異法人の夜-Foreigners night-

日常の欠片-Fragment-
榊原遥

 ――――――――――それぞれの正月(榊原遥の場合)

 年が明けてから、まだそんなに日が経ってない頃。
 私は久坂君と一緒に、白木の湯へとやって来た。
 今日はフルケンメンバーの新年会。
 だから梢君とかは、今日はいないのだった。
 少し時間に余裕を持ってやって来たので、雅ちゃんたちはまだ来ていないようだった。
 私と久坂君はそれぞれゲームで時間を潰す。
 久坂君は格闘ゲームで早くも十人抜きを達成したみたいだった。
 一方私の方は、オンライン対応のクイズゲームに挑戦中。
 全国ランキングに挑むとなると、さすがにかなり大変だった。
 そんなことをしていると、見慣れた女の人が白木の湯に入ってくる。
 少し不安そうに周囲をきょろきょろと見ていた。
 私はすかさず、手を振りながら声をかける。
「アナスタシア先生、こっちこっちー」
 私の姿を見つけて、先生は明らかにほっとしたようだった。
 軽く手を振り返しながら、ゆっくりとこちらに歩いてくる。
「こんにちは、ハルカ。声をかけてくれてありがとうございます」
「いえいえ。先生はここ初めてですか?」
「ええ。ここに来るまでに少し迷ってしまいました」
 相変わらず、先生は日本語が上手い。
 言葉遣いは堅苦しいけど不自然ではない。
 発音もしっかりしているし、声だけ聞いていると生粋の日本人みたいである。
 私たちフルケンの顧問の先生、アナスタシアさんはそんな人だ。
「他の皆はまだ着いていませんか?」
「久坂君ならそこにいますよ」
 あちらも先生に気づいていたのだろう。
 片手でゲームを操作しながら、こちらに手を振ってきた。
「レイジは凄いですね。一度に二つのことを当然のようにやっている」
「そうですねぇ。私もああいう風にしてみたいなぁ」
「あれ、見習うとこかい……?」
 と、後ろから呆れたような声をかけられる。
 振り向くと、そこには雅ちゃんがいた。
「こんにちは、ミヤビ。今日も元気そうでなによりです」
「先生も。正月はどうしてました?」
「私は本国に戻っていました。こちらに戻ってきたのは一昨日です」
 先生の家族はロシアにいる。
 どういった事情で日本へとやって来たのかは知らないけど、ちゃんと戻っている辺り家族仲は良さそうだった。
「ミヤビやハルカたちはどう過ごしていましたか?」
「あたしの方は普通ですかね。家族と初詣行って、雑煮とかおせちとか食って。あとは遥の手伝いかな」
「おお、日本の神社ですね。ハルカ、年明けは大変だったでしょう」
 私は一戸神社の関係で、年末年始はちょっと忙しかった。
 その分バイト代はいつもと比べ物にならないくらい貰えたけど。
「平気でしたよ~。雅ちゃんや涼子ちゃんも手伝ってくれましたし」
「普段なら考えられないぐらい参拝客いたけどね。なんていうか、日本人の宗教観がちょっと奇妙に思えたよ」
「それは私も思いました。日本の方々はあまり宗教という概念を好まない、もしくは曖昧に捉えている傾向にあるようですね」
 そうなのかな。
 私はあんまり気にしたことはなかったけど。
 うちはなんだろう。神道か仏教辺りなぁ?
「ともあれ、ハルカもミヤビもお疲れさまでした。ご褒美に私からお年玉代わりです」
 そう言って先生は、ポケットの中から三つの紙袋を出した。
 そんなに大きいものではない。
「この中から一つずつ選んでください。残り一つはサヤの分です」
「んー、それじゃあたしはこれ」
「じゃ、私はこれかな」
 適当に手に取ってみる。
「開けてみていいですか?」
「構いませんよ」
「それじゃ……わっ」
「どうしたんだい、遥。……って、うわ」
 私たちは揃って驚く。
 中に入っていたのは、とても綺麗なアクセサリーだった。
 私の取った袋からはエメラルドのネックレス。
 雅ちゃんの取った袋からは、金と銀のイヤリングが出てきた。
「先生、これって凄く高いんじゃ……」
「気にすることはありません。父方の実家がアクセサリーショップを経営していまして。そこの商品なのです」
「はぇー……でも、凄く立派そうですね」
「ふふ、賛辞の言葉、ありがたく受け取っておきます。今度戻ったときに伝えておきましょう」
 先生はちょっと誇らしげに胸を張る。
 実際、胸を張れるだけの物だ。
 これってかなり高かったんだろうなぁ。身内だからってタダでくれるとは思えないし。
「ちなみにレイジとシロウには別のプレゼントを用意してあります。こうしたアクセサリーだと貴方たちはあまり合わないでしょうし」
「お気遣い感謝します、アナスタシア先生」
 いつのまにかゲームを終えて、久坂君がやって来ていた。
 改めて雅ちゃんと先生に挨拶をする。
「久しぶりだね、久坂。あんたは相変わらずかい?」
「肯定だ。レポートの課題も早めに済ませたから、今は比較的ゆったりしている」
「あぁ……忘れてたかったんだけどねぇ」
 雅ちゃんが苦笑いを浮かべる。
 久坂君が言っているレポートというのは、私たちが一緒に取っている講義のものだ。
 外国語に関するものなので、久坂君はさっさと済ませてしまったのである。
 私も久坂君のサポート付きで終わらせることが出来た。
 けど、雅ちゃんはまだのようだった。
 それと知って、久坂君がちょっとだけ意地の悪い笑みを浮かべる。
「クク、高坂よ。ファンシーショップ巡りをしている暇はないぞ? もうすぐ提出日なのだからな」
「ぐっ、さては沙耶から聞いたね……!?」
「否、藤田からだ。昨日、偶然町中で鉢合わせしてな。軽く互いの近況を教えあったのだ」
 言われて、雅ちゃんは押し黙った。
 そこに藤田君がやって来る。
「おーっす、皆揃ってるな? あ、なんだ水島の奴がいない……の、か?」
 藤田君の声が次第に小さくなっていく。
 雅ちゃんに半眼で睨まれていると気づいたからだ。
「あ、あれ? 高坂、何を怒って……」
「人の秘密の趣味を、気軽にホイホイ言うんじゃねぇー!」
「げほぁっ!?」
 藤田君が豪快に吹っ飛ばされていく。
 丁度やって来た沙耶ちゃんと激突し、二人は派手な音を立ててゴロゴロと転がっていった。
「これはミヤビが強いのでしょうか。シロウが弱いのでしょうか」
「雅ちゃんが藤田君に強いんだと思います……」
「――――なるほど。ハルカ、貴方は頭がいいですね」
 真面目に感心されても困るなぁ。
 ともあれ、私たちはこんな感じで新しい年を始めることになりました、マル。