異法人の夜-Foreigners night-

日常の欠片-Fragment-
冬塚涼子

 ――――――――――久坂零次とお菓子の部屋


 なんか、とんでもないことになっていた。
「……あー、そこの久坂零次。止まりなさい、今すぐ止まりなさい、一時停止!」
「む」
 私の言葉が不満だったのか、零次さんは面白くなさそうな顔をしている。
 だがそんなことには構っていられない。
 私は彼がいじっていたものを指差して、
「零次さん。……これ、何?」
「文化祭の出し物に決まっているだろう」
「私にはロボットのオモチャにしか見えないんだけど」
「それでいいのだ。うちのクラスは自作の品を競い合うイベントを開催するのだからな」
 と、零次さんは周囲にいるクラスメートたちに視線を向けた。
 彼らも零次さんと同じように、色々なものを作ろうとしているようだ。
 でも、統一性がまるでないような。
「工藤はスライム、峰岸は空き缶でコ○助を作るつもりのようだな。凄いのは宮田だ。彼女は様々な洋菓子を組み合わせて『お菓子の部屋』を製作するらしい」
「……凄く甘ったるそうな匂いがするんだけど」
「うむ。しかし作業効率はあまり良くないな。味見と称して先ほどからつまみ食いをする男子が増えてきている」
 見ると、今もこっそりとクッキーで出来たテーブルらしきものをつまみ食いしている男子がいた。
 それを注意する者はいない。
「あれ、宮田さんは?」
「先ほどつまみ食いした東上を追いかけ回している。まぁいつものことだ」
 フッ、と零次さんは爽やかな笑みを浮かべる。
 思った以上にクラスに溶け込んでいるようで、ちょっと安心する。
 けど、予想以上にカオスワールド化してるなぁ。
「生徒会としてはもう少し統一性を出して欲しいような気もするんだけど……まぁ、あんまり硬いこと言っても仕方ないかな」
「大目に見てもらえると助かる。……さて、これをこうして」
 零次さんがパカッとロボットを開いた。
 内部構造が若干明らかになる。
 ……なんか、凄く複雑そうなんだけど。
「ねぇ零次さん。それ、プラモデルじゃないの?」
「違う。プラモデルは造形美を重視したものだが、俺はそれだけでは満足せん。これは造形美と機能美を兼ね備えた、限りなく本物に近い代物なのだ」
「性能とかも本物に近づけるってこと? それって凄く難しいんじゃ……」
 そもそも、二足歩行ロボットなんてアニメの産物ではないのか。
 最近は現実でもあるにはあるけど、やはりビームライフルを撃ったり、空中を飛び回ったりはしないと思う。
 そんなことを考えていると、零次さんが不敵な笑みを浮かべた。
「アニメと同じような性能は出せまいと思っているな? いいだろう、では見せてやろうではないか!」
 零次さんは勢いよく立ち上がり、教室のど真ん中で吼えた。
 周囲の視線が一気にこちらへ集まる。
「おー、久坂がまた何かしようとしてるぞ」
「あいつ確かス○ープ○ッグ作ってたよな。どんぐらいのもんになったんだ?」
「マジモンとほぼ同程度のことするに五百ケロ!」
「んじゃ私、四十ポッチね」
「えー、ちょっと久坂君。また被害大きくしない?」
「うう、とりあえず私の電流イライラ君避難させとこう……」
 あちこちからそんな声が聞こえた。
 なんとなく、クラス内で零次さんがどんな位置にいるか分かった気がする。
 っていうか電流イライラ君って何?
「うむ、皆も期待しているようだな」
「明らかに違うわよっ!」
 零次さん用のハリセンでツッコミを入れておく。
 頑丈なだけに、さして反応がないのが辛い。
「では開始だ!」
 零次さんが声を張り上げ、手にしたリモコンを動かす。
「まずは手始めに……アームパンチ!」
 掛け声と同時にロボットが走り出す。
 ぎこちなさが全くない。
 まさにアニメのロボットのようだった。
 ……ちょっと凄いかも。
 ロボットは、地面に投げ捨てられていた雑誌に向かっていく。
 結構分厚いものなので、小さいロボットが殴るには丁度いい。
「いけっ!」
 ロボットが滑らかな動きで腕を振り上げる。
 その動作に、私を含め、教室中から感嘆の声が漏れた。
 ――――刹那、風を切るような音が教室に響き渡った。
「……え?」
 気づけば、雑誌がどこにも見当たらない。
 ロボットは拳を突き出した姿勢のまま静止している。
 けど、今聞こえた音は尋常なものじゃなかった。
 なんだか突風でも巻き起こったみたいな……。
「げえっ!?」
 と、教室の一角から男子の悲鳴が聞こえてきた。
 皆の視線がそちらへ向かうと、彼は怯えたような顔である場所を指差した。
 つられてそちらを見る。
「……げっ」
 私も同じような声を上げた。
 おそらく誰もが同じような表情を浮かべているだろう。
 ロボットが殴りつけた雑誌は、こともあろうに――――。
「はぁっ、はぁっ……全く東上の奴、私の極楽浄土をつまみ食いするなんて……ん?」
 間の悪いことに、宮田さんが帰ってきてしまった。
 教室に入った彼女は真っ先に、自分が作っていた『お菓子の部屋』を見る。
 それは、一冊の雑誌によって無残にも打ち砕かれていた。
 ぴしりと、彼女の表情が固まる。
「ど、どういうこと? 宮田さん怒らないから、誰がやったか教えてくんないかなぁ?」
 彼女に言われて、教室中の視線がある人物の方へ向けられた。
 即ち、リモコンを持ったまま硬直している零次さんへと。
 宮田さんは笑顔で零次さんの前にやって来た。
 ただしポキポキと指を鳴らしながら。
 よく見ると、こめかみの辺りに青筋浮き出てるような。
「何か、言い残すことある?」
「……争いとは虚しいものだな」
「あんたが言うなああぁぁぁぁっ!」
 脂汗を浮かばせる零次さんの顔面に、見事なストレートが入るのでした、マル。