おうか……!』
『な、なるほどっ!』
 亨が納得している間にも両者のデッドヒートは続いている。
 零次車に斎藤車が接近――そして体当たりをしかける。
「ぐうっ!?」
「車の性能の違いが、戦力の決定的差ではないということを教えてあげよう」
「舐めるなっ!」
 零次は一旦スピードを落とし斎藤の攻撃から逃れる。
 すると斎藤はチャンスだと言わんばかりに、一気に加速した。
「ついてこれるかな」
「可能だ」
 零次は更にアクセルを強く踏み込む。
 その先にあるのがS字カーブであるにも関わらず。
 対する斎藤はスピードを落としている。
 当然カーブを曲がりきるためであり、斎藤の取った行動は最善のものだった。
 だが。
「このゲーム、確かに今日が始めてだが――店長の動きを見れば、大体のことは分かる」
「な、なんだとっ……!?」
 驚愕する斎藤。
 その視線の先には――――ギリギリの位置でカーブを曲がりきる、零次の車があった。
 これ以上は出せないというほどのギリギリの速度。
 そしてその状態でS字を曲がりきるテクニックは、普通ではありえない。
「ええい、秋風の修羅堂は化け物揃いか!」
「生憎だが肯定だ」
 S字を曲がりきり直線に入る。
『おおっと、ここで走者交代! 再び店長と藤田選手の一騎打ちだぁ!』
 走者交代も無駄なく終わり、再び店長たちの車が走り出す。
 すると前方に走り続ける集団が見えてきた。
「周回遅れの人たちかな……悪いけど、どいてもらうよ」
「そうはいくかな!」
 前方に蠢く車の集団。
 それらが示し合わせたかのように、その場で車をスピンさせ始めた。
「隙間もないこの狭い道でスピンしまくる俺たちを潜り抜けることは不可能!」
「ここでクラッシュしてジ・エンド!」
「そうすれば周回遅れもくそもねぇぜ!」
『おお、これはセコイ! セコイが確かに有効的な手段だぁぁ!』
 ブーイングと歓声が同時に沸き起こる中、妨害されようとしている両チームの面々は冷めた反応を見せていた。
「……やれやれ、だね」
「全くだ」
 呆れ顔の店長と藤田はその場でブレーキを踏む。
 車は当然停止し、前方のスピン軍団は意味もなく回転し続けるだけのものとなった。
「ど、どうしたっ! なぜ来ない!?」
「いや、いい調子だったから止まるのはあれだけどよ。お前ら邪魔だし」
「そうだね。それにもうすぐそれも収まる」
「なにぃ?」
『――――あっ』
 司会が発した驚愕の声。
 そして次の瞬間、スピン軍団は一斉に画面外へと弾き出された。
「う、うわらば!?」
「ひでぶ!」
「あべし!?」
 どこかで聞き覚えのある悲鳴をあげつつ、スピン連中はコース外へと消えていく。
 突然のことに呆然となる会場。
 そこで解説の一戸が口を開いた。
『あのようなスピンを続けていれば自滅するのは目に見えていよう。眼前に直角コーナーがあったのにそれに気づかんとは、戦士失格だな』
「そういうことだぜっ!」
 一戸の解説を待つまでもなく、店長と藤田はアクセルを一気に踏み込んだ。
『そしてラストの直線! ここで全ての勝負が決まるぅ!』
「そういうことだ。悪いが勝たせてもらうぜ店長!」
「そうはいかないよ、負けないさ!」
 どちらが勝つのか。
 それを見極めようと、零次は画面に意識を集中させた。
 残り200メートル。
 このまま何も起こらずに終わるとは思いがたい。
 わずかにリードしているのは藤田。
 店長はわずかに負けている状態である。
 だが両者の表情には不敵な笑みが浮かんでいた。
「店長!」
 残り100メートル。
 差は一向に縮まらない。
 零次は焦りを感じて店長の名(仮)を叫んだ。
「……心配ないよ」
 にやりと、勝利を確信したかのような笑みを浮かべる店長。
 残り50メートル。
 そこで店長は一気にアクセルを踏み――なおかつ、藤田の車へ体当たりを仕掛けた。
「やらせはせんよ!」
 藤田は巧みにそれを避け――そしてそれが、命取りとなった。
『おおっと、これはぁ!』
 亨が叫ぶ。
 その理由は明白だった。
 店長は藤田の車をわずかに抜いたのである。
「そんな馬鹿な……体当たりを回避された以上、車はよろめいて減速するはず――」
「それは回避した君も同じ事。“そして僕は最初から体当たりするつもりなんてなかった”のさ……ちょいと君の方へ車はやったがね」
 つまり店長の行動はフェイク。
 心理的な隙を突き、店長は悠々と藤田を追い抜き、
「認めたくないものだね……若さ故の過ちというものを……」
「さ、最後までネタをぉぉぉっ!」
 一位でゴールをしたのだった――――。

「予選は勝ち抜いたようだな。だが斎藤ら如きにあれほど苦戦するとは、話に聞くほど手強い相手でもなさそうだ」
「そうかなー。ああいうタイプは、直接戦ってみないと分からないと思うよ」
 予選試合を見ていた群衆の中に、影二つ。
 その二人はモニターを眺めながら、店長と零次の戦力を冷静に分析していた。
「それに修羅堂の店長さんは本当、強いからね。秋風市の東方不敗だよ」
「そうか――まぁ、油断はしないようにしておこう」
 呟きは観客たちの歓声に掻き消される。
 やがて二つの影は、群集の中へと溶け込んでいった。

 予選を突破し、本戦出場が決定した零次と店長は一旦ゲームセンターから外に出ていた。
 零次があの喧騒にいい加減耐えられなくなっていたからである。
「しかし零次君、はじめてなのにあのテクとは――やるね」
「店長も、さすがですな」
 コーヒーで乾杯をする二人。
 そこに、藤田と斎藤がやって来た。
「よっ、予選突破おめっとさん」
「なかなかいい戦いだった」
 爽やかな笑顔でそれぞれがっちりと握手を交わす。
 が、藤田はすぐに真顔に戻って、
「けど、次の対戦相手は……俺たちも意外に思ったんだが、結構強いぞ」
「そうなのか? 誰が相手なんだ」
 零次と店長は予選突破後、すぐにこちらへと移ってきたので誰が本戦出場を果たしたのかは知らない。
 藤田は少し呆れたようだったが、気を取り直して教えてくれた。
「――――遥ちゃんと、冬塚ちゃんだよ」
 その名を聞いて、零次はまず首をかしげた。
 遥と涼子という姉妹の組み合わせは珍しくもなんともない。
 だが彼女らがゲームに強いという話はついぞ聞いたことがない。
「それは何かの冗談か?」
「冗談なもんか。俺たちだって意外だって今言ったろ」
「彼女らは今大会のダークホースだな」
 二人の物言いからすると冗談ではないらしい。
 それどころか、藤田たちと同等の使い手のように感じられる。
「これは……」
「ふ――――なかなか楽しめそうだな」
 戦慄と同時に高揚感を覚える。
 零次は藤田や斎藤に対して、武者震いをもって答えたのである。
 そんな零次を見て店長もほくそ笑むのであった……。

 一時間後。
 全ての予選試合が終了し、今まさに本戦第一回戦が始まろうとしていた。
『さて、皆さんお待たせしましたぁ! それではこれより、本戦を開始いたしますっ!』
『うむ』
『さて今回のカードは市内でも有名な人材が揃ったぁ! では紹介したいと思います。青コーナー、修羅堂の店長とその九十九番弟子、久坂零次だぁ!』
 零次は振り返って店長を見た。
 一見とぼけた中年にしか見えないが、一体どれだけ弟子がいるのだろうか。
 そしていつのまに自分は店長の弟子になったのだろうか。
(後で亨を締め上げて情報源を引き出さねば……)
 そんな零次の胸中など知る由もなく、亨の司会は続く。
『修羅堂の店長はこの町で知らない者はいないほどの使い手、むしろ知らなきゃモグリ! 対する久坂零次は春に朝月学園に転校してきた無口でクールな謎の人! 女子には人気高いってことでなんかもう負けろー!』
『私情を挟んだ解説をするな』
(全くだ)
 零次にとって女子からの人気などはどうでもいい。
 だというのに、周囲から殺気のこもった視線を向けられるのは勘弁願いたいところだった。
『では赤コーナー! 色々あって再会しました、榊原遥さんと冬塚涼子さんの姉妹でーす!』
「どうも、よろしくお願いしまーす」
「が、頑張りますっ」
 こういう場に慣れている涼子と、やや緊張気味の遥。
 特に普段と変わった様子もないため、この場にいることは不自然だった。
 ふと、涼子と零次の視線が交わる。
 距離はあるし、会場もうるさいため声は届かない。
 ただ涼子は目で語った。
 ――――私たちに勝てるかな、零次さん?
 だから零次も視線でそれに答える。
 ずっと昔、一冬の間にもこうやって勝負したことを思い出しながら。
 ――――当然だ。
『……さて、それではゲームジャンルを決定したいと思います! 一戸さん、どうぞ!』
『任せろっ!』
 解説席の一戸は、目の前にあったボックスから一枚の紙を取り出した。
 そこにゲームジャンルが記されている。
『ジャンルはなんですか!?』
『うむ――――クイズだ』
 クイズゲーム。
 それはゲーマーたちにとって、異質たるジャンル。
 ゲームにしてゲームに非ず。
 会場からも、戸惑いの声が漏れた。
「クイズですか――店長、大丈夫ですか?」
 ゲームなどの遊びに関してなら第一級。
 しかしそれ以外はからきしというこの店長にクイズができるのか。
 そのことが零次の不安材料であった。
「……店長?」
 返事がない。
 嫌な予感がした。
 冷や汗が流れるのを自覚しつつ、零次は店長の方を振り向いた。
 ――――そこには、顔中に脂汗を浮かべたまま硬直する店長の姿があった。