異法人の夜-Foreigners night-

-日常編-
一戸家と山口家の事情(その4)
 病院の待合室は、重苦しい沈黙に包まれていた。
 何か聞きたそうにしている涼子、遥、零次。
 しかめっ面で口を硬く閉ざしている一戸親子。
 そして、病室から出てきたゆきね。
 それぞれが、異なる理由から沈黙している。
 気まずい沈黙を破ったのは、零次の一言だった。
「そろそろ落ち着いた頃だろうか」
 涼子たちは、一戸たちが徳子の説得に失敗したときの予備として来ている。
 徳子が落ち着き次第、病室に入って彼女に事情を説明しなければならない。
「うん……でも、すぐには難しいかも」
「構いません。今日一日で説得するわけでもないですし。今日は世間話でもして帰るつもりです」
 俯きがちに話すゆきねに、零次はいつも通りの冷静な声で返答した。
 確かに、先ほどの徳子の様子を見る限り、あまり刺激的な話題は避けた方が良さそうだった。
「それと、我々は貴方がたの内情について詮索するつもりはありません」
「うん。でも、黙ってたことは……」
「謝る必要もありません。あまり他人に話すことでもないでしょうから。妥当な判断だと、俺は思います」
「……ありがとう、零次君」
 そこでゆきねは、ようやくか細い笑みを浮かべた。
 涼子としては、やはり気になるのが正直なところだった。
 ゆきねの言葉をそのまま受け止めれば、彼女と一戸は兄妹ということになる。
 おそらく、一戸の父と徳子が、離婚したのだろう。
 徳子や神主の様子を見る限り、そう考えるのが一番妥当な線だった。
 しかし、隠されていたことは少し寂しい。
 本人たちの口から説明してもらいたい、と思うのだ。
 それでも、涼子は黙っていた。
 ゆきねの心境を考えると、ここでとやかく言ってはいけない。
「涼子ちゃんに遥ちゃんも、黙っててごめん」
「ううん。いいよ」
「私も。久坂君も言ったように、謝るようなことじゃないですよ」
 遥はしっかりとそう言った。
 不貞腐れたような返事をした自分に、涼子は情けなさを感じてしまう。
「まあ、面倒をかけることじゃし……あいつがああなった原因は、きちんと話しておこうかの」
 と、神主が口を開いた。
 一戸とゆきねは窺うような視線を自分たちの父親に向ける。
 神主は静かに頷いて応じると、口を開いた。
「伝六から聞いていると思うが、まあわしらの家は霊媒の力を持つ者が生まれやすい家でな。わしも伝六も、ゆきねも例外ではない」
「元々一戸神社というのは、室町後期の頃この辺りに流れてきた霊媒師が建てたものでな。それが、我らの祖先に当たる」
「うむ。しかしそんなもんなかなか他人に言えんじゃろう? だからわしは、徳子にそのことを黙っていた。……あやつと知り合ってから結婚するまでの長い間、ずっとな。今思い返してみれば、それがまずかった」
 神主の声が重くなる。
 一戸親子を化け物と呼んだ徳子。
 よほどのことがない限り、自分の夫と子供をそんな風に呼んだりはしないだろう。
 そう呼ぶだけの、何かがあったのだ。
「霊媒師は霊を知覚できる。そして霊というのは、自分を知覚してくれる者の元を訪れやすい。――――この意味が、分かるかね」
「……ええ」
 霊媒師の一家である一戸家には、多くの霊が集う。
 霊視能力を持たない者でも、ずっとそこで暮らしていれば、その霊たちとは無縁でいられない。
 それに一戸は先日、こうも言っていた。
 ――――霊の存在を意識すればするほど、霊の姿は見えやすくなる。
 徳子はおそらく、結婚後しばらくしてから一戸家の特異さに気づいたのだろう。
 最初は幽霊の気配を少し感じて、気のせいだろうと思う程度だったに違いない。
 しかし多くの幽霊が集まる一戸家では、気のせいだと思うだけで済むはずがなかった。
 次第にはっきりと見えてくる非現実的な存在に、徳子はどのような感情を抱いただろう。
 ……恐かったはず、よね。
 普通の感性を持つ者なら、恐怖を抱いて当然だろう。
 涼子も、最初は千恵の姿を見て肝を冷やした。
 ただ、涼子は身近に非日常の一例があった。
 だから、事情を説明されてからはすぐに適応することが出来た。
 ただ、徳子は違ったのだろう。
「あやつは何度もわしに相談してきてな。最近妙な気配がする、変な物音が聞こえてくる、と。それでもわしは、適当にはぐらかしていた。そのうち徳子は我慢しきれなくなって、家を出してしまった。生まれて間もないゆきねだけを連れてな」
「ゆき姉だけ?」
「当時の俺は、既に霊が見えるようになっていてな。あの人は、そんな俺を薄気味悪く思ったらしい。ゆきねを連れて行ったのも、俺のようになって欲しくなかったからなのだろう」
 遠い過去のことだからなのか、一戸はどこか他人事のように語った。
 ゆきねは申し訳なさそうに顔を伏せている。そのことで、後ろめたさを感じているようだった。
「しかし、ゆきねもやはり一戸の血を引いていたということなのか……」
「私も、幽霊とかが見えるようになって。お母さんにそのこと言うと凄く怒るから、あんまり言わないようにしてたんだけど」
「ゆきねも霊媒能力を得た……つまり、ゆきねの元にも幽霊が集まるようになって来てな」
「当然、徳子さんにも影響が出た……」
「そういうことじゃ」
 神主はお茶を飲み干すと、両腕を組んで目を閉じた。
「それでもゆきねは手際よく霊たちの相手をしておった。徳子の負担があまり大きくならんようにな。そう……つい数年前まで、ずっと順調じゃった」
「……つい、数年前」
 それがいつ頃のことか、涼子には見当がついた。
 最初、涼子がゆきねと知り合った頃には、徳子も『夢里』の店長として元気にやっていたのだ。
 しかし、ある時期を境に突然姿を見せなくなった。
「それって、先輩が夢里をやめた頃のこと?」
「……うん」
 徳子が店から消えたのとほぼ同時期に、梢も夢里を去った。
 ゆきねも沈みがちな表情を浮かべることが多かったため、その頃は店内の空気がとても暗かった。
 だから良く覚えているし、当時は涼子も気にしていた。
 ――――なぜ徳子が姿を消し、梢が夢里から距離を置くようになったのかを。
「霊には大まかに二種類あってな。所謂善玉と悪玉じゃ。悪玉ってのは善玉が長年成仏出来ない場合に転化するもんでな。この辺りの霊はわしらが面倒見てるから悪玉になる前にほとんど成仏するんじゃが……どっから流れてきたのか、厄介な悪玉が現れおった」
「そいつが、俺かこの爺のところに来ていればまだ良かった。俺たちは悪玉相手の専門家ではないが、それなりに対応策を持っているからな。……だが」
「狙われたのは、ゆき姉と、徳子さんだった……?」
「そういう、ことだ」
 一戸が吐き捨てるように言う。
 その悪玉が、今も目の前にいるかのような形相だった。

 病室の中は広く、静かで、そして白かった。
 病院全体がそのように造られているのだが、この部屋に入ると、一段とそのことを意識してしまう。
 ベッドの上には、小柄な人影が一つ。
 それが徳子であることに、彼女を知っている涼子でさえ、気づくのに数秒の時間を要した。
「……徳子さん?」
 確認するような涼子の声に、徳子は反応を示さない。
 虚ろな眼差しを正面に向けたまま、微動だにしなかった。
 徳子が涼子たちに気づいたのは、ベッドの隣にある椅子に三人が腰を下ろしたときだった。
「あら……」
 抑揚のない声。
 感情の消え失せた顔が、涼子に向けられる。
 その表情に、薄っすらと笑みが浮かんだ。
「久しぶり……涼子さん」
「……本当に、お久しぶりです。徳子さん」
 余分の肉が一切ない、骨と皮だけのような顔。
 ところどころ白くなった髪の毛。
 病的な青白さの肌。
 どれを取っても、昔日の徳子とはかけ離れていた。
 それでも、徳子は嬉しそうだった。
 どこか茫洋としているが、涼子の姿を見たことで、喜びを感じているようだった。
「大きくなったわね……今、何年生?」
「ええと……高校三年です」
「あら。それじゃこの時期は大変ね。受験も近いでしょう……ああ、でも涼子さんなら大丈夫かしら」
「いえ、そんな。四苦八苦してるところですよ」
 話しているうちに、涼子は少しずつ慣れてきた。
 見た目は大分変わってしまったが、こうして普通に話している分なら問題はない。
 先ほどの剣幕を見た遥と零次は驚いているようだったが、徳子は本来このように上品な話し方をする女性なのだ。
「そちらの方々は……涼子さんのお友達かしら?」
「あ、すみません。ええと、こっちは久坂零次さん。私の友達。それでこっちが私の姉さん」
「久坂零次です、はじめまして」
「はじめまして、遥です。よろしくお願いします、徳子さん」
「……あらあら」
 どことなくゆきねと似た口調で、徳子は驚きを表した。
「お姉さん? でも涼子さんは……」
「いろいろと複雑な家庭の事情がありまして。私自身昨年になってようやく知ったんですけど」
「そうなの。でも、良かったわ」
 徳子はしみじみとした様子で言った。
「……姉妹一緒にいられる。それって、本当に素晴らしいことだもの」
 どこか懐かしむように、徳子は窓の外へと視線を向ける。
 そこにあるのは広がる大空と、紅く染まりつつある木の葉の姿。
 秋の到来を感じさせる風景を見ながら、徳子は涼子に問いかけた。
「そういえば、お店の方はどうかしら。皆元気?」
「結構人、替わりましたよ。徳子さんのいた頃のメンバーは、私とゆき姉、唐沢さんぐらいです」
「ええ、ゆきねから聞いてるわ。最近、面白い子が入って来たんですってね」
「緋河君ですね。今度連れて来ましょうか、隣の部屋なんですよ」
「ふふ、どうしようかしら。……でも、楽しそうで良かったわ」
 それは店長としての言葉なのか、それともゆきねの母として、涼子のことを可愛がってくれていたおばさんとしての言葉なのか。
 どちらにせよ、涼子は嬉しかった。
 その言葉のうちに、数年振りの徳子の温かみを感じられたから。
「そういえば、美緒さんは元気かしら。あの子も涼子さんと同じ年だから、今は大変かしらね」
「んー、そうでもないですよ。ね?」
 自分ばかり話すのも何だと思い、涼子は隣の二人に話を振った。
「ええ。元気過ぎて皆が困っているほどです」
「あはは……久坂君てば。でも、確かにそうかも。内部進学だから楽勝、とかなんとか」
「あの子らしいわね。二人は、美緒さんとも親しいの?」
「親しいっていうか……私と久坂君は榊原さんの家に厄介になってるんです。だから、家族みたいなものです」
「そうなの……」
 榊原の家に厄介になっている、という言葉から、遥や零次の境遇を察したのか。
 徳子は少し気の毒そうに二人を見た。が、遥や零次の表情が明るいのを見て、すぐに頭を振って笑みを戻した。
「榊原さんもお元気かしら。昔は、時々お店に来てたんだけど」
「そうなのですか? 初耳です。榊原氏は……少々、我々には計り難いお人なので」
「あ、あはは……」
 遥は笑って誤魔化すだけで、零次の発言を訂正しようとはしなかった。
「……"皆"元気そうで良かった」
 ぽつりと、徳子が呟いた。
 心底安堵したような表情を浮かべながら。
 しかし、皆と言うには一人足りない。
 涼子と徳子が知る人で、話題に上がっていない人が一人いる。
 徳子はかつて、彼を涼子と同じくらい可愛がっていた。
 彼もまた、徳子とは親しい付き合いをしていた。
 まるで親子のように――――というのは言い過ぎかもしれない。
 しかし、ここで話題に上らないような仲ではなかった。
 忘れてしまうような間柄ではない。
「あの……徳子さん」
「ん?」
「……せんぱ」
 言いかけた涼子の口を、零次が塞いだ。
 その目は、決して話すなと言っている。
 涼子は遥を見た。しかし彼女も、静かに頭を振る。
 止むを得ず、涼子は話題を変えた。

 その日から一週間、涼子たちはメンバーを入れ替えながら、徳子の見舞いに行くようになった。
 しかしその間、彼のことが話題に上ることは、一度もなかった。

「俺と徳子さんが知り合ったのは、昔俺が料理に熱中してた頃でな」
 夕暮れ時、榊原邸の縁側。
 今日も遥や零次は、涼子と共に徳子の元に向かっている。
 最近ではメンバーも増え、天夜や詩巳、沙希なども行っているらしい。
 梢は一人、榊原家で留守番だった。
 否、一人ではなかった。
 千恵がいる。
 徳子がまだ千恵と会える状態ではないため、彼女は病院に出向くことが出来ない。
 一戸や神主もずっと暇というわけではないので、千恵は時折こうして榊原家にやって来ていた。
 梢は他のメンバーと比べると幽霊に対する認識が深いため、千恵のこともはっきりと知覚することが出来る。
 千恵の言葉も、なんとなくだが分かる。
 彼女は梢から、いろいろと話を聞きたがった。
 今日は、徳子のことを尋ねてきた。
 おそらく、梢が徳子と面識があることをどこかで知ったのだろう。
「ゆき姉の料理にピンときて、無理言って『夢里』で働かせてもらってたんだよ。側で見ることで料理の技を盗んでやるってな。素直に教えてもらえば良かったのに、照れ臭かったんだろうな」
 梢の話を聞きながら、千恵は数秒置きに頷いていた。
「でまぁ、そんな俺に良くしてくれたんだよ、徳子さんは。学校との間に立って、俺が『夢里』で働けるように便宜図ってくれたり。ゆき姉と一緒になって、俺や冬塚に料理教えてくれたりもしたっけな」
「……」
「ん、最近か? 最近は……会ってねえなぁ。ちと、気まずくなっちまってよ」
 梢は寂しげに笑って、脇に置いていた茶を飲む。
 風に舞う木の葉を見つめながら、静かに言った。
「何年か前、俺とゆき姉と徳子さんで夜道を歩いてたんだ。バイトの帰り、人気のない場所だったかな。……そこで、性質の悪い悪霊が現れてな」
「……」
「多分、霊感の強いゆき姉を狙って来たんだろう。それで……まあ、その場にいた俺としては、全力で二人を守ろうとしたわけだ。何もかも、あらゆる力を出し尽くしてな」
「……」
「……俺が全力を出すってことは、ちょっと普通じゃないことなんだ。化け物と言われてもおかしくない、むしろ化け物と呼ばれるしかないようなことなんだよ。それを、俺は二人の前でやっちまった」
 二人を抱えて住宅街の屋根を疾走し、追ってくる悪霊目掛けて何度も具現化した植物を叩き付けた。
 梢が持つ異能の力――――異法の力を、一切隠さずに使ったのだ。
「でも、俺は普通じゃないけど、相手も普通じゃなかった。俺が何やっても向こうは倒れない。こりゃもう駄目かと思ったとき、駆けつけてきた一戸の旦那に助けられたんだ」
「……」
「それで何で気まずくなったかって? そりゃ……恐かったんだろう。その事件以来、徳子さんの心は壊れちまった。でかい傷跡がくっきり残ってるんだ、今も」
「…………」
「んー、つまり、誰にだって触れて欲しくないことってあるだろ? それに触れられると、嫌だろ。徳子さんの場合、それが半端ないんだよ。幽霊、それと関わってる一戸の旦那親子、それに化け物じみた真似を目の前で仕出かした俺。どれも、徳子さんにとっては葬っておきたい事柄なんだ」
「………………」
「悲しそうな顔すんな。会えるさ、きちんとした形で。そのために、皆頑張ってくれてる」
 徳子が幽霊を嫌っていると言われ、千恵は寂しそうに肩を落とした。
 梢はそんな彼女に笑みを向けて励ます。
 しかし、その光景を別の誰かが見ていたら気づいただろう。
 梢の方も、とても悲しそうな顔をしているということに。

「こんなんで効果あるのか?」
 七度目の見舞いを終えた帰り道。
 詩巳と沙希がいなくなった頃を見計らって、天夜がぽつりとそう漏らした。
 彼は当事者の一人ということもあり、一戸から事情を聞かされている。
「見舞いに行って世間話ばかり。これで解決するとは思えないが」
「……確かにそうだな。そろそろ、何らかのアクションを取らねばなるまい」
 零次は天夜の意見に同感らしく、難しい表情で腕を組んでいる。
「でも、もうちょっと様子を見てから……」
「いつまでだ。急いては事を仕損じるというが、いくらなんでものんびりし過ぎだろう」
「うーん、それはそうなんだけど」
 涼子としては、話を切り出すきっかけが欲しかった。
 迂闊な行動を取り、取り返しのつかないことになってしまうのは避けたい。
「……あと二、三回行って話すきっかけを作ってみる。緋河君には迷惑かけるけど……」
「別に迷惑じゃない。あの幽霊は、もう俺の部屋にはいないからな。俺がこの件に付き合ってるのは、別の理由だ」
「え?」
 意外な返答に、涼子は戸惑った。
 零次や遥も同様らしく、問いかけるような視線を天夜に投げかけている。
 それに気づいたのか、天夜は頬をかきながら明後日の方向を見て、
「なんていうか、すっきりしないんだよ、いろいろと。それに……あの幽霊だって放っておけば、いつかは悪霊になる可能性があるんだろう? 一応俺に助け求めてきたわけだし、それが悪霊になって彷徨うなんてことになったら、寝覚めが悪い」
「……そうだね」
 千恵は既に半世紀前後彷徨っている霊である。
 善良な霊魂が悪霊に転化する速度には個人差があるが、突然変わるケースもあるらしいので、あまり悠長に構えてはいられない。
 千恵が千恵でいられるうちに、会わせてあげなければいけない。
「徳子さんに必要なのは、会話だと思うな」
 それまで黙っていた遥が、不意に声を上げた。
 三人は一斉に振り返り、彼女を見る。
 遥は服の裾をいじりながら言った。
「あの様子だと、徳子さんは何も聞かされてないと思うの。一戸先生の家系のこと、幽霊のことを。知らないから、恐いと思うんだよ」
「しかし、あの様子じゃ説明するのは難しいと思うが……」
 最初の日に徳子が見せた剣幕を思い出してか、零次が重い声を出す。
 遥はそれに対して、強く頭を振った。
「でも、言わなきゃ。きちんと説明して、納得してもらわなきゃ。下手に誤魔化して千恵ちゃんと会わせても、それはきっと彼女が望む再会にはならないよ」
「そうだな。だが遥さん、何か考えでもあるのか?」
「……私たちで神主さんと徳子さんを引き合わせるんだよ。お互いがお互いと向き合って、逃げ出さなくなるような状況で」
 遥は全員を見回して言った。
 確かに、それが一番だろう。
 ただし、成功するという確信があれば、の話である。
「……やってみましょうか」
 呟いたのは涼子だった。
 口元に手を当て、目を伏せている。
 何事かを思索しているようだった。
「出来るのか?」
 天夜が疑問の声を上げる。
 涼子は目を開いて頷いた。
「そのつもりでやってみる。具体的なプランは、明日までに考えるわ。もしかしたら皆に協力を頼むことになるかもしれないけど……」
「構わん。助力は惜しまんつもりだ」
「乗りかかった船だ。後悔しないためにも、手伝おう」
「うん。出来ることがあるなら、何でもするよ」
 そう言って、四人は拳を打ち合わせた。
 この一件を解決するための決意を、胸に宿しながら。