異法人の夜-Foreigners night-

-日常編-
木の枝のように――――その2
「おっ、もうすぐ入場かね」
「みてぇだな」
 卒業式の主役である三年は、まだ教室で待機している。
 一年生と二年生が揃ってから、卒業生入場が行われるのだ。
 梢と雅はふと黒板を見た。
『卒業おめでとう』
「汚い字で書かれてるなぁ。誰だ、あれ書いたの」
「あんたに言われたくないよ」
「……お前かよ」
 梢は意外そうに雅を見た。
 雅は自分から行動を起こすことはあまりない。
 ただ、一旦物事が始まるとそれを上手く取り仕切ることが出来る。
 だからか、雅が黒板にああいったものを書いた、というのがどうもイメージに合わなかった。
「別にいいだろ、たまにはさ」
「いや、悪かねぇけどな」
 実際悪くない。
 少なくとも梢は、黒板に書かれている言葉には好意を覚えた。
「でもなー。なんつーか、やっぱ惜しかった」
「惜しかった? 何が」
「いや、遥とか久坂とか。あいつら結局まともな学校生活半年だけだろ。勿体ないっていうか、なんていうか」
「本人たちはそう思ってるかね」
 雅は意味ありげな笑みを浮かべ、今は藤田たちと談笑している遥を眺めた。
「別に物足りないとか、そういう風には思ってないと、あたしは思うね」
「まーな。俺もそうは思うが、けどやっぱな」
「親はいつでも子供のことを考えてる。でも子供の心は案外考えてない……ってことさね」
「俺、親?」
「少なくともあんたは遥を妹か娘のように見てるんじゃないかい」
 くくっ、と意地の悪い声で笑う雅。
 梢は罰の悪そうな表情を浮かべて、視線を僅かに逸らした。
 そのとき、放送が鳴り出した。
『それでは、これより卒業生はクラス毎に第一体育館前へ移動してください。繰り返します――』
 それまで教室の中で行われていた無数の会話が徐々に密やかなものになっていく。
 やがて全員の視線が廊下の方へと向けられた。
 そのとき、梢の服を後ろから引っ張る者がいた。
「ん?」
 振り返ると、そこには笑顔の遥がいた。
 驚いて少し下がるが、そんな梢に遥は手を差し伸べてきた。
「梢君、行こっ」
「……あ、ああ」
 つられるように、その手を掴む。
 そんな二人を見ながら、雅はにやにやと知った風な顔つきで笑っているのだった。

 体育館には、大勢の人々が集まっていた。
 保護者、一年生、二年生、その他にも多くの関係者たちが待っていた。
『――では、卒業生の入場です。皆様、拍手を持ってお迎えください』
 静かに、ゆっくりと。
 だがその姿が現れるや、確かな形となって拍手は広がっていく。
 三年間着込んだ制服姿で、男女入り混じって歩いてくる若者たち。
 彼らこそが、今日の主役なのだった。
「へぇ、今は男女混合に並んでるんですねぇ」
「お前らの頃は違ったっけか」
「隔離されてましたよ。男は男、女は女、って」
 保護者席から卒業生たちの姿を追いながら、幸町は懐かしそうに顔をほころばせる。
 彼もかつてこの学校を卒業した身だから、何か感じるものがあるのだろう。
「あ、倉凪君いましたよ。なんか女の子二人に囲まれて笑ってますね。一人は遥ちゃんだけど、もう一人は誰だろ」
「……いや、お前なぜ逐一俺に報告する」
「榊原さんが見てないからですよ。こういうときは、子供の姿をつい探すのが親ってもんです」
「相変わらずだな、お前は」
 ……突然、横から第三者の声が割り込む。
 榊原は目を伏せて眠たげにしている。
 幸町に声をかけたのは、外側に立っていた教師だった。
「あれ、もしかして一戸先生ですか? いやぁ、お久しぶりです」
「ああ」
 一戸は、今日はさすがに普段のジャージ姿ではない。
 きちんとスーツを着ているのだが、それがまた似合わなかった。
「幸町が着てるとは思わなかったがな。誰か知り合いでも?」
「倉凪君たち関係ですかね」
 と、隣ですっかり眠りこけている榊原を示した。
 どうやらここ数日の出勤でかなり疲れているらしい。
「なるほど。どういう接点か知らんが、まぁ分からなくもないな」
 一戸の中でどういう理屈が展開したのかは謎だったが、とりあえず納得したようだった。
「しかし、卒業以降さっぱり連絡が途絶えてたと思ったらいきなりここで再会とはな」
「卒業式で別れ、卒業式で再会する。そういうのもまた、いいものじゃありませんか」
「俺としては問題児だったお前らのその後が気になっていたんだが……」
「僕は今一応医者をやってますよ。ただちょっと変わってるんですけどね」
 特に隠すこともなく幸町は言う。
 どのみちこの町には大きな病院があるのだから、普通の患者が幸町の方に流れてくることはまずない。
「医者か……お前は三人の中で一番頭は良かったから、分からなくはないが」
「意外ですか?」
「いや、ただ医者になるのは大変なんだろう? つまり、それだけ月日が流れたということだと思ってな」
 およそ幸町が卒業したのは九年程前。
 言葉にすれば短いものだが、その間実に様々なことがあった。
「で、あの……なんだったか、委員長」
「彼なら家業を継いで技師になりましたよ」
「そうか、あいつもきちんと職に就けたか」
 嬉しそうに教え子の近況を聞いている。
 一戸はそういった点に関してはかなり繊細で、常に生徒たちを案じているようなところがある。
「霧島はどうだ? 相変わらずか」
「……ええ、相変わらず行方不明ですよ」
「まったく。確かあいつは倉凪の兄貴分だったろうに。お前のように、今日ここに来るくらいはしてもいいと思うんだがな」
「直人も、出来れば来たいと思ってたんじゃないですかねぇ」
 人一倍思いやりが強く情に厚い友人を思い浮かべながら、幸町はどこか寂しそうに笑った。
 その笑みは、何かを知っている者の笑みだった。
 一戸はそれに気づきながら――――
「さてと、式が始まるな」
「そうですね」
「まぁ、ゆっくりしていけ。いろいろと懐かしいだろうからな」
 そう言って一戸は立ち去ろうとした。
 その背中へ幸町は、
「一戸先生……老けましたね」
「“旦那”と呼ばれるには、似合いだろう」
 一戸はしっかりとした足取りで進んでいく。
 変わったもの。
 変わらないもの。
 そして、変わりつつも懐かしいもの。
「一番懐かしいのは、一戸先生……あなただったのかもしれませんね」

 簡単な最初の挨拶が終わって、卒業証書授与が始まる。
 梢たちは3-Aなので、比較的すぐに呼ばれる。
「――――3年A組、倉凪梢君」
「はい」
 梢はさして気追い込むこともなく、慣れた調子で進んでいく。
 舞台の中央まで進んでいくと、客席の方から沢山の声がかかる。
「倉凪さぁぁん!」
「くっさん、なんかネタ!」
「コケろコケろ!」
「倉凪先輩、おめっとさんですー!」
「おめでとう馬鹿ー!」
 それらの声に手を振って答えながら、梢は校長の前に立った。
 あまり見覚えのない顔の校長はにこやかに微笑んだ。
「人気者ですね、倉凪君」
「あんまり素直に喜べないっすけどね」
 祝ってもらってるのかけなされてるのか、よく分からない。
 校長はそんな梢の言葉を聞いているのかいないのか、さらに笑みを深くした。
「はい。それでは、卒業おめでとうございます」
「ありがとうございます」
 卒業証書を手渡され、校長と握手を交わす。
 ほとんど見たこともない校長の手。
 それが不思議と、暖かくて力強いような気がした。
 校長に頭を下げると、梢の次に並ぶ雅、斎藤、そして遥の姿が見えた。
「大丈夫かよ、遥のやつ無茶苦茶緊張してるじゃねぇか」
 と言っても、梢が出来ることは何もないので、席に戻るしかないのだが。
 梢が席につく頃には、雅が終わり、斎藤も校長と握手を交わしているところだった。
 次は遥の番である。
「三年A組、榊原遥さん」
「は、はいっ!」
 上擦った声で手をビシッとあげる。
 その仕草に会場からドッと笑いが起きる。
 遥は慌てて手を下げたが、顔は真っ赤、動きは異様に硬い。
 見ている梢の方が緊張するくらいだった。
「かっ、大丈夫かよ」
「大丈夫だろ。……多分」
 席に戻ってきた雅もどこか心配そうに遥を見ている。
 遥は校長の前に立ち、卒業証書を受け取った。
 その際校長にどんな言葉をかけてもらったのかは知らない。
 しかし、校長と握手を交わした頃には遥の動きから硬さが消えた。
 その表情には、薄っすらと涙が浮かび、そして笑みが溢れていた。
 やがて席に戻ってきた遥は嬉しそうに卒業証書を梢の方に見せてきた。
「えへへ。卒業証書」
「いや、んなもん見りゃ分かるがな」
「うん。そうだよね」
 大事そうに遥は卒業証書を筒の中へしまいこむ。
 きっとそれは、遥が手にした思い出の形となって残ることだろう。
 梢もそれにならって、筒の中へ卒業証書をしまおうとした。
「……あん?」
「どうしたの?」
「いや、中にもう一個卒業証書がよ」
「何かのミスかな?」
「どうだろ」
 梢は訝しく思いながら、筒の中に入っていた卒業証書を取り出す。
 それを見て、梢の顔色が徐々に変わっていった。
 梢だけではない。
 遥や雅、斎藤は藤田に慌てて声をかけた。
 もうすぐ証書を受け取りに行くところだった藤田もそれを見て、驚愕の色を隠さない。
 そこには、彼らのよく知った名前が書かれていた。
『卒業証書――吉崎和弥 一九八五年十月十七日生 あなたは高等学校の課程を卒業したことを証明します。 二〇〇四年三月十五日 朝月学園高等部 教員一同』
 梢たちは、言葉もない。
 震える手で卒業証書を握り締める梢。
 その手を、遥が上から包み込むように握り締めていた。

 それからしばらくして。
 プログラムは順調に進行し、残るは送辞、答辞と最後の言葉くらいのものとなった。
 答辞を控えて、梢は少し嫌そうな顔つきである。
「なんで俺なんだ。学年主席のお前がやった方がいいだろ」
「今更になって言い訳するな、前生徒会副会長」
 その肩書きを言われた途端、梢は渋い顔つきになった。
 半ば無理矢理その役職に就かされ、そのせいで最後の最後に答辞を読むことになってしまったのである。
「それに遥や久坂にも手伝ってもらったんだろう。それをお前が今更になって投げ出すとは、僕は思わんが」
「……あーもう分かったよ。ったく」
「ほら、二人とも」
 斎藤の一つ後ろの席にいた遥が、二人をつついた。
「涼子ちゃんの送辞が始まるよ」
「お、冬塚か。しっかり出来るかな、あいつ」
 視線が壇上へ上った涼子へと注がれる。
 大勢の人々の視線を受けながらも、涼子はさして緊張した様子も見せない。
 緊張したとしても、それを力に変える術に持っているのだった。
 それでも完全にはリラックス出来ていなかったのか、涼子は一度大きく深呼吸した。
「卒業生の皆さま、ご卒業おめでとうございます。これから先進学、あるいは就職する皆様方の――――」
 さすがに慣れている。
 言いよどむことなくスラスラと、それでいてしっかりと感情を込めて涼子は続けていく。
「涼子ちゃん、凄いね」
「お前もあれくらい出来るようになれよ」
「む、難しいなぁ」
 梢も元々期待していない。
 送辞の中身が、学内でのことに移った。
「私が入学してからの二年間。体育祭、文化祭など様々な行事がありました。私たち下級生は何度も先輩方に助けられ、そのおかげで全校生徒一丸となり行事を大成功に収めることが出来ました。
 体育祭では、クラス対抗の最終リレーで学校中が揺れ動くような盛り上がりを見せました。
 文化祭では、それぞれのクラスが各々の力を発揮して企画を建てつつも、お互い協力することを忘れずに支えあっていくことができました。
 中でも昨年の文化祭のコンサート、そして今年の体育祭の騎馬戦の奮戦は忘れることが出来ません」
「うう、私どっちも知らない」
「ならビデオあるし、今度あたしんちに見に来るかい? 面白いものが見れるよ。クク、久坂や矢崎も呼ぼうかね。倉凪の新たな一面を見せてやるとしようか」
 梢をからかうように雅が笑う。
 だが梢は涼子の送辞に集中しているのか、聞こえていないようだった。
「――――私はこの学校が大好きです」
 涼子は卒業生一人一人の顔をじっくりと見回しながら、これまでより熱を込めて言葉を吐き出す。
「この学校には良い思い出がたくさんあります。私はこの学校に通えることを本当に嬉しく思います。
……先輩方にとって、ここはどんな学校だったでしょうか」
 それまでちらほらと聞こえてきた話し声が鳴りを潜めた。
 これが、形式的なものではなく、涼子の本当の言葉だと気づいたからだろう。
 その中で声をあげる者がいた。
「――――俺はこの学校に通えたことを、誇りに思う!」
 マイクもない。
 それなのに、その声は体育館中に響き渡った。
 声の主は、意外な人物だった。
「零次、さん」
 普段は物静かで、淡々とした話し方ばかりする零次。
 そんな彼が、あれだけの声で宣言した。
「私も、この学校大好き!」
 零次につられたのか、遥も大声で言い放った。
 やがて他の生徒たちも、次々と思いを口にしだす。
 それぞれ言葉は違う。
 だがその中身は、紛れもなくこの学校への好意で溢れていた。
 ――――。
 涼子はそれらの声が静まるのを待ち、もう一度深呼吸した。
「ありがとうございます。この学校を好きでいてくれること、私も嬉しく思います。
……これなら私が言う必要はないかもしれませんが、下級生を代表して、卒業生の皆様にお願いが一つあります」
 それは、本当に今更のことだった。
「――――忘れないでください、とは言いません。ですが、時々……自分たちがかつて過ごした、温かい学校があったこと。……思い出してください」
 そして涼子は深く頭を下げた。
「最後に、皆様方のご健康とご多幸を心からお祈りして……送別の言葉とさせて頂きます」
 言葉が終わると同時に、体育館内には拍手が巻き起こった。

 会場内の熱が冷め止まぬうちに、涼子と入れ替わるように梢が壇上へ上った。
 その際梢は、すれ違い様に涼子の肩を叩いた。
「お疲れさん。在校生代表の思い、ちゃーんと卒業生に届いたと思うぞ」
「あはは。でも、零次さんたちの声がなかったら……」
「お前の言葉があいつらを動かしたんだ。上出来だよ」
「卒業生代表のお言葉、一足早く頂いておきますね」
 笑って涼子は席へ戻っていく。
 梢はそれを見送ることなく、真っ直ぐに壇上へ上った。
 それだけで会場内から拍手が巻き起こる。
 涼子の送辞の効果もあるだろうが、それ以上に倉凪梢の存在がこの学校にとって大きかった。
「あー、皆さんお静かに。プログラムが伸びると卒業式後のパーティが遅れます。
 折角準備してくれる人たちもいますから、私の言葉はちゃっちゃと済ませましょう」
 どことなくおどけた様子に、会場内で小さく笑い声が聞こえてくる。
「では改めまして、まず在校生の皆様のお言葉、ありがとうございました。
 そして会場にお越しになられた皆様、本日はどうもありがとうございます。
 我々は本日この学校を卒業し、それぞれの道を歩き始めます」
 視線を客席に向ける。
 喋っている生徒たちに注意する一戸の姿が見えた。
 ずっと後方の保護者席では、眠そうな目でこちらを見守る榊原。
 そして穏やかな笑みを浮かべている幸町がいる。
 梢はニヤリと笑った。
「思えば長かったようで、思い返すと短く感じる年月でした。
 三年になってからは特にそう思わされます。
 生徒会副会長という役職も大変でしたが、それ以上に私が大変だったのはある二人のことです。
 その二人は今年になってからこの学校にやって来ました。
 これまで学校とはあまり馴染みのない環境にいた二人がこの学校生活をどう思うか。
 正直かなり心配でした。というか、この前までずっと心配でした。
 ですが、二人に尋ねてみたところ、私は大変嬉しい言葉を耳にしました」
 梢は卒業生の方を振り向く。
 憮然とした様子でこちらを睨みつけてくる零次。
 にこにこと笑いながらこちらを見る遥。
「――二人はこの学校が大好きだと言ってくれました。
 半年くらいしか学園生活を送らせてやれなかったのに、それでも大好きだと言ってくれました。
 たった半年です。我々の六分の一ですよ。
 それだけの時間の中で、彼らは今までにないほど楽しい時間を過ごせた、と言ってくれたんです。
 ……嬉しいじゃないですか。
 それだけの魅力を持ってるんですよ、我々のこの学校は!
 正直卒業しなければならないのが、少し悔しいくらいです」
 わざとらしくがっくりと肩を落とす。
 だが今度は、笑い声は上がらなかった。
 会場中が、梢の言葉に耳を傾けている。
「でも我々はここから離れます。もう、この校舎に毎日来ることはありません。
 ですが、我々がここにいたという事実は変わりません。
 この校舎によって、今日卒業する我々も。残る在校生の皆さんも。
 会場に来てくれた皆さんも繋がってるんです。
 例えるなら――我々は木の枝のようなものです。
 この学校という根っこを同じくしながら、それぞれ思いのままに伸びていく。
 やがて花を咲かせることがあるかもしれません。
 その花を咲かせるのは、根っこから貰った力なんです。
 半年で二つの枝に小さな花を咲かせた力なんです」
 梢はそこで、涼子のように深呼吸をした。
 最後に、言いたいことを言うために。
「――――在校生の皆さん。学園生活、存分に楽しんでください。
 ここは楽しめる場所です。いつか枝となり、花を咲かせるそのために、沢山楽しんで力を貰ってください。
 そして先生方、保護者の皆様方。我々をここまで導いてくれて、本当にありがとうございます!
 ここで得た力は無駄にしません。我々は、きっと大きな花を咲かせてみせます!
 ……以上で答辞を終わらせていただきます。ありがとうございましたっ!」
 深々と、本心から感謝の意を表し、梢は頭を下げた。
 やがて、先ほど以上の拍手が巻き起こる。
 それはあまりに大きな拍手の音。
 まるで、学校そのものが卒業生を祝福しているようだった。

 ピアノのメロディーが流れ、その中を卒業生たちが退場していく。
 去っていく梢たちの姿を見送りながら、榊原は深い溜息をついた。
「これで、ようやく肩の荷が一つ降りたな」
「え?」
「なんでもねぇよ、気にするな」
 幸町を適当にあしらいながら、榊原は上を見上げた。
 見えるのは体育館の天井だけ。
 だが榊原の意識だけは、そこより遥か遠くを見据えている。
「よぉ、お前の息子はここまで来たぜ。年月ってのは、早いもんだな」
 その呟きは、会場に巻き起こる拍手の音に消されていった。