異法人の夜-Foreigners night-

日常の欠片-Fragment-
冬塚涼子

 ――――――――――涼子の節約生活

 困ったことになった。
 実は現在、お金があまりない。
「……えらくどんよりしているな」
 怪訝そうな顔を浮かべる零次さんが目の前にいる。
 きっと私、物凄く疲れたような顔してるんだろうなー。
「今月、生活がピンチなのよ」
「そうなのか?」
「そうなの。元々あんまり余裕のある生活じゃなかったんだけどね。ちょっと予想外の出費が」
 それは今月初頭のこと。
 姉さんの誕生会があったのだ。
 もっとも、実際に生まれたのが何日かは分かっていない。
 姉さんが今誕生日としているのは、先輩に助け出された日なんだそうだ。
 私は妹として、初めて誕生日を迎える姉に対して豪華なプレゼントを贈った。
 今まで渡せなかった分、姉さんの年齢の分だけプレゼントを贈ったのだ。
 つまりプレゼント十九連発。はっきり言って、自分でもなぜそこまでしたのか分からない。
 まぁ姉さんが喜んでくれたからいいんだけどね。
「お前は何かに取り組むと徹底する性質だな。そしてそれを無事完遂するが、終わった後で苦労する」
「分かったみたいなこと言わないでよ……今実際に困ってるんだけどさ」
「金を貸して欲しいなら請け負うぞ。俺も一応修羅堂でバイトをしているから、多少の金はある」
「そういうのはいいの。私、小さかろうがお金の貸し借りは絶対しないって決めてるから」
 とは言え、叔父さんたちの仕送りはあと一週間後。
 バイトの給料日もまだだし、しばらくは節約生活をしなければならない。
「ならば冬塚よ、これを使うがいい。役に立つぞ」
「……? これ、何?」
「銛だ。これで海産物を取りまくるといい。節約生活と言えばコレだ」
「秋風市に海ないじゃない」
「ハッ……!?」
 素でショック受けてる。
 ひょっとして、すっかり忘れてたんだろうか。
「ま、今が冬や夏じゃないのが救いね。エアコンつけなくてもいいし」
「冬塚。鶏はいるか? いるなら探してくるが」
「うちはネコだけで充分よ。っていうか勝手に話進めないでってば」
「むぅ……何が気に入らんのだ」
「いや、気に入らないとかそういう問題じゃ……くあー!」
 駄目だ。
 零次はたまに話がまるで通じなくなるときがある。
 これじゃいつまで経っても話が進まない。
 と、零次が立ち上がった。
「喉が渇いた。水を一杯いただいても、」
「駄目」
 ぬぅ、と零次は困ったような表情を浮かべた。
「やはりお前は物事を徹底してやるタイプだな。水の一杯ぐらい、いいではないか」
「だったら榊原屋敷で飲んでよ。うちは今節約中なんだから」
「……ケチ」
「ぐっ……わ、悪かったわね!」
 だって仕方ないじゃん。
 もう財布の中、寒いんだもん。
 そのとき、チャイムが鳴った。
 誰か来たのだろうと玄関の扉を開けると、そこにはお隣さんの緋河君がいた。
 彼は醤油瓶を手にして、
「すまない、醤油が切れたので少しばかりもらいたいんだが」
 ぐぅ。
 こ、これは何かの罠でしょうか先生……!
 ここで貸さないを選択すると、背後の零次にケチ呼ばわりされてしまう。下手すれば緋河君にもだ。
 かと言ってここで貸すと、私の方がやばい。
 うちはうちで醤油が残り少ないのだ。
 さて、どうしよう。
 ――――なんて迷ったのは、ほんの一瞬だった。
「明日の午後五時から商店街のスーパー『ヒロシ』でタイムセールやるからそこで買って。以上」
「……え?」
「よろしくっ! それじゃっ!」
 緋河君に何か言われる前に扉を閉めた。
 自然、零次さんと向き合う形になる。
「あ、あはは……親切って、すると気分いいなぁ!」
 誤魔化すように笑う。
 が、零次は哀れむような視線をこちらに向け、次いで嘆くような仕草をしながら、
「お前は徹底したケチだな――――!」
「うわあぁぁん! 言わないでよぉぉ!」
 ……その後しばらく、私は周囲からケチ扱いされることになったのだった。