異法人の夜-Foreigners night-

-日常編-
普通じゃなくても
「……ここが三嶋教習所か」
 秋風市内の外れ。
 住宅街からも離れ、少しばかりの賑わいを見せた町並もそこにはない。
 周囲を見渡せば、広がるのは草原ばかり。
 遠目に森や山なども見え、自然には事欠かない。
 そんな場所にポツンと建っている。
 それが三嶋教習所。
「しかしこれ、どこからどう見ても廃屋だよな……」
 いくらなんでもぼろ過ぎる。
 既に倒産して無人となった工場などに雰囲気は似ている。
 看板の文字もほとんどかすれて、三嶋教習所のうち「嶋」と「教習」の辺りしかはっきり見えない。
 錆にまみれた一軒屋。
 ――それを前にして頭を抱える少年、緋河天夜。
 実家に嫌気が差して旅をしている少年である。
 現在は秋風市に逗留し、旅先で知り合った男から勧められた教習所で免許を取ろうというところだった。
 しかし、いきなりつまづいた。
「刃さんが免許取った後に潰れたってことなのか、これは……?」
 少なくとも人間が生活するような空間には見えない。
「うわぁー……凄いねー、これは」
 しかも、何故か隣には一人の少女の姿がある。
 榊原家の長女、遥だった。
「……」
「三嶋さん、こんなところに住んでるんだ」
「……遥さん」
「なに?」
「何故ここに?」
「さっきも言ったよ、天夜君忘れちゃったの?」
「あれは説明になってないかと」
 部屋を借りた翌日、つまり今日。
 教えてもらった教習所に早速行ってみようということで、天夜は部屋を出た。
 するといきなり隣の部屋から遥が出てきて、
『私も三嶋教習所のところに行かなきゃ』
 と言って、ついてきたのである。
「あれ、ちゃんと言ってなかったっけ?」
「行かなきゃ、だけじゃ話が全然見えてこないと思うんですが」
「あ、そっか。えっとね、私も免許取るんだ」
「……」
 天夜は顔をしかめた。
 出会って間もないが、こののんびりし過ぎた少女に運転がつとまるとは思いにくかったのである。
「遥さん。俺は止めた方がいいと思う」
「なんで?」
「いや、それは」
 沈黙。
 まさか『事故を起こしそうだから』とは言えない。
 しかし沈黙とは時に言葉よりも雄弁たり得る。
 天夜の沈黙の意味を察したらしく、遥は頬を膨らませた。
「ひょっとして私が事故起こしそうだって思ってる?」
「うっ」
「む~」
「……」
「むむぅ~」
 遥は眉を尖らせて天夜を睨む。
 はっきり言って全然怖くないのだが、下手にドスの効いた目よりも視線を合わせにくい。
 しばらくすると遥の方から目を逸らした。
 だが少し機嫌は悪そうである。
「昨日も皆にそう言われたんだよ。梢君とかは意地悪だから分かるけど、亨君や久坂君にまで反対されるとは思ってなかった」
「はぁ……」
 “亨君”やら“久坂君”を知らない天夜としては反応に困る。
 が、少なくとも梢が反対する様は容易に想像できた。
「しかし、これは人がいるように見えないな」
「悪かったな、どうせオンボロだよ」
 と。
 天夜の呟きに、反応があった。
 それも、教習所の中からである。
 ガタガタと音を立てながら開かれる扉。
 その隙間からひょっこりと、人影が現れた。
「なんか用かよ兄ちゃん。家のオンボロ具合を批評しにきたってんなら即効帰りな」
「……」
 尊大な言葉遣い。
 荒々しい口調は粗野そのもの。
 しかし、声を発する影は小さかった。
 小柄で細身、大きな眼鏡に三つ編み。
 汚れた作業着姿に、不似合いなヘッドホン。
 天夜は思わず呟いた。
「……小学生?」
「高校生だーっ!」
 禁句を言い当ててしまったらしい。
 天夜の言葉に、作業着の少女――三嶋詩巳は、近隣一帯に響き渡る絶叫を上げるのだった。

 中は外よりまともだった。
 あれから遥と天夜は、詩巳に案内されて教習所内へ入った。
 普通に応接用の椅子や電話、書類の山などがあり、それなりに教習所らしくなっている。
「ほれ、お茶だ」
「ありがと、詩巳ちゃん」
「……どうも」
 お茶をすすりながら、遥は室内を見渡した。
 詩巳以外に人のいる気配がまるでない。
「詩巳ちゃん、お留守番?」
「まーそんなとこ。どうせ客なんて滅多に来ねぇし……とか思ってたら来たわけだけど」
 大きな欠伸をしながら、自分もお茶を飲む詩巳。
「ま、そんなわけで今は手続きだの説明だのは出来ないね。親父たちもいつ帰ってくるか分からないし」
 詩巳は視線を、テーブルに飾られていた写真立てに向ける。
 そこには今よりも幼い詩巳と、彼女を腕にぶら下げているごつい男の姿があった。
「あれが親父。今は従業員引き連れてコース周辺を走り回ってる」
「コース周辺を?」
 天夜が疑問の声をあげると、詩巳はギロリと天夜を睨みつけた。
 小学生と間違えられたことがかなり腹立たしいようである。
「ハンッ、ちょいと最近コース周辺が物騒なんでね。ここ何日かで教官も怪我しちまった」
「何かあったのか?」
「あー、多分どっかから猪とかが逃げ出したんじゃないかって言うけど。秋風市郊外でも最近事故が多いから関係あるのかもしれねぇ」
「猪ね……」
 天夜は渋い顔つきをする。
 彼にとって、教習を受けられないというのは困るのである。
 猪だかなんだか知らないが、厄介なことになった。
「ま、そんなわけで遥の姉ちゃんには悪いが今日は無理だ」
 キッ、と天夜を睨みながら言う詩巳。
 どうもかなり嫌われてしまったようである。
「そうか……どうするかな。なるべく早く免許欲しかったんだが」
 天夜はお茶を飲み干しながら首を捻る。
「ねぇ詩巳ちゃん」
「ん、なんだい遥姉ちゃん」
「私たちがそれ解決したら、教習受けられるんだよね」
「まぁ、そりゃそうだけど」
 詩巳、そして天夜も怪訝そうに遥を見た。
「……遥さん、あんたまさか」
「――――うん、私やるよ」
 どこにそんな自信があるのか。
 遥はやたらと強気に頷くのであった。

「で、何かアテはあるんですか?」
 三嶋教習所の練習コース。
 その中にある待合室でジュースを飲みながら、天夜は遥に尋ねた。
 とりあえず来てみたはいいが、特に何をするわけでもなくここでぼーっとしている。
 教習所の面々とも顔を合わせることはなく、進展は全くしていなかった。
「今考えてるとこ」
 遥はここに来てから、様々なものに視線を這わせて思考をめぐらせている。
 本当は梢や零次らの協力を仰ぐのがベストなのだが、彼らとは昨晩口論しているから頼みづらい。
 それに、人に頼ってばかりというのは遥としてはなるべく避けたいところであった。
「うーん、やっぱり怪我した教官さんに話を聞いてみるのがベストかなぁ」
「あの女が言うには、状況をさっぱり覚えてないって話らしいですけど?」
「うー、でも他にアテはないし」
「地道に歩いて調べるのがいいんじゃないですかね」
 言いながら二人は待合室から出る。
 コースはきちんとしているようだったが、置かれている車の数が少ない。
 あまり繁盛していない証拠と言える。
 コースの奥は森になっている。
 何かあるとすれば、そこが一番怪しい。
「うーん、何か半径1000M内にある気配を探知できるレーダーとかあればいいんだけどなぁ」
「そんなものはないでしょう」
「一応家にそういう人が一人いるんだけどね……どうやったらあんな技能身につくんだろ」
「ぶえくしょいっ!」
「どうしたんですか梢さん、風邪ですか?」
「……んー、俺今まで風邪引いたことなんてないんだけどなぁ」
「馬鹿は風邪引かないって言いますもんね」
「亨君。後で道場に着なさい……特別稽古してやるから」
「ひぃぃぃぃぃっ! 目が、目が笑ってませんよぅ!?」
「そういえば遥さん、なんで免許取ろうと思ったんです?」
 森の中を歩きながら、天夜は先行する遥に尋ねてみた。
 特に深い意味はないのだが、なんだか彼女には不向きのような気がしてならない。
 遥は天夜の方に振り返って、
「んー、見返そうと思ったからかなぁ」
「見返す?」
「うん。私皆からよくぼーっとしてるとか言われるんだ」
「それは分かります」
 思わず頷く天夜。
 遥の視線が少し険しくなったが、とりあえず無視することにした。
「……こほんっ。それで、私でも出来ることがあるんだっ! って見返したくなって」
「それだけが理由で免許取るんですか……?」
「他にも色々あるんだけどね。例えば、今家で車の運転できる人、お義父さんだけだから。お義父さんは普段家にいないし、私が取っておけば何か役に立つかもしれないでしょ?」
「梢さんとかは?」
「学科試験に十回落ちた時点で諦めたらしいよ」
 梢曰く「道路交通法って難しいよなぁ……覚えきれねぇ」。
 その話を聞いた人がどうリアクションをしたかは、あえて述べない。
「それに、私役に立ちたいから」
 再び前を向き、歩みを再開させながら遥は呟く。
 その言葉には、これまでのものとは若干違う響きが含まれていた。
「役に立つ?」
「うん。今の私じゃ、家族の役に立ててないから」
「……」
 天夜は押し黙る。
 遥の言葉に、何か不快感を覚えたのだ。
「遥さん、役に立つってのは……家族とかで使うような言葉じゃないと思う」
「んー、普通の家族だったらそうなのかもしれないけど」
「“普通ではない”と?」
「うん。私たちは“普通”の家族じゃないよ」
 どこか寂しげに遥は言う。
「本当の妹の涼子ちゃんとは別々に暮らしてるし苗字も別々。今一緒に暮らしてる人たちも皆元は他人だったんだ……あ、梢君と美緒ちゃんは本当の兄妹なんだけどね」
「――――」
 何の前触れもなく、凄いことを聞かされた気がした。
 実際姉妹が別々に暮らしていたり、梢と遥の苗字が別々だったりと不自然なところはあった。
 だが当事者の口から聞くと、なにやら曖昧だったものがいやにはっきりしてくる。
「本当の家族はもういない。でも私はお義父さんや梢君たちに助けてもらった。だから私は、何か役に立ちたいんだ」
「恩返し、ということですか」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。でも私にとって“今”はとても大切なものに思えるから……それを与えてくれた梢君たちには、感謝してもしきれないかな。だから少しでも役に立ちたいし……いつまでもお世話になってるだけなのは、嫌なんだ」
 遥はにっこりと笑って、再び天夜の方に振り向いた。
「それが私にとっての家族の形。助け合って、支えあって。“普通”なんかじゃなくても、それは私にとって大切な家族なんだよ」
「意外と、しっかり考えてるんですね」
 天夜の言葉に、遥は笑顔を打ち消して頬を膨らませた。
 だがそれは天夜の正直な感想である。
「普通じゃなくても、か……」
 天夜はそっと呟いた。
 少しだけ、故郷の家族のことを思い出しながら。

「おやっさん、そろそろ戻りましょうぜ」
「そうですよ。こういうのはやっぱし警察とかに任せた方がいいっす」
 森の中で、何人かの男たちが話している。
 特に統一感のない服装の男たちは、妙にそわそわしていた。
 その中にあって一人だけ異彩を放つ男がいた。
 おやっさんと呼ばれている男――三嶋走九郎である。
 頭にハチマキ、腰にシャツを巻きつけて上半身はランニングのみ。
 ごつい筋肉をアピールしているようにしか見えない格好の男だった。
「馬鹿野郎、うちの教官もやられてんだぞ。このまま放っておけるか」
「だからって俺たちが出てこなくても」
「そうっすよ。こんなの俺たちの管轄じゃねっす」
 そんな従業員――というよりは舎弟と表した方が似合いそうではあるが――を睨みつけて、走九郎は一喝した。
「馬鹿野郎、警察なんざ余程のことがねぇと動かないんだよ」
「でもこっちとしては実際に被害も出てるわけですし。ほら、榊原さんにでも頼みましょうよ」
「あいつに頼みごとなんぞ出来るか! ふん、チキンどもめ。俺は一人でだって行くぞ」
 巨体の割には素早い動きで走九郎は足を進める。
 と。
 がさりと、何かが動く音が聞こえた。
「ひぃっ! お、おやっさん!」
「うろたえるんじゃねぇ馬鹿野郎!」
 舎弟たちを一喝して走九郎は物音のした方を睨みつける。
「確かに何かいやがるな」
 走九郎がそう呟くと同時。
 その影の正体が、姿を現した――――!

「……今、悲鳴が聞こえた!」
「え?」
 同時刻。
 森の中を歩いていた天夜は、悲鳴を聞きつけた。
 距離はさほど離れていない。
「遥さん、行こう」
「――うん。分かった!」
 天夜の指示に従い、遥も駆け出す。
「ひぃぃっ」
「親方ぁっ!」
 怯えきったような悲鳴に近づいていく。
 やがて悲鳴の主たちの元へ到着した二人は、我が目を疑った。
「く、熊ぁ!?」
 そう。
 それはどこからどう見ても熊だった。
 しかもかなり大きい。
 人間が襲われたらひとたまりもないであろう。
 その熊の足元に、一人の男が倒れている。
 写真に写っていた男――三嶋走九郎だった。
 肩から血を流し、苦しそうに呻いている。
「ちっ、俺としたことがドジっちまったぜ……」
「親方ぁぁ!」
「逃げろ馬鹿野郎! てめぇらまで死ぬこたぁねぇっ!」
 なんだか大袈裟だった。
 少なくとも、そんなことを叫ぶ元気があるならさっさと逃げるべきである。
 だが現状はかなり洒落になってない。
 熊が相手。
 実力的に、普通に戦って熊に勝てる相手はこの場にはいない。
 ただし、それはあくまで普通に戦った場合。
「……ちっ」
 天夜は自分の右腕を見下ろして、忌々しそうに舌打ちする。
 彼の右腕には常人にはありえない“力”がある。
 それを使えば熊を倒すことなど造作もない。
 しかし、人目がある。
 天夜の背後には遥がいる。
 他にも教習所に関わる人たちがいる。
 その人たちの前で力を使うことは、躊躇われた。
 人とは違う力。
 それを目にしたとき、人はそれを恐れる。
 拒絶されるかもしれない。
 天夜が抱いた一瞬の躊躇。
 その隙に、天夜の脇にいた遥が飛び出した。
「遥さん!」
「天夜君、三嶋さんたちを連れて逃げて」
「あんたこそ逃げろ、危ない!」
「大丈夫」
 遥はにっこりと笑うと、少しずつ熊に近づいていく。
 熊は動かない。
 ただ威嚇するような視線を遥に向ける。
 だが遥は構わずに進んでいく。
 余裕のある足取りではない。
 表情はがちがちに固まっているし、全身の動きもぎこちない。
 それでも遥は進んでいった。
 やがて、遥の手が熊に触れる。
 刹那――――まばゆい光が、周囲を包み込んだ。

 やがて。
 光は消えた。
「……」
「……」
 天夜をはじめとする人々は、恐る恐る瞳を開ける。
 そこに映ったのは、熊に手を差し出している遥と。
 そして、遥の手をぺろりと舐める熊の姿だった。
「――そっか」
 静かに遥が呟くと、熊は黙ってその場に腰を落ち着けた。
 その様子を見ていた面々から感嘆の声が漏れる。
「あんた……確か、榊原んとこの」
「はい。クリスマス以来ですね、三嶋さん」
「その熊、大丈夫なのか?」
「ええ、この子はもう大丈夫です」
 なぜか自信たっぷりに答える遥。
 従業員たちは状況を理解出来ていないようだったが、少なくとも危機は去ったのだという実感はあった。
「動物園とかに問い合わせてみてください、すぐに」
「……ああ、分かった」
 走九郎は携帯を片手に、従業員たちに指示を出しつつどこかに連絡を取り始めるのだった。

 三嶋教習所で手帳を無事作ってもらい、遥と天夜は帰路についていた。
 時刻はもう夕刻。
 紅い空を背景にしながら、二人は歩いていた。
「あの熊、なんだったんですかね」
「動物園から逃げ出してきたみたい。そこで何回か車にぶつかって、怪我して。それで車とか、人間とかに警戒心抱いてたみたい」
「……いやに具体的ですね」
「うっ」
 遥は天夜から視線を逸らし、空々しい笑みを浮かべた。
 天夜は鋭い視線を向けたまま、
「遥さん。あんた、異端者か?」
「私、知らないよ。知らない」
「ごまかさないでほしい。きちんと答えてくれ」
 真剣な問いかけであることを察したのだろう。
 遥はぎこちない笑みを引っ込めて、困ったような表情になった。
「……異端者っていうのは知らない。私は分類するなら“魔術師”になるみたい」
「それでも普通とは違う力だ。今回はうまく誤魔化せたからいいものの、下手をすれば――」
「まあ、大変なことになってたね。三嶋さんたちに嫌われちゃってたかも」
 さらりと遥は言ってのけた。
「天夜君の言いたいこと、分かるよ。多分天夜君も私や梢君たちと同じなんだね」
「……だったらなんで、躊躇いもなく力を使えるんだ」
「――――――もしかしたら、なんとかなるかもしれないって思ったから」
 誰かが危ない目に合っている。
 そんなとき、自分にそれがどうにか出来る力があるなら。
 もしそれで誰かに嫌われることになっても。
 その人を助けることができるなら、そうしたい。
「助けられずに安心するよりは、きちんと助けて傷つく方がいいと思ったの」
 例え拒絶されて傷ついても。
 それでも自分の力を振るい続け、今日まで生きてきた者たちがいたから。
「私もちょっと前までは怖かったんだけどね。でも私の身近には強い人たちがいるから。……感化されちゃったのかな」
 だから遥は、あのとき迷わず“意思の共有”を行った。
 熊の意思を汲み取り、自分の心を与え、熊を鎮めたのである。
「あっ」
 前方に人影が見える。
 それは天夜にも見覚えのある姿だった。
「くぉら遥ぁぁっ!」
「はぅっ」
 人影は凄まじい勢いで迫ってくるなり、遥の頭を叩いた。
「昨日の夜からどこほっつき歩いてやがった! 心配したぞ馬鹿!」
「りょ、涼子ちゃんの家に泊まって……」
「知ってるよ、三嶋んとこで手帳も作ったんだろ? 師匠が遥に金渡したって言ってたからな……ったく」
 呆れ顔で溜息をつくと、彼――梢は天夜の方に向き直った。
「悪いな天夜。遥が迷惑をかけた」
「……いえ」
 天夜は思わず苦笑した。
 一瞬とはいえ、天夜は遥のことを「とても強い人」だと感じた。
 しかし梢が現れた途端、まるで子供のようにしゅんとしている。
 その変化を見る限り――弱さを晒せるという意味では、この二人は確かに“家族”であるように思えた。
 温かそうで、少しばかり羨ましい。
「そーだ、迷惑かけた詫びに家で飯でも食ってくか?」
「いいんですか?」
「ああ、家じゃよくあることだし。遠慮することはねぇぞ」
 天夜は少しばかり迷って。
「――――それじゃ、お邪魔します」
 天夜は少しだけ、榊原家に興味が沸いた。
 そんな、夕暮れの時のことだった。