異法人の夜-Foreigners night-

-日常編-
こちら秋風市榊原邸地下王国請負屋メギド
 その日、榊原邸は静かなものだった。
 当主である榊原幻は北海道へ出張。
 倉凪梢は藤田四郎と共に、東京の斎藤宅へ遊びに行っている。
 榊原遥は高坂雅らと共に、隣町へ買い物に出かけていた。
「実にのどかだ……」
 縁側でうたた寝をしていた久坂零次は、静かな休日を満喫している。
 今日は修羅堂でのバイトもないため、かなり暇だった。
 なんでも店長、奥さんと夫婦水入らずで旅行に行っているとか。
 娘の沙希が計らったことだと零次は見ている。
「冬塚のところに遊びに行くのもいいかもしれないな」
 天気は晴れ。
 こんな日に、一日を屋敷の中だけで過ごすのは勿体ない気がした。
「零次ー」
 そんな静寂の中で、聞きなれた声が聞こえてきた。
 ここの住人の中では零次ともっとも長いが付き合い、矢崎亨である。
「どうした?」
「お客さんですよ」
「俺にか」
「いえ、“メギド”にです」
「————ふむ」
 メギド。
 それはある組織名であると共に、コードネームでもあった。
 零次も構成員の一人であり、メギド6というコードネームを持っている。
 ちなみに亨はメギド4だった。
 数字によって階級が異なるというわけではなく、零次と亨は同格である。
「しかしメギド1も2もいないぞ」
「そうですねぇ。どうしましょうか」
 数字による階級分けはないが、役割は存在する。
 メギド1は代表————物事の、最終的な判断を下す役である。
 メギド2は、万一1が不在の時の代理を務めることになっていた。
 が、今はどちらも不在である。
「メギド3が指揮を執るというのはどうだ」
「……いや、まぁ、僕はあまり向いてないと思いますよ? それに今、遊びに行ってるじゃないですか」
 亨は困ったような笑みを浮かべる。
 零次は特に反論することなく、
「そうだな」
 と頷いたのみだった。
「とりあえず依頼人を待たせては悪い。今日はあそこを臨時事務所としよう」
「“あそこ”に通すんですか……?」
「大丈夫だ、トラップは全て解除しておく」
 そう言って零次は立ち上がった。
 請負屋メギド。
 地域密着型、住民に頼られる————何でも屋(予定)である。


 榊原邸には地下室がある。
 本棟とは別の倉庫から出入り可能なもので、昔は牢獄として使われていたようだった。
 そこを零次が改修し、今では実用的かつ快適かつ防衛力完璧(零次談)の空間となっている。
 一見人工物には見えない、天然の洞窟のような壁。
 これら一つ一つに零次の手が加えられており、いくつもの隠しスイッチやトラップが仕掛けられている。
 今は全てオフになっているからいいものの、零次が本気でこの場所を駆使するとなれば、どれだけ危険な場所になるか知れない。
 そんな物騒な場所へやって来た依頼人は、いい感じに禿げ上がった六十代半ばの老人だった。
「あ、白木のじっちゃん!」
「じっちゃんじゃない、おっさんと呼ばんか!」
 入ってきた老人に声をかけた美緒。
 美緒はメギド5のコードネームを持つ、れっきとした構成員であった。
 老人はそれに対し、いかにも言い慣れた様子で注意をする。
 白木徹郎。
 駅付近にて銭湯『白木の湯』を経営する老人である。
 本人は70を過ぎるまで「爺さんとは呼ばせん」と意気込んでいるとかなんとか。
 先代榊原を知る数少ない登場人物でもある。
「して、白木氏。早速依頼の話に入りたいのだが」
 とりあえず責任者となった零次が、テーブルを挟んで白木老人と向かい合う。
「うむ。最近な、ちと気になることがあったんじゃ」
「というと?」
「うちの近所に住む黒越さんとこの倅が、一昨日家出しての」
 白木翁が黒越氏にそのことを告げられたのが昨日だという。
 そして今朝未明、白木翁はその黒越氏の倅を見たというのだった。
「それも只事じゃない様子での。目ぇ血走らせて、なにやらでかいバッグを抱えておったぞ」
「ふむ……」
「わしも声をかけたんじゃが、ちらりと振り向いただけですぐに行ってしもうた。普段なら叱り飛ばすところじゃが……」
「いえ。冷静さを欠いている相手には、そういったことは止めた方がいいでしょう。賢明な判断です」
 逆上して襲い掛かられたら、いかに白木翁が矍鑠とした老人であろうと、ひとたまりもないだろう。
「それで?」
「物凄い勢いで駆けていったから、駅の方に行ったことくらいしか分からん」
「バッグは、中身入っていましたか?」
「うむ。なにやらゴツゴツとしておったから、中に何か入っていたと思うぞ」
 白木翁の話を聞いて、零次は思案に耽った。
 大きなバッグを抱え、血相を変えて逃走。
 それも朝早くに、だ。
 逃走先はどうやら駅の方らしい。
 そこまで考えて、零次の中である答えが浮かんできた。
「白木さん。これは大変なことになりそうです」
「そうなのか?」
「はい。黒越氏にはまだ、息子さんのことは……?」
「言っておらん。何やら只ならぬ様子じゃったからのう」
「助かりました。黒越氏には、全て終わってから話した方がいいでしょうな」
 零次は横で話を聞いていた亨と美緒をちらりと見てから、重々しい口調で語り始めた。
「おそらく黒越氏の息子……ややこしいのでセガールとしましょう」
「セガール?」
「コードネームです。————セガールは、おそらく何らかの密売に関与していると思われます」
「な、何じゃと……」
 白木翁はセガールのことを昔からよく知っているだけに、驚きを隠せなかった。
「馬鹿な。確かにあやつは馬鹿で短気で乱暴もんじゃが、道を外すような真似はせんぞ」
「しかし状況証拠が揃いすぎています。何かが入ったバッグ! 血相を変えて逃走! おそらくは駅から電車に乗り、そのまま空港へ出て海外へ飛ぶつもりに違いありません」
「む、むぅ……!」
 言われてみれば、確かにそんな感じもする。
 セガールの様子は只事ではなかったし、何かから逃げているように見えなくもなかった。
「早急に彼を発見し、こちらで保護することが必要です。警察の手に渡れば、黒越氏も何かと辛いでしょうからな」
「そんなことをしてもいいのか?」
「我々は法によって動くのではなく、義と情によって動く団体です。彼本人に更生する気があるのなら、証拠隠滅もやってみせましょう」
 まるでヤ○ザだった。
 少なくとも、刑事の家に居候している者の台詞ではない。
 ……もっともその刑事は、零次の意見に反対どころか賛同しそうだが。
「まぁ、わしも事を大きくせずに済むなら、助かるが」
「ご安心を。絶対安心、絶対無敵、絶対勝利の我らメギドにかかれば、確実にセガールを確保出来ます」
 どこからそんな自信が来るのかは分からないが、零次は力強く頷いてみせる。
 既にそのとき、左右にいた亨と美緒は姿を消している。
 早くもセガール確保のために、動き始めたのであった。


 セガール(仮)。
 年齢二十歳、この四月より朝月大学三年生。
 現時点での単位は順調、このまま行けば普通に来年度卒業予定。
 友人関係はあまり広くはないが、その分相手を大切にしているらしい。
 性格は快活、やや乱暴で短気な面もあるが、反省もきちんと出来る。
 かなりの硬派で、拳と拳での語り合いが大好き。
「今どき珍しい男だな……」
 零次たちの調査によって明らかになったセガールの情報。
 それをまとめるうちに、零次の中では事件発生までの過程が鮮明に浮かび上がるようになってきていた。
「恐らくは友人、あるいは舎弟が麻薬か何かに手を出した。それにセガールは気づき、諸悪の根源を断たんとして、売人の元へ向かったに違いない」
 しかし相手は手馴れたもので、セガールはおそらく返り討ちにされたのだろう。
 更に売人たちはセガールに強烈な薬を嗅がせ、適度な中毒症状に陥れた。
「薬がなければ、とてもではないが生活できない、というレベルにまで至った。そこでセガールは已む無く売人に協力させられた」
 ところが、異変が起きた。
 秋風署がとうとう動き出し、売人を摘発し始めたのだ。
 おそらく大元の組織を潰すことに成功し、それまで泳がせていた連中を根絶やしにするつもりなのだろう。
「その際に売人グループは全滅。しかしセガールは事前に薬を奪い逃走した。血相が変わっていたのは薬の影響、慌てて逃げたのは警察の目を恐れるあまり、疑心暗鬼に至ったものと見える」
「状況証拠だけでよくそこまで想像出来るわね……」
 涼子が、呆れ顔で呟いた。
 現在零次は喫茶店『夢里』に来ている。
 ここで美緒や亨と、調査した情報をまとめていたのだが、それがバイト中の涼子の耳に入ったようだった。
「また変なことやってんの? えーと、メギドだっけ」
「変なこととは失敬な。俺たちは秋風市民の人権と平和を守るために結成された————」
「はいはい。それよりも早く注文してくれないと。まさか水だけ飲んで帰るつもり?」
 どうやら涼子が話を聞いていたのは、いつまで経っても注文しない零次たちを見張っていたからのようだ。
「あ、そうだった。涼子ちゃーん、私ハムサンドとエッグサンドとガトーショコラ。あとミルク!」
「僕はビーフカレーとアップルパイをお願いします。それとアイスコーヒーを」
「……ふむ、ならば俺は焼肉定食と団子セット、それに爽健美茶」
「随分沢山頼むわね……」
「梢さんも遥さんも留守だったんで、家にお昼ないんですよ」
 亨が困ったように笑ってみせる。
 遥は今朝になって誘われたらしく、昼食を予め作っている余裕がなかった。
 だから梢から預かっていたお金を零次たちに渡して、どこかで食べてくれと頼んでいたのだった。
「うーん、美緒ちゃんはともかくとして、零次さ……れ、零次とかヤザキンとか、料理教えてあげよっか?」
「なんで私はともかくなのさー!」
 ぶぅぶぅ文句を垂れる美緒は無視。
 この場にいる全員が、その話題に触れることの無意味さを知っていた。
 ちなみに涼子は以前零次と交わした約束の通り、零次を呼び捨てることになった。
 まだまだ慣れていないのか、あまり上手くいっていないようだったが。
「まぁ、それはともかくだ」
 零次が話を、セガールの一件に戻す。
「実はもう一つ、言っていない情報がある」
「なんですか?」
「奴は最近、夢里に出入りすることが多いそうだ」
「ああ、だからここで作戦会議開いたんですね」
「下手をすれば、既に海外へ逃げおおせているかもしれないが、万一現れた場合はこれを尾行する」
 零次の提案に、美緒と亨が頷いた。
「いらっしゃいませー」
 と、客を迎える涼子の声が聞こえた。
 視線を向けると、そこには厳つい顔つきの、学ランがやたらと似合いそうな男が立っていた。
「お一人様ですか?」
「あ、ああ」
「では席へご案内しますね」
 涼子に案内されていく男をじっと見て、零次が手元にある写真と見比べる。
「間違いない、あの男だ」
「あれがセガールかぁ。なんかセガールって感じじゃないね」
 そもそもセガールという名前ではない。
 零次たちが勝手にセガールと呼んでいるだけだ。
 セガールは落ち着かない様子で、視線を窓の外に向けている。
 注文を伺う涼子の方へ視線もやらず、なにやらぼそぼそと小声で受け答えしている。
「挙動不審。おかしい、バッグに入るほど大量の麻薬だ。切れるには早過ぎるぞ」
 やがて涼子は注文を厨房へ伝え、そのまま零次たちの頼んだものをトレイに乗せて持ってきた。
「はい、お待たせ。……どうかした?」
「冬塚。あの男、どう思う」
「は?」
「いいから答えてくれ。大事なことだ、率直な意見を求む」
 零次の真剣な様子に、涼子は首をかしげながら考え込む。
 ちらりとセガールの方を見て、
「硬派っぽい……って感じかな。なんかこう、武闘派というか渋いというか」
「そうか。挙動不審なようだったが、その点についてはどう思う」
「挙動不審? そんな風には見えなかったけど」
「お前から視線を逸らし、小声でボソボソと落ち着きのない様子で話していたが」
「よく見てるわね……何、メギドってのと何か関係あるの?」
「そんなところだ」
 涼子は顔をしかめた。
「どんな事情があるかは知らないけど、あんまりお客さん悪く言わないでよ。さっきのだって、挙動不審のうちには入らないと思う」
「その根拠は」
「少し気の弱い人かもしれないじゃない」
「あのガタイでか……?」
「それもありえるってこと」
 いい加減この話題に付き合う気も失せたのか、涼子は料理を置いてさっさと引っ込んでしまった。
 美緒は半笑いを浮かべながら零次を見る。
「久坂さん、ありゃ結構怒らせちゃったね。後が大変だよ〜」
「物事の真相を突き詰める気のない冬塚にも問題はあろう。俺たちはそういうわけにはいかん」
 やがてセガールが店から出て、零次たちも後を追うように出て行った。
 涼子は結局顔を見せず、店長代理のゆきねが困った笑みで三人を見送るのだった。


『こちらメギド4、セガールを見失った』
『こちらメギド5、セガールなんか動き早すぎ! おまけにクネクネ動くし、尾行しづらい〜!』
 意外にも三人は苦戦していた。
 セガールはあれから駅付近にやって来て、急に人目を気にしだした。
 視線を三百六十度動かしながら、そろそろと駅の周りを早足で歩いている。
 単にくっついて歩くだけなら問題ないのだが、相手に気づかれないように尾行するのは意外と難しい。
 夜ならばまだいくらか手があるが、今はお天道様が元気な時間帯だ。
 常に周囲を警戒するセガールを尾行するのは、異法人の亨や、兄譲りの気配遮断能力を持つ美緒でも難しい。
『こちらメギド4、面倒ですしとっ捕まえて吐かせませんか?』
「こちらメギド6。物騒なことを言うな、我々はあくまで穏やかにこの一件を始末する」
『でもこのままじゃ埒が明きません。っていうかセガール今何処にいるか分かりますか?』
 ちなみに零次は二人とは別に、上方からセガールを見張っている。
 建物の屋上から屋上へ飛び移りながら尾行しているのだった。
「こちらメギド6、セガールは現在……む?」
『こちらメギド5。どしたの、メギド6』
「い、いや……」
 零次は確かにセガールの姿を捉えている。
 セガールは今、ある建物の中へ入っていった。
 何度も周囲を見渡し、人気がないのを再三確認したうえで。
 その店の名は————
『同人ショップ:女神伝』
 店の前には、可愛らしい少女のイラストが描かれた看板。
 窓にはいくつものポスターが貼られている。
「メギド6、どうしたんですか? メギド6!?」
「い、いや。俺としては店長で慣れているからこういったものに対する偏見はないつもりだが」
「メギド6、何のことですかっ!?」
「しかしセガールよ。硬派として名の通ったお前がこういった場所に赴くとは……」
「メギド6、応答してください! メギド6……!?」
 いつのまにか零次の手から、連絡用の携帯機は放されている。
 亨や美緒の声が虚しく機械から響き渡る中、零次は静かに、地へと降りていった。


「ありがとうございましたー」
 爽やかな店員の声を尻目に、セガールはいそいそと買った品物を鞄の中に仕舞おうとする。
 慌てているのか、手元が滑ってなかなか仕舞えない。
 そんなセガールの肩を、不意に叩く者がいた。
「黒越セガールだな……?」
「……え、あ!?」
 突然声をかけられて、セガールは戸惑う。
 しかも相手は、自分のことを知っているらしかった。
「た、確かに俺は黒越の倅だが……な、何の用だ!?」
「そう肩肘を張る必要はない。ただ、お前……一昨日から家出しているそうだな」
「うぐっ」
 事実だった。
 セガールは一昨日から家に帰っていない。
「何故そんなことをした? 怪しげなバッグを持ったお前を見かけたという人がいるが……麻薬に手を出してはいないだろうな」
「そんなことするかっ!」
「ああ、そうだろうと思った。安心しろ、俺はお前の味方だ」
「は……は!?」
「落ち着け。お前はただ、自分のイメージを壊したくなかっただけなのだろう」
 眼前の男————零次の言葉はことごとく事実だった。
 セガールが人目を気にしているのは、自分がこの店に通うことを知られたくなかったのだ。
 何しろ学校では硬派として通っているし、家でも頼れる兄貴として弟や妹の尊敬を集めている。
 そんなイメージを壊されたくないという一心だったのだ。
「家出をしている理由も想像はつく。おそらくお前は一昨日、初めてこの店に来たな」
「うっ!?」
「そしてここでいざブツを購入したはいいが、隠し場所が見つからなかった!」
「ぐっ!?」
「何せ両親兄弟と共に暮らしているのだ。特に十五歳の妹に見つかった日には、家庭崩壊もありえるだろう」
 そこまで言われて、セガールの顔は見る見るうちに青ざめていく。
「……な、何者だお前は。何で俺や家族のことまでっ!?」
「メギド6とでも名乗ろう。さて、結局踏ん切りがつかなかったお前は、適当なところで夜を過ごした」
 もう返す言葉もない。
 セガールは、完全に零次のペースに取り込まれていた。
「だがそろそろ手にしたゲームをやりたいという欲求が高まり、今朝一旦家の近くまで戻ろうとした。そこで白木翁に声をかけられ、震え上がって逃げ出したわけだ。そしてまた、新たな欲求に負けてここに戻ってきた」
「そ、そうだ……」
「————何が硬派だ。貴様は大いなるチキンだっ!」
 ずびっ、と指を額に突きつけられ、セガールは恐縮した。
 零次はセガールに構わずに続ける。
「その程度のことで肝を冷やして何が硬派か。その時点で貴様は既に自身のイメージとかけ離れた行動を取っていると知れ!」
「……」
「だからと言って、そういったゲームを買うなとも言わん。少なくともこの国は、そういった意味では自由だ」
「じ、じゃあどうしろと」
「堂々と帰り、堂々とやるのだ。眉一つ動かさず!」
「なっ……!?」
 セガールは思わず鞄を抱き寄せる。
 中にはいくつか、前々からやってみたかったゲームが入っている。
 いずれも、お子様プレイ禁止なものばかりだった。
「自室はあるか?」
「あ、ああ……」
「それならばお前はまだ救われているではないか。自室でやる。それだけのことだろう」
「それだけって……家族に見られたらどうする?」
「構うな。むしろ凄味を利かせるくらいでいい」
「……」
「それが————真の硬派というものだっ!」
 その瞬間、セガールの身体に電撃が走った。
 本気でそう思うくらい、強い衝撃だったのである。
 セガールはわなわなと震え、やがて零次の手を取った。
「メギド6……お前、漢だっ! 俺なんか比じゃねぇっ!」
「フッ……お前も、これからは漢の道を行くがいい。恐れず、媚びずな!」
 がし、と零次はセガールの手を握り返す。
 ここに、奇妙な友情が成立した。
 遠巻きに様子を見ていたギャラリーたちからも、拍手や口笛が送られてくる。
 まさに店の中は、零次とセガールを中心にして異様な盛り上がりを見せつつあった。
 が。
「メギド6ー? もしかして、くさぴょん?」
 ————ピシリと、零次の動きが止まった。
 錆び付いた機械のようなぎこちなさで、零次は首だけをまわす。
 視線の先には、予想通りの人物がいた。
「メギド3……いや、水島っ!」
「いやー、そんな改めて言わなくてもいいよ?」
 水島沙耶。
 かつてゲーム大会で勝負して以来、零次にとっても親しい友人。
 そして、メギド3のコードネームを持つ、零次たちの仲間でもあった。
「にしても、こんなところで何してんの? くさぴょんも、ようやく目覚めた?」
「何にだ! ……そうじゃない、誤解だ!」
 沙耶の後ろには、意外なものを見つけたような表情の遥と雅がいる。
 セガールにはああ言ったが、零次本人としては別に“こうしたゲーム”に興味があるわけではない。
 やるなら徹底的にやるが、誤解はされたくなかった。
「久坂君、そういうのやるんだ……お、男の子だもんね」
「ま、イメージは崩れるけど……健全てことかねぇ」
 遥と雅の視線の先。
 そこには、買ったゲームを堂々と出して零次と握手を交わすセガールの姿があった。
「違う! 水島、お前、メギドの名が出ているのだからおよそ見当はついているんだろう! 誤解を招くようなことを言うな!」
「やけに焦るところが怪しいよー、くさぴょん。私はそれでもくさぴょんの親友だよ!」
「余計なことを言うな! そもそも、お前たちこそ何故ここにいる!?」
「私と雅ちゃんは沙耶ちゃんの付き添いなんだよ〜」
「ふっふー、私はこれを買いに来たのだっ!」
 沙耶は自慢げに鞄から、買ったゲームを取り出した。
「同人界では超有名な格闘ゲームっ! そのパワーアップ版が出たから、早速買いに来たのだっ!」
 ちなみに全年齢対象。
 堂々と言える辺り、沙耶は零次が言うところの『漢』の資格はあるようだった。
 対する零次は、お子様無用のソフトを手にした男と手を繋いだまま、声も出ない。
「これはっ……誤解だ! セガール、いい加減離せ!」
「何水臭いこと言っているんだ!? 俺とお前は最早魂を共にしたソウルブラザーだろう!」
「状況を飛躍的に悪化させる発言をするんじゃない!」
 零次の絶叫が、虚しく悲しく響き渡るのだった————。


 依頼達成確認。
 被害:久坂零次の心
 報酬:白木の湯無料使用券五回分
 備考
 セガールの妹(15)、グレる。
 久坂零次、一日家出。
 セガール、覚醒。
 以上、本日のメギドを終了致します。