ユグドラシル聖戦記

軍師ショウ外伝
騒動必須の学園祭
若い学生達がいるせいか、常時賑やかな士官学校。
そんな学校でも静かになるときはある。授業中だ。
そんなに静かだと眠くなってくる。
テストも終わりもうすぐ夏休みだし。その前にある時期はずれな学園祭が問題だがあまり気にしない。
そう思って、安らかな睡眠に身をゆだねる二人がいた。
言うまでもなく一人は後に獅子王と呼ばれることになるカンピナス。そしてもう一人はショウだった。
しかもそのことに気づいている者はいない。
教室内は別のことで盛り上がっていたのだ。
「え〜、では今回の学園祭のクラスの出し物は、—————ということでよろしいでしょうか!?」
騒々しい教室を見渡しながら、適当な態度の委員長が適当に締めくくろうとしている。
だがそれ以上に他の連中も適当だったので「いいでーす」と言う簡単な返事によって出し物は決定してしまった。



「んぐぅ…………あれ?」
眼を擦りながらショウが目を覚ますとクラスの中は大分人が減っていた。
周囲を見渡すと同様に起きたのかカンピナスが寝ぼけ眼でいた。
「よぉ…」
「おう…」
起きたばかりなので挨拶も適当極まりない。
そんな二人に呆れ顔のモニカが話しかけた。
「おはよ、よく寝てたわね」
「起こしてくれよ」
「そうだそうだ!!」
非難の声を浴びせる二人。しかしモニカはため息をつくばかりで相手にしない。
「で、カンピナスはともかくなんでショウまで寝てたわけ?」
「おい、俺はともかくってどういう意味だ」
不満げにカンピナスは異を唱えるが無視。
「昨日こいつの宿題見てて遅かったんだ」
と、ショウは非難がましくカンピナスを指差した。
「…まぁよくあることね。ところで…」
不満顔のカンピナスの横に座りながらモニカは言った。
「あんたたち、HR聞いてなかったら教えとくわね。うちのクラス、学園祭の出し物決まったわよ」
「へぇ」
やる気のない返事をする二人。いかにも自分には関係ございませんと言いたげだ。
「で、何?」
一応聞いとくか。そう思っているのが丸分かりな聞き方と態度だ。
「鬼ごっこ」
「は?」
モニカの言った言葉が理解できず、二人は揃って首をかしげた。
「うちのクラスの男子が標的で、来客した人とか他のクラスの人がそれを捕まえるの」
「なんか変わった企画だな」
カンピナスは少し興味が出てきた様子だった。
「女子はどうするんだ?」
「ん、私たちは判定役かな。捕まえた人に景品あげる役」
「いいなぁ、楽で」
ショウが恨めしそうに言う。運動が大の苦手なので鬼ごっこなんて得意じゃない。
「ちなみに標的によって景品は違うらしいわね。カンピナスは運動神経いいから景品もいい物になるだろうし、多分狙われやすいわよ」
「まぁやるからにはそう簡単に捕まるつもりはないしな」
と、自信ありげに頷く。対してショウはほっとしていた。
「じゃ、僕は狙われにくいんだろうな」
運動能力低い→景品たいしたことない→狙われにくい、という理屈だ。
「そうね、でも一応気をつけないと」
「なんで?」
「近頃ヤギ先生、生徒のやる気のなさに憤慨してるらしくて。そのせいか、さっきのHRの最後に『捕まった奴は今度の休みの補習強制参加だ』なんて言ってたわよ」
「うわっ…」
こうして、否応なしにやる気を出して頑張らねばならなくなった二人であった。




「しかし困ったな」
「ん?」
部屋に戻ってチェスをしながらショウは呻いた。
「僕、文化部から助っ人頼まれてるんだよ。そういう場合どうしたらいいんだろ?」
「さぁ…助っ人に来た人間を捕まえるなんて外道な真似する輩がいないことを祈っとけ…っと、チェックメイト」
「うぅ、不安だ…それに当日シオン様も来るって言ってたけど…どうしようか」
チェス盤を片付けながらもショウの愚痴は続く。
「何が?」
「いや、普通なら会えばいいんだろうけどさ。企画が企画だから、シオン様昔の感覚で僕のこと捕まえにきそうだし」
よく昔は鬼ごっこをして捕まえられたものだ。昔はまぁよかった(何人かにバカにされた気もするが)。
しかし今回は強制補習がかかっている。
「じゃ、会わないで逃げとけばいいんじゃないか? それにお前助っ人頼まれてるなら暇じゃないだろ?」
「逃げるって、そういうわけじゃないけど…確かに忙しいことは忙しいな」
「ちなみにどの部に頼まれてるんだ?」
「料理部、美術部、写真部、吹奏楽部、新聞部、文芸部に歴史研究会、それから…」
「いや、もういい」
どこまで言ってもきりがなさそうな気がしたので、カンピナスはショウの口を塞いだ。
そこでおや? と首を傾げる。
「シオン王女のファンクラブとか言う連中は?」
「あんなのに誰が協力するかっ!」
憤慨した様子で吼えるショウ。
「なにかにつけて因縁ふっかけてくる癖にその実言ってることを要約すると『シオン様のこと教えてください』って連中だからな」
「お前も大変だな…」
「そうなんだよ!!」
と、半ば涙目で訴える。
「なぜか同じ幼馴染なのに僕にばっかり絡むんだあいつら!! ヨウスケとかキラとかトンベリとかもいるのに!!」
「まぁ、そりゃあれだろ…」
お前が一番絡みやすいし。
その言葉をカンピナスは言いかけて、やめた。
「お前が一番王女と親しいと思ってるからじゃない?」
「そ、そうか…?」
喜んでいいのかどうか微妙だな、と言った表情のショウ。
「ま、とりあえずそれだけ忙しけりゃシオン王女とは望む、望まないは別にして会える確率は減るんじゃないか?」
「う〜…」
結局、どう言ってもショウは納得しそうになかった。




そして学園祭当日。
ショウは朝っぱらから各地の文化部に引っ張りまわされていた。
「はいはい、ショウ君!! 遅いわよ、早く!!」
「なんで開店前からこんなに忙しいんだ!!」
そう文句を言いながらもてきぱきと仕事をこなす。ちなみに今は料理部の手伝いで、学園祭で開く予定の喫茶店の手伝いをしていた。
数十分後、ようやく終わる。
「あぁ、疲れた…」
「お疲れ様〜、ご褒美にうちの部員適当にナンパして連れてっていいわよ〜」
「部長さん、何言ってんですか。そういうことは例の有名な先輩に言ってくださいよ」
「え? ああ、彼ねぇ〜、うちの部じゃ彼よりも彼の友達のほうが人気あんのよ」
「はぁ…」
「でもその人、もう空いてないからね〜」
誰のことは分かるような、分からないような。微妙な気分のまま、ショウはやって来た美術部に拉致されていった。




一方、同じ校舎のある場所で。
「ぶぇっくしょい!!」
「どうした、ユウキ」
「う〜ん…誰かが俺の噂でもしてるんだろう」
「…なるほどな」
「おい、なんで哀れむような眼で俺を見るんだよ!!」
「気にするな」
と、遠くを見るような眼で友人を見るコウヘイ。
「くっ…ちくしょう、ラヴィアーーーン!!」
傷ついた男は一人恋人の元へと走っていった。
それを、出来るだけ他人の振りをしながらコウヘイは見送った。




その頃。
士官学校に入ってすぐに周囲の注目を集めている人がいた。
シオン王女である。
すぐ横にオスカーの姿もあった。
「姉上、まずどこから見て回りましょうか?」
「う〜ん、やっぱり皆がいるところからがいいわね。オスカー、みんながどこにいるか分かる?」
「いえ、ただショウは今日はちょっと捕まえにくいかもしれませんよ」
「え…なにかあったとか?」
途端に不安そうになるシオン。
彼女にとってはショウは手のかかる弟のようなものなのだ。
「いえ、実はですね…」
待ってました、と言わんばかりにオスカーはショウ達のクラスの出し物の説明をした。




「あ」
トイレの前ででばったり鉢合わせ。
カンピナスとショウである。
「し、心臓に悪いな…」
カンピナスは少し焦っているようだった。
「どうしたんだよ?」
少し気になってショウは尋ねた。
「今ちょうど追われてたんだよ」
「ああ、それでトイレに隠れてたのか」
「ああ、なぜか俺を追ってくるのって女子が多いから。ここなら手が出せまいと思って」
そういやこいつって結構女子に人気あったんだよなぁ。
そんなことを思いながらショウは苦笑した。
「だったら隠れるんだったら一階のトイレにしとけ」
「あん? なんで?」
ちなみに今いるのは三階である。
「一階だったらいざとなれば窓から脱出できるだろ」
「そうか、なるほどな。サンキュー!!」
カンピナスはそう言ってトイレから駆け出していった。
と、
「ぎゃあああぁぁぁぁぁ!!!」
階段のあたりから絶叫が聞こえた。
「見つけたーーーーっ!!!」
と言う歓喜の声と共に。
多分十人以上はいるんだろう。
(まぁ、捕まったとしてもうちのクラスの女子に報告される前に逃亡出来ればセーフらしいからな。頑張れ)
そう言ってショウは次の部に向かう。
実はこの男、部活動を手伝っている間は誰にも手出しされないという条約を文化部連中や教師と結んでいる。
よって危険なのは部活と部活の活動の間だけ。
(ま、景品はおにぎり一個なんてものだし。僕を狙う連中なんてほとんどいないだろうけど)
それでも念には念を。
結構徹底しているショウであった。




「あ〜あぁ…退屈だな」
教室内でものすごく暇そうにモニカは言った。
彼女達女子はこの教室で標的と景品の交換をするのが役割なのだった。
さすがに休みの間の強制補習など誰もが免れたいのか、開始して一時間ほど経っても誰も捕まらない。
「ショウあたりでも捕まれば面白いのにねぇ」
「誰も狙ってないって」
「それにショウ君は文化部や先生達との約束があるから…」
と、文化部に所属している女子が言った。
「なに、エリン。それ何の話?」
興味が出たのかモニカが彼女を問いただす。
「え、うんとね…ショウ君が文化部を手伝ってる間は例え捕まっても無効になるんだよ」
「…さすが策士ね、抜かりないわ」
ある意味見直した、と言った感じでモニカは呟いた。
「けどそれじゃ面白くないわね」
その眼が怪しく光る。
「モニカ、なにするつもりなの?」
「ふっふっふ、ショウの景品を変更するのよ、ちょっと放送部んとこに行ってくるわ!!」
よほど退屈していたのか、モニカはものすごい速度で走り去っていった。




「〜♪」
口笛なんかを吹きながら呑気に文芸部の手伝いとして古本市の荷物運びをしているショウ。
こうして手伝っている間は平和なのだ。
「こういう時にシオン様来てくれないかなぁ」
などと言ってたりする始末。
と、ぴんぽんぱんぽん、と全校放送が流れ始めた。
『えー、○年○組で本日企画している出し物の『鬼ごっこ』についてですが、若干景品の変更がありまーす」
その声がモニカだったのでショウはとてつもなく嫌な予感を覚えた。
なんとなく自分かカンピナスの身に何かよくないことが起きる。
その矛先がカンピナスであることをショウは本気で願った(おい)。
しかし無情な声が流れる。
『カルディナ公子のショウ君を捕まえた方には〜、レンスターの一流レストランへの招待券を差し上げます!!』
「なんですと!!」
絶叫した。そのせいでかえって目立った。
『なお一応文化部の手伝いとかしてる間は捕まえても無効らしいのでー、終わった瞬間捕らえるのがベストだとアドバイスしておきます』
そして全校放送が終了した。
「も、モニカのやつ王族のコネ使ってそんな豪華な景品を用意するとは…!!」
そして注意深く周囲を見渡す。
(み、見られてる…!?)
周囲の人間全てがこっちを見てなにやらヒソヒソと話をしている。
(や、やばいピンチだ!!)
なんとかこの状況を打開する手を考えなければ…!!
ぽくぽくぽく、ちーん。
「そうだ、簡単なことじゃないか!!」
すぐさまショウは文芸部の部長のところへ行った。
「部長さん、僕今日一日ここでお手伝いしたいんですけど…!!」
そう。ずっと手伝ってりゃ誰にも手出しはされない。そう思ってのことだったが…。
「却下」
文芸部の部長ははっきりと言い切った。
「なぜッ!?」
ショウも必死である。
「だって本運び終えたらあたしらだけでいいし。と言うか客来て混雑するから寧ろ人数は少ないほうがいいの」
「そこをなんとか……!!」
「駄目。さっきの放送聞いてたけど、男だったらどうにか逃げ切ってみせなさいよ」
「ぐはっ…」
「ちなみに、もう手伝いいいわよ」
その言葉と同時に。
壮絶な『鬼ごっこ』が開始された。




「なんかすごい音が聞こえるわね」
屋上からグランドのほうを見ながらユーリが言った。
その隣にはコウヘイがいる。
「さっきの放送が関係あるんじゃないか?」
(モニカがああいうこと言うと何かが起こることが多いしな…)
幼馴染故か何か思うところがあるようだ。
「ってことはあの砂煙はショウが逃げることで発生してるものなのかしら」
「だろうな」
と、二人の会話は穏やかな調子だった。どうもコウヘイは学園祭にあまり興味がないらしく、ユーリはそれに付き合っているようだった。
「コウヘイは参加しないの? レンスターの一流レストラン」
「興味ないな…」
「あ」
「どうした」
「…今ショウを追いかけている人達の中に、ミホがいたような…」
「目の錯覚だ」
そう言って話題を終わらせようとするコウヘイ。しかし。
「ちょっと、待ちなさ〜〜〜〜い!!」
「…」
「…」
遠くからものすごくはっきりと甲高い声が聞こえてきた。
「コウヘイ…」
「幻聴だ」
「でも…」
「ユーリ…頼むから忘れさせてくれ」
「…ごめん」
空を見上げながら、二人の会話は続いていた。
「レンスターの一流レストラン〜〜〜〜!!!」
「…」
「…」




「姉上」
「ええ…どうやらすごいことになりそうね」
そう言うシオンの表情は楽しげである。
案外こういうことが好きなのかもしれない。
「どうします? 捕まえてしまいますか?」
オスカーとしては冗談のつもりで言ったのだろう。
しかし、
「う〜ん…」
シオンは真剣に悩み始めた。
しばし悩んだ後。
「昔の気分に戻って狙ってみようかしら。でも、多分捕まえられないとは思うけど」
と、ある意味ショウにとって最大の敵となりそうな人物が、『鬼ごっこ』への参加を申し出た。




「ふぅ…ナイスだモニカ…」
同時刻、今の今まで多くの参加者に追われていたカンピナスは汗をぬぐいながら言った。
ちなみに現在食堂のカウンターの裏側。食堂のおばちゃんや教師は参加資格がないので、まぁ安全領域と言えよう。
「ま、俺のために死んだ友のためにも俺は最後まで生き残らないとな…」
ちなみにカンピナスを追っていた人々はほぼ全員がショウのほうに行った。
カンピナスを捕まえた時の景品はここの食堂のタダ券(1週間分)。
他の連中がおにぎりやらサンドイッチであることを考えると確かに豪華だが、一流レストランには勝てなかったようだ。
と言うか、来客たちにばれないように景品と標的の一覧を張り出してある紙を全て処分してはいるのだが。
(あんなもん張り出したままにしてたら本格的にまずいしな、俺)
カンピナスは安堵のため息をつく。
「さて、俺は残り時間ここで隠れてるとするかな」
意外な穴場なのか、誰も来る様子がない。
カンピナスの頭の中はもう既に、落ち込んだショウをどうからかうか、と言うものに変わっていた。




「ねぇテンちゃん。さっきの放送聞いた? 一流レストランだって」
「ああ、そう言えばそんなこと言ってたな」
こちらはテンルウとマルス。
アリストからわざわざやって来たOBである。
二人は今それなりに学園祭を楽しんでいた。
「でも俺としてはもらうんだったらすぐに有効活用できるやつがいいなぁ」
「あ、それなら景品にここの食堂のタダ券があったと思うよ、一週間分」
「ああ、いいなぁそれ。毎日鮭定食たくさん…一週間もここにはいられないけど」
その光景を想像してちょっと幸せそうな表情を浮かべるテンルウ。
「で、誰捕まえればそれもらえるんだ?」
「さぁ」
「さぁ、って?」
「ぐ、苦しいよ、テンちゃん…首絞めないで…」
真っ青な顔でマルスは呻いた。
「な、ん、で、分からないんだ〜〜!!」
「だって誰捕まえたら何もらえるって紙、全部取られちゃったみたいなんだよ…」
「だったらなんで標的まで覚えておかないんだよお前は…」
そこで、ようやくマルスは解放された。
「しかし、それじゃ参加しても骨折り損になりそうだな」
「そうだね。それじゃ演劇でも見て行く?」
「おお、そうだな」
結局、この二人は『鬼ごっこ』に不参加のようだった。




その頃ショウは、命からがら逃げ出してきた。
今は吹奏楽部に身を隠している。
「よ、ショウ」
そうやって声をかけてきたのはクラスメイトのハンスだった。
彼は吹奏楽部に所属しており、部活動を盾にして鬼ごっこから逃れた者の一人である。
「大変そうだなぁ、モニカもまったく無茶をする」
「ああ…洒落にならん…」
実際ショウの格好はぼろぼろだった。
ところどころ服が裂けてたり、血が出てたりしている。
「まるで戦場に出向いてたように見えるぞ」
「実際戦場だよありゃ」
「まぁ安心しろ、ここに来たからには1、2時間ぐらいは安全だぞ。ほれ、お前フルートな」
「ああ…正直助かる」
そう言ってフルートを受け取る。
「んじゃ、これから演奏会だ。頼むぜ」
「任せとけ…ん?」
「どした?」
「いや、綺麗な音色が…」
「ああ、それならキイナ王女だな」
「ん、どうかしたの? 呼んだ?」
と、当の本人がやって来た。
「…ん?」
よく見るとハンスが赤くなっている。
(はは〜ん、さしずめ憧れの先輩と言ったところか)
「じゃ、僕は準備に取りかかるよ」
「何ッ!? お前ちょっと待て!!」
「なになに、どうしたの?」
「それじゃ、頑張れよ〜」
「待てッ! お前ひょっとしてその余計なお世話とか焼くつもりでこういうこと————」
カルディナ公子ショウ。
なんだかんだでカンピナスの親友であるのは、こういう面があるのも理由の一つなのかもしれない。




そして数時間後。
学園祭終了まで残り10分程度だった。
なんだかんだでショウやカンピナスはこの時間までからくも逃げ切っている。
何人かとっ捕まって泣きを見た生徒もいたが、それは少数派だった。
現在ショウは最後の賭けに出た。
————うちの教室に戻る!!
教室内は駄目なんて言うルールはないし、教室で待機している女子は参加資格を持っていないので問題なし。
それ以外の人間が教室にいる可能性はまぁない…と思いたかった。
あともう少しで教室。
そんなところで、厄介な奴らが現れた。
「待てぇい!!」
シオン様ファンクラブの方々である。
「げぇっ!!」
ショウは心底嫌な顔をした。こいつらにだけは狙われたくなかったのだ。
「シオン様が貴様を狙っているという情報をしいれてな!!」
「我々が一つ、貴様をとっ捕まえて」
「シオン様に貴様をプレゼントし」
「シオン様への好感度を大幅にアップさせようと思ったのだ!!」
「やっぱしそんな理由かよ」
ショウはため息をつきながら、後方へと走り出した。
「あ、待てい!!」
「うぬは生贄じゃぁ!!」
「大人しく召されよ!!」
「うわっ、さり気なく殺そうとしてる!?」
「生死は問われてないからな!!」
「うわぁっ!!」
思わず階段を駆け上っていく。
と、ある程度走ったところで連中が追いかけてこなくなった。
なにやら階段の下のほうから声だけが聞こえる。
「痛いな、なんだお前ら?」
「お前こそなんだっ!?」
「我々はシオン様ファンクラブなるぞっ!!」
「知らん、マルス…知ってるか?」
「ううん、知らないけど」
「と言うかなんかお前ら見てると妙に腹が立つな…将来的に俺に害をもたらしそうだ」
「な、なにをする…!?」
「貴様、やる気か!?」
「そっちがそのつもりなら相手になるが」
—————。
どうやら矛先はそれたらしい。
タイムリミットまであと7分。
(これなら間に合うな…)
安心したのも束の間。
屋上から見知った顔が出てきた。
「あれ、ユーリ?」
「あら、ショウ?」
「…?」
そして見知らぬ上級生(コウヘイ)。
実際は初対面ではないのだが(剣投げ事件より。コウヘイ外伝士官学校編や獅子王外伝参照)どっちも覚えてなかった。
「ま、まさかユーリまで僕を捕まえたりしないよな…」
「そんなことしないわよ」
「ならいいんだけど…」
と、そこまで言ったとき。
「ユーリー?」
下の方から聞き覚えのある声が聞こえる。
(シ、シオン様…!?)
そういえばさっきファンクラブの連中は言っていた。
彼女がショウを狙っていると。
(やばい!! 今ここでシオン様に会うのはやばい!!)
普段ならすぐさま彼女の元へ向かうのだろうが今回は話が別だ。
長きに渡る休みを補習なんぞで潰されたくない…!!
「貴方のクラスメートからここにいるんじゃないかって教えてもらったんだけどー…」
シオンが屋上のほうへ来ないのはコウヘイと一緒だと言うことをクラスメートに教えられて気を使っているからだったが、それに気づくものはこの場にはいなかった。
「はい、シオン様ー! いかがなされましたー?」
「ショウ見なかったー?」
(いないことにしてくれ!!)
ショウは全身でユーリにそうアピールした。
しかし。
「ちょうど今ここにいますよー」
「ユーリ!?」
さすがにシオンとショウではシオンを取る。ユーリの行動は至極当然のものだった。
「ごめんね、それじゃ頑張ってね」
それだけ言うとユーリはコウヘイとともに降りていってしまった。
しばらく呆然としていたが、ショウはハッと冷静さを取り戻して時計を見た。
(残り5分…!!)
結構微妙だ。捕まったとしても教室まで連れて行かれなければセーフなのだ。
(まぁシオン様一人なら…)
そう思いながら屋上に飛び込む。
ここで捕まったとしても必死に抗えば時間的には多分セーフ。教室に行く前にタイムアウトだ。
だが、次の瞬間屋上に飛び込んできたのはシオンだけではなかった。
オスカー。トンベリ。ヨウスケ。キラ。
全部で五人。
「うわっ、ちょっと待っ…」
「全員、突撃!!」
シオンの一声で、ショウはあっという間に取り押さえられた。



「むぐー、むぐー!!!」
「ごめんね、ショウ」
猿ぐつわをされて縄で縛られた挙句に神輿のようにかつがれて運ばれるショウ。抗いようがない。
だが望みはあった。残り時間は既に一分を切っている。
「シオン様、残り時間が…」
「あ…」
「急ぎましょう」
「むぐー!!(急がなくていいですー!!)」
「し、ショウ…そんなに嫌だった?」
と。
そこで思いっきり抗議する様子のショウを見て、シオンの表情が曇った。
「私はただ、ちょっとまた前のようにって思っただけなんだけど…」
そんな表情をされてまで、嫌と言えるショウではなかった。
だから思わず頷いてしまう。そしてそれを、ヨウスケがしっかりと見ていた。
「OKなら、間に合うように急がないと」
「むぐぅ(げぇっ)」
今更ながらまた後悔してしまう。だが今更遅い。
そして、とうとう教室の扉が開かれようとしたところで————。



キーンコーンカーンコーン。




「終わっちゃった…」
ショウは救われたようだった。




「ごめんね、ショウ。大丈夫?」
猿ぐつわから解放されたショウの縄を、ほどきながらシオンが言った。
「あ、いや…嫌っていうわけじゃないんですけど…」
ちなみに同情を誘わないように、とヤギ先生の提案の件は言ってはいけない決まりになっている。
「まぁ、いつも負けっぱなしで悔しかったですからね」
と、適当にごまかす。
「そっか…でも、今日はショウの勝ちね」
「いやまぁギリギリですけどね」
そう言って苦笑する。
思い返して見るととんでもない学園祭だったなぁ…。
でもまぁ最後にシオン様に会えたしいいか。
そんなふうに感慨にふけるショウに、ヨウスケが言った。
「明日こそはちゃんと捕まえてやるからな」
—————。
————。
———。
「明日!?」
「だって学園祭明日もあるだろ? お前達のとこも二日連続でやることになってるぞ」
「そ、そんな…」
絶望するショウの隣でシオンは上機嫌でにこにこしていた。彼女も明日は勝ちにくるつもりらしい。
「あは、あはは、あはははははは」
「あ、壊れた」
どこかの誰かがそう言うのを聞きながら。
ショウの意識は深い闇へと飲み込まれていった。




「何!? 明日もあるのか!?」
カンピナスも同じようにモニカから死刑宣告を受けていた。
「そ、明日も頑張ってね。明日はカンピナスの景品をレンスター名所巡りご招待ツアーにするから」
「やめろっ!!」




余談だが。
翌年以降からショウとカンピナスは学園祭になると揃って姿をくらます様になったらしい。
詳しい理由は不明である。




あとがき

作者:壊れギャグではないどたばたコメディを目標に書きました。

テンルウ:何気に出演キャラ多いな…

マルス:まさか僕らまで出てくるとは…

コウヘイ:本編などに支障をきたしていなければいいがな。

作者:怖いこと言うな!!

ショウ:ちなみに僕らは逃げ切れたんでしょうか、翌日…。

作者:ご自由にご想像ください(ニヤリ)

カンピナス:…まぁ明確に書かれてないだけ救いがあるってことかな…。

作者:フフフ…。

ショウ:呑気に笑ってる場合ですか? 受験のための推薦文書いてる真っ最中でしょう?

作者:ついでに中間試験も迫っております。

モニカ:推薦文の合間に書くつもりだったこ../のほ../先に完成してるし…大丈夫なの?

作者:……多分。

ショウ:ちゃんとやらんかい!