異法人の夜-Foreigners night-

-日常編-
クリスマス奮闘記
 矢崎亨は悩んでいた。
 今彼は一人、部屋で腕を組み考え込んでいる。
 そこに、この家を事実上取り仕切っている倉凪梢がやって来た。
「亨、風呂空いたから入ってくれ」
「あ、はい。分かりました」
 亨は振り向き返答した。
 が、そこに梢の姿は既にない。
 慌しく台所の方へと向かった。
 夕食の準備が忙しいのだろう。
「うーん」
 そんな梢を見ていると、亨は妙に引っかかるのである。
 ――――僕らは梢さんに甘えすぎてはいないだろうか、と。
 榊原家の居候ということで、立場は亨と変わらない。
 だが梢は家事全般に忙殺され、個人的な時間などほとんどなさそうなのである。
 榊原屋敷はやたらと広い。
 さらに居候の人数が以前よりも増えたせいで、食事や洗濯の苦労も増した。
 学校もあるため、時間も思うように取れない。
 事実上、梢は個人的な時間を持っていない。
「このままでいいんだろうか……」
 迷いながら、亨は脱衣所の前に立った。
 溜息をつきながらも、がらがらと扉を開ける。
「……」
「……」
 身体構造の異なる先客がいた。
「このドスケベェェェッ!」
「濡れ衣だあぁぁっ!」
 見事なストレートが、悩みも含めた亨の意識を綺麗サッパリ吹き飛ばした。

「――――というわけなんです」
「殴られたことの愚痴なのか日常に関する相談なのかがよく分からないんだけど……」
「後者です」
 ここは朝月学園最寄の喫茶店。
 学園の生徒たちも比較的よく使うため、普段は学生服がちらちらと目に入る。
 もっとも今は冬休みに入ったため、私服しか見当たらないのだが。
 頬にくっきり残るアトをさすりながら、亨は涼子に事情を説明した。
 ちなみに美緒は不機嫌そうな、それでいて申し訳なさそうな顔で亨の方をチラチラと眺めている。
「でもなんで美緒ちゃんいたの?」
「誰もいないから入っちゃおうかなーと」
 ブスッとしている。
 しばらくは放置しておいた方がよさそうだった。
「で、どうするの? なんか計画でもありそうだけど」
「ええ。もうじきクリスマスでしょう?」
「ああ――日頃お世話になってる感謝の印として、クリスマスパーティを全部準備しようってことね」
「その通り。クリスマスくらいはゆっくりしてもらおうと思いまして」
「でも、先輩みたいな人って急に『ゆっくりしてください』って言われても効果なさそうな気がするわね……」
 母の日に、母親に『今日一日はゆっくりしていいから』と言ってもあまり効果がないようなものである。
 急に時間が出来ても何をすればいいのか分からないのである。
「そのことなら既に手筈を整えてあります」
 ぴらりとチケットを取り出す亨。
 それは、二つ隣の駅にある遊園地のペアチケットだった。
「遥さんとここに行ってもらいます。遥さんも梢さんに次いでお世話になってますし……」
「なかなか進展しないあの二人の仲を進めるいい機会でもある」
 ぬぅっ、とどこからともなく零次が現れた。
 あまりに唐突な登場だったため、涼子などは慌てて椅子からずり落ちるところだった。
「れ、零次さんいきなり現れないでよ心臓に悪いから」
「気づかなかったお前の負けだ、冬塚」
 仏頂面のまま――それでもどことなく勝ち誇っているようだったが――言ってのける。
(昔はもう少しこう、普通の性格だったんだけどなぁ……)
 と、涼子は思わざるを得ない。
 それはともかく。
「クリスマスに先輩と姉さんをデートさせるってこと?」
「そういうことです。我ながら粋な計らいってやつですね」
 ふふんと自信満々の亨。
「粋な計らい、か……そんなにうまくいくかな」
「問題ありません。榊原さんも承諾済みですし」
「この場合それは関係ないような」
「でもさ、どうやってお兄ちゃんにチケット渡すの?」
 それまで黙っていた美緒が、当然の疑問を発した。
「え、普通に渡すんじゃ駄目か?」
「お兄ちゃんがそんなん受け取るとは思えないけど」
 言われて、四人はその様子を脳内でシミュレートしてみた。
『梢さん、毎日お疲れ様です! これで遥さんでも誘って、クリスマスくらいは楽しんで過ごしてください!』
『んー、遊園地? いや、いい。それよか準備とかしなきゃいかんだろ』
『いや、ですから準備は僕らがしますんで』
『…………いや、やっぱ俺が準備する。お前らはゆっくりしてろ』
『ひょっとして信用ないですか僕ら!?』
『いや、そうじゃないけど……なんつーかな。俺は準備したいんだよ。だからそんな気、使わなくていいから』
『ですけど』
『あー、もうしつけぇなぁ! いいから、黙って、大人しく、待ってろ!』
 シミュレート終了。
「無理」
「無理だな」
「無理ですね」
「先輩じゃねぇ……」
 揃って溜息をつく。
「ならば遥から渡させるというのはどうだ」
「遥さんなら梢さんよりは融通利きそうですからチケット受け取ってはくれるでしょうが……」
「姉さんが先輩を説得できるかが問題ね……」
 再び脳内シミュレート開始。
『あ、ねぇ梢君。クリスマスにね、二人でどこか行かない?』
 シミュレート強制終了。
「考えてみたら遥さんがそんな提案梢さんに出来るわけないですね」
「多分お兄ちゃんの目の前で真っ赤になって、あたふたしながら逃げちゃいそうだよね」
 これが彼らの遥のイメージらしい。
 間違ってない。
「……困りましたね」
「問題ありまくりじゃない」
 半眼でツッコミを入れる涼子から視線を逸らして、亨は零次に助けを求めた。
「零次、何かいい案ないですか?」
「……すいません。センブリ茶を一つお願いします」
「人の話聞いてるんですか貴方はっ!」
「聞いてない」
「聞いてるじゃないですかっ!」
「聞いてる」
「どっちですか!?」
「分からん」
 二人の不毛な争いは続き。
 結局、結論は出ないままその日の会議は終わった。

「まとめて阿呆かお前らは」
 クリスマス当日、出勤前の榊原は呆れ顔で告げた。
 ちなみに梢と遥は既に遊園地へ向かった。
 榊原が梢に凄みをきかせてチケットを渡し、それから梢が遥を誘ったのである。
「榊原さんには本当に感謝しております~」
 へへぇ、と神妙に土下座をする亨。
 榊原は「やれやれ」と呟いて、コートを羽織った。
「俺は今日は遅くなる。だが本当に大丈夫か?」
「だ、大丈夫です。問題ありません!」
 若干引きつった笑みを浮かべながら亨はガッツポーズ。
「……まぁお前のその心掛けは立派だと思うが、あまり無茶して被害を広めるなよ」
「被害だなんてとんでも……」
「間違っても美緒には料理させんなよ。お前と久坂もだ。冬塚の嬢ちゃんと幸町に任せろ」
「はい、それはもう十分に分かってます」
 美緒は殺人シェフ。
 零次は味オンチ。
 亨は料理の経験があまりないので、そんなに得意じゃない。
 そんな連中が料理などしては、大変なことになる。
「ま、帰ってきたときに後片付けに追われる梢の姿を見ないよう祈っておくぞ」
「ぐぅ」
 全く言い返す言葉がない。
 榊原はそれ以上何も言わず、仕事に行ってしまった。

 その後起きてきた美緒と零次、さらに早めにやって来た涼子が揃った。
「それじゃ準備といくわよ」
 普段から進行役が板についている涼子が指揮を執ることになった。
「最初は掃除……にするつもりだったけど、綺麗なのでこのままでよし。ってわけで、まずは飾りつけね」
「飾りつけというと、何を飾るのだ?」
「部屋に色々飾るのあるでしょ。そういうのないの?」
「まだ買ってません」
「それじゃ矢崎君買ってきて、なるべくすぐ」
「了解しましたー」
 すぐさま財布を取って駆け出していく亨。
 この四人の中ではセンスはいい方なので、涼子はそれに期待した。
「冬塚、俺は?」
「えーと、クリスマスツリーとかってある?」
「確か古くなったから去年捨てちゃったよ」
 美緒の言うとおり、クリスマスツリーは今ない。
 去年のクリスマスパーティで大騒ぎした結果、ツリーにまで被害が及んで大破した。
「それじゃ零次さんはツリー調達してきて」
「任せろ」
 力強く頷くと、零次はすぐに飛び出していった。
「で……」
「私料理やりたい~」
「却下! 皆を死なせたいの、美緒ちゃん?」
「……」
 そこまで言われると美緒としてもやりきれないものがある。
 が、事実なので返す言葉もなかった。
「そういえば今年はどれくらい集まるの?」
 榊原屋敷はやたらと大きいため、よくパーティなどの会場になる。
 去年は榊原家の三人に吉崎、藤田、斎藤などを始めとして十人くらいが参加した。
「えっとね、まず私たち六人に、藤田さんと斎藤さん。それに高坂さんたちに幸町さん、長ちゃんたちに三嶋、修羅堂のおじさんとかそのお子さん、それから……」
「ちょっと待って」
 まだ続けようとする美緒を、涼子が制した。
 いちいち名前を細かく挙げられていたら、人数分料理しなければならない涼子の気が重くなる。
「何人来るか、それだけ言って」
「うーんと……あ、ちょうど三十人だ」
「……」
 よくもまあそれだけ呼んだものだ、と涼子は思う。
 そして、それだけの人数を呼べる榊原屋敷のデタラメさを改めて思い知らされた。
「でもさすがにそれだけの人数となると私だけじゃキツイわね……」
「だから私が」
「美緒ちゃんは食材買いに行ってきてね」
 素早くメモを書いて、まだ何か言いたげな美緒を家から出す。
 涼子は思わず亨に向かって悪態をつきたくなった。
「問題山積みじゃない……ああもう、先輩と姉さんがいればどれだけ楽なことかっ!」
 梢は涼子にとって料理の師だし、遥も梢の弟子ということで同門である。
 涼子も含めたこの三人が、メンバーの中では料理上手であった。
 そこへ。
「やあ、困ってるみたいだね」
 眼鏡をかけた、保育士オーラを身にまとう闇医者・幸町孝也がやってきた。
 医者を目指している涼子にとっては目標としている人物の一人である。
 もっとも幸町は普通の医者とは違うのだが。
「幸町さん、早いですね」
「榊原さんに頼まれましてね。冬塚君だけでは料理大変だろうからと」
「え、それじゃ助っ人に来てくれたんですか?」
「そういうこと。というかパーティそのものには出れないからね」
「へぇ、何かあるんですか?」
「はは、恥ずかしながら――――フィアンセとデートなんだよ」
 爽やかに笑いながら爆弾発言をする闇医者。
 涼子は衝撃を隠せず、驚きが露骨に表情に表れていた。
「フィフィフィフィ、フィアンセがいるんですかっ!?」
「そこまで驚くことかなぁ」
「いやだって婚約者いる人なんてはじめて見ましたよ私」
「はは、キツイ人だけどね。っと、こんなこと言ってるの聞かれたら殺されるな」
 のほほんと物騒なことを言う。
 しかしその姿になにか哀愁を感じてしまうのはなぜなのか。
 その答えは涼子には分かりそうもない。
「さて、とりあえず今のうちにできるものからやっていこうか」
「ええ、サクッとやっちゃいましょう」
 二人は並んで台所へ向かう。
 時刻は午前十時。
 まだまだパーティまでは時間がかかりそうであった。

 クリスマスということもあってか、遊園地は人が多い。
 その多くの人の中に、梢と遥の姿があった。
「確か遥は遊園地は初めてなんだっけか」
「うん。なんか想像以上に人が多くて、ちょっと疲れちゃった」
「ここはそう大きい遊園地じゃないからまだマシだろ。あのディニーズランドなんかだと一つの乗り物乗るのに一時間はかかるって話だぞ」
「どれだけの人がいるんだろうねー……」
 梢が買って来た温かいコーヒーを飲んで休憩中。
 二人は既にコーヒーカップ、メリーゴーランド、ジェットコースターなどを制覇済みである。
 梢は最初抵抗を感じていたのだが、意外と彼女を引き連れて一緒に乗っている男が多かったため、少しだけ気が楽になった。
 が、それはそれで別の問題を引き起こす。
「でも……な、なんか、周りカップルだらけだね」
 遥の言うとおり、周囲を見渡せば昼間からいちゃいちゃしているカップルの姿が目立つ。
 おそらく藤田辺りがこの場にいれば、発狂しそうなくらいの繁栄振りだった。
 梢は特に頓着しないため、さして気にしていなかったが。
「周囲から見たら、俺らもカップルに見えるのかね、やっぱり」
「そ、そそそんなことないと思うよっ!?」
「そんなにうろたえるなよ、こっちも恥ずかしくなる」
 お互い顔を紅潮させつつ、視線を別の方へと移す。
 しかし二人が揃って見たのは、一つのジュースを二つのストローで飲むカップルの姿だった。
「く、くりすますだからもりあがってるんだね」
「そーだな、すごいな」
 言いながらも二人の視線は落ち着かない。
 そこへ、一本のジュースが運ばれてきた。
 しかもご丁重に二つのストローがついている。
「ちょ、ちょっと待った。こんなん頼んでないぞ!?」
 慌てて梢が店員に詰め寄る。
 だが店員は済ました顔で、カウンターにいる渋いおじさんを示した。
「マスターから伝言です――――ガンバレよ、少年少女」
 ニカッと素敵過ぎる笑みを浮かべて、親指をグッと突き立てるマスター。
 そして含み笑いをした店員は梢と遥を見て、
「発展をお祈りしております」
「ちょい待て、俺とこいつとは別にそういうんじゃねぇぞ、付き合ってるわけでもないし!」
「告白はまだですか。ならばあなたがリードして差し上げるべきかと」
 店員の助言に同意しているのか、マスターもうんうんと頷いている。
 そのまま店員は素早く梢を振り払い、マスターの元へと戻っていった。
 かと思いきや、それからじっと二人で梢たちの方を見ている。
「ど、どうしよっかこれ……」
「……クッ!」
 様々な思考が脳裏をよぎる。
 悩みまくる梢の姿は、ある意味滑稽でもあり哀れでもあった。
 ……その後どうなったかは、あえて語らない。

「よっし、料理三分の二くらいは終了したわっ!」
「お疲れ~!」
 達成感を十二分に味わう涼子と、居間でテレビを見ていた美緒。
 ちなみに美緒は食材購入以降やることがない。
 亨が帰ってくれば一緒に飾りつけでもやるのだが、凝っているのかなかなか帰ってこない。
 ツリーを調達してくるだけの零次も遅かった。
「零次さん、ツリー売ってるとこ知らないのかな?」
「そういえばこの辺りって売ってるとこないもんね。駅前のデパートくらいにしかないし」
「ちょっと電話してみるね」
『プルル、プルルル……』
 何回かかけてみたが、電波が届かないところに居るらしい。
「連絡不可能か……仕方ない、料理の続き頑張るか」
「ああ涼子ちゃん、ケーキの生地やっといたよ」
 台所からのっそり現れた幸町は、既にエプロンを外していた。
「そろそろ時間ですか?」
「ああ。彼女、時間に正確な人だから僕も早めに行かないと……ああそうそう、これ」
 やたらとでかい袋をいきなり取り出す。
 まるでサンタが持っていそうな袋だった。
「パーティに出れなくて申し訳ない。そのお詫びの意味も込めた幸町サンタのプレゼント。皆の分用意してあるから好きなの持っていっていいよ」
「どうもすいません、お手伝いまでしてもらった挙句に……」
「気にしない気にしない。君たちは普段人に甘えたりせずに頑張ってるからね。こういうときぐらいは子どもらしく喜びなさい」
「はい、ありがとうございます」
 そうして幸町は慌しく去っていった。
 実は時間ギリギリだったのかもしれない。
 婚約者に殺されてなければいいが……と、涼子は少し心配だった。

 幸町と入れ替わるようにして、亨が戻ってきた。
「すいません、ちょっと凝っちゃって。遅くなりました」
 既に午後四時。
 時間かけ過ぎである。
 それに凝るなら、計画の方をもっと凝ったものにして欲しかった。
 そう思ったものの、涼子はどうにか自制した。
 今更愚痴を言ったところで始まるものではない。
「それじゃ美緒ちゃんと矢崎君は飾りつけよろしく。もうすぐ皆来るから早めにね」
「待ち合わせは午後五時ですからね、急がないと」
 忙しなく動きはじめた二人を見ながら、涼子は調理場(戦場)へと戻った。
 改めて見ると凄まじいものがある。
 榊原屋敷の台所は普通の家よりも少々広い。
 そのため、ほとんどのスペースは料理によって埋め尽くされているのである。
 これでも二十人分くらいしかない。
「いくらなんでも三十人は多すぎよ……」
 ホテルのシェフじゃあるまいし。
 しかも幸町去りし今、涼子は一人で十人分用意しないといけなかった。
 さらにケーキの方も仕上げねばならない。
 こちらも人数が多すぎるため一つでは足りず、極力大き目のものにしても四つ作らねばならない。
「落ち着け、落ち着くのよ私……残り一時間、これをどうにかする手段は……」
 師である梢ならばどうするか。
 そのことに思い至ったとき、涼子は迷わず携帯電話を手に取った。

「いい眺めだな」
「そうだね……こんなの初めて」
 もはや日も暮れようという時間帯。
 梢たちは最後に観覧車に乗って、遠い風景を眺めていた。
 が、そんな良い雰囲気にありながら梢と遥は全く同じ悩みを抱えていた。
「……家の方大丈夫かなぁ」
 ぼそりと、二人同時に言う。
 お互いがそれに気づき、一斉に吹き出した。
「こういうときに言うことじゃないよね」
「はっ、確かに」
 お互いが笑みを噛み殺しながら、榊原家がある方を見つめる。
「でもま、あいつらならちゃんとやってるさ。ここで俺たちが心配するのはあいつらに失礼ってもんだろ」
「そうだね。だから私たちは私たちにできることをしよっか」

「ちわ~っす」
 待ち合わせの時間より少々遅れて、藤田や斎藤、雅たちといったメンバーが続々やってきた。
 その誰もが、手に袋をさげている。
「頼まれたもん、持ってきたぜ」
「どうもありがとうございます。すみませんいきなり電話なんかしちゃって」
 そう、涼子一人で全員分の食事を用意するのは無理だった。
 ならば他の人間の手を借りればいい。
 思い立つとすぐに涼子は、招待客のうち親しい者たちに電話をした。
 彼らは快く承諾し、それぞれ食べ物を持ってきた。
「ほら、うちの駅前のとこにある寿司屋セット」
「これは僕のオススメのメニューだ」
「あたしは元々自分で作ってくるつもりだったからね、ほら」
 それぞれが持ってきた食事がテーブルの上に並べられていく。
 丁度亨と美緒も飾りつけを終えて、その場はまさしくパーティ会場と呼ぶのに相応しいものとなった。
 が、一つだけ足りない。
「あれ、クリスマスなのにツリーないの?」
 沙耶が周囲を見渡して言った。
 既に日も暮れているというのに零次はまだ戻らず、ツリーがないままなのである。
「零次との連絡は?」
「ちょっと待って、今かけてみる」
「その必要はない!」
 庭先から零次の声が響き渡る。
 その場にいた全員が驚いてそちらを見る。
 すると、巨木がキラキラと光り輝いている。
 その足元には零次が、一仕事終えたときのサラリーマンのような表情で立っていた。
「す、すごっ!?」
「どうしたの零次さんこれ!?」
「あちこちで聞きまわって、この辺りで一番巨大な木を拝借してきた」
「……調達って言い方がまずかったのかしら」
 零次の行動は凄いものがあるが、果たしてその木、持ってきて良かったものなのだろうか。
 一応後で零次に尋ねてみて、場合によっては謝りに行こう――そう涼子が誓ったとき、
「ただいま~」
 と、呑気な声が玄関から聞こえてきた。
 どうやら梢と遥が帰って来たらしい。
 藤田や斎藤といった招待客たちが揃って玄関まで迎えに行く。
「よ、デートはどうだったお二人さんっ!」
「ちったぁ進展したんだろうねぇ、倉凪? 榊原?」
「朝帰りでもしてくれば面白かったのだがな」
「ちくしょう、羨ましいぜぇぇっ!」
「それよりパーティそろそろ始めようよぉっ!」
 各々が好き放題に言いたいことを言いまくる。
 まとめ役というものがこの場には必要ない。
 勢いをそのままに、彼らはいつのまにかパーティを始めていた。
 涼子が苦労して用意した料理を食べる者。
 誰が持ち込んだか、酒を飲んで大暴れする者。
 零次が持ってきたツリーに登りはじめる者。
 その勢いについて行けず、ちょっとダウンしてしまう者。
 それぞれがそれぞれの楽しみ方でクリスマスパーティを迎えた。
 ――――中でも、亨や涼子の表情は、特に生き生きとしていた。


 静かに朝が訪れる。
 全員がいつ寝たのか分からないようなパーティの翌朝は、大変なものであった。
 起きて早々目覚めた亨は、その凄まじさに冷や汗をかいた。
「……あれ?」
 起き上がってみると、自分の腹の上にラッピングされた箱が置いてあった。
 箱には紙が添えてある。
 内容は簡潔なもので、
『サンタより』
 としか書かれていない。
「さ、サンタ?」
 当然亨は既にサンタなど信じていない。
 しかしこのプレゼントをここに置いたのが誰なのか、まるで分からないのである。
「まさか本当にサンタ……いや、そんなこと」
 と、思いかけたとき。
 周囲で眠りこけている人々全員に、プレゼントが置かれているのである。
 「お、おかしいな。幸町さんからのプレゼントは昨日ビンゴ大会でもう貰ってあるし……」
 それとは別物。
 しかも全員分。
 中を空けてみると、亨が最近欲しがっていた『シンテンドーPS』と、そのソフトがセットで入っていた。
「……ま、いっか」
 昨日頑張った分の褒美だと解釈して、亨はありがたくそれを受け取ることにしたのだった。

「まさか俺のとこにもサンタが来るなんて思ってなかったな」
「私のところにも来るとは思ってなかったよ」
 朝の台所、二人で顔を洗いながら語り合う人影二つ。
 その会話を聞く者は、誰もいなかったのだった。