異法人の夜-Foreigners night-

日常の欠片-Fragment-
榊原遥

 ――――――――――式泉姉妹の休日模様

 凄い人の数だった。
「相変わらずハルコは人が多いねー」
 横から呆れたような声が聞こえてきた。
 雅ちゃんだ。
 今日は比較的ラフな格好の模様。
 熱対策のためか帽子をかぶっている。
「それで、どこへ行くんだい?」
 人込みに辟易しつつ、雅ちゃんは私たちに尋ねてきた。
 答えるのは涼子ちゃん。
「まずは服を見て回ろうかと。姉さんってイマイチ服装地味ですからね」
「ああ、それは同感。遥はもうちょいオシャレしてもいいと思う」
 二人して頷きあっている。
 なんでこの三人かと言うと、本来は涼子ちゃんと二人で来たところ、雅ちゃんとばったり会ったのだ。
 雅ちゃんが暇そうだったので、涼子ちゃんの同意を得て誘い、それで今に至る。
 しかしこの二人、あまり面識はないみたいだけど……気は合うんだろうなぁ。
 どっちも頼れる姉貴分的気質の持ち主というか。
 私の方がお姉ちゃんなのに、涼子ちゃんに頼ってばっかりというか……。
「一応バイトしててお金も溜まったみたいですし。姉さんはまだ渋ってるようですけど、ここまで強引に連れてきました」
「なるほど、それでさっき会ったとき複雑そうな表情浮かべてたんだな」
 得心した様子で雅ちゃんは笑顔を見せた。
「でもなんで遥は地味なのばっか選ぶんだろうね」
「うーん……あんまり目立ちたくないんだよ」
「それならむしろ、適度なオシャレは必要だよ。遥、地味っていうか……はっきり言うと、ダサくて目立ってる」
 うぐ、直撃。
 雅ちゃんは遠慮なくズバッと言ってくるからなぁ。
 時としてそれが嬉しくもあり、時としてそれがきつくもあり。
「その点、冬塚は結構気を使ってるよな」
「そうですか? 私は標準だと思いますけど」
 そんな涼子ちゃんは、こざっぱりした印象の衣装だった。
 周囲を見渡せば、数人は同じような格好の人がいる。
 そういう意味では、確かに標準的かもしれない。
「服装はね。どっちかっていうと冬塚は素材――自分自身を磨いてるような感じだね」
「それは同感。涼子ちゃんって何着ても映えそうだし……なにより可愛いもんね」
「っ……姉さんも先輩もからかわないでくださいっ。私は必要最低限のことやってるだけですから」
 素直に褒められたのが照れ臭いのか、涼子ちゃんは足早に先へ進んでいく。
 その背中を追いかけながら、私と雅ちゃんは顔を見合わせて笑った。
「でも遥も素材はいいんだよな。そうだなぁ……着物とか似合いそう。成人式とか楽しみだねぇ」
「私なんかは全然だよ。そう言う雅ちゃんだって、綺麗な顔立ちしてるじゃない」
 さっき会ったときも、なんだかナンパされてるみたいだった。
 ……でも相手に一本背負いを放ってしまう辺り、雅ちゃんは別の意味でも凄いと思います。
「あれはさ、相手がしつこいからだよ。それに知ってる奴だったし」
「そうなの?」
「西園寺孝之って奴。家が地元の名士だからってんで偉そうにしてる小者。冬塚も以前しつこく言い寄られてたみたいだけど」
 雅ちゃんの言葉に同意するように、涼子ちゃんが振り返って溜息をついた。
「あのときはキツかったですよ。家までやって来ましたからね。窓開けると、下の方からじっと見てるんですよ……おまけに夜中に何度も玄関のドア叩くし。……最終的には先輩の力を借りて撃退しました」
 涼子ちゃんは基本的に人の力を借りたがらない。
 そんな涼子ちゃんが梢君に助けを求めるなど、よほどのことだったのだろう。
 さっき雅ちゃんに一本背負いされたときは可哀想と思ったけど、撤回しとこう。
 そんなことを話しているうちに、目的の洋服店へ到着した。
 うう、なんとなく気が進まないなぁ……。
 もしオシャレして、梢君とかに笑われたらどうしよう……。
 なにより恐いのは、
「さぁて、それじゃ」
「ドレスチェンジと行きますかー!」
 この二人、明らかに私を着せ替え人形にして遊ぶ気満々なのだった……!

「うう、汚れちゃった……」
「人聞きの悪いこと言いなさんな。可愛いのたくさん買えたじゃん」
「そうですよ姉さん、もっと自信持ってください」
「だからって、試着室に二人とも乗り込んでくるのはおかしいと思う……」
 もたもたしてた私も悪いと思うんだけど。
 それでも、いきなり入ってこられたら普通は恐い。
 おかげで私まで店員さんに注意されたし。
 今いるのはハルコ内にある蕎麦屋さん。
 やや値段は張るけど、梢君が保証するくらい味はいい。
 それにしても、二人とも凄く満足そうな顔だなぁ。
 このままやられっ放しは、ちょっとくやしい。
 でも私だと、この二人には敵いそうにない。
 相性の問題か、私がそういうキャラなのか。
 ……後者ではないと信じたいです、マル。
「そういや最近、倉凪の姿を見かけないね。元気してんの?」
「うん、相変わらず。最近はなんだか大河にはまってるみたい」
「おーおー、そういや今年の大河ドラマは評判いいからなぁ。大河としてみたらどうなんだって気もするけど、あたし的にはオッケーオッケー」
「あ、私の周辺でも評判いいですよ。演劇部の面々なんか、今年は幕末ものにしようって話もあるぐらいでして」
 なんだか盛り上がってるなぁ。
 私はその時間、丁度お風呂に入ってることが多いので内容はあまり知らない。
 家で見てるのは梢君とお義父さんくらいだし。
 でも二人が面白いって言うなら、私も見てみようかな。
「冬塚だったらリーダー気質あるから局長かな」
「だったら先輩が副長ですね。斎藤さんが監察とか!」
「いいねいいね、ただ名前だけで考えるとあいつは三番隊組長にすべきだぞ」
「でもそれなら藤田さんでもアリじゃないですか? 高坂さんはあれですね、十番隊」
「おいおい、あたしゃああいうキャラか? まぁ個人的に好きだからいいけど」
 ……話が分からない。
 仕方ないので蕎麦をズルズルと食べる。
 うん、梢君のお勧めだけあって美味しいなぁ。
「遥はどうだろね」
「姉さんですか? うーん……」
 と、話の矛先がこっちに来た。
「姉さんはどう思う?」
「えっと、私? ごめん、ちょっと話がよく分からなかったんだけど……」
「むー、そうか。どうします、高坂さん」
「遥に該当しそうなのが思い浮かばないなぁ。……そもそも遥じゃ入隊出来ないと思うよ、あたしゃ」
 むぅ。
 なんだか駄目と言われるとちょっと悔しい。
 何の話かよく分からないけど。
「姉さんは……えっと、おとぼけキャラだから……」
「涼子ちゃんさり気なくお姉ちゃんショッキングだよ」
「うーん、あのドラマだと……おとぼけ。おとぼけ……?」
 うう、無視されました。
 でも私、そこまでおとぼけじゃないと思うんだけどなぁ。
「局長副長とも親しくておとぼけとなると、あの人じゃない? 組の人間じゃないけど、ほら、姉貴がいたじゃん」
「ああ、そういえばいましたね。最近は出てきてませんが、確かにちょっと似てるかもしれません。姉さんがもうちょいアクティブになれば、ああいう感じでしょうか」
 まずい。
 なんだか知らないけど、私の知らないところで私のキャラが決定づけられようとしてるような。
 こうなったら、ちょっと話題を変えるしかっ……!
「ね、ねぇ。それなら『ジオジオの奇妙な冒険』だったら、私何になるかなっ?」
「……」
「……ごめん、あたし良く知らない」
「同じく」
 うっ、話題を振ってみたはいいけど通じてない。
 こういうときって無茶苦茶居心地が悪いんだよ……。
「それじゃさ、南斗の拳だったらどうかなっ」
「……」
「……」
「……ごめんなさい、じっとしてます」
 私のチョイスがそんなにおかしいのかな?
 美緒ちゃんに借りて読んでみたら、かなり面白かったんだけど……。
「冬塚、今後の目標が決まったね」
「そうですね。美緒ちゃんに毒されすぎてます。悪いとは言いませんけど、ジャンルが偏りすぎですね。……というわけで姉さん、今日一日私と高坂さんが付き合うからね」
「え、はい……?」
 その後、散々二人のオモチャにされるであろうことを予想しながらも、私には頷くしかなかったのでした。
 はう。