異法人の夜-Foreigners night-

-日常編-
ゲームセンターに血の雨を(その3)
『さて、このゲーム大会もベスト4が出揃い、準決勝まで来ましたー!』
「うおおおおおおおおおおぉぉぉぉっ!」
『果たして頂点に立つのはどのチームなのか!? 残り三試合、ますます目が離せませんっ!』
 盛り上がる会場。
 準決勝ともなると、それまでの試合とは一回り違う熱狂が現れてくる。
 だがそんな中、次の試合の主役である両チームは揃って警戒するような表情を浮かべている。
 視線の先には怪しげな正体不明の二人組。
 先ほどの試合を圧倒的な実力で勝ちあがったチームであった。
「登録名も不明、決勝になったら正体を明かすと言っているらしい」
 眼鏡をかけた、すらりとした体躯の少女――綾瀬由梨が、空き時間を使って調査したことを報告する。
 店長はなんともいえないような表情で、
「すると、あの二人は最初から決勝まではいくと宣言してたようなものだね」
「随分と自信過剰ですな」
「いや――あの実力を見る限り、あながち自信過剰とは言えない」
 零次の意見を由梨は正した。
 あの実力、といわれても零次たちはそれを見ていないため、いまいち分からない。
「なーに見当違いの心配してるのかな、三人とも」
 と、一人だけ気楽そうにしている沙耶がけらけらと笑う。
 彼女は謎のチームのことなどまるで気にしていないようだった。
「次に戦うのは私たちなんだから、今はそっちを楽しもうよ。ゲームでそんなに暗い顔するなんて、本来の趣旨から外れちゃうじゃん」
「……そうだね。ゲームは本来楽しみ、遊ぶものだ。気にしても仕方ないか」
 店長が頷く。
『ではお待たせしました、準決勝第一試合を始めたいと思いますっ!』
 司会の宣言に応じて、四人はそれぞれ舞台へと上る。
「それじゃ――――楽しくやりますか」
 一度は自分を負かした弟子を前にしながら。
 店長は陽気に、そんなことを言っていた。

『準決勝のジャンルは何かッ! さぁ、解説の一戸さんお願いします!』
『任せておけ』
 一戸は仏頂面のままボックスに手を突っ込む。
 やがて出てきた彼の手にあったのは『落ちゲー』のカードだった。
『おおっと、ここで落ちゲーが来たァァッ! 頭脳戦必須のこのジャンル、一体どうなるのでしょうか!?』
『頭脳面で言うなら綾瀬がダントツだが……これはゲームだからな、どうなることか』
 ゲーム台の前に立つ両チーム。
 今回のゲームは、四人同時プレイである。
 表示される画面は二分割されており、普通の二人用対戦ゲームと同じ。
 しかし、同時に二人分のブロックが落下してくるというところが変わっていた。
 それを一人一人が担当する。
 つまり、従来二人対戦であるべきものを無理矢理四人対戦にしたようなものである。
 一つのエリアに二人分。
 それは、よほど息の合ったコンビでなければまともなプレイすら難しいということだった。
「ふっふふ、このゲームはコンビネーション命。それなら私と由梨ちゃんの方が有利だねっ!」
「……そうか?」
「そうだよー、もう愛の力ってやつだね。あの晩のことを思い出して頑張ろうっ!」
「微妙に誤解されそうな言い回しは止めろ」
 なんだかんだと、コンビネーションプレイにはそれなりに自信のある二人。
 それも当然、沙耶と由梨――この場にはいないが高坂雅も――は、中学入学以来の仲である。
 相手のいいところや悪いところも知っているし、喧嘩をしたこともあれば、共に困難に立ち向かったこともあるのだ。
 友人という域を超えた親友。
 互いのことは、何よりも信頼しているのである。
 対する零次と店長は少し前に知り合ったばかりである。
 意気投合しているのかいないのかはっきりしないうえに、それぞれ別の意味で我が強いため、コンビネーションはあまり期待できそうもなかった。
 だが両者が一つだけ安心していることがあった。
「このゲームなら、大得意です」
「奇遇だね、僕もだよ」
 そう。
 零次と店長、共に家ではこのゲームをかなりやり込んでいる。
 それぞれが一人プレイしかしていないのは問題があるが、両者ともかなりのスコアを記録しているのだ。
『では、そろそろ始めたいと思います』
 亨が時計を見ながら手をあげる。
「ふっふーん、久坂君」
「……なんだ?」
「お互い頑張りましょー!」
 やけにノリ気の沙耶。
 零次は少し呆気に取られたが、
「――――望むところ」
 その瞬間。
『では、試合開始です!』
 亨の手が、振り下ろされた。

 先に上まで積み上げてしまった方の負け。
 そういったルールであるが故に、両者が熟達しているとこういったゲームはなかなか終わらない。
 既に開始から三十分が経過しているが、両者一歩も譲らぬ状況が続いている。
 観客席には遥や涼子たちが並んで観戦していた。
「意外といえば意外だな」
「なにがですか、藤田先輩」
「久坂と店長だよ。コンビネーションの欠片も感じられないけど、なんでここまで持ち堪えているのかな」
 藤田の言葉通り、零次と店長は意外にも検討していた。
 それぞれが数秒に一度はちらちらと相手を見ていたりと挙動不審なのだが、意外と粘っている。
「水島や綾瀬程のコンビネーションがあるとも思えないんだけどよ……」
『その質問には僕がお答えしましょう!』
「どわっ!?」
 いつのまにか藤田たちの背後に亨がやって来ていた。
 司会席を持ってまるごと移動してきたのだろう。
 亨の隣には仏頂面の一戸教諭の姿もある。
「いきなり現れるなよ矢崎!」
『はっはっは、司会なのに藤田さんたちが戦局の解説してばかりなので僕の影がいまいち薄いんですよ。ですからここまでやって来ました』
「大した根性だなオイ」
『そんなに褒めないでくださいよー。そんなことより、零次と店長の現状ですが』
 呆れ顔の一同を無視して、亨はマイクを片手に解説を始める。
『単純なことです。あの二人のブロックをよく見てください』
「……?」
 亨の言葉につられて、会場の視線が一気に修羅堂チームへと注がれる。
「あっ! 零次さんたち、ひょっとして区分けしてる!?」
『その通りです冬塚さん! 零次たちはチームプレーなんかしてません。単に「右半分は俺がやるから、左半分はお前な」というのをやってるだけです!』
 涼子の指摘を亨が具体的に解説した。
 言われてみると、確かに零次は右半分、店長は左半分しかやっていない。
 なんとも単純すぎる事実だったが、一応効果は出ているようだった。
『だがそのような幼稚な真似で、どこまで持つかな』
 一戸が、まるで何かを見透かしたように呟く。
『今は両者ともやり慣れているからか、それなりに健闘はしている。だがもし崩れたら――大変なことになるだろう』
 その予言は……五分後、現実のものとなった。

「あはははははは、そーれ六連鎖~♪」
「ぐっ……!?」
 沙耶の無邪気な宣告と共に、零次たちの元へ一気にお邪魔ブロックが落下してきた。
 今まさに零次が連鎖をやろうというときに、間に割って入るような形で現れたのである。
 零次の顔に焦燥が浮かぶ。
「久坂君、早くお邪魔ブロックを消してくれ!」
「そうは言っても店長、次のブロックは――」
「君がやってくれんと僕の方は手も足も――」
「ですが――」
「だから――」
 そろそろ雲行きが怪しくなってきた。
 お互いが不可侵を決め込んでいては、いつかは限界がくる。
 それがこの手の『協力ゲーム』のお約束であった。
 おまけに沙耶と由梨は信じられないくらい素早くブロックを消してくる。
 珍しく溜めている場合は、大抵後の連鎖への伏線だったりすることが多い。
 基本的には沙耶がリードし、その意を汲んでサポートするのが由梨の役割だった。
 零次と店長はお互いがメインであろうとするあまり、息がまるで噛み合わない。
 このままいけば敗北するのは目に見えていた。
「どっうしったのっかな~? こっちに全然お邪魔ブロック、略してオジャクが来ないよ?」
「なんだそのクジャクの亜種みたいなのは……」
 呆れ顔で突っ込む由梨。
 こんなボケとツッコミが出来る程、水島チームには余裕があった。
「……店長、それ半分俺の領域に入り込んでます」
「そんなこと言われても仕方ないじゃないか、こうしないとどうにもならないん……ああっ!?」
「全く……」
「く、久坂君こそ! それ、それ!」
「む? ――――しまった」
 対してこの二人。
 会話の中身は「どうにかしろ」と相手にいう類のものばかり。
 余裕の欠片も見当たらなかった。
「あ~あ、つまんないの。二人とももうちょい楽しませてくれると思ったんだけどなー」
 嫌味のない、正真正銘のつまらなさそうな言葉。
 毒がない分、かえってキツイ。
「由梨ちゃん、そろそろ一気に決めちゃう?」
「好きにしろ」
「んに。じゃ好きにするー!」
 言葉通り一気に勝負を決めるつもりなのだろう。
 沙耶はこれまでよりも更に素早くブロックを落とし始めた。
「くっ……久坂君、こうなったら最後の手段だ」
「最後の手段とはなんですか店長」
 ガチャガチャと、混乱する頭を必死に冷やしながら会話する二人。
 そこには追い詰められた二匹のネズミがいた。
 窮鼠猫を噛むという。
 店長も零次も、まだ諦めてはいない。
「交代でやるんだ」
「交代?」
「そう――」
 店長は零次の操作ボタンを奪うと、左右両方の手でそれぞれのコントローラーを動かし始めた。
「二人で息の合わないコンビネーションをやるよりも、区分分けするよりも……こっちの方が効率はいい」

 それは無謀だった。
 そもそもこのゲームのコントローラーは、両手で持つことを前提として作られている。
 それを両手に一個ずつ……つまり一つの手で一つのコントローラーを操作するというのは、開発側が意図していないことなのである。
 当然のことだが、非常に操作しにくい。
 だが。
 にも関わらず。
「準決勝だしね……そろそろ本気出させてもらうよ」
 店長の周囲に、ゲームにかける執念の賜物なのか、むさ苦しいオーラがあふれ出している。
 そして、そのオーラによるもなのか……店長の腕は、凄まじい速度でコントーローラーを叩き続けている。
「動きに一寸の狂いなし。心に一寸の迷いなし。ゲームの極地、遊びにおける修羅道――それは、どんな状況下でも楽しむことを忘れぬことと覚えたり」
「て、店長……!?」
 その凄まじさは、人外の身体能力を有する零次から見ても賞賛に値するものだった。
 普通の人間でここまでの極地に辿り着くには、よほどの努力と心の強さがなければ無理であろう。
 そういう意味では、店長は文句なしの本物だった。
「さて、沙耶ちゃん。僕を公式の場でも負かしたいと言ったね……ふふふ、それは最高だよ。弟子が師を越えようと挑んでくる。そしてやがては越えていく。その過程でのこの勝負。これに勝る喜びなどはそうそうないさ――――!」
「やっと本気出したね、店長」
 沙耶も沙耶で、この店長を前にして笑っている。
 先ほどまでのつまらなさそうな表情が嘘のようであった。
「にっしっし、それでこそ秋風の東方不敗。それでこそ私の師匠なんだよ」
 沙耶と由梨の動きがますます加速していく。
 否――由梨の方はそろそろ限界に達しようとしていた。
 これ以上速度をあげては由梨がついてこれなくなる。
「大丈夫、由梨ちゃん?」
「ああ、構うな。悔いのない勝負にするんだろう?」
「そうだよ。絶対最高無敵にかっちょいい勝ち方で店長をギャフンと言わせるんだよ!」
 それは心底楽しそうに。
 店長も沙耶も、今このときを本気で楽しんでいるように、笑っていた。
「これが、高みか……」
 ごくりと唾を飲みながら零次は額に浮かぶ汗を拭った。
 側に涼子がいれば「それは違うと思う」とツッコミを入れていたのだろうが、生憎涼子は観客席にいた。
 戦況は一気に覆ろうとしている。
 これまではずっと沙耶たちが展開の主導権を握っていたのだが、今は逆だった。
 店長一人がゲームを支配している。
 先ほどのお邪魔ブロックは次々と駆逐され、逆に沙耶たちの方へ投下されているのだった。
 沙耶たちも急いで消そうとするのだが、なかなか上手い具合にいかない。
『本気を出したゲームマスター、修羅堂の店長! このまま勝負は決してしまうのかー!?』
『……どうかな。俺はそうは思わんぞ』
 一戸は店長を凝視した。
 店長の動きをじっくりと、見逃すまいと睨み続ける。
『一戸さん、それはどういうことでしょうか』
『お前にも分かるだろう。久坂とて分かっているのではないかな――』
 猛攻を続ける店長。
 対する沙耶や由梨たちの顔に焦りが見え隠れしてきている。
 どう考えても店長の勝利で、この勝負は幕を閉じるかと思われた。
 しかし。
『水島は非公式な場で一度あの店長を打ち破っているという資料がある。なぜ、どうしてあの店長が敗れたのか』
 それは。
「――――くっ」
 店長の表情に、次第に現れてきた。
「……これは、キツイねぇ」
「店長?」
「まずいなぁ。僕も全盛期は過ぎたからねぇ、ちょいとスタミナが」
 少しずつだが、店長の表情には苦痛が出てきている。
 さすがに、この常人離れした荒業には身体がついていかないらしい。
「前に沙耶ちゃんに負けたときもこうだったなぁ。五時間耐久の格ゲーで、僕が根負けしちゃったんだよ」
「特定の条件満たすとライフ回復するからねー、やり方次第じゃ永久に終わらないゲームだよ、あれ」
「どんなゲームだ……」
 零次と由梨が同時にツッコミを入れる。
 だが、そんな会話をしているうちに状況は再び変わろうとしていた。
 先ほどまで圧倒的な強さでブロックを駆逐していた店長。
 しかし、沙耶たちも段々と盛り返してきた。
「ふふふん、店長。その荒業には感服するけど、諸刃の剣だったね。あと少し体力持ってれば、逆転できたのに」
「……ああそうだね。僕はそろそろ限界だ」
 だから。
「だから――――後は久坂君に任せよう」

 零次の腕が震える。
 全身に緊張が走る。
 ――――あの荒業を、果たしてやることができるのだろうか。
 体力としては問題ない。
 店長をはじめ、普通の人間をはるかに凌駕する力が零次にはある。
 しかし、寸分狂わず正確にボタンを押し、ゲームを行うだけの技術はまた別である。
「……店長、俺は」
「君ならできるさ。いや……」
 腕が痛むのか、少しずつ動きが鈍くなってきている。
 それでも店長は笑っていた。
「できなくても構いはしないよ。ただ――――存分に楽しみなさい」
 そう言って託されたコントローラーは、信じられないくらい軽かった。
 どのボタンを押してもなんとかなりそうな……そんな“自由”を感じる。
 震えはない。
 緊張も消えた。
 零次はお得意のシニカルな笑みを浮かべる。
 脇へと退く店長と入れ替わりにコントローラーを素早く叩きながら、零次は向かいに立つ少女たちを見る。
「さて、始めようか――――楽しい時間を」

「やっと出てきたね久坂君……いや、ここは敬愛を持って“くさぴょん”と呼ぼうっ!」
「沙耶。あちらはかなり嫌そうな顔をしているぞ」
 相変わらずのノリ。
 零次が見るところ、この二人の恐ろしいところはその持続力……あるいはペース配分というものにある。
 ゲームの腕前も大したものだし、コンビネーションも並ではない。
 だが終始変わらぬこのやり取り――それを維持できるだけの余力が、彼女たちにはある。
 長期戦はあまり得策ではない。
 ならば。
「水島、綾瀬」
「んに?」
「長々とやるのは趣味ではないのでな。悪いが早々に決めさせてもらう」
「……望むところだよっ!」
 零次の腕が目にも止まらぬ速さでコントローラーを叩く。
 だが、それに焦ることもなく沙耶たちもブロックを消していく。
 お互い決め手に欠けたまま勝負を長めているだけの状況。
 それを打破するために、零次は勝負を仕掛けた。
『おおっと、零次勝負に出るかぁ!? ブロックをどんどん重ね始めたぞー!』
「連鎖で勝負を決める気ね、零次さん」
「だが上手く積みあがる前に、水島たちが連鎖をおこしてお邪魔ブロックを落とせば……」
「一気に窮地に落とされるね……」
 そう。
 相手を一気に叩き落すためには、それなりの数の連鎖をする必要がある。
 そのために積み上げるとなると、一歩間違えば自爆は必須。
『この重ね方は無謀だぁ! 怖くないのか、久坂零次!』
 だが。
「何を恐れる必要がある。決戦とは、決着とはそういうものであろう――――!」
「その通り。さすがはくさぴょん……分かってるね」
 次々と積み上げられていく零次のブロック。
 それは少しのズレもなく、連鎖の完成へと向けられている。
 だがそれは、僅かなお邪魔ブロックの存在で台無しになる。
 沙耶たちは少しの連鎖を決めれば充分なのだ。
 だが。
「うぬぅ、いいのが来ないよぅ。黄色黄色ー!」
 ここにきて、ブロックが上手い具合に噛みあわなくなってくる。
「運がなかったな、水島」
「あぁーっ!?」
 零次の言葉に沙耶は視線を零次たちのチームへと向ける。
 そこで、今まさに二十連鎖が完成し――
「これで終わりだ……!」
「うあぁー!」
 ……その瞬間、沙耶たちの前に、イジメとしか言いようがないほどのお邪魔ブロックが出現した。

「あはは、負けちった」
 ……準決勝第一試合終了後。
 決勝まではあまり時間もないため、零次たちは会場内で集まっていた。
 結果は、修羅堂チームの勝利。
 あのお邪魔ブロックが決め手となり、沙耶たちはそのまま敗北したのだった。
 だが負けたといっても、沙耶たちはあまり落ち込んでいるわけではなかった。
 むしろ、精一杯戦った後の心地よさに包まれているらしかった。
「いやー、さすがに店長も強いし、くさぴょんも強い強い。世の中いろんな人がいるんだねー」
「それがゲームの世界でってのはどうかと思いますけど……」
 少し疲れたのか、がっくりと肩を落としながら涼子が呟く。
 この、まるで少年漫画のようなノリに段々とついていけなくなってきたらしい。
「冬ちゃんは分かってないねー。これも一つの在り方なんだよ」
「そ、そうですか?」
「そうだな」
 確信をこめて頷く零次。
「おーっ、くさぴょん分かってるねっ!」
「水島もな。今度また良き勝負をしたいものだ」
「そうだね。じゃ今度の休日デートに行こうっ!」
「はぁっ!?」
 零次と沙耶を覗く全員が困惑の色を浮かべた。
 だがそんなことはお構いなしに、沙耶は零次の背に飛び掛る。
 背丈の低い沙耶がそうすると、まるで兄におんぶしてもらっている妹のようだった。
「遊び巡りデート。ここだけじゃなくて、他にもいくつか遊び場所あるからね。にっしっし」
「ふむ、ここ以外にもあるのか。水島、今度案内してもらえるか?」
「いいよん、デートだデートだーっ」
 ご機嫌なのか、沙耶は零次にしがみついたままクルクルと回る。
 零次は成すがままになっていたが、何か薄ら寒いものを感じて冷や汗をかいた。
 ――寒気はなぜか涼子の方から発せられている。
「ふ、冬塚……?」
「なに? どうかした、零次さん」
 涼子は笑顔だった。
 それはもう、とびきりの笑顔だった。
「い、いや……なんでもない」
 なぜ笑っているのに、涼子から寒気を感じたのか。
 何か釈然としないものを感じながら、零次は一人首を捻った。

『試合終了! ここでも圧倒的な差で、謎のマスクチームが勝利を奪ったァァ!』
 零次たちがそんなことをしている頃。
 試合はあっさりと終結し、決勝の組み合わせは決定していた。
 謎のチーム。
 その正体は不明だが、恐ろしいまでの実力を有している。
 それは下手をすれば、店長や沙耶さえも凌駕するほどのものだった。
「いよいよ決勝か」
 零次はやや感慨を込めて呟いた。
 既にこの大会が始まってから六時間以上経過している。
 辺りは夕闇に包まれ、何か寂しさを感じさせる時刻となっていた。
「ここまで来たからには優勝だよ、零次さん」
「そうだよ。くさぴょん、絶対勝って温泉旅行ゲットだーっ!」
 声援を背にしながら、零次は店長の方を振り向く。
「店長、腕は大丈夫ですか?」
「ああ、少し休んだから問題ないよ。でもさっきみたいな真似はキツイなぁ」
「普通にプレイできれば問題ありません。では行きましょうか」
「そうだね。始めようか」
 まるで戦友のように肩を抱き合いながら、零次と店長は決勝の舞台へと足を進める。
「――――最高の遊びを」