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平家

 再来年の大河ドラマは清盛主役の平家物語だそうで。
 ちょうど池宮彰一郎氏の「平家」を読んでたところだったので、ちょっとだけ驚きました。戦国・幕末以外にも、日本史には面白い時期がたくさんあると思ってるので、いろいろな時代をやってもらいたいものです。
 古代とか南北朝とか。

 ちなみに池宮氏の「平家」は残念ながら私の好みから大きく外れる類の内容でした。単純な好き嫌いの問題なので、作品の質とはまったく別の問題です。
 この「平家」は一貫して「清盛は凄い」という姿勢で書かれています。物語として主人公を格好良く描くのは何の問題もありませんし、司馬遼太郎氏や池波正太郎氏など、歴史・時代小説の大御所が描く主人公たちも、基本的には超人的な凄みがあります。
 ただ、そのために他の人物をやたらと否定する傾向があるのは、個人的にどうしても好きになれないんです。
 主人公を他の人物と比較して、どこが凄いのか説明するのは効果的です。しかし何度も比較相手の評価を落とすような文章が出てくると、「単に他が駄目なだけで主人公が凄いってわけじゃないんじゃないのか」とか「単に著者がこの人物を嫌いなだけじゃ……」という印象を受けてしまうのです。
 それも、物語の流れで自然とそう魅せてくれるなら読者としても上手く騙されるのですが、この「平家」だと地の文で、物語から少し浮いた形で表現されている気がするんですよね……。

 以前「風の群像」の感想を書いたときも触れましたが、どうもこういう傾向の作品は苦手ですね……。
 好きな方には申し訳ないのですが。

病弱若旦那の事件簿

 さて、本日最後は時代劇+推理+ファンタジーという珍しいジャンルのシリーズ。病弱な若旦那と、ある事情からそんな若旦那を見守る妖たちが、周囲で起きる事件を解決しようというのが話の大筋。
 第一巻の"しゃばけ"は一巻を通しての長編、第二巻の"ぬしさまへ"はいくつかの短編で構成されています。
 若旦那は実家が大店で、両親から大切にされているという、傍から見たら"恵まれたお坊ちゃん"。しかし本人は意外と江戸っ子気質なのか、病弱なことも含め、そうした自分の現状に不満を持っていたりします。そのため結構無茶をしたりもするのですが、それが事件と遭遇するきっかけになることも。
 そんな若旦那の周囲にいる妖たちは、一癖も二癖もある変わり者たちばかり。人間の常識が今一つ通じない彼らですが、妙な愛嬌があって魅力的な存在になっています。
 そんな彼らが挑む妙な事件。人の起こした事件もあれば妖の起こした事件もあり、あるいは事件要素の薄いエピソードもあったりと、様々なタイプの話が楽しめます。シリーズは沢山出てるので、続きを読むのも楽しみですね。

しゃばけ (新潮文庫)
しゃばけ (新潮文庫)畠中 恵

新潮社 2004-03
売り上げランキング : 2080

おすすめ平均 star
star文句なしです!
star妖とまた会いたい。そんな気にさせてくれる物語!
star楽しかった

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ぬしさまへ (新潮文庫)
ぬしさまへ (新潮文庫)畠中 恵

新潮社 2005-11-26
売り上げランキング : 8060

おすすめ平均 star
starのんびり、ほのぼのとした気持ちになれる本
star精神的に逞しくなった若旦那が微笑ましい
starファンタジー時代劇サスペンスの面白さ

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今明かされる化物語の始まり

 さて、次はちょいと趣向を変えて西尾維新の作品でも。
 何やらアニメ化が決まったらしい、同作者の著作「化物語」の続編(作品内の時系列でいうなら前編と言うべきか)。
 化物語で様々な怪異と遭遇することになった阿良々木暦。その彼が出会った最初の怪異、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードとの物語。
 前作と比べると、阿良々木君はツッコミ要素が減り、変態要素が倍増したような。……詳しく書くとあれですが、まさかあんなことを三~四ページもかけて描写するとは。
 けどまあ、まえがきの宣言通り"全員が不幸になって終わり"でしたね。でもこういうのは割かし悪くないんじゃないかなー、とも思います。キスショットからしてみれば"不本意"な終わり方だったのかもしれませんが。
 今回は化物語と比べると妖怪要素もやや薄く、シニカルな言い方をするなら"学園異能バトルもの"でしょうかね。今回のジャンル。
 個人的には化物語の方が面白かったですけど、西尾節は今回の方が冴えていたように思います。
 化物語を読んだ方には是非ともお勧めの作品と言えるでしょう。最も、そういう方は既に読んでらっしゃると思いますが……。


傷物語 (講談社BOX)
傷物語 (講談社BOX)VOFAN

講談社 2008-05-08
売り上げランキング : 1554

おすすめ平均 star
starそんなに楽しくなかった・・・。
star前日譚
star羽川希望!

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江戸っ子奮闘記

 さて、本日第四弾は、第三弾に続き「今更ながらの古典的名作」。
 明治を代表する作家・夏目漱石の、これまた代表作「坊ちゃん」。

 小説をよく知らない頃からのイメージで、明治文学って結構堅苦しい印象があるんですが、改めて考えてみれば漱石の小説は読みやすいはずなんですよねえ。文語体メインだったそれまでの日本文学に、口語体(現在の小説のような書き方)を持ち込んだのは漱石だったわけですし。
 話の内容も、主人公が単純明快な江戸っ子気質の性格なだけあって、さくさく読み進められて良い感じでした。子供の頃敬遠してたのが嘘のようでしたねえ。
 普段は歴史小説ばかり読んでいる私ですが、こういう作品も時折読んでみようかな、と思える出来でした。

坊っちゃん (新潮文庫)
坊っちゃん (新潮文庫)夏目 漱石

新潮社 1950-01
売り上げランキング : 3754

おすすめ平均 star
star潔い!!
star今こそ、坊っちゃんのような生き方を
starすっきり

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これは闘争の物語か、黄昏の物語か

 さて、本日第三弾は、今更ながらの古典的名作。
 ヘミングウェイの「老人と海」です。私は海外の本には軽い苦手意識があったので(以前読んだ小説の訳が読みにく過ぎて挫折した)、これまであまり手を出さなかったのですが、たまには読んだ方がいいかな、ということで短めのを。

 内容は、己の老いを痛感するようになった老人が海に挑み、大きな獲物を狙うといったもの。老人が一人で漁に挑む部分が作品の大半を占めるので、独白部分が非常に多いなどの特徴があります。
 最初はさらさらっと読んで「結局この作品の言いたいことって、なんだったんだろう?」と思っていたのですが、あとがきの解説を読んでこの作品に込められたメッセージがようやく見えた気がします。
 うーむ、文学にみる文化性の違いというかなんというか。
 アメリカ文学、これからもう少し読んでみようかなぁ……。

老人と海 (新潮文庫)
老人と海 (新潮文庫)ヘミングウェイ

新潮社 1966-06
売り上げランキング : 4283

おすすめ平均 star
star人生の黄昏
star単純で難しい話
star漁を通して人間存在の罪と虚無を描いた秀作

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藤原純友、海を往く

 さて、本日第二弾は北方謙三氏の「絶海にあらず」。平将門とほぼ同時期に伊予で朝廷へ反旗を翻した、藤原純友を描いた作品です。
 北方節とでも言うべきか、ハードボイルドな文体及び登場人物は今回も顕在。主人公の純友、立場は違えど純友とは通じるものを持った小野好古、権力の頂点にあり純友の宿敵とも言える藤原忠平など、多くの人物が良い意味で男臭いです。
 実際はこの"純友の乱"、結構不明点が多いので北方氏の推察によるところも結構あるのですが、これがなかなか複雑。純友が伊予掾になった辺りから物語は本格的に動き出すのですが、伊予を実質的に支配している越智一族、表面上はそれに従いながらも不満を持つ他の一族、越智の力を削いで伊予を名実共に手中に収めたい朝廷、そんな朝廷が内海をコントロールしている事実に不服を唱え始める純友――と、それぞれの利害の一致・不一致の複雑さがこの物語の特徴でしょうか。簡潔かつ丁寧に書かれているので分かりやすいのですが。

 最後の結末は「おお?」と驚き半分でしたが、こういう終わり方もアリだと思います。

 北方氏の歴史小説が好きな方には、文句なくお勧め出来る作品ではないかと思います。南北朝からは離れたみたいですが、こういう風に今まであまり描かれなかった人物・時代をこれからも描いていってもらいたいというのが一読者としての希望ですね。

 関係ないですけど、好古という名前だと秋山好古を思い出します。秋山好古の故郷は確か伊予。小野好古は伊予で反旗を翻した純友を討伐した男。滅多に見かけない"好古"という名前に伊予という土地。何か関係あるのかなあ、と気になったり。まあこれは作品とは関係のない、私の戯言ですが。

絶海にあらず 上 (1) (中公文庫 き 17-8)
絶海にあらず 上 (1) (中公文庫 き 17-8)北方 謙三

中央公論新社 2008-06
売り上げランキング : 3690

おすすめ平均 star
star満足の一冊

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絶海にあらず 下 (2) (中公文庫 き 17-9)
絶海にあらず 下 (2) (中公文庫 き 17-9)北方 謙三

中央公論新社 2008-06
売り上げランキング : 2702


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日本神話の原型

 どうも、最近日記を怠けていた日暮です。
 いや、ほら夏ってばてやすいですし……ねえ?(何)
 家に帰って来ると疲れてそのままぐでーっとしちゃうんですよね。仕事自体はそんな忙しいわけでもないんですが。

 そんなわけで、これまで溜めてた小説の感想とか、気力があるうちに書けるものを書いてしまおうと思います。
 まずは小説というよりは歴史書というべきか、というこの作品から。

古事記 (上) 全訳注 講談社学術文庫 207
古事記 (上) 全訳注 講談社学術文庫 207次田 真幸

講談社 1977-12
売り上げランキング : 53160

おすすめ平均 star
star難解でしたが面白い
star古事記への入り口としてはこれが最適か
star神話の時代が活写されている

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 古事記と言えば、日本人なら一度ぐらい名前は目にしたことがあるんじゃないでしょうか。奈良時代初期に編まれた歴史書で、日本神話~推古天皇の時代までを記したもので、八年後に完成した日本書紀と合わせて記紀と称されることも。
 スサノオとヤマタノオロチとか、天岩戸とか、ヤマトタケルとか、そういった有名なエピソードの他、様々な物語が収められています。まあ、歴史書なので物語だけでなく系譜も記されているのですが……その辺りは史料的価値の面が大きくて、後世の、所縁もなく研究者でもない人間にとってはさほど面白いものではありませんでした(史料的価値の面でも信頼性は微妙っぽいですが)。
 物語面では、これまであまり知らなかったエピソードを発見出来たことで、謎とされている古代史の断片を垣間見れた気がします。どのエピソードも政治的意図とか様々な思惑が隠されているので、それを読み解くのも古事記の面白さの一つかもしれません。


古事記 (中) 全訳注 講談社学術文庫 208
古事記 (中) 全訳注 講談社学術文庫 208次田 真幸

講談社 1980-12
売り上げランキング : 21515

おすすめ平均 star
starこじき
star古事記中の英雄説話が集まった中巻
star『古事記』 講談社学術文庫版 - 中巻

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古事記 (下) 全訳注 講談社学術文庫 209
古事記 (下) 全訳注 講談社学術文庫 209次田 真幸

講談社 1984-07
売り上げランキング : 83534

おすすめ平均 star
star良質な資料
star古事記三巻完結編
star『古事記』 講談社学術文庫版 - 下巻

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 ちなみに、原文は奈良時代初期のものであるだけに、とても普通には読めたもんじゃありません。ゆえに書き下し文にしたものや現代誤訳にしたものが出版されているわけですが、私が目にしたものの中では、この講談社学術文庫版が一番読みやすかったです。書き下し文も割合読みやすいし、それに加えて現代語訳・注釈・解説も入っているので。
 分かりやすさだけなら「口語役古事記」でも良いかもしれませんが、著者の主観が薄い分、純粋な古事記に触れるならこちらの方が良いかもしれません。それは好みに合わせて、ということで。


口語訳古事記 完全版
口語訳古事記 完全版三浦 佑之

文藝春秋 2002-06
売り上げランキング : 161466

おすすめ平均 star
star日本の神話の原典。一回は読んでおきたい。
star日本神話の世界をオリジナルに近い形で味わうことができます
star面白い VS 難解、さあ どっち?

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海に生きる男たち

何かいろいろと言語の勉強をしているうちに、休日が終わってしまいました。来週辺りはどこか行こうかなあ。インドアも過ぎると駄目ですね。

 さて、日記の更新さぼってたので、今回はまとめて二冊紹介したいと思います。作品は白石一郎氏の「海○伝」シリーズ。

 まず第一作の海狼伝ですが、舞台は戦国時代末期。信長が台頭してきて叡山焼打ちとかしてた頃の話になります。が、有名どころの武将はあまり出てきません。なので、あまり歴史的な前知識はなくても問題なく読み進められるのではないかと。
 物語は、対馬で育った笛太郎という少年が、遠戚に当たる海賊、通称"将軍"の元に訪れることで動き出します。海賊たちの生活は陸に暮らす人々と比べると、非常に苛酷かつ無道。そんな海の男たちの中で、笛太郎という少年が一人前の船大将になっていく過程が描かれています。
 この話、海賊が主要人物なだけあって善人はほとんどいません。割合酷いことを平気でやったりもします。それでも尚且つ魅力的であるのは、純粋に白石氏の文章力、構成力によるものでしょう。笛太郎の相方となる雷三郎なんかがいい例でしょうか。"海の張飛"みたいな感じがします。

 そして第二作目の海王伝で、笛太郎は新たな仲間を加えつつ海外へと繰り出していきます。明の海賊との対決、行方不明だったはずの父との因縁の再会、等々……。海王伝はよりドラマチックな内容となっております。

 ただ、残念なのはこの作品の終わり方。海王伝がどう考えても続編出そうな終わり方なのに……!

海狼伝 (文春文庫)
海狼伝 (文春文庫)白石 一郎

文芸春秋 1990-04
売り上げランキング : 111827

おすすめ平均 star
star荒々しい海の男達の話し
star「読まず嫌い」が読むとはまる本

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海王伝 (文春文庫)
海王伝 (文春文庫)白石 一郎

文藝春秋 1993-07
売り上げランキング : 182823

おすすめ平均 star
star海狼伝に負けていません。
starスーパーマン船員

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平将門

 竜門冬二氏の作品は上杉鷹山に続いて二冊目ですが、主要人物に対する静かな思いやりのようなものが感じ取れますね。
 ということで、今度は平将門を題材とした小説を読んでみました。最近読んでる本の歴史区分が無茶苦茶になってる気がするなぁ……。

 平将門は関東人には割と馴染みのある存在なんじゃないかなあ、と思います。どちらかと言うとイメージが先行してる感じもしますけど。首飛ぶ怨霊だったり新皇名乗った反逆者だったり。
 この小説では、全部とっくるめて『人間・平将門』を描いています。作中の将門は、基本的には純粋な人間です。しかし、その純粋さがときに愚かさに繋がり、人を失望させたり怒らせたりしてしまうこともあったり。武将として、人間として、朝廷の役人として、東国人としての将門像が楽しめる作品でした。
 あくは強いですが、興世王みたいなずるい奴も良い味出してました。主人公・将門の友人であり好敵手でもある貞盛も、様々な面を持つ人間としてしっかりと書かれていました。個人的には藤原秀郷が一押しですけどね。渋過ぎるよあんた。案外小さいことにこだわってますが(笑)。

 いや、でも久々にすっきりと「面白かった」と思える作品でした。ここのところ読んでたのは、質は高くとも何か自分とは合わないなぁ、という作品が多かったので。


全一冊 小説平将門 (集英社文庫)
全一冊 小説平将門 (集英社文庫)童門 冬二

集英社 2002-07
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風の群像―小説・足利尊氏―

 困った。
 何が困ったって、この作品、とんでもなく評価しにくいのである。

 最近途絶えがちですが、私も足利尊氏を題材に小説を書いている身。
 本業の方が書かれた尊氏の作品というものに興味を持たないはずがなく、その中でもこの作品は割と最近に出たもの。前々から読んでみたいと思いつつ、どこに行っても売り切れ状態。ようやく中古で買ったものなのだった。……いつぞや(昔の日記の方で)「豊臣家の人々」探すのにも難儀した書いた記憶がありますが、この作品はそれ以上に苦労したような。

 で、肝心の内容は、題名にある通り足利尊氏の生涯を追った物語。複雑怪奇な南北朝の動乱を書くのは、それだけでもう大変なもんですが、杉本さんはさすがプロの方だけあって、非常に分かりやすく、明快に描き切っています。私なんかは不必要なくらい長々と説明入れてしまうので、これは見習いたいところ。

 ただ、この作品には一つ特徴があって、それが評価の難しさに繋がっている。それは、この作品の主要人物である尊氏・直義兄弟の描かれ方にある。
 一言で言ってしまえば、尊氏は駄目男、直義は聖人。
 これ、個人的にはちょいと受け入れ難いところがあるのだ。
 先に断っておくと、私は尊氏も直義も好きだし、師直や義詮にも見所はあると感じている。その見所とは、武将として、または政治家としての側面にある。無論、人間臭さも持ち合わせていただろう。
 この作品は、それらを否定的に捉えているように見受けられる。特に直義を通してのその描写は甚だしく、彼は政権に対する意欲も何も持たない聖人君子として描かれ切っている。綺麗過ぎて、逆に違和感がある。
 直義が清廉な人柄だったのは、彼に関わる逸話からも察することは出来る。しかし、それと同時に彼は室町政権に対し相当の意欲を持っていたと私は考えている。ゆえに、全く抵抗せず、世を儚みながら自害する直義の最期を、素直に受け入れることは出来なかった。良い人、一方的な被害者。そうじゃないと思うのだ、直義は。自らの理想を持ち、その実現のために対立相手の南朝や師直派と暗闘も繰り広げ、力一杯生き抜いて戦った。そんな直義像を持っている私には、この作品の直義はちょっときつい。
 同様にきついのは尊氏だ。これはこの作品を読んだ人なら大抵の人は感じることだと思う。上巻はともかく、下巻になるとこきおろされっ放し。愛嬌もなく、人徳すら全く感じさせず、かと言って悪役としても中途半端。本当、「よくこんなのに皆付き従ったな」と思わせる人間像である。
 それも、どちらかというと直義の清らかさをアピールするための比較材料としてこきおろされている感がある。
 確かに尊氏は欠点の多い人物かもしれない。しかし、人を魅了するだけの何かを持っていたはずなのだ。この作品では、尊氏のそういった面は古典の逸話の場面でしか見受けられない。それ以外の場面では、大抵愚鈍な人物として描かれている。
 他の人物も、あまり良く描かれている人物はいない。直義派と言うべき人々は例外として好意的に描かれており、夢窓疎石や天皇家(北朝系)も良い扱いではある。しかしそれ以外はろくでなし揃いといった扱いに近い。これは、おそらく杉本さんが直義の視点で南北朝の世を捉えていたからだろう。視点となった直義の人物像が先に述べたように聖人君子なものだから、権謀渦巻く南北朝の世を生きる人々全般が批判的に捉われたのではないか。

風の群像―小説・足利尊氏〈上〉 (講談社文庫)
風の群像―小説・足利尊氏〈上〉 (講談社文庫)杉本 苑子

講談社 2000-09
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おすすめ平均 star
star足利直義の魅力も満載!

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風の群像―小説・足利尊氏〈下〉 (講談社文庫)
風の群像―小説・足利尊氏〈下〉 (講談社文庫)杉本 苑子

講談社 2000-09
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star歴史の教科書にはない、観応の擾乱

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