異法人の夜-Foreigners night-

日常の欠片-Fragment-
久坂零次

 ――――――――――零次、遠き地を思うの巻

 最近修羅堂に来ると、よく沙希と遭遇する。
 以前から懐かれてはいたが、最近は本当に兄代わりにされているようだ。
 俺がそこまで慕われるというのが解せんが、悪い気はしない。
 うむ、義兄弟とはいいものだ。
「お兄さんは、何か義兄弟に思い入れでもあるんですか?」
「よくぞ聞いてくれた。……沙希よ、お前は三国志を知っているかな」
「えっと、有名な人なら知ってます。劉備、曹操、孫権ですよね」
「ああ。劉備が関羽張飛と共に義兄弟の契りを交わしたことは有名だろう。まぁ後世の創作かもしれんが、あのようにして生死を共にする相手がいるというのは良いものだとは思わんか」
「うーん。生死を共にっていうのはよく分かりませんけど……確かに良いお話だと思います」
 共感を得られて何よりだ。
 沙希に言うことは出来ないが、俺が劉備らに惹かれたのは自分にないものを感じたからだ。
 かつて異法隊にいた頃は自分の殻に閉じこもってばかりだった。
 彼らのような深い絆を得たことなどない。
 だから……きっと、羨ましかったのだろう。
「そういえばお兄さんはあちこち飛び回ってたんですよね? 三国志とかって、中国で読んだんですか?」
「いや、そういった文芸作品に関心を示したのは帰国してからだな。それまでは関心を向けるゆとりがなかった」
 というか、三国志は中国で読まなければならないものでもないだろうに。
 ギリシャ神話がギリシャ限定と言っているようなものだぞ。
「いいなぁ。……私も、一度でいいから外国へ行ってみたいです」
「大変だぞ。国によって文化も異なる。空気そのものが違うから、一ヶ月は経たないと馴染めない」
「うー。私英語苦手だけど、大丈夫ですかね」
「言語関係でお困りなら俺がサポートしてやろう。なに、これでも各地を渡り歩いた身だ。英語中国語ドイツ語フランス語その他諸々は任せておけ」
 もっとも、しばらく使っていないので錆び付いているかもしれないが。
 それにあまり向こうでは必要以上に口を利かなかったからな……。
「お兄さん、どこかオススメの国ってありますか?」
 興味津々といった様子で沙希が尋ねてくる。
 貧乏生活のせいで苦労しているが、沙希も色々なことに興味が向く年頃なのだろう。
「そうだな……アメリカは陽気で面白い国だが、犯罪に合うかもしれん。カナダなら銃による事件も少なく安全だと思うぞ」
「ヨーロッパとかだとどうですか?」
「ふむ。個人的に気に入ったのはイタリアか。イギリスやフランスはまだ行ったことがないな」
 俺も詳しくは知らなかったのだが、イギリスやフランスは異法隊とは別組織の縄張りらしい。
 そのため異法隊支部が存在しなかったばかりか、迂闊に立ち入ることさえ禁じられていた。
 イタリア内も厳しくエリア分けされていて、当時は不便に感じたものだ。
「ああ、そうそう。言うまでもないことだが、危険な国に行くことはオススメせん」
「そうですね。最近は物騒ですから」
 奥の方からニュースキャスターの声が聞こえてきた。
 どうやらまたどこかでテロが起こっているらしい。
 俺としては彼らのことを一概に凶悪犯とするつもりはないが、現状は嘆かわしいと思う。
 と思っていたら、店長はすぐさまチャンネルを変えてしまったらしい。
『テュルルン☆ 魔法少女サキ、始まるよっ!』
 ……。
 あ、沙希が怒ってる。
「お兄さん、ちょっと失礼しますね」
「……殺さないようにな」
 にっこりと笑顔を作って、沙希は奥の方へと姿を消す。
 やがて店長の悲鳴が聞こえてきた。
「ちょっ、偶然だって偶然! たまたまチャンネル変えたらこれやってて、たまたま沙希と名前同じだったってだけで……!」
「じゃあこのビデオテープ何? しっかりと魔法少女サキって書いてあるわよ……?」
「……これは子供向けと見せかけて大人向けなんだよ! 実は感動と熱血、そして荒くれどもの物語なんだ!」
「開き直っても駄目なんだからぁぁぁぁ!」
 ぱりん、とガラスが割れる音が聞こえた。
 やれやれ、仲の良いことだ。
 しかし、外国か。
 俺は殻に閉じこもってばかりいた。
 だが、それでも俺を気にかけてくれた奴も何人かいた。
 彼らには随分な態度を取ってしまったものだ。
 今の俺を彼らが見たら、どんな反応をするのだろうか……?
 と、沙希が戻ってきた。
 肩をがっくりと落としながらも、両手にはビニール袋。
 中身はおそらくビデオテープだろう。
 沙希は疲れたような顔で外に出て、やがて手ぶらで戻ってきた。
 そんな彼女の頭に手を乗せ、
「沙希。今度機会があれば一緒に行ってみるか」
「え、えぇっ!?」
「俺も久々に懐かしい顔を見たくなってしまった。……彼らは元気にしているかな」
 変わった自分を見せたいのと、単純に顔を見たいのが半々だった。
 さて、彼らは皆、無事に生き残っているだろうか――――。